- 更新日 : 2025年7月11日
不正打刻とは?タイムカードの事例や違法時の処分、対策を解説
不正打刻は労働時間を偽り、賃金や残業代の不当支払いにつながる行為です。放置すれば労働基準監督署の是正勧告や送検、詐欺罪の適用など企業にも従業員にも重大な不利益が生じます。本稿では法的リスク、発覚プロセス、判例、処分方法、そして最新勤怠システムを使った防止策までを体系的に解説します。
目次
不正打刻とは?
不正打刻は、出退勤時刻を意図的に偽装し、労働時間を実際より長くまたは短く見せる行為です。不正打刻の違法ラインは「意図をもって労働時間を偽装したかどうか」で決まります。単なる入力ミスではなく、継続的・計画的な改ざんならば労働基準法違反となり、企業も従業員も処罰対象になります。
以下のような行為が不正打刻にあたります。
不正打刻の例
- 代行押し:出勤していない従業員の代わりに同僚が打刻すること
- 先打ち:退勤前に打刻して残業時間を隠すこと、出勤時に退勤予定時刻を先に打刻すること
- 後打ち(カラ残業):残業をしていないのに、退勤時刻を遅らせて打刻すること
- 休憩隠し:実際に休憩したのに休憩時間をゼロ登録すること
- 二重打刻:勤務実態より長く見せるため複数回打刻すること
- 打刻データの改ざん・削除:不都合な履歴を管理画面から削除すること
不正打刻による罰則
虚偽の労働時間を賃金台帳に記録した企業や管理者には、労働基準法120条が適用され30万円以下の罰金が科される可能性があります。
さらに従業員が賃金を騙し取る目的で改ざんした場合、刑法246条の詐欺罪が成立し、10年以下の懲役に処される可能性があります。
実務では、悪質度が高いと労働基準監督署が送検し、企業名が公表されることも珍しくありません。
不正打刻と間違い打刻(打刻ミス)の違い
不正打刻と単なる間違い打刻(打刻ミス)を分ける大きな違いは「意図があったかどうか」です。
不正打刻とは、従業員が労働時間を実際よりも長く、あるいは短く見せかけるなど、何らかの形で偽装し、それによって賃金や残業代を不当に多く得ようとしたり、遅刻や早退による不利益な評価を意図的に避けようとしたりする意識的な行為を指します。多くの場合、一度きりの過ちではなく、継続的であったり計画性をもって行われたりする特徴が見られ、その悪質性が問題視されます。
一方、間違い打刻(打刻ミス)は、そのような意図を含まない、過失によるものです。例えば、打刻機や勤怠管理システムの操作に慣れていないために誤ったボタンを押してしまったり、出勤時と退勤時のボタンを押し間違えたりといった単純な操作ミスが挙げられます。また、出退勤の際に慌てていて打刻そのものを忘れてしまい、後から自己申告する際に記憶が曖昧で不正確な時刻を伝えてしまうという失念もこれに含まれます。さらに、勤怠管理システム自体の一時的な不具合や、ICカードリーダーの故障など、従業員本人に起因しない外的要因による記録不良も間違い打刻の一種と言えるでしょう。
このように、不正打刻が従業員の意図的な不正行為であるのに対し、間違い打刻は本人の悪意でない過失や偶発的な出来事に起因するものであるという点で、両者は明確に区別されます。
不正打刻が起きる原因
不正打刻は、従業員の不注意や悪意だけでなく、職場の評価制度や企業文化が後押しする場合があります。「残業しているように見せないと評価が下がる」といった圧力が強いと、勤怠を操作してでも長く働く姿を示そうとする従業員が出てきます。
遅刻・早退の隠蔽や残業代の水増しといった金銭目的に加え、「評価を高めたい」という動機が混ざると問題は一層深刻です。労働時間を成果と短絡的に結びつける評価基準や、長時間労働を美徳とする風土がある職場では、不正打刻が起きやすくなるといわれています。
この場合、勤怠システムの強化だけでは不十分です。成果に応じて公正に評価する制度を整え、時間ではなくアウトプットで評価する文化を育てる必要があります。不正打刻対策は、勤怠管理と人事制度を一体で見直すことが不可欠です。
不正打刻が発覚したときの流れ
不正打刻が見つかったら、企業は「事実確認→行政対応→是正と処分」の三段階で動きます。手順を誤ると法的ダメージが広がるため、限られた時間で確実に対処することが肝心です。
内部調査を行う
疑わしい打刻が見つかった時点で、まず人事・総務が勤怠データ、PCログイン履歴、入退室記録、監視カメラ映像などを保存し、改変を防ぎます。本人と上長へのヒアリングでは事実を時系列で確認し、動機や指示系統を洗い出します。帳簿の原本は証拠なので、修正はコピー上で行い、元データを残すことが後々の説明責任を支えます。証拠が揃ったら、未払い賃金や虚偽申請の金額を算定し、是正額を確定します。自社での調査が難しい場合は、社労士や弁護士に早めに相談するほうが混乱を抑えられるでしょう。
労基署に対応する
従業員の申告や内部通報が労働基準監督署に届くと、帳簿提出命令や立ち入り調査が行われます。調査官は出勤簿、賃金台帳、就業規則を照合し、違反があれば指導票か是正勧告書を交付します。企業は記載された期限までに違反を正し、是正報告書を提出しなければなりません。複数回の勧告を無視したり、悪質な行為と判断されると検察へ送致され、企業名が公表される可能性があります。立ち入りを拒むと労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科されることがあるため、調査には協力的に応じる姿勢が望まれます。
懲戒と是正を完了する
社内で故意の改ざんが確認できたら、就業規則に基づきけん責、減給、あるいは懲戒解雇までを検討します。処分は「行為の悪質さ」と「金額・期間」を基準に決め、同時に未払い残業代や過剰支給賃金を正しい額に修正して支給または返還を求めます。
労基署への報告が終わったら、再発防止として評価制度と勤怠ルールを改訂し、従業員説明会を開いて透明性を確保します。
是正報告後も、監督署は改善状況を追跡するため、取り組みを形だけにすると再調査や送検につながります。
不正打刻に対して企業が取るべき処分の選択
企業が不正打刻に対して取るべき処分を選ぶ際は、慎重な判断が求められます。処分の決定にあたっては、まず就業規則に懲戒事由と処分の種類が明記され、それが従業員に周知されていることが大前提です。
処分の種類には、軽いものから順に戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などが挙げられます。どの処分を選択するかは、不正の意図、常習性、不正に得た利益の額、本人の反省の度合い、そして会社の管理体制などを総合的に考慮して決定します。
例えば、初めての不正で悪質性が低く、本人も反省している場合は戒告やけん責といった軽い処分が妥当です。しかし、意図的に長期間にわたり不正を繰り返し、会社に大きな損害を与えたような悪質なケースでは、懲戒解雇も視野に入ります。
ただし、会社側の勤怠管理がずさんであったり、不正に対する指導が不十分だったりした場合には、重い処分が無効と判断される可能性もあります。過去の判例でも、会社の管理体制の不備が指摘され、懲戒解雇が無効とされたケースがあります。
処分の決定に際しては、懲戒処分の原則(合理性・相当性の原則、平等適用の原則など)を遵守し、客観的に見て妥当な処分を下す必要があります 。本人に弁明の機会を与えることも重要です。
不正打刻を予防・防止するには?
タイムカードの改ざんや不正打刻を予防するには、クラウド型勤怠管理システムの導入がおすすめです。
クラウド型勤怠システムは、「本人確認を強化し、記録を改ざんさせない」ことで不正打刻を防ぐことが可能です。紙やExcelでは人の目と良心に頼るしかありませんが、システム化すれば証跡が自動で残るため、不正や見落としのリスクを抑えることができます。
クラウド勤怠を導入したら、全従業員に端末操作の研修を行い、打刻の意味と「代理押しが物理的に不可能」である理由を周知しましょう。運用開始後はシステムの定着率やエラー報告を確認しながら管理します。
また、勤怠システムの中には顔認証・指静脈・ICカード・GPSを組み合わせ、打刻時に本人であることと打刻場所を同時に記録するものもあります。本人以外が操作できなければ代理打刻は物理的に不可能です。
こうした仕組みを整えることで、不正打刻を根本から防ぎ、公正な勤怠データと生産性向上を同時に実現できます。
不正打刻に関するQ&A・よくある質問
単なる打刻ミスと悪質な不正を見分けるには?
ミスと不正の判断は意図、頻度、継続性、修正状況を総合的に見ます。時刻設定確認も基本 。悪質な不正は不当利益目的で常習的な場合 。客観的証拠と本人申告を照合 。打刻修正ルールも有効。
アルバイト・パート従業員の不正への対応はどうする?
アルバイト・パートでも不正は問題行為で就業規則に基づき対処します。処分の重さは、正社員と同様に不正の態様や反省度を考慮して決定しますが、労働契約や雇用形態の違いにより、処分内容に違いが出る場合もあります。会社の管理体制も影響します。学生等の若年層や経験の浅い従業員には、丁寧な指導・教育が必要です。
不正が疑われる際の従業員へのヒアリング方法は?
客観的証拠を固めてから冷静に事実確認 。弁明の機会を与え丁寧に聴取し、日時、場所、同席者、内容を記録します。まず周辺から、段階的に本人へ進めるのも有効です。記録は訴訟時の証拠にもなる場合があります。
不正打刻を防ぎ信頼される職場づくりへ
不正打刻を防ぐことは、職場の信頼関係を築き、企業の健全な運営を支えるうえで欠かせません。明確なルールの整備や、公正な評価制度の導入、勤怠管理システムの活用を通じて、不正を許さない職場文化を育てていきましょう。本記事が、不正打刻の防止とより良い労働環境づくりの参考になれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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