• 更新日 : 2025年11月5日

36協定とは?時間外労働の上限規制や2024年の改正点、違反時の罰則までわかりやすく解説

36協定とは、企業が従業員に法定労働時間や法定休日を超える労働をさせる場合に必要となる労使協定のことです。労働基準法第36条に定められていることから、通称”サブロク協定”とも呼ばれ、適正な労務管理の根幹をなす重要な取り決めです。

この記事では、36協定の基本的な知識から、働き方改革で定められた上限規制、違反した場合の罰則、2024年4月の法改正内容、そして協定の締結から届出までの具体的な手順まで、企業の労務管理担当者が知っておくべき主要な情報を詳細に解説します。

36協定とは?

36協定、正式には時間外労働・休日労働に関する協定とは、法律で定められた労働時間である法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて、従業員に時間外労働や休日労働を指示するために不可欠な、会社と労働者の代表者との間で交わされる書面の協定です。労働基準法第36条に規定されていることから、通称サブロク協定とも呼ばれています。この協定を締結し、管轄の労働基準監督署長へ届け出ることで、初めて企業は法律に則った形で従業員に残業や休日出勤を指示できるようになります。

36協定の締結と届出が必要な理由は?

36協定の締結と届出が必須な理由は、法定労働時間を超えて労働させるための主要な法的手段の一つとされているからです。

労働基準法では、36協定の締結と労働基準監督署への届出という手続きを経ることで、例外的に時間外労働や休日労働が適法なものとして認められます。たとえ従業員本人が残業に同意していたとしても、36協定の締結・届出がない状態で法定時間外や休日労働を行わせることは労基法違反となります。このため、協定の締結と届出は企業にとって必須の手続きとされています。

36協定による時間外労働の上限規制とは?

働き方改革関連法の施行により、36協定で設定できる時間外労働には罰則付き上限が設けられました。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省

原則の上限は月45時間・年360時間

時間外労働時間の上限は、原則として月45時間・年360時間です。この上限は、2019年4月(中小企業は2020年4月の経過措置終了後)から法定化され、違反した場合は労働基準法に基づく罰則の対象となります。企業は、年間を通じた計画的な業務運営により、時間外労働をこの範囲内に収めることが求められます。

例外を認める特別条項付き36協定とは

特別条項付き36協定とは、通常では予測できない業務量の大幅な増加など、臨時的で特別な事情が発生した場合に限り、年6回を上限として、原則である月45時間を超えて時間外労働を可能にするための制度です。

特別条項を適用するには、36協定届に「臨時的に限度時間を超えることができる具体的な事由」を記載し、あわせて労働者の健康確保措置等の内容も明確にしておく必要があります。

特別条項が認められる臨時的な特別な事情の具体例
  • 大規模なクレームやシステムトラブルへの緊急的な対応
  • 決算業務やボーナス商戦に伴う、期間が限定された業務の繁忙
  • 納期がひっ迫したプロジェクトへの対応
  • 機械の突発的な故障やリコールへの対応

注意点として、「恒常的な人手不足」や「通常業務が多忙である」といった慢性的な理由は、臨時的な特別な事情とは認められません。

特別条項でも超えられない絶対的な上限

特別条項を設けた場合でも、時間外労働を無制限に行えるわけではなく、労働者の健康を守る観点から上限が定められています。特別条項付き36協定を締結した際は、以下の4つの上限規制をすべて満たすことが義務付けられています。

項目上限規制の内容
① 年間の時間外労働年720時間以内
② 単月の時間外・休日労働時間外労働と休日労働の合計が、月100時間未満
③ 複数月の時間外・休日労働時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」のすべてが、1ヶ月あたり80時間以内
④ 原則超過の回数時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度

特に「③ 複数月平均80時間以内」という規制は見落としやすいポイントです。たとえば、ある月の残業時間が95時間で②の単月100時間未満をクリアしていても、その前後の月との労働時間の平均が80時間を超えてしまうと法律違反になります。勤怠管理システムなどを活用し、常に複数月の平均値を確認することが重要です。

【2024年4月施行】働き方改革による上限規制の適用拡大

2024年4月1日から、建設事業・自動車運転の業務・医師など従来猶予されていた分野にも上限規制が適用されました。

業種2024年4月以降の上限規制のポイント
建設事業
  • 災害の復旧・復興事業を除き、原則の上限規制(月45時間・年360時間)が適用。
  • 災害時対応は月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内の規制は適用外。
自動車運転の業務
  • 特別条項付き36協定を締結する場合の時間外労働の上限が年960時間となる。
  • 月100時間未満、複数月平均80時間以内の規制は適用されない。
医師
  • 勤務する医療機関の種類や状況に応じて、A~C水準という複数の上限(年960時間または年1,860時間)が設定される。

36協定に違反した場合の罰則とリスク

36協定の届出がないまま時間外・休日労働をさせた場合や、上限規制に違反した場合は、労働基準法第119条に基づき「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となります(適用条項により異なります)。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

法的な罰則に加えて、企業は以下のような社会的・経営的な制裁を受けるリスクも存在します。

  • 企業名の公表
    厚生労働省や各労働局は、労働基準関係法令に違反した企業名をウェブサイトで公表しています。ここに企業名が掲載されると、企業の評判やブランドイメージが大きく損なわれることになります。
  • 行政指導・是正勧告
    労働基準監督署による立ち入り調査、いわゆる臨検監督が実施され、違反が確認されると是正勧告書が交付されます。勧告に従わず改善が見られない場合は、送検、つまり刑事事件として捜査機関に引き継がれる事態に至るケースもあります。
  • 公共調達での不利益
    国や地方自治体が行う入札への参加資格を制限されるなど、事業機会の損失につながる可能性があります。
  • 従業員からの損害賠償請求
    過重労働が原因で従業員が精神疾患を発症したり、最悪の場合過労死に至ったりした場合、企業は安全配慮義務違反を問われ、従業員やその遺族から民事訴訟を起こされ、高額な損害賠償を命じられるリスクがあります。

36協定の締結から届出までのステップ

36協定の手続きは、正確に進めなければ協定自体が無効になる可能性があるため、以下の5つのステップを確実に実行することが求められます。

1. 労働者代表(過半数代表者)の選出

協定は、会社と労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で締結します。労働組合がない事業場では、まず投票や挙手といった民主的な方法で過半数代表者を選出しなければなりません。会社側が一方的に指名することは認められず、また、部長や工場長といった管理監督者の立場の従業員は代表者になることはできません。

2. 協定内容の協議・決定

会社と選出された労働者代表との間で、36協定に盛り込む具体的な内容を協議し、決定します。主に以下の項目について合意を形成します。

  • 時間外労働をさせる必要のある具体的な事由
  • 対象となる業務の種類と労働者の数
  • 1日、1ヶ月、1年あたりの時間外労働の上限時間
  • 協定の有効期間(最長で1年間)
  • 特別条項を設ける場合は、その発動事由や上限時間などの詳細

3. 36協定届の作成

協議で決定した内容を、厚生労働省が定める公式様式「時間外労働・休日労働に関する協定届(様式第9号)」に記入し、協定書を作成します。建設業や運送業など、特定の事業に適用される別の様式も存在するため、自社の事業内容に合った正しい様式を使用することが必要です。

参考:時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|厚生労働省

4. 所轄の労働基準監督署長への届出

作成した36協定届を、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に届け出ます。届出方法には、窓口への持参や郵送のほか、e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用した電子申請があります。電子申請は24時間いつでも手続きが可能で、移動や郵送の費用もかからないため効率的です。

参考:e-Gov

5. 協定内容の労働者への周知

届け出た36協定の内容は、その事業場で働くすべての従業員に周知する義務があります。周知方法としては、事業場の見やすい場所への掲示、書面での交付、社内イントラネットなどへのデータ保存といった方法があります。この周知義務を怠った場合も罰則の対象となるため、届出とあわせて必ず実施しましょう。

36協定に関してよくある質問(FAQ)

最後に36協定に関してよくある質問とその回答をまとめました。

36協定はパートやアルバイトにも必要?

はい、必要です。36協定は雇用形態を問わず、法定労働時間を超えて労働する可能性のあるすべての労働者に適用されます。パートタイマーやアルバイトであっても、1日8時間・週40時間を超えて労働させる場合は、36協定の締結と届出がなければ法律違反となります。

36協定は管理監督者にも適用される?

いいえ、労働基準法上の管理監督者には、労働時間、休憩、休日の規定が適用されないため、36協定の対象外です。ただし、管理監督者であっても深夜労働(22時〜翌5時)の割増賃金の支払いは必要であり、企業には全従業員の健康を守る安全配慮義務があります。

36協定の有効期間はどのくらい?

36協定の有効期間は最長で1年と定められているため、毎年、起算日を迎える前に協定を再締結し、改めて労働基準監督署へ届け出る必要があります。有効期間が切れた状態での残業は法律違反となるため、更新手続きは計画的に行いましょう。

休日労働は時間外労働の上限に含まれる?

休日労働は、原則の上限(月45時間・年360時間)の計算には含まれません。しかし、特別条項を適用した際の上限である月100時間未満、および複数月平均80時間以内の計算においては、時間外労働と休日労働の合計時間で判断されるため、注意が必要です。

36協定の正しい理解が企業と従業員を守る

36協定は、単なる事務手続きではなく、従業員の健康と安全を守り、企業の持続的な成長を支えるための社会的なルールです。時間外労働の上限を遵守し、適正な労務管理を実践することは、企業に課せられた重要な責務です。この機会に自社の36協定の内容や運用方法を再確認し、より健全な職場環境の構築を目指しましょう。


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