• 更新日 : 2025年4月18日

人的資本を高める方法は?メリットや成功事例を紹介

人的資本を高めることは、企業の成長と競争力向上につながります。また、生産性の向上や離職率の低下、企業価値の向上など、さまざまなメリットが得られることが特徴です。

本記事では、効果的な施策や成功事例を交えながら、人的資本を高める方法を解説します。自社に適した取り組みを見つけ、競争優位性を確立しましょう。

人的資本を高める5つの方法

人的資本を高めるには、具体的な方法を理解することが重要です。事前に理解しておくことで、適切な行動を選びやすくなり、成長の機会を逃すことが少なくなります。知識やスキルを戦略的に伸ばせば、キャリアの選択肢も広がるでしょう。

以下では、人的資本を向上させるための具体的な5つの方法を解説します。

人的資本経営の基本については、下記の記事で説明しているためぜひ参考にしてみてください。

1. 人事評価制度を見直す

人事評価制度とは、企業が一定期間内に従業員の業績や能力を評価し、給与や業務内容に反映する仕組みです。適切に運用すれば、人材育成や企業の成長につながります。

評価制度を見直すことで、従業員のモチベーション向上や離職率の低下が期待できます。公平で明確な評価基準を設定すれば、従業員の納得感が高まり、企業への信頼の強化も可能です。

一方で、不公平な制度や曖昧な評価基準は、不満を生み、生産性の低下を招く恐れがあります。従業員の意見を取り入れつつ、制度の透明性を確保し、継続的に改善することが重要です。

2. 教育・研修制度を充実させる

教育・研修制度の充実は、従業員のスキルアップやキャリアアップにつながります。成長機会が十分でない場合、仕事にやりがいを感じにくくなり、優秀な人材の離職を招く恐れがあります。

効果的な教育・研修を実施するには、企業の戦略や業務内容に沿ったプログラムを設計し、従業員のニーズや興味を考慮することが重要です。画一的な研修ではなく、個々の成長段階や職務に応じた内容を提供することで、学習意欲を高められます。

従業員のニーズに応える研修制度を整備し、継続的に見直すことで、人的資本の向上と企業の発展につなげられるでしょう。

3. 多様性を受け入れる

多様性とは、組織や集団において年齢や性別、国籍、文化、宗教など、異なる背景や属性を持つ人々が存在している状態を指します。近年、経済のグローバル化や労働力不足、労働者の価値観の変化により、多様な人材を受け入れ、活躍できる環境を整えなければいけません。

多様性を受け入れることで、異なる視点やアイデアが生まれ、組織の創造性や競争力が高まります。多様性を受け入れるには、従業員の違いを尊重し、それぞれが強みを活かせる仕組みを整えることが重要です。

公平な評価制度や柔軟な働き方を導入し、多様な人材が活躍できる環境を構築することで、組織全体の成長につながります。

4. 働きやすい環境を整備する

働きやすい環境とは、従業員が安心して働けるだけでなく、やりがいを持って業務に取り組める職場のことです。快適な職場づくりは、従業員の満足度や生産性の向上につながります。

働きやすい環境を整えるには、従業員の意見を積極的に取り入れ、改善策に反映させることが重要です。職場の課題を把握し、柔軟な働き方の導入や業務負担の軽減を進める必要があります。

また、メンタルヘルスのサポートやストレス管理プログラムを導入し、従業員の心理的な負担を軽減することも重要です。従業員が安心して働ける環境を整えることで、組織全体の活性化につながります。

5. 福利厚生を充実させる

福利厚生の充実は、従業員のワークライフバランスを向上させ、働きやすい社内風土の構築において重要です。従業員が安心して働ける環境を整えることで、定着率の向上や企業の競争力の強化につながります。

従業員のモチベーション向上につながる主な福利厚生は、以下のとおりです。

  • 住宅手当
  • 寮・社宅の提供
  • レクリエーション関連の割引制度
  • 法定外の健康診断
  • 社食や食事補助 など

    福利厚生が充実している企業では、従業員の満足度が高まり、仕事への意欲も向上するでしょう。

    また、福利厚生の充実は企業イメージの向上にもつながります。求職者にとって魅力的な要素となり、優秀な人材の確保にも役立ちます。

    人的資本を高めることによる企業へのメリット

    人的資本の向上は、企業の成長や競争力向上に大きく貢献します。従業員のスキルやモチベーションが向上すれば、生産性の向上やイノベーションの創出が期待できます。

    事前にメリットを理解し、戦略的に人的資本の強化を進めることが重要です。以下では、企業にとっての具体的なメリットについて解説します。

    1. 企業全体の生産性が高まる

    人的資本を高めることで、従業員の満足度が高まり、生産性が向上します。スキルや知識を磨く機会が増えれば、業務の効率化や質の向上につながります。

    従業員一人ひとりのパフォーマンス向上は、組織全体の持続的な成長に重要です。成長した従業員が新たな価値を生み出し、企業の競争力を強化します。

    さらに、企業全体が成長すれば、従業員の成長機会が増え、キャリアアップの可能性も広がります。人的資本の向上が好循環を生み出し、企業は長期的な発展をサポートするでしょう。

    2. 離職率が低下する

    人的資本の向上により、従業員の満足度が高まり、離職率が低下します。スキルや知識を習得できる環境が整えば、成長を実感できるため、仕事へのやりがいも高まります。

    成長の機会がある職場では、従業員のモチベーションが維持され、意欲的に業務に取り組むことが可能です。自己成長が実感できる環境は、働く意義を感じさせ、長期的なキャリアを築くきっかけとなるでしょう。

    結果として企業の定着率が向上し、優秀な人材の流出を防げます。人的資本の向上は、従業員の満足度を高め、組織の安定と持続的な成長に貢献します。

    3. 企業価値が向上する

    人的資本を高めることで生産性が向上し、企業の競争力が強化されます。業績が伸びれば収益力も高まり、企業の成長が加速します。

    また、企業が社会的信頼を得るには、持続的な成長と従業員の働きやすい職場環境の整備が重要です。人的資本の向上に取り組む企業は、企業イメージが向上し、社会的評価も高まります。

    さらに、優秀な人材は成長機会のある企業を選ぶため、人的資本を重視する企業には自然と優秀な人材が集まります。結果的に企業価値が向上し、さらなる成長を目指せるでしょう。

    4. 従業員エンゲージメントが向上する

    従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の目指す方向に共感し、自発的に貢献しようとする意欲のことです。人的資本を高めると、企業と従業員の関係が強まり、エンゲージメントが高まります。

    人材への投資を積極的に行う企業は、従業員に成長の機会を提供しやすくなります。スキルアップの環境が整えば、従業員のモチベーションが高まり、企業への帰属意識も強化できるでしょう。

    5. 企業の業績が向上する

    人的資本を高めることで、企業全体の売り上げや利益の向上が期待できます。従業員のスキルや知識が向上すれば、業務の効率化が進み、サービスの質を高められるでしょう。

    具体的には、生産性が向上することで、より多くの商品やサービスを提供できるようになります。また、従業員の能力が高まれば、顧客満足度の向上や新たな価値の創出にも貢献できます。

    人的資本への投資は、企業の長期的な業績向上に欠かせない要素です。

    人的資本経営に取り組む流れ

    人的資本経営を効果的に進めるには、取り組みの流れを事前に把握しておくことが重要です。適切なステップを踏むことで、従業員の成長を促し、企業の競争力を高められます。

    以下では、人的資本経営の具体的な流れについて解説します。

    1. 経営戦略と人材戦略を連動させて目標を設定する

    人材戦略は、経営戦略と連動させて策定する必要があります。企業の成長を支えるためには、人材戦略を単独で検討するのではなく、経営目標に沿った人材育成の方向性を明確にすることが重要です

    まず、自社の現状の課題と将来的な目標とのギャップを把握し、人材戦略によってどのように解決できるかを検討します。具体的なゴールを設定する際には、短期・中長期の時間軸を考慮しながら計画を立てることが大切です。

    現状と目指す姿を比較することで、強化すべきスキルや不足している人材要素を明確にできます。上記のプロセスを通じて、企業の持続的な成長につながる戦略的な人材投資ができるようになるでしょう。

    2. KPIの設定と施策を検討する

    目標を設定した後は、KPI(重要業績評価指標)を適切に設定することが重要です。KPIとは、組織の目標達成に向けた業績評価の指標のことです。適切なKPIを設定することで、進捗を的確に把握できます。

    自社が目指す組織と現状のギャップを可視化し、いつまでに何を実現するかを明確にする必要があります。数値で測定できる指標を設定することで、人材戦略の成果の客観的な評価が可能です。

    また、数値化が難しい場合は、施策の進捗状況を評価基準として設定すると効果的です。具体的な施策を明確にし、継続的に検証・改善することで、人的資本経営の実効性を高められます。

    KPIについては下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

    3. 施策を実行して効果検証を行う

    決定した施策を実行し、定期的に効果を検証することが重要です。KPIの達成状況を確認し、従業員の意識を測るためにエンゲージメントサーベイなどを活用すると、具体的な課題を可視化できます。

    また、理想とする組織像と現状のギャップを継続的に監視し、必要に応じて施策を見直すことが重要です。ただし、人的資本は無形資産であり、定量化が難しい部分もあります。

    数値で評価しにくい要素については、プロセスの妥当性や施策の質に注目し、効果を判断することが有効です。継続的な検証と改善を繰り返すことで、より効果的な人的資本経営を実現できます。

    人的資本経営の成功事例

    人的資本経営の成功事例を確認することは、自社の取り組みを改善するうえで重要です。他社の成功要因を学ぶと、自社の課題を明確にし、より効果的な施策の導入が可能です。

    実際の事例を参考にすることで、人的資本経営の具体的な進め方や効果を理解しやすくなります。以下では、成功事例を紹介します。

    伊藤忠商事株式会社

    伊藤忠商事は「人的資本の強化」を重要施策の一つと位置づけ、労働生産性を向上させることで持続的な企業ブランド価値の向上を目指しています。

    企業価値に直結する人材戦略として、優秀な人材の確保や経営人材の継続的輩出、従業員の貢献意欲向上、労働生産性の追求といった目標を明確に設定しています。

    また、1999年度から育成費用を「人的資本投資」と位置づけ、持続的な企業価値向上も遂げました。結果、人材育成の強化と企業の競争力向上を実現しています。

    上記の成果として、サステナブル・ラボ株式会社が発表した「人的資本ランキング2022」では、伊藤忠商事が1位を獲得しました。

    参考:人材育成|伊藤忠商事株式会社

    参考:【人的資本ランキング2022】伊藤忠商事、リクルートホールディングス、三菱商事が上位にランクイン | サステナブル・ラボ株式会社のプレスリリース

    旭化成株式会社

    旭化成株式会社は、人材の確保・育成や従業員エンゲージメントの向上を通じて、人的資本経営を推進しています。全従業員を対象に、毎年計画的に人材ポートフォリオを策定・運用し、組織の最適化を図っています。

    2020年からは「KSA(活力と成長アセスメント)」を導入し、従業員エンゲージメントを測定しつつ、課題解決に取り組んでいることが特徴です。

    また、高度なスキルや知見を持ち、部署を超えて活躍できる「高度専門職」を設け、人材確保と育成を強化しています。あらゆる取り組みの結果、企業のDX推進の一環としてKPIを設定し、育成目標の230名を達成しました。

    参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省

    花王株式会社

    花王株式会社は、社会の活力最大化に向けた人材開発活動を推進し、中長期経営目標の達成を目指しています。2030年を見据えた中期経営戦略の一環として「社員活力の最大化」を掲げ、人的資本経営を強化しました。

    人材開発の課題や施策の進捗を共有するため、主要部門および日本グループ各社の人財開発責任者が参加する「人財開発会議」を月1回開催し、組織全体での成長を促進しています。

    また、従業員が成長のために挑戦できる組織風土を構築するため、「自分のなりたい理想」を目標として設定するOKR(Objectives and Key Results)を導入しています。OKRを活用することで、企業の目標と個人の目標をリンクさせ、従業員の主体的な成長を支援しました。

    上記の取り組みの結果、花王は産業能率大学の調査による「2023年 人事部が選んだ人的資本経営 会社ランキングTOP10」で第1位に選ばれています。

    参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省

    参考:人事部が選んだ人的資本経営会社ランキング2023 | 2023年 | 調査報告書 | 産業能率大学 総合研究所

    人的資本を高めるための環境を整えよう

    人的資本を高めるには、企業全体で環境を整えることが重要です。 人事評価精度や教育制度の見直し、多様性の尊重、働きやすい職場づくりなど、継続的な取り組みが求められます。

    人的資本経営を実践することで、生産性の改善や企業価値の向上などの成果につながります。ぜひ、自社に合った施策を導入し、従業員が成長し続ける環境を整えましょう。


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