- 更新日 : 2025年7月10日
役員報酬の決め方の注意点と知っておくべき3つの制度
例えばあなたが起業した場合、自らが経営者となり、会社の役員となります。特にこれまで会社員だった方は、自分の適正なお給料はいくらにすれば良いのだろうか?と悩んでしまう方も少なくないのではないでしょうか。
また、役員報酬は社長の一存で決めることができてしまうため、無制限に損金算入(経費処理)を認めてしまうと、自社の法人税額をゼロにしたりといった、会社の利益操作が可能となってしまいます。
法人税法では、そういった「役員報酬の決め方」について決まりがあり、それに基づいて決定する必要があります。
ここでは具体的に、役員報酬の決め方について重要な点をみていきましょう。
目次
役員報酬を損金算入するために、理解しておきたい3つの制度

役員報酬を語る上で欠かせないのが「損金」という単語。これは、税法上での「費用」という意味です。従って、損金算入とは、税法上、必要な費用として処理することができるという意味となります。
それでは、損金算入するためにはどのような要件が必要となるのでしょうか?法人税法では損金算入できる役員報酬について、大きく3つ定められています。
1. 定期同額給与
簡単に説明しますと、毎月同じ額を役員に報酬として支払い、会計上費用として処理すれば、税務上も費用として認めるというものです。
注意するポイントは、毎月同じ金額を計上するということです。先月は売上が好調だったから、10万円の役員報酬にしたけど、今月はいまいちだったから5万円にしよう、などということはできません。
3月決算の会社であれば、例えば4月から3月まで毎月同じ額を役員報酬として支払い、記帳していきます。
とはいえ、期中に業績が急速に悪化し、どうしても役員の報酬を下げなければ、会社の経営が圧迫されるという状況はよくある話で、このような場合には役員報酬を減額して、その減額した金額を決算日まで毎月計上すれば1年間定期同額の役員報酬が支払われたと法人税法上認めてもらえます。
例を挙げれば、4月から9月までは好調で毎月10万円を支給していたが、不祥事により急きょ経営が著しく悪化してしまい、10月から3月までは毎月5万円を支給したような場合に、法人税法上も損金として認めてもらえます。
ここでのポイントは、10月から役員報酬を減額することを決定した証拠として株主総会議事録や取締役会議事録を作成しておくことです。
後になって税務調査が入っても、役員報酬が適切な会議体の決定を経て決められたことを経営者が税務署に主張できる材料となるからです。
なお、当期が終わり翌期になれば株主総会での決議で、この新しい期に支払う役員報酬の額を決定することができます。
基本的には期首から3か月以内に毎月の報酬を決定します。決定した額をまた1年間(少なくとも期末までは)毎月支払って記帳していくことになります。
2. 事前確定届出給与
事前に税務署にこの日にいくら支払います、という内容を届け出ておいて、その届出の通りに役員報酬の支払と記帳が行われれば、税務上も損金として認めますというものです。
この制度を利用するポイントは、届け出た通りの日に届け出た金額を必ず支給するという点です。
例えば、12月10日に役員Aに100万円支払うと税務署に届け出たにもかかわらず、届出日から12月10日までの間に業績が悪化し、50万円しか払えなくなったとします。
この場合、会社が50万円支払っても損金算入はできません。あくまでも12月10日に100万円支給しなければ税務上は認めてもらえませんので、注意が必要です。
3.利益連動給与
これは主に上場企業が該当しますが、あらかじめ役員報酬の算定基礎となる指標等を有価証券報告書などに記載しておき、算定基礎に基づき役員に支払った場合に、損金算入を認めるという制度です。
役員報酬を決める際の注意点

ここまで、役員報酬の決め方に関する制度が3つあるという点について述べてきました。もちろん併用は可能ですが、一般的にはその中でも定期同額給与が多く採用されています。ここでは定期同額給与を前提として話を進めていきます。
1年間の売上予測に基づき算出する
一度決めた役員報酬の金額は、基本的に1年間(少なくとも期末まで)は変えられませんので、この1年間(少なくとも期末まで)の売上がどれくらいで、その他に原価や経費がどれくらい発生するのかを試算します。
その結果、役員報酬として年間で〇〇円確保できるから、1か月あたりは12等分して〇〇円になる、という決め方が一般的ではないでしょうか。
当然、役員報酬は毎月これくらいもらいたいので、ということを先に決めて、そうであれば売上をどれくらい上げなければならないかということを考えるのも方法としてはあります。しかし、現実的には絵に描いた餅になり、厳しい結果が予想されることもあり得ます。
やはり、まずは厳しめの売上予測を立てて、そこから実際に確保できる役員報酬を算定する決め方が無難といえます。
年度途中での金額の変更を避ける
ここまででも説明してきましたが、定期同額給与の制度を利用するときに最も注意すべきは、「毎月同じ金額を支給し記帳する」ということに尽きます。安易に額を上げ下げすることはできません。
冒頭でも述べたとおり、役員報酬が経営者の一存で決定できるため、自由な金額設定を認めると利益操作が可能となるためです。
役員報酬計算シートのひな形・テンプレート
役員報酬の計算シートをエクセルで作成する際は、テンプレートの利用が便利です。
以下より、今すぐ実務で使用できる、役員報酬の計算シートのテンプレート(エクセル)を無料でダウンロードいただけます。ぜひ、経営にお役立てください。
まとめ
これまでに述べたポイントを守れば、役員報酬の決め方は必要以上に税法を気にすることなく決定できるということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、役員報酬の決め方で大切なのは以下の3点を抑えておくことです。
2. 金額を変更するときは翌期に入って3か月以内に株主総会(または取締役会)で決定すること
3. 著しい業績悪化で報酬をやむを得ず減額したりする場合はきちんと議事録を残すこと
ぜひ、参考にしてみてください。
役員報酬・役員賞与についてより詳しい情報を知りたい方は以下のサイトをご参照ください
役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
よくある質問
役員報酬における「損金」とは何ですか?
役員報酬における「損金」とは、税法上での「費用」という意味です。法人税法では損金算入できる役員報酬について、大きく「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」の3つが定められています。詳しくはこちらをご覧ください。
役員報酬を決める際の注意点を教えてください。
定期同額給与を前提とすると「1年間の売上予測に基づき算出する」「年度途中での金額の変更を避ける」などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
小田原市の給与計算代行の料金相場・便利なガイド3選!代表的な社労士事務所も
小田原市は歴史と自然が調和する観光都市として知られ、多くの企業が地域経済を支えています。そんな小田原市で事業を運営する企業にとって、給与計算は欠かせない業務ですが、その正確性と効率性を維持することは容易ではありません。専門知識や時間の制約か…
詳しくみるインセンティブと賞与(ボーナス)の違いは?社会保険・税金の計算方法などを解説
インセンティブと賞与(ボーナス)は、どちらも月々の給与に加えて支給される特別な報酬です。しかし、「転職活動で外資系企業やベンチャー企業を検討し始めた」「今の会社の給与明細を見て、手取り額の計算方法がよくわからない」といった場面で、両者の具体…
詳しくみる給与支払報告書の訂正方法は?eLTAX・郵送、期限後・過年度別に手順を解説
給与支払報告書を市区町村へ提出した後で、記載内容の誤りに気づき、どのように訂正すれば良いか悩んでいる経理担当者の方も多いのではないでしょうか。特に、提出期限を過ぎてしまった場合や、過去の年度の訂正が必要になったケースでは、対応に迷うことも少…
詳しくみる管理職だと残業代は出ない?管理監督者との違いから解説!
管理職などの役職に就くと、残業代を受け取れない場合があります。一般に「管理職は残業代が出ない」と言われますが、労働基準法に則ると「管理監督者は残業代が出ない」と表現するのが正確です。この記事では管理職と管理監督者の違いと定義、36協定との関…
詳しくみる日給月給制とは?月給制との違いや給与計算、メリット・デメリットを解説
求人票などを見ると、給与形態の欄には、日給制、月給制、時給制などさまざまな形態があります。 給与形態によってそれぞれ特徴がありますので、ここでは日給月給制を中心に、給与形態ごとのメリット、デメリットや残業、休日出勤の給与への影響、遅刻・早退…
詳しくみる確定拠出年金の受給シミュレーションをしてみよう
確定拠出年金は、拠出した掛金を自分で資産運用し、それによって得た利益に応じて増減した額を60歳から受け取ることができる年金です。 運用する金融商品を選ぶのはもちろんですが、運用結果も自分で責任を負います。そのため、正しく資産運用するためには…
詳しくみる