- 更新日 : 2025年4月2日
借り上げ社宅で税金はどうなる?課税対象や経費にする方法を詳しく解説
借り上げ社宅は、企業が契約した物件を従業員に貸し出す制度のことで、福利厚生の充実や従業員の転勤対応として多くの企業で導入されています。しかし、運用にあたって注意したいのが税金の取り扱いです。
費用の内容や家賃の負担割合によって、所得税や消費税が課税されるケースがあり、正しく処理しないと従業員・企業に思わぬ税負担が発生する可能性があります。
本記事では、借り上げ社宅の概要、課税対象や経費にする方法を詳しく解説します。
目次
借り上げ社宅とは
借り上げ社宅とは、企業が契約した民間の賃貸物件を、従業員に貸し出す形式の社宅制度です。従業員は会社が選定・契約した物件に入居し、家賃の一部を企業が負担することで、住居費の負担が軽減されます。
この制度は、転勤者への住居提供や福利厚生の充実を目的として、多くの企業で導入されています。
また、企業側としても一定の条件を満たせば、家賃の会社負担分を福利厚生費として経費計上が可能です。そのため、税務上のメリットも得られる点が特徴です。
以下の記事では、借り上げ社宅制度について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
住宅手当との違い
住宅手当は、企業が従業員に対して家賃補助を現金で支給する制度です。従業員が自身で契約した賃貸物件の家賃の一部を会社が補助する形式です。支給された住宅手当は、給与の一部として扱われるため、所得税や社会保険料の算定基礎に含まれます。
一方、借り上げ社宅は、企業が契約した物件を従業員に貸与し、その家賃の一部を企業が負担する仕組みです。家賃は給与から天引きという形で差し引かれるため、従業員の手取りに直接加算されることはありません。
このため、住宅手当に比べて、税負担や社会保険料の増加を抑えられる可能性が高いメリットがあります。
以下の記事では、住宅手当について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
借り上げ社宅にかかる税金の仕組み
借り上げ社宅では、契約形態や費用の内容によって課税・非課税の扱いが異なります。注意が必要なのは、企業が負担する費用がサービスの対価とみなされる場合、消費税の課税対象になる点です。
なお、自社所有の社宅と異なり、借り上げ社宅では企業が建物の管理・運営を行いません。そのため、課税対象となる費用の中身にも違いがあります。
ここでは、借り上げ社宅で課税対象・非課税対象になる費用を解説します。
借り上げ社宅で課税対象になる費用
借り上げ社宅において課税対象になる費用は、おもにサービスの対価として消費税法にもとづき課税されるものです。
ここでは、課税対象になる費用について詳しく解説します。
仲介手数料
借り上げ社宅を契約する際に発生する仲介手数料は、消費税の課税対象となります。不動産会社が提供するサービスに対して支払われる費用であり、消費税法上は課税取引として扱われます。そのため、非課税にはできません。
仲介手数料を0円にする交渉は可能ですが、不動産業者の収益源であるため、単純な値下げ交渉は難しいのが現実です。ただし継続的な取引の提案や、ほかの物件契約とのセット提案など、交渉材料を用意すれば、減額や優遇を引き出せる可能性があります。
社宅の管理費用
社宅の管理に関する費用は、下記のとおりです。
- 共用部分の清掃費
- 修繕費(台風など自然災害による修繕含む)
- 入居者募集費(チラシ・ポスター作成など)
- 設備維持費
これらは、サービスに対する対価とみなされるため、基本的に消費税の課税対象となります。ただし、借り上げ社宅では、建物の所有者は企業ではなく貸主(オーナー)です。
建物の修繕や設備の維持管理は、貸主が行うのが一般的なため、企業側がこれらの費用を負担することは少ないでしょう。企業が独自に設備を設置する際は、通常の管理費ではなく「資本的支出」として処理する必要があります。
一方で、企業が共益費や管理費の中から費用を負担する場合は、非課税となる可能性もあります。費用処理の方法によって課税の有無が変わるため、契約内容や会計処理の工夫がポイントです。
駐車場
借り上げ社宅に付属する駐車場も、消費税の課税対象になることがあります。たとえば、駐車場料金が集合住宅の共益費や家賃に含まれている場合は、住宅の貸付けに付随する費用なので非課税です。
しかし、駐車場料金を別途徴収している場合や、企業が個別に契約して従業員に提供する場合は、駐車場単体の使用契約となります。そのため、原則として消費税の課税対象です。
なお、青空駐車場や建物に付属しない空き地を駐車場として利用するなら、課税されないケースもあります。課税の回避には、駐車場料金を共益費や家賃に含めるなど、会計上の処理方法を工夫することがポイントです。
借り上げ社宅で非課税になる費用
借り上げ社宅にかかる費用の中には、消費税法により非課税取引とされるものがあります。ここでは、非課税になる費用について詳しく解説します。
社宅の賃料
社宅の賃料は、国が定めた消費税法により住宅の貸付けに該当するため、消費税は非課税です。企業が不動産オーナーに対して支払う家賃も、従業員から家賃を給与天引きする場合も、どちらも対象となります。
注意したいのは、短期賃貸マンションや貸別荘など、旅館業法に該当する施設は住宅の貸付けとはみなされない点です。これらの施設を社宅として提供した場合、たとえ長期利用であっても消費税が課税されます。
敷金・礼金
借り上げ社宅における敷金や礼金は、住宅の使用に伴う権利として扱われるため、非課税取引に該当します。企業が不動産オーナーに支払う敷金や礼金についても、住宅用建物の契約であれば消費税はかかりません。
また、返還されない敷金や礼金であっても、住宅用であれば非課税の対象となります。ただし、契約内容によっては扱いが変わるため、注意が必要です。
たとえば、事業用物件(オフィスや店舗)として契約した場合は、敷金・礼金が課税対象になります。契約時には用途区分を明確にし、住宅用であることを確認しておきましょう。
共益費
借り上げ社宅の共益費は、住宅の付随費用として消費税法により非課税となります。共益費とは、おもに建物の共用部分の維持管理に使われる費用で、下記のような用途にあてられます。
- 廊下や階段、エレベーターなど共用部分の電気・水道代
- 屋上の浄化槽や防犯カメラの管理費
これらは住宅の安全かつ快適な利用に不可欠であるため、住宅の貸付けに付随する費用とみなされ、非課税対象です。
また、共益費が管理費として一体で徴収されている場合でも、用途が住宅関連であれば非課税となるのが一般的です。ただし、共益費に駐車場代などが含まれている場合は課税対象になる可能性があるため、内訳を確認しておきましょう。
借り上げ社宅に所得税を発生させないためには?
借り上げ社宅を従業員や役員に提供する際、課税の扱いを誤ると、社宅の価値が給与とみなされ、所得税の対象になってしまいます。所得税を発生させないためには、賃貸料相当額の正しい理解と、従業員の家賃負担の設定が必要です。
ここでは、借り上げ社宅に所得税を発生させないためのポイントを解説します。
以下の記事では、社宅制度で所得税をかけないポイントを詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
そもそも課税基準となる賃貸料相当額とは
賃貸料相当額とは、従業員に貸し出す社宅について、所得税の課税が必要かを判断する基準となる金額です。実際の家賃とは異なり、国税庁が定める計算式にもとづいて算出されます。
具体的には、下記3つの合計で構成されています。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積平方メートル/3.3平方メートル)
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
参考:国税庁|No.2597使用人に社宅や寮などを貸したとき
このようにして算出された金額が、課税対象となるか判断する基準値です。社宅の家賃よりも賃貸料相当額が低いケースもあるため、企業はこの基準にもとづき、従業員から適切な家賃を徴収する必要があります。
所得税を発生させないためには、事前に正確な計算と家賃設定を行うことが大切です。
従業員に借り上げ社宅を貸す場合
従業員に借り上げ社宅を貸し出す場合、所得税を発生させないためには、賃貸料相当額の50%以上を従業員から徴収する必要があります。たとえば、賃貸料相当額が10万円の場合の扱いは、家賃設定額の一例としては下記のとおりです。
- 5万円以上:課税なし
- 4万円:差額6万円が課税対象
- 無償提供:10万円が課税対象
実際の家賃が賃貸料相当額よりも高い場合でも、あくまで課税判断の基準は賃貸料相当額となります。実際の家賃が12万円でも、賃貸料相当額が10万円ならば、50%(5万円)を負担していれば課税されません。
正確な判断をするには、事前に固定資産税の課税標準額を確認し、国税庁の計算式にもとづいて賃貸料相当額を算出しておきましょう。設定を誤ると、従業員に不本意な税負担が発生する恐れがあるため、注意が必要です。
役員に借り上げ社宅を貸す場合
役員に借り上げ社宅を提供する場合、従業員と比べて課税の基準が厳格になります。
従業員であれば、賃貸料相当額の50%以上を負担すれば非課税となりますが、役員の場合は賃貸料相当額の全額を負担しなければ、差額が給与として課税対象です。
物件の規模や所有形態によって計算方法が異なるため、以下で詳しく見ていきましょう。
小規模な住宅の場合
役員に貸与する社宅が小規模な住宅に該当する場合は、以下の3つの要素を合計して、賃貸料相当額を算出します。
- 建物の固定資産税評価額×0.2%
- 12円×建物の総床面積平方メートル÷3.3平方メートル
- 敷地の固定資産税評価額×0.22%
- 建物の固定資産税評価額:400万円
- 総床面積:70平方メートル
- 敷地の固定資産税評価額:600万円
- 400万円×0.2%=8,000円
- 12円×70平方メートル÷3.3平方メートル=255円
- 600万円×0.22%=13,200円
上記の場合、役員から毎月21,455円以上を徴収すれば、所得税の課税対象とはなりません。これより少ない額しか徴収しないと、差額が役員報酬とみなされ、課税対象になります。
小規模でない住宅の場合
役員に貸与する社宅が小規模な住宅に該当しない場合は、住宅が自社所有か、借り受けたものかによって賃貸料相当額の計算方法が異なります。
- 建物の固定資産税評価額×12%(耐用年数30年以上なら10%)
- 敷地の固定資産税評価額×6%
合計額を12分の1にした額が賃貸料相当額
- 会社が家主に支払う賃料の50%の金額
- 上記の方法で算出した賃貸料相当額
2つのうち高い方の金額を役員から徴収すれば課税されない
役員に社宅を提供する際は、事前に適正額を正しく算出し、過不足なく徴収しましょう。
借り上げ社宅を福利厚生費として経費にする方法
借り上げ社宅の家賃は、従業員から賃貸料相当額の50%以上を徴収すれば、福利厚生費として経費に計上できます。
賃貸料相当額は、下記の要素をもとに計算されます。
- 建物の固定資産税評価額×0.2%
- 12円×建物の総床面積平方メートル÷3.3平方メートル
- 敷地の固定資産税評価額×0.22%
上記の合計額が賃貸料相当額です。この金額の50%以上を従業員が負担していれば、企業が負担する残りの家賃を福利厚生費として損金算入(経費処理)することが可能です。
条件を満たせば税務上も問題なく、適正に節税を行えます。
借り上げ社宅を経費にした際の税金面に関するメリット
借り上げ社宅は、企業と従業員に税制上のメリットがあります。具体的なメリットは、下記のとおりです。
- 給与として課税されず、所得税・住民税の負担が軽減
- 社会保険料の負担も軽減できる
このように、社宅制度は企業のコスト削減だけでなく、福利厚生の充実と従業員満足度の向上にもつながります。従業員数が多い企業ほど、制度を活用することで大きな節税効果が期待できます。
課税・非課税の仕組みを理解し、借り上げ社宅を有効活用しよう
借り上げ社宅は、税務処理を正しく行えば、企業にも従業員にも節税メリットがあります。課税・非課税の判断基準や賃貸料相当額の計算方法を理解し、社宅制度を適切に活用することが大切です。
本記事を参考に、コスト削減と福利厚生の両立を実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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