- 更新日 : 2025年7月14日
年末調整に源泉徴収票が間に合わないとどうなる?対処法を徹底解説
源泉徴収票が年末調整に間に合わないと、正確な所得税の精算ができず、従業員が確定申告を行う必要が生じる可能性があります。
また、年末調整の未実施は企業にとって税務・労務リスクとなるため、期限内の対応が不可欠です。
本記事では、源泉徴収票が年末調整に間に合わない場合の影響や、具体的な対処法を解説します。
目次
源泉徴収票が間に合わないと年末調整できない
年末調整には、前職の給与額や源泉徴収された所得税額などが記載された源泉徴収票が必要です。
源泉徴収票は、1年分の所得や税額を正しく把握するために欠かせない書類です。もし退職した会社からの源泉徴収票が年末調整の時期に間に合わない場合、前職の給与や天引きされた税額、社会保険料の金額などが確認できないため、正確な年末調整ができません。
源泉徴収票が年末調整の時期に間に合わない場合、本人が翌年に自ら確定申告を行い、所得税および復興特別所得税の精算をする必要があります。
源泉徴収票の基本情報や見方については、以下の記事で解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
関連記事:年末調整後の源泉徴収票の見方とは?いつ必要になる?正しく理解しよう
年末調整に源泉徴収票が必要な理由
年末調整を正しく行うには、前職の収入や税額などの情報を正確に反映させるために、源泉徴収票の提出が欠かせません。年末が近づく前に源泉徴収票の準備状況を確認すれば、重要性をあらためて認識できます。
以下では、年末に源泉徴収票が必要な理由について解説します。
転職先の年末調整に影響するため
源泉徴収票は、転職後の職場で年末調整を行う際に必要な書類です。
源泉徴収票には、年間の収入総額や前職で天引きされた所得税額が記載されており、現在の職場では源泉徴収票の情報をもとに税額を計算します。
前職の源泉徴収票を提出しなければ、正しい税額が把握できず、年末調整が適切に行えません。結果として所得税の過不足が生じ、確定申告で精算する必要があります。スムーズに年末調整を進めるには、早めの提出を促すことが重要です。
所得税の計算に必要なため
年末調整は、1年間に源泉徴収された所得税額と実際の納税額を一致させる手続きです。
源泉徴収票に記載された「年間の源泉徴収額合計」と「実際の所得税額」を比較することで、過不足を正確に精算できます。また、月々の給与では控除対象が正確に反映されていない場合があるため、年末調整で修正します。
たとえば、生命保険料控除や地震保険料控除は年末にまとめて申告する仕組みです。
さらに、子どもの結婚や就職により、年の途中で扶養親族の数が変わることもあるため、年末時点での正しい情報をもとに計算する必要があります。上記の理由から、源泉徴収票は所得税の計算に必要な書類といえます。
年末調整に源泉徴収票が間に合わない場合の4つの対処法
年末調整では、源泉徴収票の提出が間に合わないケースもあります。提出されていないまま放置しておくと正しく手続きできなくなるため、状況に応じて適切に対応することが大切です。
以下では、年末調整に源泉徴収票が間に合わない場合の4つの対処法を紹介します。
1. 税務署への提出を期限ギリギリまで待つ
源泉徴収票が間に合わない場合、税務署への年末調整書類の提出期限である翌年1月31日まで待つことも可能です。
会社が独自に設定する社内の提出期限に遅れても、最終的に税務署の期限に間に合えば、年末調整は問題なく完了します。そのため、従業員といつ頃提出できるかを事前に確認し、対応を調整することが重要です。
ただし、会社によっては税務署の期限を待たずに社内期限で締め切る場合もあります。
上記の場合は、担当者が未提出の従業員と相談し、どのように対応するかを早めに決めておきましょう。
2. 期限までに間に合わない場合は確定申告をする
源泉徴収票が年末調整に間に合わない場合、会社での調整はできないため、従業員本人に確定申告を案内しましょう。
確定申告により、1年の所得税額を確定させ、還付を受けるか追加で納税します。また、源泉徴収票が未提出のまま誤って年末調整を実施した場合も、従業員が確定申告を行い、正確な税額に修正する必要があります。
確定申告では源泉徴収票の添付は原則不要ですが、申告書に正確な収入や税額を記入するため、従業員の手元に内容を確認できる資料が必要です。そのため、企業は確定申告が必要な従業員に早めに案内し、トラブルを防ぐよう心がけましょう。
確定申告に関しては以下の記事で解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:確定申告とは?やり方と流れを全く分からない人向けに解説
3. 前職の企業に源泉徴収票を催促する
源泉徴収票が年末調整に間に合いそうにない場合は、前職の企業に早めに催促しましょう。
所得税法第226条では、企業は退職者に対して退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を交付する義務があると定められています。期日を過ぎても届かない場合は、前職の人事部や総務部に電話やメールで状況を確認しましょう。
必要に応じてやり取りの内容を記録しておくと、再度の請求やトラブル発生時の根拠として役立ちます。源泉徴収票が間に合わないと年末調整に支障が出るため、従業員が確定申告を行うことになります。不要な負担を避けるためにも、早めに確認・対応しましょう。
4. 税務署に相談する
前職に源泉徴収票の発行を催促しても対応してもらえず、トラブル解決が難しい場合は、税務署に相談する方法も検討しましょう。
具体的には、「源泉徴収票不交付の届出書」を税務署に提出し、税務署から会社へ源泉徴収票の交付を促す行政指導が行われます。
届出書を提出するには、法定の交付期限(中途退職後は1ヶ月以内、通常は翌年1月31日)を過ぎていること、かつ勤務先に交付を求めた事実があることが条件です。
年の途中で退職し、退職日から1ヶ月以上経っても源泉徴収票が届かない場合は、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出できます。届出書には、これまでの経緯を記載する欄があるため、会社に対して発行を求めたが対応がなかった旨を具体的に記載してください。
税務署への相談は最終手段として、確実に証拠を残したうえで行いましょう。
年末調整で配偶者の源泉徴収票が間に合わない場合の対応
年末調整で配偶者控除や配偶者特別控除を適用するには、配偶者の所得情報が必要です。
配偶者の源泉徴収票が提出期限までに間に合わない場合、所得が確定できず、控除を適用できない可能性があります。
源泉徴収票が手元にないときは、配偶者の毎月の給与明細や賞与明細など、客観的な資料に基づいて年間所得を見積もり、扶養控除等申告書に見込み額として記載します。見込み額は、法定記載事項として合理的根拠が求められるため、単なる推測ではなく、確認できる資料をもとに算出しましょう。
後日、源泉徴収票で確認した所得が控除の適用区分に影響するほど異なる場合は、再年末調整や確定申告による修正対応が必要です。
前職の会社が倒産して源泉徴収票を発行してもらえない場合
前職の会社が倒産し、源泉徴収票を発行してもらえない場合は、破産管財人に連絡することで発行してもらえる可能性があります。
破産管財人とは、裁判所が選任し、倒産企業の財産を管理・処分する弁護士です。法的には破産管財人が源泉徴収票の交付義務を当然に承継するとの明確な根拠はありませんが、実務上、破産管財人が便宜的に源泉徴収票を発行することがあります。
そのため、会社に連絡がつかない場合は、破産管財人の連絡先を調べて依頼する必要があります。破産管財人がわからない場合は、所轄の税務署に相談しましょう。
年末調整で源泉徴収票が不要になるケース
年末調整では、すべての従業員に源泉徴収票が必要になるわけではありません。一定の条件を満たす場合は不要となり、従業員からの提出を待たずに年末調整を進めることが可能です。以下では、源泉徴収票が不要になる具体的なケースを紹介します。
確定申告する場合
源泉徴収票が手元にない場合でも、年末調整せず確定申告をすれば、正確な所得税額の精算が可能です。
確定申告する場合は、手続きに源泉徴収票を提出する必要はありません。ただし、確定申告書を作成する際には、源泉徴収票に記載された収入や源泉徴収税額などの情報が必要です。そのため、内容がわかる資料を手元に用意しておきましょう。
確定申告による還付申告は、申告期間内(2月16日〜3月15日)に行うことで、過去5年分の控除漏れにも対応できます。源泉徴収票が間に合わない場合でも、確定申告で適正な税額調整ができるため、状況に応じて柔軟に対応しましょう。
雇用形態が特殊な場合
雇用形態が特殊な場合、年末調整で源泉徴収票が不要となるケースがあります。
たとえば、フリーランスは給与ではなく報酬として所得を受け取るため、源泉徴収票ではなく、請求書や支払調書が発行されます。そのため、年末調整の対象外となり、会社に提出する源泉徴収票も不要です。
また、日雇い労働者や複数の企業で働いている人が、いずれかの勤務先に扶養控除等申告書を提出している場合、その他の勤務先は年末調整の対象外となります。
上記のように、すべての勤務先から源泉徴収票を集める必要がないケースもあります。したがって、雇用形態に応じて適切な対応を心がけましょう。
年末調整をしない4つのリスク
年末調整をせずに放置すると、税金の過不足や追加手続きなどのリスクが生じる可能性があります。リスクを事前に把握しておくことで、年末調整の重要性を理解し、準備や対応もスムーズに進められるでしょう。
以下では、年末調整をしないことで起こりうる4つのリスクを解説します。
所得税の還付が受けられない
会社が年末調整を実施しない場合、従業員は本来受け取れるはずの所得税の還付を受けられず、不利益を被る可能性があります。
通常、年末調整によって1年間に納めた所得税と実際の税額との差額が精算され、納め過ぎた分は還付されます。しかし、年末調整が行われなければ、自動的に還付されることはありません。
還付を受けるには、従業員自身が確定申告を行う必要があり、手間と負担が生じます。とくに、医療費控除や生命保険料控除などを適用したい場合、確定申告の準備や手続きが複雑になることもあるため注意が必要です。
年末調整は、従業員の税負担を軽減するうえでも重要なため、欠かさず行いましょう。
従業員の税負担が増える
年末調整を行わない場合、従業員の税負担が増える可能性があるため注意が必要です。
通常、年末調整では基礎控除や扶養控除、生命保険料控除などの各種所得控除が反映され、課税所得が調整されます。しかし、年末調整をしなければ控除が適用されず、課税所得が本来より高く算出され、所得税が本来より多く課税されて従業員の税負担が増加します。
さらに、住民税は年末調整の結果をもとに算出されるため、所得税が過大になると、翌年度の住民税も高くなる可能性があるため注意しましょう。
必要な控除を正しく反映させるには、年末調整を確実に実施することが重要です。
延滞税や過少申告加算税が課税される
年末調整せずに、期限までに正しく申告・納付しなかった場合、延滞税や過少申告加算税が課税されるリスクがあり注意が必要です。
延滞税は、税金の納付が期限(翌年1月10日)を超えた際に発生し、日数に応じて金額が増加します。また、過少申告加算税は、源泉所得税を期限内に納付しなかった場合に課され、原則として納付すべき税額の10%が追加で徴収されます。
年末調整を怠ることで、本来納めるべき税金に加え、余分な税負担が発生する可能性があるため、期間内の正確な手続きが重要です。
罰則の対象となる
年末調整せず、従業員から適切な所得税を徴収していなかった場合、企業は罰則の対象となる可能性があります。
所得税法第242条では、年末調整に関する義務を怠った場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されると定められています。さらに、源泉徴収した所得税を納めなかった場合は、所得税法第240条により10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科される可能性があり、注意が必要です。
企業が罰則を受ければ、従業員との信頼関係が損なわれるだけでなく、社会的信用の低下や資産の差し押さえのリスクにもつながります。適正な年末調整の実施は、法令遵守と企業の信用維持の観点からも重要です。
源泉徴収票は再発行できる
源泉徴収票は再発行が可能です。万が一、紛失したり手元に届いていなかったりしても、勤務先に依頼することで再発行してもらえるため、年末調整に間に合う可能性があります。
ただし、発行までに時間がかかることもあるため、早めに対応することが大切です。以下では、再発行の流れや期間、費用などについて解説します。
再発行する流れ
源泉徴収票を再発行するには、まず前職の会社に連絡して依頼しましょう。
連絡手段は電話やメールが一般的で、氏名や勤務時期、再発行を希望する旨を明確に伝えます。多くの場合、再発行の理由を確認されるため、「紛失した」「届いていない」など具体的な理由を事前に用意しておくとスムーズです。
再発行された源泉徴収票は郵送されることが多いため、最新の住所もあわせて伝えておくとトラブル防止に役立ちます。対応方法や発行までの日数は企業によって異なるため、余裕をもって依頼することが重要です。
再発行にかかる金額
源泉徴収票の再発行は、多くの企業で無料で対応しています。
ただし、郵送で対応する場合は、返信用封筒や切手などの実費を従業員に求めることもあります。また、給与や書類管理を社外のサービスに任せている場合、再発行時に手数料がかかることがあるため、事前の確認が必要です。
手数料の相場は300円〜500円程度です。再発行の対応方法は企業ごとに異なるため、自社の運用を確認し、従業員にも事前に案内しておきましょう。費用や手続き期間を明確にすることで、不要なトラブルを防げます。
再発行までにかかる時間
源泉徴収票の再発行にかかる時間は、即日から2週間程度が一般的です。
会計システムからPDFで発行できる場合は、数日以内に受け取れることもあります。ただし、前職の勤務先の対応体制や社内手続きの状況によって所要日数は異なるため注意が必要です。
とくに年末調整や確定申告の時期は、業務が集中するため、再発行に時間がかかる傾向があります。急ぎの場合は、依頼時に急ぎである旨を伝えましょう。余裕をもって早めに手続きを進めることで、トラブルを未然に防げます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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