- 更新日 : 2025年10月10日
クオータ制とは?意味や導入国、日本の課題、導入方法、助成金を解説 | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
クオータ制とは、政治進出や役員登用が遅れている女性やマイノリティに対して枠を設け、格差を是正する制度です。発祥地のノルウェーをはじめ導入国の多くでは大きな効果を上げているものの、韓国のように目標値におよばない場合もあります。日本での導入には法制化されていない、社会全体の意識変革が必要といった点が課題とされます。
目次
クオータ制とは?
クオータ制とは、集団における属性ごとの構成員の人数を、適切な比率にするための是正制度を指します。マイノリティなどが不利な取り扱いによって集団への参加が阻害されないよう、あらかじめ枠を設けて参加人数を割り当てておく制度です。内閣府男女共同参画局推進課による「諸外国の経済分野における女性比率向上にかかるクオータ制等の制度・政策等に関する調査」では、「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の手法の一つであり、性別などを基準に一定の数・割合を割り当てる制度のこと」とされています。
クオータの意味や由来
クオータ制はラテン語で割り当て・分け前を意味する「Quota」に由来し、ある特定の割り当てを満たすための制度です。女性やマイノリティなど特定の集団の社会参加を促進し、公平性を高めることを目的としています。多様性の尊重にもつながり政治や経済、教育、雇用といった社会のあらゆる分野で用いられています。代表的な具体例には、障害者の法定雇用率を定めた障害者法定雇用率制度が挙げられます。
女性の社会参加推進に向けた取り組み
クオータ制はもともと、女性の政治進出の遅れを正すための制度として設けられました。女性議員数が男性議員数に比べて極端に少なかったため、一定の議席を女性に割り当てたのが始まりです。ビジネスの世界でも女性の役員数・管理職数は男性に対して少なく、企業によってはクオータ制を設けて女性役員数・女性管理職を確保する取り組みが行われています。
ノルウェーが発祥
クオータ制は1973年にノルウェーで発祥しました。民主社会党による「50%クオータ」導入を皮切りに、1974年には自由党、1975年には左派社会党が「40%クオータ」を導入しました。1978年にはクオータ制は明記されなかったものの決定の場の男女平等がうたわれた男女平等法が制定され、決定の場に両性の代表が入ることが明言された1981年改正を経て、1988年改正では公的決定の場の「40%クオータ」が明記されました。1993年には労働環境法の育休規定において一定割合を父親に義務づける「パパ・クオータ」が設けられ、2003年には会社法の取締役会規定に「40%クオータ」が明記されました。
クオータ制を導入している国・地域
「平成30年度諸外国における政治分野への女性の参画に関する調査研究報告」によると、132か国で政治分野におけるクオータ制が導入されています。
政治分野におけるクオータ制導入内訳
- 憲法・法律による候補者クオータ制導入 53か国
- 憲法・法律による議席割り当てクオータ制導入 24か国
- 政党による⾃発的クオータ制導入 55か国
クオータ制の導入事例
世界ではどのようにクオータ制が導入されているのでしょうか。各国で行われている取り組み事例を解説します。
ノルウェー
クオータ制の発祥国であるノルウェーは、まず国営企業に対して取締役会の女性比率を2005年7月1日までに40%に引き上げる目標を掲げ、企業に自発的な取り組みを促しました。2006年には対象企業が拡大される他、違反した場合には会社名の公表・最終的には取締役会の解散といった厳しい罰則が設けられ、2008年にはすべての上場企業全体で女性役員比率40%を達成しています。
ドイツ
ドイツは2015年に「女性の指導的地位法」を制定し、企業の監査役会にクオータ制を導入しました。上場大手企業を対象に、新たに監査役を選出する際には男女比率をそれぞれ30%以上とすることを義務づけ、反する場合は空席を維持しなければならないとされています。制度実施により2020年4月には監査役会の女性比率は35.2%にまで上昇しました。
ルワンダ
アフリカ諸国では各国内での政治的・社会的な事情を背景に、1995年の国連第4回世界女性会議開催をきっかけに、女性の政治参画が進んでいます。1994年に起こった民族間の闘争により多くの男性を失ったルワンダでは女性の社会進出が進み、新体制移行への憲法の起草にも女性が携わったことから、国会議員の女性議席を確保するための規定が設けられました.2003年に行われたクオータ制導入後初となる選挙では国会議員に占める女性の割合は48.8%にまで上昇しました。
韓国
韓国では2000年に政党法が改正され、4月の第16代総選挙から適用されたことからクオータ制が導入されました。しかし、女性比率は5.9%、改正を経た2004年の第17代総選挙でも13.0%に留まり、現在も目標値にはほど遠い状態です。韓国のクオータ制は国会のみならず地方議会選挙にまでおよぶ他、女性候補者に対して公的選挙資金補助を行う、比例代表名簿で奇数を女性候補者にするように義務づける、といった特徴があります。
台湾
台湾は民主化以降、2004年を除いて一貫して女性議員の増加が続いています。クオータ制の考え方が定着しており、1990年代からクオータ制の法律化が進んだことによるもので、2020年1月の国政選挙では女性比率41.6%にまで達しました。議席割り当て・候補者クオータ・ジェンダー中立クオータの3つの制度が取り入れられ、国政選挙における比例代表選挙では各党の獲得議席のうち50%を女性に割り当てるよう義務づけられています。
クオータ制のメリット・デメリット
クオータ制のメリットには、以下の点が挙げられます。
- 女性の社会進出が進む
- 人材が多様化できる
女性の社会進出によって公平で、一人ひとりが活躍できる社会の実現が図れます。人材の多様化によりさまざまなアイデアがもたらされ、組織の競争力も高められます。
反対に、クオータ制には以下のデメリットがあると考えられています。
- 逆差別になる恐れがある
- 運用の負担がかかる
クオータ制には一方の機会消失につながるという問題があります。また、管理・監視するためのシステムや人員が必要になり、運用にコストがかかる点も問題視されています。
日本がクオータ制を導入する際の課題
クオータ制を日本が導入する際の課題としては、社会全体の意識改革が必要な点が挙げられます。日本では「男性が外で働き、女性は家を守る」という考えがまだ残っており、女性の社会進出の妨げになっています。クオータ制導入では、こうした意識を変えていかなければなりません。
また、法制化されていないことも課題となっています。自主的な取り組みに頼るしかなく、法律での規定がある諸外国のように進んでいないことが問題とされています。
企業がクオータ制を導入する手順
企業によるクオータ制導入の手順は、以下の通りです。
- 現状の把握と目指すゴールの策定
従業員や役員の構成状況を把握し、目標とする多様性のレベルを決定します。 - 具体的な計画の立案
期間、対象とする集団、確保する割合・人数、具体的な方法を定めます。 - 実施
予算や人材の確保、運用に必要なシステムの準備などを行い、実施します。 - 評価
目標達成・進捗状況を確認し、結果を評価します。新たな課題の発見や改善策の検討により、必要に応じて計画の立案を見直します。 - 公表
透明性確保のため、成果を社内外に公表します。
企業におけるクオータ制導入では全体的な計画と評価の仕組みを、しっかりと構築しておくことが重要です。また導入の目的を社内外に伝え、理解を得ることも求められます。
クオータ制で活用できる両立支援等助成金
クオータ制への活用が可能な助成金を紹介します。
出生時両立支援コース
男性労働者が育児休業を取得しやすいよう雇用環境や業務体制を整備し、育児休業を取得した男性労働者が生じた事業主に支払われる助成金です。第1種と第2種があり、育児・介護休業法に定める雇用環境整備の措置を複数実施していることなどを要件に支給されます。
・第1種
男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する一定日数以上の育児休業を取得した場合に支給します。
金額 1人目:20万円(4つ以上の雇用環境整備措置を実施した場合は30万円)
2人目・3人目:10万円
・第2種
第1種助成金受給後、男性労働者の育児休業取得率が一定以上上昇した場合に支給します。
金額 時期や取得率上昇ポイントによって20~60万円(プチくるみん認定事業主は+15万円)
介護離職防止支援コース
作成した介護支援プランに沿って労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組み、介護休業を取得した労働者が生じた事業主に支払われる助成金です。介護のための柔軟な就労形態の制度(介護両立支援制度)の利用者が生じた中小企業事業主も対象です。
金額 30~45万円
育児休業等支援コース
作成した育休復帰支援プランに沿って労働者の円滑な育児休業の取得・職場復帰に取り組み、育児休業を取得した労働者が生じた中小企業事業主に支払われる助成金です。
金額 育休取得時:30万円
育休復帰時:30万円
助成金活用や課題克服によりクオータ制を導入して公平性や多様性を高めよう
クオータ制は女性やマイノリティの社会参加を促し、公平性や多様性を高める制度です。多くの国で導入され、発祥地であるノルウェーでは女性議員の比率が40%を超えるなど、高い効果を上げています。ただし、韓国のように導入済であっても目標到達が難しい場合があり、日本での導入に際しては法制化されていない、意識の改革が必要といった点が課題とされています。
企業のクオータ制導入では、助成金が活用できる場合があります。クオータ制は、公平性や多様性が高められ、競争力強化や企業価値向上が期待できるため、導入を検討のうえ、要件に該当する場合には助成金を活用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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