• 更新日 : 2025年8月29日

医療事務は産休が取りにくい?職場調整や助成金、スムーズな復帰のコツ

医療事務者の産休は、他職種の労働者同様、法律で認められていますが、人員が少ないクリニックなどでは「人手不足で休みづらい」と感じる方も少なくありません。円満な産休取得とスムーズな復帰には、休む側と職場側、双方の歩み寄りが大切です。

この記事では、医療事務の産休が取りにくいといわれる背景から、具体的な職場の調整の仕方、そして産休から円滑に復帰するためのコツまで、クリニック経営者や担当者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

目次

医療事務の産休は「取りにくい」といわれる理由

医療事務者の産休取得は法律で保障されていますが、スタッフが少数で運営される小規模なクリニックでは「取得しにくい」と感じるケースもあるようです。

その背景には、一般的な事務職とは異なる、医療事務特有の業務内容や職場環境が関係していると考えられます。なぜ「取りにくい」といわれるのか、その理由をみていきましょう。

専門性が高く業務が属人化しやすい

医療事務の業務は、受付や会計だけにとどまりません。診療報酬の計算やレセプト(診療報酬明細書)作成、さらには保険者への再審査請求など、高度な専門知識が求められる傾向にあります。

こうした専門業務は、特定のスタッフが長年の経験から担当し、手順がマニュアル化されていないことも少なくありません。そのため、業務内容がその人しかわからない「属人化」の状態に陥りやすくなります。

そのため、いざ産休に入るとなっても、業務の引き継ぎが困難になる場合があるのです。

少人数体制で代替要員の確保が難しい

とくに中小規模のクリニックでは、医療事務スタッフが1〜2名というところも少なくありません。このような少数精鋭の体制では、1人でも欠けると業務が回らなくなってしまう可能性も出てきます。

産休・育休中の代替要員を見つけようとしても、専門性が求められるためすぐには見つからなかったり、採用・教育にコストや時間がかかったりすることが、産休取得のハードルを上げている一因といえるでしょう。

レセプト請求など特定の時期に業務が集中する

医療事務の大きな仕事のひとつに、毎月1日から10日頃に行われるレセプト請求業務が挙げられます。この期間は業務量が急増し、クリニックの収入に直結するため、ミスは避けたいところです。

この繁忙期に経験豊富なスタッフが不在となることへの懸念から、クリニック側が産休の取得に前向きになれなかったり、スタッフ自身が申し出ることをためらったりする状況が生まれるのかもしれません。

一般的な事務職との業務内容の違い

一般的な事務職と比較して、医療事務は専門用語の理解や医療保険制度への深い知識が求められます。また、患者さんへの対応では、プライバシーへの配慮や丁寧なコミュニケーション能力も必要です。

こうした特殊性から、一時的な代替要員を他部署から異動させたり、未経験者を採用したりすることが難しく、結果として既存のスタッフに負担が集中しやすくなる傾向があります。

医療事務者が産休を円滑に取得するための職場の準備

医療事務スタッフが安心して産休を取得し、他のスタッフも過度な負担なく業務を継続できる環境を整えるには、計画的な準備が欠かせません。場当たり的な対応ではなく、クリニック全体で仕組みとして備えることが、円滑な制度運用につながっていくでしょう。

産休・育休に関する就業規則の整備と周知

まず、労働基準法や育児・介護休業法に基づき、産休・育休に関する規定を就業規則で明確に定めておくことが大切です。いつまでに申し出るか、休業中の連絡方法、復帰の手続きなどを具体的に記載します。そして、とくに重要なのが、その内容を全スタッフに周知徹底することといえるでしょう。制度があることを誰もが知っており、取得することが当然の権利であるという意識を院内で共有することが、取得しやすい雰囲気の醸成につながります。

業務の標準化とマニュアル作成を進める

属人化を防ぐために、業務の標準化とマニュアル化はとても大切な取り組みです。誰が担当しても一定の質を保てるように、受付、会計、電話応対、レセプト作成、再審査請求といった各業務の手順を具体的に書き出します。「〇〇さんしか知らない」という状況をなくし、業務の流れを可視化することが目的です。マニュアルがあれば、代替要員への引き継ぎがスムーズになるだけでなく、急な欠勤時にも対応しやすくなるのではないでしょうか。

複数担当者制や情報共有ツールを導入する

特定の業務を一人のスタッフに任せきりにするのではなく、複数のスタッフが担当できる体制(多能工化)を目指すことも有効です。たとえば、普段は受付担当のスタッフがレセプト業務の補助に入る、会計担当が電話応対もするなど、お互いの業務をカバーできる体制を築きます。また、クラウド型の電子カルテや業務チャットツールなどを活用し、患者情報や業務の進捗状況をリアルタイムで共有することも、業務の属人化を防ぎ、円滑な連携を促進する方法のひとつです。

代替要員の採用計画を早期に立てる

産休に入るスタッフが出ることがわかったら、できるだけ早い段階で代替要員の確保に動きだしたいものです。医療事務の経験者を求める場合は、採用までに時間がかかることも想定されます。正社員やパートだけでなく、期間限定で派遣社員を活用するのも有効な選択肢になるでしょう。派遣会社には医療事務専門のサービスもあるため、スキルや経験が豊富な人材を迅速に確保できる可能性があります。早めに計画を立て、余裕をもって採用活動を進めることが望ましいです。

医療事務スタッフの産休が重なる場合の対策

スタッフ数が限られるクリニックにおいて、複数の医療事務スタッフから同時期に産休の申し出があった場合、経営者や人事担当者は難しい判断を迫られるかもしれません。しかし、このような状況でも慌てずに対処できるよう、あらかじめいくつかの対策を検討しておくことが大切です。

申し出があった時点での迅速な情報共有と人員計画の見直し

産前休業は労働者が請求すれば取得できるもので、法律上の事前申し出期限はありません。しかし、円滑な引き継ぎのため、多くの職場では就業規則で届け出時期を定めており、実際には妊娠判明後の安定期などに報告されるケースが多いようです。

申し出があったら、まずは本人と面談し、出産予定日や休業期間の希望を正確にヒアリングします。

そのうえで、院長や他のスタッフと迅速に情報を共有し、人員配置や業務分担の見直しに着手します。誰の業務にどのような影響が出るかを洗い出し、詳しい対応策を検討することが最初のステップとなります。

派遣社員や外部委託(アウトソーシング)の活用を検討する

院内のスタッフだけで業務をカバーするのが難しい場合は、外部リソースの活用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。一つの方法は、医療事務専門の派遣会社を利用して、期間限定でスタッフを補充することです。産休期間中のみといった柔軟な契約もでき、即戦力となる人材を確保しやすい利点があります。

もう一つの方法は、レセプト業務など、特定の専門業務を外部の専門業者に委託(アウトソーシング)することです。これにより、院内スタッフは受付や患者対応といったコア業務に集中しやすくなり、全体の業務負担を軽減することにつながります。

院内での多能工化(マルチタスク化)を推進する

日頃から、医療事務スタッフだけでなく、看護師など他の職種のスタッフも一部の事務業務を覚える「多能工化」を進めておくことも有効な対策といえます。

たとえば、簡単な受付や電話応対、会計業務などを複数のスタッフができるようにしておけば、医療事務スタッフが不在の際にも業務が停滞するのを防げるでしょう。

もちろん、専門的なレセプト業務までを他職種のスタッフに任せるのは現実的ではありませんが、周辺業務を分担できるだけでも、現場の負担は大きく変わるかもしれません。

医療事務スタッフの産休・育休からの復帰を支える職場づくり

産休・育休は取得して終わりではありません。スタッフが安心して職場に戻り、再び活躍してもらうためには、復帰をサポートする体制づくりが求められます。スムーズな職場復帰は、本人のモチベーション維持だけでなく、クリニック全体の貴重な人材確保にもつながっていくでしょう。

復帰前面談で意向や勤務条件をすり合わせる

育休が明ける1〜2か月前を目途に、復帰するスタッフと面談の機会を設けることが望ましいです。ここでは、勤務時間や曜日の希望、子どもの預け先の状況、担当したい業務内容などを詳しくヒアリングします。

たとえば、「午前中のみの時短勤務を希望する」「残業が難しい」といった制約が出てくることも考えられます。クリニック側の状況も伝えながら、お互いが納得できる働き方を丁寧に見つけていくプロセスが、その後の安定した就業につながるといえます。

時短勤務や柔軟なシフト体制を整える

育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する従業員が希望した場合、短時間勤務制度(原則1日6時間)を設けなければならないと定められています。

法律上の義務を果たすことはもちろん、可能であれば「週4日勤務」や「時間単位での有給休暇取得」など、法律を上回る柔軟な制度を導入することも検討の価値があります。多様な働き方を認める姿勢は、他のスタッフにとっても働きやすい環境となり、クリニック全体の魅力向上につながるのではないでしょうか。

出典:育児・介護休業法について|厚生労働省

復帰後の業務内容をあらかじめ調整しておく

休業前と同じ業務をそのまま任せるのではなく、復帰後の働き方に合わせて業務内容を調整する配慮も大切です。

たとえば、時短勤務で時間的制約があるうちは、月末月初の繁忙期に集中するレセプト業務の主担当から外し、日中の受付や会計業務を中心に担当してもらう、といった方法も考えられます。

本人のスキルや経験を活かしつつ、無理なく働ける役割を一緒に考えることが、スムーズな再スタートを後押しするでしょう。

最新知識のアップデートを支援する仕組み

医療保険制度や診療報酬は、定期的に改定されます。1年以上の休業期間があると、知識が古くなってしまい、復帰後の業務に不安を感じるスタッフも少なくないようです。

そこで、休業中から定期的に院内報やメールで最新情報を提供したり、復帰前後にeラーニング等による研修の機会を設けたりするなど、知識のアップデートを支援する仕組みをつくるとよいでしょう。

本人の不安を和らげ、即戦力として自信をもって業務に戻れるようなサポートが求められます。

医療事務者の産休・育休で活用できる事業主への助成金

医療事務スタッフの産休・育休取得を推進し、働きやすい職場環境を整備するクリニックに対しては、国も「両立支援等助成金」などの制度を通じて支援を行っています。

とくに中小企業の経営者や人事担当者にとって、助成金の活用が、産休・育休中の人材確保や職場全体の業務体制の整備にも役立ちます。
また、従業員にとっても「安心して休める職場」であるという信頼感が生まれ、定着率の向上や採用面でのアピールにもつながるでしょう。
「両立支援等助成金」は、目的に応じて複数のコースが用意されています。

仕事と家庭の両立に:育児休業等支援コース

このコースは、従業員が安心して育児休業に入り、スムーズに職場へ復帰できるようサポートする事業主を応援するものです。従業員一人ひとりの状況に合わせて「育休復帰支援プラン」を作成し、そのプランに沿って支援を進めることが特徴です。

  • 支給額:
    • 育休取得時:30万円
    • 職場復帰時:30万円
  • 主な条件:
    育休を支援する会社の方針をあらかじめスタッフに周知し、対象者との面談を通じてプランを作成・実行します。プランに基づき連続3か月以上の育休を取得し、復帰後は原則として原職等に復帰させ、6か月以上継続して雇用されることが求められます。

代替要員の確保に:育休中等業務代替支援コース

育休取得者が気兼ねなく休めるよう、その間の業務を他のスタッフがカバーする体制づくりを支援するコースです。業務を引き継いだスタッフへ手当を支給したり、臨時の代替要員を新たに確保したりする場合に活用できます。

  • 支給額:
    • 手当支給:代替スタッフへ支給した手当総額の4分の3(最大120万円)に加え、業務体制を整えるための費用として最大20万円などが支給。
    • 新規雇用:代替要員を新たに雇用、または派遣で受け入れた場合、代替期間に応じて最大67.5万円(6か月以上の場合)が支給。
  • 主な条件:
    代替スタッフへの手当制度などを就業規則に定めておくことや、育休取得者が7日以上の休業を取得することなどが必要です。

男性の育児参加:出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

男性従業員がもっと育児休業を取りやすい職場づくりを応援するためのコースです。育休に関する研修の実施や相談窓口の設置といった環境づくりを進め、実際に男性従業員が育休を取得した場合に助成されます。

  • 支給額:
    • 個別の育休取得(第1種):1人目の取得で20万円。
    • 職場全体の取得率向上(第2種):職場全体の男性育休取得率が30%以上アップし50%を達成するなど、高い目標をクリアした場合に60万円が支給。
  • 主な条件:
    男性の育休取得を後押しする複数の環境整備を行い、業務の引き継ぎなどが円滑に進む体制を整えることが求められます。その上で、男性従業員が子どもの出生後8週間以内に、連続5日以上の育休を取得することが必要です。

申請手続きについて

これらの助成金に関するご相談や申請は、事業所の本社所在地を管轄する都道府県労働局が窓口となります。詳しい条件や申請書類については、厚生労働省のホームページで最新情報を確認したり、管轄の労働局へ問い合わせたりすることをおすすめします。また、プラン策定を無料で支援してくれる専門家(仕事と家庭の両立支援プランナー)のサポートも利用できます。

※助成金の支給額や要件は年度によって改定されるおそれもあるため、申請を検討する際は、必ず厚生労働省の公式サイトで最新の情報を確認してください。

出典:2025(令和7)年度  両立支援等助成金のご案内|厚生労働省
出典:両立支援等助成金のご案内|厚生労働省

助成金を活用するメリットと注意点

助成金を活用する大きなメリットは、金銭的な支援を受けられることです。代替要員の採用コストや、新たな制度導入にかかる経費の一部を補うことができます。これにより、経済的な理由で制度導入をためらっていたクリニックも、取り組みを進めやすくなるでしょう。

一方で、申請には詳しい計画書の作成や、実施状況を証明する書類の提出など、少し手間のかかる手続きがともなうこともあります。

また、申請要件や支給額は年度によって変更される可能性があるため、常に最新の情報を厚生労働省のホームページや管轄の労働局で確認することが重要です。手続きに不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することも一つの方法です。

医療事務の産休を制度や助成金、職場の工夫で取りやすく

医療事務は法律上、産休の取得が認められていますが、実際には人員不足や業務の属人化によって取りにくいと感じる職場もあります。安心して休み、無理なく復帰できる環境を整えるには、業務の標準化や引き継ぎ体制の構築、多能工化といった準備が欠かせません。

また、職場内での対話や情報共有を通じて、「休みづらい空気」を和らげることも大切です。復帰に向けた面談や柔軟な働き方の提案、制度整備と助成金の活用など、できることを一つずつ実行していくことで、スタッフとクリニック双方にとって安心できる仕組みをつくることができます。


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