• 更新日 : 2025年8月20日

インセンティブと賞与(ボーナス)の違いは?社会保険・税金の計算方法などを解説

インセンティブと賞与(ボーナス)は、どちらも月々の給与に加えて支給される特別な報酬です。しかし、「転職活動で外資系企業やベンチャー企業を検討し始めた」「今の会社の給与明細を見て、手取り額の計算方法がよくわからない」といった場面で、両者の具体的な違いを正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。

この記事では、インセンティブと賞与の基本的な違いから、法律上の位置付け、手取り額に直結する社会保険料や税金の計算方法、そして企業ごとの制度の実態まで分かりやすく解説します。

インセンティブと賞与(ボーナス)の違い

まず、インセンティブと賞与の最も大きな違いを5つの観点から比較してみましょう。

目的の違い

インセンティブの主な目的は、従業員一人ひとりのモチベーションを高め、個人の業績向上を直接的に促すことです。個人の成果や目標達成度に応じて支払われる成果報酬としての性格が強く、従業員の行動変容を意図した仕組みと言えます。

一方、賞与は、企業全体の利益を従業員に分配するという目的を持っています。企業の業績に連動することが一般的で、個人の成果だけでなく、チームや会社全体への貢献を評価する利益分配としての性格が濃い報酬です。

支給基準の違い

インセンティブは、「契約件数1件につき〇円」「売上目標達成率120%で〇〇円」のように、個人の具体的な成果と報酬額が直接結びついています。この明確な基準があるため、従業員は目標達成に向けて具体的な行動計画を立てやすくなります。

一方、賞与の支給基準は、会社の業績という大きな枠組みの中で、個人の評価(人事考課)や勤続年数など、複数の要素を総合的に判断して決定されます。そのため、インセンティブほど直接的な成果との結びつきは強くありません。

支給時期と回数の違い

インセンティブは、成果が確定したタイミングで支払われることが多く、支給時期や回数は柔軟です。例えば、毎月の給与に上乗せして支払われたり、四半期ごとに支払われたりします。成果が出ればその都度報酬が発生するのが特徴です。

一方、賞与は、多くの企業で「夏(6月〜7月)」「冬(12月)」の年2回、あるいは決算期末を加えた年3回など、あらかじめ就業規則で定められた時期にまとめて支給されます。支給時期と回数が固定されている点が大きな違いです。

法的にはインセンティブも賞与も賃金に該当

報酬の名称がインセンティブであれ賞与であれ、法律上はどちらも賃金として扱われます。

労働基準法第11条では、賃金を「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義しています。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

この定義により、インセンティブも賞与も法的には賃金の一部です。そのため、企業はこれらの支払いについても、賃金支払いの5原則(通貨払、直接払、全額払、毎月1回以上払、一定期日払)を守る義務があります。ただし、賞与や一部のインセンティブは、臨時に支払われる賃金として、毎月払いの原則の例外とされています。

また、企業がインセンティブや賞与を支払う場合、支給条件や計算方法、支払時期などを就業規則や賃金規程に明記する必要があります。ただし、インセンティブについては、「営業インセンティブ規程」のように独立した規程を設ける企業も見られます。

インセンティブと賞与で異なる社会保険料の計算方法

手取り額に大きく影響するのが社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)です。インセンティブと賞与では、この計算方法が異なる場合があり、特にインセンティブが賞与扱いになるかどうかは重要なポイントです。

インセンティブが賞与扱いになるケース(年3回以下の支給)

年3回以下の頻度で支給されるインセンティブは、社会保険の計算上の賞与として扱われます。

  • 計算方法
    税引き前の賞与(インセンティブ)額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に、社会保険料率を掛けて保険料を算出します。
  • 手続き
    企業は、賞与を支給した際に「被保険者賞与支払届」を年金事務所へ提出しなければなりません。この届出により、将来受け取る年金額にも反映されます。

インセンティブが報酬になるケース(年4回以上の支給)

毎月の営業手当のように、年4回以上の頻度で支給されるインセンティブは、社会保険の計算上、賞与ではなく月々の報酬と見なされます。

  • 計算方法
    インセンティブの額は毎月の給与に合算され、社会保険料の基準となる「標準報酬月額」の算定に含まれます。
  • 標準報酬月額の決定
    毎年4月〜6月の3ヶ月間に支払われた給与(インセンティブを含む)の平均額を基に、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額が決定されます(定時決定)。

インセンティブと賞与で異なる所得税の計算方法

社会保険料と同様に、源泉徴収される所得税の計算方法も異なります。

賞与から源泉徴収される所得税

賞与から天引きされる所得税は、国税庁が公表する「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて計算します。

  1. 前月の社会保険料控除後の給与額を算出する。
  2. 扶養親族の数を確認する。
  3. 上記1と2を「算出率の表」に当てはめて、賞与に乗じる税率を調べる。
  4. (賞与額 − 社会保険料)× 税率 = 源泉徴収税額

参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和7年分)|国税庁

毎月の給与に上乗せされるインセンティブの所得税

毎月支払われるインセンティブの場合、その金額は通常の給与に合算されます。その月の給与総額から社会保険料を控除した後の金額を基に、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を使って所得税額が決定されます。

つまり、特別な計算は行われず、給与の一部として扱われます。インセンティブの額が大きかった月は、その分だけ源泉徴収される所得税も増えます。

参考:令和7年分 源泉徴収税額表|国税庁

年末調整での最終的な精算

賞与やインセンティブから源泉徴収された所得税は、あくまで概算での前払いです。年間の総支給額が確定した後、年末調整によって本来納めるべき年間の所得税額が正確に計算され、過不足が精算されます。

インセンティブ制度がある会社の実態

インセンティブ制度の有無や内容は、業界や企業文化によって大きく異なります。

外資系企業

営業職や金融業界を中心に、成果主義を明確に反映したインセンティブ制度が広く採用されています。年俸に加えて高額なインセンティブが支払われることも珍しくなく、成果次第で年収が大きく変動するのが特徴です。

営業職やエンジニア職

インセンティブは、個人の成果を数値化しやすい営業職で多く導入されています。近年では、エンジニア職においても、プロジェクトの品質や納期、開発した機能の貢献度などを評価してインセンティブを支給する企業が増えています。これは専門性の高い人材を確保し、意欲を高めるための施策です。

インセンティブ制度はあるがボーナスなしの企業

ITベンチャーやスタートアップ企業などでは、このような給与体系が見られます。会社の業績に左右される賞与よりも、個人の貢献を迅速に報酬へ反映させることを重視しています。自身の頑張りがすぐに収入に結びつくため、モチベーションを維持しやすい仕組みです。

インセンティブと賞与のどちらが合っているか

どちらの制度が優れているということではありません。自身の価値観やキャリアプランに合った制度のある企業を選ぶことが重要です。

成果が収入に直結する働き方を望むなら「インセンティブ」

自分の努力や成果が、ダイレクトに収入として評価されることに強いやりがいを感じる人は、インセンティブ制度が充実している企業が向いています。目標達成意欲が高く、自身のパフォーマンスで収入を増やしたいと考える人にとって、明確な基準で支払われるインセンティブは大きな魅力です。

企業の業績貢献と安定性を重視するなら「賞与」

個人の成果だけでなく、チームや組織全体で協力し、会社の成長に貢献することに喜びを感じる人は、賞与制度を重視すると良いでしょう。企業全体の利益を分かち合う側面があるため、従業員の一体感を醸成する効果も期待できます。また、個人の業績に多少の波があっても、会社全体の業績が安定していれば、ある程度の収入を見込めるという安定感もあります。

インセンティブと賞与の違いを理解しましょう

インセンティブと賞与は、同じ給与以外の報酬でありながら、目的、支給基準、そして社会保険料や税金の扱いにおいて明確な違いが存在します。

  • インセンティブ:個人の成果に直結する「成果報酬」
  • 賞与:会社の利益を分配する「利益分配」

この違いは、手取り額だけでなく、働く上でのモチベーションやキャリアの考え方にも影響を与えます。特に社会保険料の計算では、インセンティブの支給回数が年3回以下か4回以上かで扱いが大きく変わる点は、必ず押さえておくべき知識です。

本記事で解説した内容を参考に、ご自身の企業の制度を正しく理解し、今後の働き方や収入計画を考える上での確かな指針としてください。


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