• 更新日 : 2025年7月11日

欠勤控除の端数処理とは?タイミングや計算方法、具体例を解説

欠勤控除とは、欠勤や遅刻・早退などで働かなかった時間分の給与を差し引くことを指し、その際に生じる端数は企業が定めた合理的なルール(就業規則等)に基づき、1円未満や1分未満を切り捨て処理することが一般的です。端数処理を適切に行うことで、給与計算の正確さを保ち、法令順守や従業員との信頼関係にもつながります。

この記事では、欠勤控除における端数処理の基本ルール、具体的な計算方法、就業規則での対応、そして違法となるケースまでをわかりやすく解説します。

欠勤控除の端数処理とは?

欠勤控除とは、労働者が働く予定だった時間に労務を提供しなかった場合、その分の賃金を差し引く処理です。対象となるのは、1日単位の欠勤だけでなく、遅刻や早退によって一部の時間が勤務されなかった場合も含まれます。

例えば、月給制の従業員が1日欠勤した場合は1日分の給与、または1時間30分だけ遅刻した場合には、その時間分の給与を控除します。

この控除額を算出する際、1円未満の金額や1分未満の時間など、端数が生じることがあります。この端数をどのように扱うかが「欠勤控除の端数処理」です。

例えば、1時間あたりの単価が1,533.33円と計算された場合、この小数点以下の「0.33円」を切り捨てるのか、切り上げるのか、あるいは四捨五入するのか、という処理を行います。時間についても同様に、1分未満の端数が出る場合があります。

不適切な控除は労働基準法第24条の「全額払いの原則」に抵触する可能性があるため、注意が必要です。

欠勤控除が発生するケース

欠勤控除が発生するのは、労働者が所定の勤務時間のうち、一部または全部を勤務しなかったときです。以下のような場合に発生します。

  • 欠勤:病気や私用などで、1日まるごと休んだ場合
  • 遅刻:始業時間に遅れて出社し、予定より遅く勤務を開始した場合
  • 早退:終業時間より早く退社した場合

これらはすべて、実際に働かなかった時間分の賃金が支払われない=控除対象となるのが一般的です。

ただし、有給休暇を取得している場合や、会社都合による休業(例:休業手当の支給があるケースなど)は、欠勤控除の対象にはなりません。控除を行うかどうかは、就業規則や労働契約の内容を基に判断されます。

欠勤控除の端数処理が行われるタイミング

欠勤控除の端数処理は、給与計算に入る前の控除額を確定する段階で行われます。他の控除(社会保険料や税金など)と同じタイミング、またはその少し前に処理されることが一般的です。

具体的には、勤怠データから欠勤時間を集計し、控除額を計算した際に1円未満・1分未満の端数が出た場合、この時点で切り捨てなどの処理を行います。給与明細に反映する前、「欠勤控除額を確定する直前」が端数処理のタイミングです。

給与ソフトでは自動処理されることもありますが、設定ミスや不適切な丸めルールがないか確認が必要です。

欠勤控除の計算方法

欠勤控除の金額は、月給制と時給制で計算方法が異なり、控除する賃金の種類や、労働時間数の捉え方も注意が必要です。

月給制での欠勤控除の計算方法

月給制の場合、日割りまたは時間割りで計算する方法がありますが、どちらを採用するかは就業規則で定める必要があります。

基本的な計算式は次の通りです。

欠勤控除額 = 月給 ÷ 所定労働日数 × 欠勤日数

または、

欠勤控除額 = 月給 ÷ 所定労働時間 × 欠勤時間

例えば、月給が300,000円で、所定労働日数が20日間、1日欠勤した場合は以下の通りです。

300,000円 ÷ 20日 × 1日 = 15,000円の控除

遅刻や早退のように、1日未満の欠勤については、時間単位で計算することが一般的です。

時給制での欠勤控除の計算方法

時給制の場合、欠勤した時間数に対して、時給を掛けて計算します。

時給制での計算式は次の通りです。

欠勤控除額 = 時給 × 欠勤時間

例えば、時給が1,200円で、3時間欠勤した場合は、

1,200円 × 3時間 = 3,600円の控除になります。

この方法では時間単位での管理が前提となるため、タイムカードや勤怠システムの正確な運用が不可欠です。

控除対象となる賃金の範囲と所定労働日数

欠勤控除の対象となる賃金には、実際に勤務した時間に応じて支払われる報酬です。基本給、時間給、職務手当、業務手当などが該当します。

これらは労働時間に比例して支給されるため、欠勤や遅刻・早退があれば控除の対象になります。一方、通勤手当や住宅手当などの固定手当は、通常の欠勤では減額されず、支給条件によって扱いが異なるため、就業規則に明記しておくことが重要です。

遅刻や早退も欠勤控除の考え方で計算

遅刻や早退の場合も、基本的には欠勤控除と同様の考え方で計算します。ただし、遅刻や早退は通常、1日単位ではなく、時間単位や分単位で発生するため、1時間あたりの賃金を算出して控除額を計算します。

例えば、1時間あたりの賃金が2,000円の従業員が30分遅刻した場合、控除額は2,000円 × 0.5時間 = 1,000円となります。

厚生労働省は、労働時間や賃金の計算は1分単位で行うことを推奨しています。これにより、従業員の不利益を最小限に抑えることができます。

欠勤控除の端数処理の方法、原則は切り捨て

欠勤控除の端数処理は、一般的に切り捨て、企業が定めた合理的なルール(就業規則等)に基づき、1円未満の金額や1分未満の時間は切り捨てで処理するのが一般的です。これは、労働者にとって不利益となる結果を避けるための対応です。

例えば、控除額の計算結果が1,500.5円であれば、1,500円とし、余剰の0.5円を切り捨てます。

逆に、1,501円に切り上げた場合、働いていない時間に対して実際以上の賃金が差し引かれることとなり、労働基準法違反に該当する可能性があります。

厚生労働省の通達でも、賃金計算の端数処理は「労働者に不利とならないよう配慮すべき」と示されており、控除を伴う計算では特に慎重な取り扱いが求められています。

端数処理が違法となるおそれがある場合

処理方法によっては違法と判断されるケースもあります。例えば、以下のような処理は問題になる可能性があります。

切り上げで控除額を増やす場合

例えば、15分単位で欠勤控除を行う企業で、16分の遅刻を30分として控除したり、計算した控除額の端数を切り上げて1円でも多く控除したりするケースです。これにより、労働者が実際に働かなかった時間や金額以上に賃金が減らされることになります。

不合理な四捨五入

四捨五入を行う場合でも、その結果が労働者にとって不利になる場合は問題です。例えば、控除額が1,500.6円で、これを四捨五入して1,501円とするようなケースです。結果的に切り上げと同じになるため、注意が必要です。

「15分単位での切り上げ」など、労働者に不利益な取り決め

遅刻や早退について「15分未満の遅刻は15分として扱う」といった就業規則の定めも、労働基準法に違反する可能性があります。これは、実際に1分しか遅刻していないのに15分分の賃金を控除することになるため、労働者に不利益な取り扱いとなるからです。厚生労働省は、このような取り扱いは認められないとしています。

これらのケースは、労働者の賃金が不当に減らされることにつながるため、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に違反する恐れがあります。

欠勤控除の端数処理の具体的な流れ

欠勤控除の計算から端数処理までの具体的な流れを、手順を追って説明します。

  1. 月給から1時間あたりの賃金を算出する
    まず、従業員の月給を、その月の所定労働時間で割り、1時間あたりの賃金を計算します。
    例:月給20万円、1ヶ月の所定労働時間160時間の場合、1時間あたりの賃金は1,250円)
  2. 欠勤、遅刻、早退の時間を合計する
    対象月の従業員の欠勤、遅刻、早退の時間を分単位で合計します。
    例:欠勤1日(8時間)、遅刻15分、早退30分の場合、合計8時間45分
  3. 合計時間を分単位から時間単位に変換する
    合計した時間を分単位から時間単位(小数点以下)に変換します。
    例:8時間45分は8.75時間
  4. 控除額を算出する
    1時間あたりの賃金に、合計時間を掛け合わせて、控除額を算出します。
    例:1,250円/時間 × 8.75時間 = 10,937.5円
  5. 端数処理を行う
    控除額に1円未満の端数が生じた場合は、就業規則等に定めがあればその方法に従い、合理的な方法で処理します。
    例:10,937.5円の場合、10,937円に切り捨て

この一連の手順を経て、欠勤控除額が給与から正しくマイナスされ、給与明細に反映されます。

欠勤控除の端数処理の具体例

ここでは、給与形態や控除の対象となる時間帯に応じた計算例を紹介します。

月給制での欠勤控除

【前提条件】
  • 月給:300,000円
  • 所定労働日数:20日
  • 所定労働時間:160時間(1日8時間)
  • 欠勤:1日+1時間の遅刻(計9時間分)
【計算手順】
  1. 1時間あたりの単価:
    300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円
  2. 欠勤時間分の賃金:
    1,875円 × 9時間 = 16,875円

【端数処理】

この例では端数がないため、そのまま16,875円が控除されます。仮に計算結果が16,875.6円であれば、就業規則で定めた端数処理方法に従い、例えば1円未満は切り捨てで16,875円とします。

時給制での欠勤控除

【前提条件】
  • 時給:1,200円
  • 欠勤時間:3時間20分(3.333…時間)

【計算手順】

1,200円 × 3.333…時間 = 3,999.6円

【端数処理】

計算結果は3,999.6円となりますが、0.6円を切り捨てて3,999円とするのが適切です。これにより、労働者に不利な切り上げを避けられます。

欠勤控除で給与がマイナスになる場合

稀なケースですが、欠勤日数が多い月や、給与の低い従業員の場合、欠勤控除額が基本給を上回り、給与がマイナスになることも起こり得ます。

このような場合でも、原則として控除額をそのまま適用します。つまり、支給額より控除額が大きくなれば、差引支給額がゼロになる、あるいは理論上マイナスになるという計算結果になります。

ただし、実際には給与をマイナスで支給することはできないため、企業側が控除額に上限を設ける、または翌月以降に分割して差し引く場合は、労働者の同意が必要です

就業規則で「給与がマイナスになった場合の取り扱い」について定めておくことが望ましいです。

欠勤控除の端数処理計算の注意点

欠勤控除の端数処理は、見た目以上に細やかな配慮が求められます。特に、賃金計算の原則や労働者保護の観点から、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。

1分単位での計算を基本とする

労働時間や賃金の計算は、1分単位で行うのが適切です。例えば、5分遅刻した場合に「15分未満は切り上げで15分控除」とするのは、労働基準法に抵触する可能性が高いです。厚生労働省も、労働時間計算は原則として1分単位での計算を推奨しています。これにより、従業員の不利益を最小限に抑え、トラブルを未然に防ぐことができます。

各手当の扱いを明確にする

基本給以外の各種手当(例えば、役職手当、住宅手当、通勤手当など)が、欠勤控除の対象となるかどうかを就業規則で明確に定めておくことが必要です。欠勤控除の対象となる賃金は、労働の対価として支払われる賃金が原則です。曖昧なままにしておくと、従業員との間に誤解や不満が生じる原因となります。

所定労働時間の変動に注意する

月によって所定労働時間や所定労働日数が変動する場合、1時間あたりの賃金や1日あたりの賃金も変動します。例えば、閏年の2月や祝日の多い月など、月の所定労働時間が平均と異なることがあります。この変動を考慮せずに常に同じ単価で計算すると、不正確な控除額になる可能性があります。

正確な計算を行うためには、毎月の所定労働時間または所定労働日数に基づいて、1時間あたりの賃金などを再計算する必要があります。

就業規則への明記を怠らない

欠勤控除の計算方法や端数処理の方法は、就業規則に必ず明記しましょう。これにより、従業員は自分の給与がどのように計算され、控除されるのかを事前に理解できます。

また、会社側も、就業規則に則って計算を行うことで、公平性を保ち、従業員とのトラブルを避けることができます。不明確なまま運用すると、後々大きな問題に発展する可能性もあります。

欠勤控除の端数処理の方法は就業規則に規定する

欠勤控除の具体的な計算方法や端数処理のルールは、従業員にとって給与の増減に直結する重要な事項です。そのため、その内容を就業規則に明確に規定することが不可欠です。

就業規則には、欠勤・遅刻・早退が発生した場合の賃金控除の計算方法を記載します。例えば、

  • 1時間あたりの賃金の算出方法
  • 控除の対象となる手当の範囲
  • 端数処理の具体的なルール(例:1円未満は切り捨て)

などを詳細に記載しておくことで、従業員はあらかじめルールを理解し、自分の給与がどう計算されるのかを把握できます。

また、会社側にとっても、ルールに基づいた客観的な計算を行うことで、公平性を保ち、恣意的な処理を防ぐことができます。給与計算に関する明確な基準は、社内の信頼関係を築く上でも不可欠です。

なお、就業規則は労働基準法により、作成と従業員への周知が義務付けられている正式な社内ルールです。新しい計算方法を導入したり、端数処理の取り扱いを変更したり就業規則における賃金の支払方法を変更する場合には、労働基準監督署への届出が必要となることにも注意が必要です。

欠勤控除の端数処理は公平な運用を

従業員の欠勤や遅刻、早退に伴う欠勤控除の端数処理は、就業規則で定めた方法(例:1円未満切り捨て)で処理し、労働者の賃金が不当に減らされないように細心の注意を払う必要があります。特に、1分単位での正確な計算が推奨されています。

また、どのような手当が控除の対象となるのか、月の所定労働時間の変動をどう扱うのかなど、具体的な計算方法やルールを就業規則に明確に記載し、従業員に周知することが不可欠です。

これにより、従業員は安心して働くことができ、企業側も給与計算の公平性と透明性を確保できます。不明な点があれば、専門家である社会保険労務士に相談し、適切な対応を取ることをお勧めします。


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