- 更新日 : 2025年3月5日
派遣社員の勤怠管理が基礎からわかる!派遣先と派遣元の責任の違い
派遣社員の勤怠管理において、派遣元企業と派遣先企業では管理項目が異なります。
派遣社員の勤怠管理は2社をまたぐため少々複雑であり、法律を遵守するためには注意点も少なくありません。
この記事では派遣社員の勤怠管理における基礎知識や管理項目、おすすめの勤怠管理方法を解説していきます。
目次
派遣社員の勤怠管理は派遣元・派遣先の双方が責任を持つ
派遣社員の勤怠管理は、雇用主である派遣元企業と実際の勤務先である派遣先企業のどちらか一方が管理するものではなく、それぞれが協力して責任を持たなければいけません。
派遣元企業は、派遣先から報告された勤怠データをもとに給与計算を行い、残業代や有給休暇の付与、社会保険の手続きなどを行います。
一方で派遣先企業は、派遣社員が働く現場を管理し、出勤・退勤時刻の把握や労働時間の記録、休憩時間の確保や安全衛生の管理を行います。
派遣社員が働きやすい環境を整えるためには、派遣元企業・派遣先企業、双方の連携が大切です。
派遣先企業の勤怠管理の項目
まずは派遣先企業が勤怠管理を行わなければならない、主な項目をご紹介します。
労働時間の管理
労働時間の管理は派遣先企業が行います。
派遣先企業は、派遣社員が実際に働いている時間や出退勤時刻を正確に記録し、労働基準法に準じた管理を行う義務があります。
とくに残業や深夜労働が発生する場合は、その理由や時間を適切に把握し、派遣元企業への報告が必要です。
また、36協定については派遣元企業と締結しているため、その内容を把握したうえで労働時間を管理しなければなりません。
労働時間が適正に管理されていない場合、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、派遣元企業との間で問題が生じる可能性もあります。
派遣社員が時間外労働の上限を超過しないよう、十分に注意しましょう。
休憩時間の取得
派遣社員は勤務時間が6時間を超える場合、一般社員と同じように最低でも45分の休憩を取得しなければなりません。
また、勤務時間が8時間を超える場合は、最低1時間の休憩が必要になります。
派遣先企業は、派遣社員の休憩時間を把握し、所定の休憩が取れているか責任をもって管理する義務があります。
もし業務が忙しく休憩が取れていない場合は、時間帯をずらして休憩を取得してもらいましょう。
安全衛生管理
安全衛生も、派遣先企業が管理しなければならない項目のひとつです。
派遣労働者の労災保険は派遣元企業が加入しますが、派遣中の安全管理については派遣先企業が責任を負います。
たとえば現場仕事であれば、派遣社員が使用する機械や工具について、安全上の不具合がないか派遣先企業が日常的にチェックしなければなりません。
また、業務開始時の安全指導はもちろん、必要に応じて定期的な研修も実施し、派遣社員にも参加してもらう必要があります。
そして、休憩室や更衣室も、正社員と同じように利用できる環境を整えなければいけません。
また、パワハラやセクハラなどのハラスメント対策も安全衛生管理に含まれます。
上記のような安全衛生管理は派遣先企業の責任ですが、健康診断は基本的に派遣元の会社で行うので、混同しないよう注意しましょう。
派遣元企業の勤怠管理の項目
続いて、派遣元企業が勤怠管理を行わなければならない主な項目をご紹介します。
賃金支払いの管理
派遣社員への賃金の支払いは、原則として派遣元企業が行います。
給与の計算をする際は、一般社員と同じように、所定の労働時間に加えて時間外労働や深夜労働の時間分も確実に反映させましょう。
また、時間外労働や深夜労働に関しては、規定の割増率を適用した割増賃金を払わなければなりません。
労働の種類 | 説明 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働 | 25% |
深夜労働 | 22時から翌日5時までの労働 | 25% |
休日労働 | 法定休日(週1日)における労働 | 35% |
時間外労働+深夜労働 | 22時以降の時間外労働(時間外労働25% + 深夜労働25%) | 50% |
派遣社員が時間外労働や休日労働を行った場合、勤怠管理システムなどで、派遣先企業から派遣元企業へ情報共有が行われます。
そのため、派遣社員へ正確な賃金を支給するためには、2社間での連携が大切です。
もし賃金の計算に誤りがあると、社員から不信感を抱かれるばかりではなく、労働基準法にも違反しますので注意しましょう。
有給休暇取得状況の管理
有給休暇の取得状況についても、派遣元企業が管理します。
有給休暇は労働基準法39条で定められた規定であり、派遣社員やアルバイトなど、雇用形態に関係なく下記条件を満たした場合に付与されます。
▼有給休暇付与の条件
|
そして、有給休暇の取得状況の管理は、雇用契約を結んでいる派遣元企業が行います。
また、2019年4月からは働き方改革による法改正により、有給休暇が年間10日以上付与される従業員には、年5日以上の有給取得が義務化されました。
この規定は派遣社員にも適用されるため、条件に当てはまる社員には、適切に有給を取得してもらうようにしましょう。
派遣社員が有給を取りたいときは派遣先企業と連携し、有給休暇取得の希望日や残日数を共有しておくことも重要です。
災害補償
派遣元企業は、労働災害補償保険法により、派遣社員に労災保険を適用する責任があります。
そのため、派遣社員が業務中や通勤途中に事故に遭ったりケガを負った場合、労災保険に関する手続きは派遣元企業が行います。
また、派遣社員が業務災害に遭い、休業または死亡した場合は派遣元・派遣先双方に「死傷病報告」提出の義務があるため注意しましょう。
参考:派遣労働者に係る労働者死傷病報告書の提出について│厚生労働省広島労働局
派遣社員の勤怠管理に関する注意点
派遣社員の勤怠管理に関する注意点を解説していきます。
勤怠情報を把握しづらい
派遣元企業は、派遣社員の勤怠情報を正確に把握しづらいときがあります。
派遣社員の労働時間は派遣先企業が管理し、その後派遣元企業へ共有されます。
そのため、勤怠管理システムなどリアルタイムに勤怠情報を共有する仕組みがない限り、派遣元企業へ即時に勤怠情報が伝わることはありません。
また、派遣社員は基本的に派遣先へ直行直帰し派遣元企業へは帰社しないため、派遣元企業はリアルタイムで派遣社員の勤怠情報を把握することが難しくなります。
たとえば何らかの理由で派遣先企業が派遣社員にサービス残業を強要するような事態になっていたとしても、派遣元企業がすぐに対応できないときもあるでしょう。
また、派遣元企業が勤怠情報を正確に把握できていないと、派遣先企業ごとに派遣社員の勤怠管理に差が生まれることになります。
一部の派遣先で勤怠管理が不十分であったりすると、派遣社員の間で待遇差が生じるきっかけとなり、不満が生じる可能性もあるので気をつけましょう。
タイムカードの保存義務を怠ると違法になる
法律で定められたタイムカードの保存義務を怠ると違法になります。
労働基準法109条により、タイムカードや出勤簿は原則5年間保存するよう義務付けられています。
そして、派遣元企業・派遣先企業の双方で保存しなければなりません。
また、2020年4月の改正労働基準法により保存期間が現在の5年間へ延長されるまでは、タイムカードや出勤簿の保存期間は3年間でした。
2025年3月現在は法改正にともなう経過措置の期間中であるため、この間は保存期間が3年間であっても問題ないとされています。
ただし、将来的には5年間へ延長されることが確実であるため、今のうちに準備しておきましょう。
また、タイムカード保存の起算日は派遣契約の終了日になります。
派遣社員の勤怠管理は指揮命令者が行う
派遣社員は派遣元企業と雇用契約を結んでいますが、日々の業務については派遣先企業の指揮命令者が指示を出します。
また、労働者派遣法により、指揮命令者は業務中の指示をするだけでなく、派遣社員の勤怠管理や作業環境のチェックも行わなければなりません。
そのため、指揮命令者は派遣社員の労働時間や休暇といった勤怠状況や、派遣社員が安全かつ快適に作業ができているかを、常に確認する必要があります。
注意点として、指揮命令者は派遣先企業が雇用している社員でなければなりません。
たとえば別の派遣元から派遣されている派遣社員に指揮命令者を任せるようなことはできないため、気をつけましょう。
指揮命令者は、派遣社員の配属部署の管理職や、現場に詳しい責任者が担当するケースが一般的です。
関連記事:「労働者派遣法とは?法律の概要や派遣契約の流れ、直近の改正内容を徹底解説」
派遣社員の勤怠管理には勤怠管理システム・アプリがおすすめ
派遣社員の勤怠管理には、勤怠管理システム・アプリの利用がおすすめです。
派遣元・派遣先で勤怠情報を同期して管理できる
派遣元企業と派遣先企業で同じ勤怠管理システム・アプリを使えば、システム上で手間なく勤怠情報を同期して管理できます。
両社がリアルタイムで派遣社員の勤怠情報を共有できれば、派遣先から派遣元への情報共有の手間が減ります。
また、勤怠管理システムを使えば、タイムカードや契約書など法令に基づいた書類も、物理的な場所を取らずに保管でき便利です。
手作業によるミスを減らせる
勤怠管理システムを使えば、手作業によるミスを減らすことも可能です。
たとえばExcelなどの表計算ソフトを使用した勤怠管理では、入力ミスや関数のエラーで計算ミスが発生しやすいため、労働時間の集計作業に影響を及ぼす場合があります。
しかし、勤怠管理システムを導入すれば、あらかじめ記録した出退勤の時刻や残業時間からシステムが自動で集計作業を行うため、ヒューマンエラーの心配がありません。
さらに、多くの勤怠管理システムには給与計算システムも組み込まれており、勤怠データの自動集計により給与計算の負担を軽減することもできます。
管理コストが削減できる
勤怠管理システムを導入することで、派遣社員の管理に掛かるコストを削減できます。
これまで手作業で行っていた集計や確認作業が自動化されるため、指揮命令者や人事担当者の業務効率のアップが期待できるでしょう。
また、打刻漏れが発生した際に、本人へアラートを通知する機能が備わっている場合もあるため、本人へ打刻の修正を依頼する手間も省けます。
勤怠管理システム導入時に確認したいポイント
最後に、勤怠管理システムの導入時に確認したいポイントを解説します。
多くの打刻方法に対応している
派遣元企業は、多くの打刻方法を備えている勤怠管理システムを選びましょう。
派遣社員が勤務する派遣先企業はその時々によって変わっていきますが、各企業で打刻方法が異なっている場合があります。
その際、どの派遣先企業でも勤怠管理システムが使用できるように、多様な打刻方法に対応している勤怠管理システムを選ぶようにしましょう。
▼主な打刻方法
|
このなかでもスマートフォンアプリからの打刻は、場所を問わないため利便性が高い方法です。
ワークフローの機能がある
勤怠管理システム上にワークフローの機能があれば、リアルタイムで申請状況を確認して承認作業が行えます。
勤怠システムのワークフローによる電子申請ならば、紙による書類の申請よりも一連の流れをスムーズに処理できるでしょう。
また、残業申請については、一定の勤務時間を超えると自動的に残業として扱われるような設定を、勤怠管理システム上で行うこともできます。
この場合はそもそも申請の手間も必要ないため、派遣社員本人にとっても管理者にとっても、業務の効率化につながります。
派遣社員の勤怠管理は正しく行おう
派遣社員の勤怠管理において、派遣元企業と派遣先企業とでは責任を負うべき項目がそれぞれ異なります。
2社をまたぐことにより管理が複雑になりがちであるからこそ、勤怠管理システムでデータを一元管理するなど、正確かつスムーズな勤怠管理をするための仕組みづくりが重要です。
派遣社員の勤怠管理は法律にもとづいて行い、適切な運用を心掛けましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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