- 更新日 : 2025年9月2日
給与計算のエラー対処法とは?原因から再発防止策まで徹底解説
本記事では、給与計算でエラーが発覚した際の具体的な対処法から、エラーが多発する原因、再発防止策までをステップごとにわかりやすく解説します。
給与計算は、従業員の生活と信頼に直結する重要な業務です。しかし、法改正や手作業が原因でエラーが発生することも考えられます。「もしも給与計算でミスが起きたらどうしよう」と不安に思う経営者や担当者の方も多いかもしれません。迅速かつ誠実な対応で、従業員との信頼関係を守りましょう。
目次
給与計算でエラーが発覚した際の正しい対処法の手順
給与計算のエラーに気づいた時に重要なのはパニックにならず、一つひとつ手順を踏んで冷静に対応することです。ここでは、問題の発覚から解決、そして再発防止までの一連の流れを5つのステップに分けて具体的に解説します。
1. 事実確認と原因の特定を急ぐ
最初に行うべきは、何が起きているのかを正確に把握することです。 「誰の」「いつの」給与で「どの項目が」「いくら」違うのか、具体的な事実を確認しましょう。給与明細や勤怠データ、従業員情報などの関連資料を落ち着いて見直し、客観的な情報を集めます。
事実が固まったら、次に「なぜそのエラーが起きたのか」という原因を特定します。 たとえば、以下のような原因が考えられます。
原因を特定しない限り、正しい修正はできず、同じミスを繰り返してしまう可能性があります。焦る気持ちを抑え、まずは事実確認と原因究明に集中することが、迅速な解決への第一歩です。
2. 影響を受ける従業員の範囲を確定する
特定した原因をもとに、他に同じエラーの影響を受けている従業員がいないかを確認します。 たとえば、特定の役職手当の計算が間違っていた場合、その役職に就いている従業員全員の給与を確認する必要があります。法改正の反映漏れが原因であれば、全従業員が影響範囲となる可能性もあります。
個別のミスだと思い込んでいたら、実は部署全体、あるいは会社全体に関わる問題だったというケースも少なくありません。ここで影響範囲の確認を怠ると、後から別の従業員から指摘を受けることになり、会社の管理体制への不信感をさらに広げてしまう恐れがあります。原因から影響範囲を慎重に洗い出し、対応すべき対象者を正確にリストアップしましょう。
3. 対象の従業員へ誠実に説明し謝罪する
影響範囲が確定したら、次に対象となる従業員一人ひとりに対して誠実に説明し、謝罪します。 「給料計算の間違いは言いにくい…」と感じるのは当然ですが、隠したり、報告が遅れたりすることは、従業員の不信感を増大させるだけです。以下の内容を正直に伝えましょう。
- 給与計算に誤りがあったという事実と謝罪
- 判明しているエラーの原因
- 今後の対応(いつ、どのように差額を精算するかなど)
基本的には上長(人事部長や経営者など)と担当者が同席し、対面で直接伝えるのが最も誠意が伝わります。それが難しい場合でも、電話などで真摯に説明することが重要です。曖昧な言葉でごまかさず、会社の責任として真摯に向き合う姿勢を見せることが、信頼回復の鍵となります。
4. 差額の精算手続きを速やかに行う
従業員への説明と謝罪を終えたら、速やかに差額の精算手続きを進めます。精算方法は、不足分を支払う場合と、過払い分を返還してもらう場合で対応が異なります。
不足分を支払う場合
賃金が不足していた場合は、法令上は速やかな追加払いまで義務付けられているわけではないですが、労務トラブルを避けるために早期対応が望ましいです。もし次回の給与で合算して支払う場合は、必ず従業員本人に説明し、同意を得ておきましょう。
過払い分を返還してもらう場合
賃金を多く払い過ぎてしまった場合、会社が一方的に次回の給与から天引きすることは労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に反するため認められません。必ず従業員に事情を説明し、返還方法(次回の給与からの相殺、振込など)について合意を得た上で「給与誤払いに関する合意書」などの書面を取り交わしておくと、後のトラブルを防げます。
5. 具体的な再発防止策を策定し共有する
エラーの是正が完了したら、それで終わりではありません。同じ過ちを繰り返さないための「再発防止策」を策定し、関係者で共有することが不可欠です。
たとえば、以下のような多角的な対策が考えられます。
業務フローの見直し
複数人によるダブルチェック体制を構築する、手作業の工程を減らすなど、ミスが起こりにくい業務フローを再設計します。
知識・情報のアップデート
定期的な法改正情報の確認を業務に組み込む、担当者向けの研修を実施するなど、知識不足を防ぐ仕組みを作ります。
ITツールの活用
高機能な給与計算ソフトを導入・見直しすることで、手入力によるミスや計算ロジックの間違いの削減が期待できます。
専門家への外部委託(アウトソーシング)
人的リソースが限られている場合や、より確実性を求める場合には、給与計算業務そのものを社会保険労務士などの専門家に外部委託するのも非常に有効な選択肢です。法改正にも対応してくれるため、担当者の負担を大きく軽減できます。
これらの策定した再発防止策は、関係部署で共有するだけでなく、エラーの影響を受けた従業員にも伝えることで「会社としてきちんと改善に取り組んでいる」という姿勢を示し、安心感を与えられます。
給与計算でエラーが多発する主な原因
給与計算のエラーは、単純な「うっかりミス」だけで片付けられるものではありません。多くの場合、その背景には組織の仕組みや業務フローに起因する構造的な問題が潜んでいます。自社に当てはまる点がないかチェックしてみましょう。
法改正や社内ルールの変更に対応できていない
給与計算に関連する法律や制度は、定期的に改正されます。一部の社会保険料率や雇用保険料率、所得税のルール(定額減税など)、最低賃金などはその代表例です。これらの最新情報をキャッチアップできずに古い料率やルールで計算してしまうと、全従業員の給与計算にエラーが生じる可能性があります。
また、法改正だけでなく、昇給やインセンティブ制度の導入といった社内独自の賃金規程の変更も、見落としやすいエラーの原因となります。
担当者の経験不足や手作業による入力ミス
給与計算は専門的な知識が求められる複雑な業務です。担当者の経験が浅かったり、引継ぎが不十分だったりすると、思い込みや知識不足からエラーが発生しやすくなります。 特に、Excelなどを使って手作業で計算している場合は、注意していてもヒューマンエラーを完全になくすことは困難です。
勤怠データからの数値の転記ミス、残業時間の入力間違い、従業員の選択ミスなど、手作業が多いほどエラーのリスクは高まります。
勤怠データや従業員情報の管理が不十分
給与計算のもととなるデータそのものが間違っていれば、当然、計算結果も間違ってしまいます。たとえば、以下のようなケースです。
- タイムカードの打刻漏れや申請ミスが修正されていない
- 従業員から提出された扶養家族の変更届が処理されていない
- 交通費の変更申請が給与計算に反映されていない
これらの情報は、従業員本人や各部署の協力が不可欠です。社内での情報連携がスムーズに行われていないと、もととなるデータに不備が生じ、給与計算エラーの原因となります。
給与計算ソフトの設定ミスや更新漏れ
給与計算ソフトを導入していても、エラーが起こる可能性はゼロではありません。導入時の初期設定(各種手当の計算式、社会保険料の設定など)が間違っていると、それに気づかないまま誤った計算を続けてしまうことになります。
また、法改正があった際に、システムが自動で更新されるタイプでない場合は、担当者が手動で新しい料率などを設定し直す必要があります。この更新を忘れてしまうことも、エラーの典型的な原因の一つです。システムを過信せず、定期的な設定内容の確認が欠かせません。
給与計算のエラーがもたらす経営上のリスク
「間違えたら、謝って修正すればよい」と軽く考えていると、思わぬ形で経営に大きなダメージを与える可能性があります。給与計算のエラーは、単なる事務ミスではなく、会社の信頼を揺るがす重大なリスクをはらんでいます。
従業員からの不信感とエンゲージメントの低下
従業員にとって給与は、自身の労働への対価であり、生活を支える基盤です。その計算に間違いがあるると「自分の頑張りを正当に評価してくれない」「会社の管理体制はずさんだ」という不信感に直結する可能性があります。
このような不信感は、仕事への意欲や会社への貢献意欲(エンゲージメント)を著しく低下させます。最悪の場合、従業員が「この会社にはいられない」と離職してしまう原因にもなりかねません。
遅延損害金や追徴課税といった法的なペナルティ
給与の支払いが不足していた場合、従業員から請求されると、未払い賃金に対して遅延損害金を支払う義務が生じることがあります。特に退職した従業員に対しては「賃金の支払の確保等に関する法律」第6条に基づき、年14.6%という高い利率が課される場合があります。在職中の場合は現行では年3%(法定利率、3年ごと見直し)適用されるのが原則です。
また、所得税や社会保険料の計算を間違えて納付額が不足していた場合は、税務署や年金事務所から延滞税や追徴課税といったペナルティを課されるリスクもあります。これらは本来払う必要のなかったコストであり、会社の資金繰りを圧迫する要因となります。
参考:賃金の支払の確保等に関する法律 | e-Gov 法令検索
参考:No.9205 延滞税について|国税庁
「給料間違いが多い会社」という評判による採用活動への悪影響
現代では企業の働きがいや職場環境に関する評判が、口コミサイトやSNSを通じて以前よりも広がりやすくなっています。もし「給料計算が正確でない」といった印象が社外に広がってしまうと、そのイメージを払拭するのは容易ではありません。
採用活動において、多くの求職者は給与や待遇といった条件だけでなく、その企業の信頼性や従業員を大切にする姿勢を重視する傾向があります。給与計算の正確性は、働く人にとって安心感の基盤となる大切な部分です。ここに不安を感じさせてしまうと、会社の採用ブランドイメージに影響し、応募をためらう人が出てくる可能性もあります。
一方で、万が一エラーが発生した場合でも、誠実かつ迅速な対応を行うことは「従業員を大切にする信頼できる会社」であることの証明にも繋がります。重要なのは、エラーを隠さず、組織として真摯に向き合う姿勢を示すことです。
人材の確保は、企業の持続的な成長にとって重要な要素です。そのためにも、給与計算の正確性を保ち、社内外からの信頼を得ることが大切です。
ケース別に見る給与計算エラーの具体的な精算方法
給与計算のエラーが発覚した場合、法的なルールに則って正しく精算手続きを行うことが、トラブルを最小限に抑えるために不可欠です。ここでは、主な3つのケースにおける具体的な対応方法を解説します。
ケース1. 賃金の支払いが不足していた場合の対応
従業員に支払うべき賃金が不足していた場合は、原則として、エラーが発覚し次第、速やかに不足分を支払います。本来の給与支払日を待つ必要はありません。
ただし、業務の都合上すぐに支払うのが難しい場合や、従業員本人が希望する場合は、本人の同意を得た上で、次回の給与と合算して支払うことも可能です。その際は、給与明細に「〇月分給与 調整分」など、内訳が明確にわかる項目を立てて記載し、従業員が混乱しないよう配慮しましょう。
ケース2. 賃金を過払いしてしまった場合の対応
賃金を多く支払い過ぎてしまった場合、会社が一方的に次回の給与から差し引く(相殺する)ことは、労働基準法第24条が定める「賃金全額払いの原則」に違反するため、認められていません。
- 従業員への説明と同意:まず、従業員に過払いの事実と原因を誠実に説明し、返還について協力を依頼します。
- 返還方法の協議:一括で返還してもらうか、あるいは従業員の生活に配慮して分割で返還してもらうかなど、具体的な返還方法を話し合います。次回の給与から差し引く場合も、必ず本人の同意が必要です。
- 合意書の作成:トラブル防止のため、返還金額や返還方法について合意した内容を「給与誤払いに関する合意書」などの書面に残しておきましょう。
従業員の生活を守るという観点から、一方的な対応は絶対に避けるべきです。
ケース3. 社会保険料や所得税の計算を間違えた場合の修正手続き
社会保険料や税金の計算を間違えた場合、誤り内容・変動幅・時期にもよりますが、修正手続きが必要になる場合もあります。
社会保険料
従業員から徴収する保険料が不足していた場合は追加で徴収し、多く徴収しすぎていた場合は返金します。その上で、会社が年金事務所や健康保険組合に納付する金額も修正し、差額を納付または還付してもらいます。場合によっては「算定基礎届」や「月額変更届」の訂正届の提出が必要です。
社会保険の手続きには期限が定められているものも多いため、発覚次第、速やかに関係各所や顧問の社会保険労務士に相談しましょう。
所得税
所得税の過不足は、原則として年末調整で最終的な精算を行います。退職者・非居住者などは確定申告等で精算となります。年の途中でエラーが発覚した場合は、社内で不足分を徴収、または過払い分を返金し、その内容を記録しておき、年末調整で正しく反映させれば問題ありません。
給与計算の間違いで失った信頼を回復するコミュニケーション
給与計算のエラー対応において、正しい事務処理と同じくらい重要なのが、従業員の心に寄り添うコミュニケーションです。事務的な対応に終始すると、たとえ金銭的な問題が解決しても、従業員の心には不信感が残り続けます。失った信頼を回復するためには、誠実な対話が不可欠です。
「給料計算間違いは言いにくい」を乗り越える報告のポイント
ミスを報告する際「給料計算間違いは言いにくい」と感じる担当者は少なくありません。しかし、その躊躇が対応を遅らせ、問題をさらに大きくしてしまいます。大切なのは、迅速かつ正直に報告することです。
- 言い訳をしない:「忙しかったから」「システムがわかりにくくて」といった言い訳は、責任逃れと受け取られかねません。まずは非を認め、謝罪に徹しましょう。
- すぐに上長に相談する:一人で抱え込まず、すぐに上長に報告し、組織として対応する体制を整えることが重要です。
誠意が伝わる謝罪と今後の対応についての明確な説明
謝罪の際は、ただ「申し訳ありません」と繰り返すだけでは誠意は伝わりません。「私の確認不足により、〇〇様にご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした」というように、何に対して謝罪しているのかを具体的に伝えましょう。
その上で「不足分は明日の午前中にお振込みいたします」のように、今後の対応を具体的かつ明確に説明することで、従業員は安心します。不安な気持ちにさせてしまったことへの配慮が大切です。
再発防止策を具体的に共有し安心感を与える
エラー対応の締めくくりとして、策定した再発防止策を従業員に共有することが、信頼回復に向けた最後のひと押しとなります。 「今後は気をつけます」といった曖昧な言葉ではなく「今後は、担当者が入力したデータを必ず上長が確認するダブルチェック体制を徹底します」というように、誰が見てもわかる具体的なアクションプランを伝えましょう。
会社が問題を真摯に受け止め、本気で改善しようとしている姿勢を示すことで、従業員は安心して「この会社は信頼できる」と感じてくれるはずです。
正確な給与計算エラー対処法で信頼される組織を築く
給与計算のエラーは、どの企業にも起こりうる問題です。しかし、その後の対処法によって従業員の会社に対する印象は大きく変わります。重要なのは、ミスが発覚した際に迅速かつ誠実に対応し、原因を究明して具体的な再発防止策を講じることです。
日頃からチェック体制を整え、給与計算ソフトの活用や専門家への相談も視野に入れることで、給料計算間違いが少ない安心できる職場環境が実現します。正確な給与計算は、従業員との信頼関係を支える重要な要素であることを忘れず、適切な対処法を実践していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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