- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第23条とは?未払い賃金・金品の返還義務や請求方法をわかりやすく解説
労働基準法第23条第1項は、労働者が退職や死亡した場合に、会社(使用者)が未払いの給料や積立金など労働者の権利に属する金品を、請求を受けてから7日以内に支払・返還する義務について定めています。
本記事では、この規定の内容と趣旨、具体的に企業が返還すべき金品の例や支払い手順、請求方法、違反時の罰則と企業リスク、関連する判例、そして実務対応上の注意点を、人事・法務担当者向けに詳しく解説します。
目次
労働基準法第23条「金品の返還」とは
労働基準法第23条第1項では、労働者が死亡または退職した場合において、権利者(退職した労働者本人や死亡した場合の遺族等)から請求があったときは、7日以内に未払い賃金を支払い、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないと規定されています。
例えば、労働者が月末退職した場合に未払いの給料や手当が残っていれば、労働者からの請求後7日以内に支払う必要があります。また、退職時に会社が預かっている積立金や保証金など労働者に属するお金・物品も同様に返さなければなりません。
第2項では、賃金や金品に関して労使間で争い(トラブル)がある場合でも、異議のない部分については7日以内に支払い・返還しなければならないと定めています。これは、仮に一部金額で意見の相違があっても、全額を保留するのではなく、争いのない分だけでも速やかに支払う義務があるということです。
「7日以内」とは、土日祝日を含めたカレンダー上の7日間以内という意味であり、請求日から1週間以内に支払い・返還を完了する必要があります。例えば、3月1日に労働者から請求があれば、遅くとも3月8日までに支払いを終えなければなりません。
この期限は法律上定められたものであり、就業規則や給与支払日など会社側の内部ルールよりも優先されます。したがって、退職者への未払い金対応においては、この「7日以内」という期限を厳守する必要があります。
労働基準法第23条の金品に含まれるもの
労働基準法第23条で言う「金品」とは、単に給与(賃金)だけでなく、労働者から預かった積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず労働者の権利に属するあらゆるお金や物品を指します。
例えば、未払いの給料(賃金)や残業代、精算されていない出張旅費などはもちろん、会社が従業員から預かっていた社内預金・積立金、退職手当のために拠出された金銭、あるいは従業員に負担させていた保証金等が該当します。
また、「金品」には現金だけでなく有価証券や労働者個人に属する証明書類なども含まれ得ます。実際に、退職後に会社が看護師の免許証を返さなかったケースでは、その免許証が労働者個人の所有物であり「金品」に該当すると判断され、返還が命じられました。
このように会社が保有している労働者個人の資格証・免許証であっても労働者の権利に属するものは返還対象です。
労働基準法第23条で7日以内に支払う必要がある理由
労働基準法第23条で、7日以内に支払う必要がある理由は、退職後に速やかに精算を行わないと労働者の生活が困窮したり、会社が未払い金を口実に労働者の足止めを図ったりするおそれがあるためです。
時間が経つほど清算が煩雑になり、支払い遅延によって労働者に不便や不利益が生じる可能性があります。そのため法律は、退職後の未払賃金等を迅速に清算させ、会社側が徒に支払いを先延ばしにすることを防ぐ趣旨で「7日以内」という短い期限を設けているのです。
判例でも、この規定は使用者が未払賃金や預かり金を労働者の引き留め策に利用できないようにするためのものだとされています。したがって企業側は、退職者から請求があった場合には速やかに支払手続きを開始し、この期限内に金品を渡すことが求められます。
労働基準法第23条にもとづく金品の請求方法
労働者が退職後に金品を請求する方法について、適切な手順を押さえておきましょう。
労働基準法第23条第1項は「請求があった場合」に7日以内の支払い義務が発生するとしており、まずは労働者側からの請求行為が起点となります。
請求の方法に決まりはありませんが、後々の証拠を残すためには書面(請求書)の提出が望ましいです。
口頭で「給料を支払ってください」と伝えるだけでも法律上は有効な請求ですが、書面で請求しておけば万一支払いがなされなかった場合に証拠となります。
そのため、人事担当者としては退職予定の社員に対し、「未払いの給与や積立金があれば請求書を出してください」と案内したり、会社側で請求書フォームを用意したりするとスムーズです。
請求書の書式や提出方法については特に法定の形式はありませんが、一般的には以下の内容を盛り込んだ文書とします。
- 宛先:会社名および代表者名(または人事担当部署)宛て。
- 件名:「未払賃金支払請求書」「金品返還請求書」等、趣旨が分かる標題。
- 本文:氏名・社員番号等労働者の特定、入社日および退職日、退職理由(自己都合退職等)、請求趣旨(労働基準法第23条に基づき未払い金の支払いを求める旨)。
- 請求内容の明細:請求する金額およびその内訳(例:「〇年〇月分給与○○円、退職日時点までの時間外手当○○円、未清算交通費○○円」等)。
- 支払方法の指定:振込先銀行口座や現金手渡しを希望する場合の受取方法。
- 期限:「本書到達後7日以内にお支払いください」と明記。
- 法的根拠:労働基準法第23条第1項により7日以内支払い義務があることを示す文言(必要に応じて条文を引用)。
- 未払時の対応:期日までに支払いがない場合には労基署への申告や法的措置も辞さない旨の警告文。
- 日付と差出人(請求者)署名:請求書作成年月日、請求者の署名押印。
このような請求書を内容証明郵便などで会社に送付すれば、確実に請求の証拠を残すことができます。企業の人事・法務担当者としても、退職者から請求書が送付された場合は正式な権利行使であると認識し、迅速に対応する必要があります。
会社が返還請求に応じない場合
会社が金品の返還請求に応じない(返還が拒否された)場合はどうなるでしょうか。労働者が請求したにもかかわらず7日以内に未払い金を支払わなかったり、会社が「支払えない」「後日払う」などと拒否・放置したりすれば、それは労働基準法第23条違反となります。この場合、労働者側は労働基準監督署に申告して行政指導を仰ぐことができます。
労働基準法第104条第1項は、労働者が自分の職場で法令違反がある場合に行政官庁や労働基準監督官に申告できると定めており、退職後の金品不返還もその対象です。労働者から申告を受けた労働基準監督署は事実関係を調査し、会社に対して是正指導や勧告を行います。
企業にとっては労基署からの指導は重大な事態であり、早急な支払い対応が避けられません。また、労働者は必要に応じて民事訴訟(未払賃金の請求訴訟)を提起することもあり得ます。会社として返還を怠れば、法的トラブルに発展し信用失墜につながるリスクが高いことを認識する必要があります。
退職者が返還に応じない場合
さらに企業が直面しがちなトラブルとしては、退職者が会社支給の物品(制服や備品など)を返却しない場合との絡みが考えられます。会社側としては物品が返ってこないことを理由に賃金の支払いを渋りたいところかもしれません。
しかし、賃金の支払い義務と物品返却の問題は原則別問題であり、退職者が会社の物品を返さないことを理由に賃金の支払いを7日以上遅延させることは認められません。
会社としては退職時に支給物の回収プロセスをきちんと整備し、万一返却されない場合は賃金とは切り離して別途損害賠償請求や法的措置を検討する必要があります(ただし賃金と相殺する場合は労使協定等、労働基準法24条の要件を満たす必要があります)。
このように、退職時の諸清算と物品返却は並行して進めつつも、未払い金については法律に従い期限内に支払うことが重要です。
労働者が在職中に死亡した場合
労働者が在職中に亡くなった場合、未払いの賃金や退職金等は労働基準法23条に基づき遺族により請求可能です。会社としては誰が「権利者」となるかを判断する必要があります。
賃金については相続財産となるため通常は法定相続人が請求権者になりますが、死亡退職金(死亡により支給される退職金)については注意が必要です。判例では、死亡退職金は民法上の相続とは別枠で遺族固有の権利として取得させる趣旨で制度設計されているとされ、就業規則で受給権者の範囲を定めていればその定めに従い、定めがない場合は趣旨に照らして合理的に受給権者を決定すべきとされています。
例えば、ある判例(最高裁昭和55年11月27日)では、亡くなった職員の死亡退職金について、会社の規程が定める受給者(内縁の妻)に支払うべきとの判断がなされました。従って企業としては、死亡時の未払金や退職金についても誰に支払うべきかを明確にし、遺族からの請求に対して速やかに対応することが求められます。
労働基準法第23条にもとづく金品の受け取り後の対応
企業側の実務対応手順です。退職者から金品返還の請求を受け取ったら、まず請求内容を精査します。未払いとなっている給与の期間や金額、積立金残高などを社内の記録と照合し、支給すべき金額を確定します。
計算に誤りがないか確認し、必要に応じて経理部門とも連携しましょう。仮に労働者側の請求額に異議がある場合(例えば残業時間の認識違い等)、その点を労働者に伝えつつも、異議のない部分については確実に支払い手続きを進めます。
支払い方法は、労働者が銀行振込を希望している場合は速やかに振込手配を行います。退職者が遠方に引っ越している場合でも振込であれば確実に送金できますし、万一現金手渡ししか方法がない場合は書留郵便で送付するなどの手段を検討します。
実務上は、退職者への最終給与支払い(ファイナルペイメント)を通常の給与支払日とは別スケジュールで行う体制を整えておくと良いでしょう。多くの企業では、退職者が請求しなくても給与計算上退職月の給与や精算金を次回の給与日または退職月の特別日程で支給する運用をしています。
重要なのは、請求があった場合に法定の7日以内に必ず支払うことです。たとえば、通常給与日は月末締め翌月15日払いの会社で月末退職者が出た場合、労働者から請求があれば15日を待たずに7日以内(翌月7日まで)に支払うように処理します。
社内的には、退職者清算用の支払フローを用意し、請求書を受領したらただちに決裁を仰いで送金手続きを開始できるようにしておくことが望ましいです。
労働基準法第23条に違反した場合の罰則やリスク
労働基準法第23条に違反して退職者への金品の返還を怠った場合、企業や経営者にはどのような罰則やリスクがあるのでしょうか。
刑事罰による罰金
労働基準法には刑事罰の規定があり、第23条の義務に違反した使用者(会社担当者)は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。この罰則は労働基準法第120条に定められており、賃金支払いに関する重要な規定を守らなかった場合の制裁措置です。
実際に「7日以内支払い」の規定を守らず故意に支払いを遅らせたような悪質なケースでは、労働基準監督署が司法処分(書類送検)を行い、経営者が罰金刑に処された例もあります。また、罰金だけではなく、場合によっては送検・起訴により裁判所から科刑(罰金刑の言渡しなど)を受けることで企業名が公表されるリスクも考えられます。
これは企業の信用にとって大きなダメージとなるでしょう。
労働基準監督署の介入
労働基準監督署の介入も企業リスクの一つです。労基署は労働基準法違反に対して調査権限を持っており、違反が疑われる場合には企業に立ち入り調査を行います。調査の結果、事実関係が確認されれば是正勧告書が交付され、速やかな未払賃金の支払いなど是正措置を取るよう指導されます。
それでもなお改善しない場合や、最初から悪質な違反と判断された場合には、労基署は司法処分に踏み切り、関係者を逮捕・送検することもあります。例えば、労基署から度重なる是正勧告を無視して退職者への未払金支払いを拒否し続けた場合、担当者が労働基準法違反容疑で逮捕されたり、書類送検される可能性があります。
労働基準監督官には警察官と同様に司法警察権限が付与されており、捜査への非協力や証拠隠滅の恐れがあると判断されれば逮捕に踏み切ることもあり得ます。もっとも、通常は是正勧告に従い未払い金を支払えば直ちに刑事手続きとはなりません。
しかし「払えと言われたが放置した」「意図的に支払いを拒んだ」となれば、悪質な違反として罰則適用の対象となる点に注意が必要です。
社会的信用の損失
企業にとって見逃せないのは、金銭的・法的な罰則だけでなく信用リスクも甚大だということです。退職者への金品未払いが明るみに出れば、在職社員の士気にも関わりますし、場合によってはSNS等で情報が拡散して企業イメージを損ねる可能性もあります。
また、退職者から損害賠償請求を受けるリスクもあります。例えば、退職後すぐにもらえるはずの給料が支払われなかったために生活費の工面に困り、高利の借入をせざるを得なかった等の事情があれば、その損害(借入利子等)を会社に求められるといったケースも考えられます。
労働基準法23条違反自体に対する罰則は前述の通り罰金刑ですが、それと別に民事上の責任追及を受ける可能性がある点もリスクとして押さえておきましょう。
労働基準法第23条に関する裁判例
労働基準法第23条「金品の返還」に関連して争われた裁判例も、企業の実務に示唆を与えています。ここでは代表的な判例を2つ紹介し、その実務上のポイントを解説します。
森工機事件(退職金請求事件)
この事件(大阪地裁1984年)では、ある会社の常務取締役が退任した際に退職金の支給を求めたところ、会社は「退職金規程は従業員にのみ適用され、役員には適用されない」として支払いを拒みました。
常務取締役は「自分は従業員としての地位も有する」と主張して退職金を請求し、訴訟に発展しました。裁判所は、常務取締役であっても従業員としての身分を有していた場合は退職金規程が適用されると判断し、退職金の支払い義務を認める判決を下しました。
この判例が示すのは、会社が役職名などを理由に退職金など金品の支給対象から一方的に除外しようとしても、実態上労働者と言える場合には労働者としての権利が守られるということです。
企業実務では、就業規則で誰を退職金支給対象とするか明確に定めることが重要ですが、たとえ「従業員でない」と会社が主張しても、労働者性が認められれば金品請求権が認容される可能性があります。役員待遇の社員や契約形態の特殊な従業者についても、その人が労働基準法上の労働者に該当する限り第23条の保護対象となる点に注意が必要です。
看護師免許証返還拒否事件
前述したように、ある病院で退職した看護師が看護師免許証の原本を病院に預けていたところ、退職後にその免許証の返還を求めたが病院側が応じなかったという事案です。看護師側は免許証の返還請求訴訟を提起し、裁判所は労働基準法23条違反を指摘しました。
判決の中で、労働基準法23条は退職時に雇用主が労働者の権利に属する金品を人質のように利用して退職を妨げないようにする趣旨の規定であると明言されています。
この趣旨に照らし、看護師免許証は労働者個人に属する財産であり会社が保管していても「労働者の権利に属する金品」に該当すると判断されました。
その結果、病院に対し労働基準法23条に基づき返還請求の日から7日以内に免許証を返還する義務があるとされ、実際に返還命令が出ています。
この判例の実務への影響として、企業は社員から預かった物品や書類があれば退職時に確実に本人に返却する体制を整える必要があります。特に資格証や免許証、卒業証書など本人の資格・経歴に関わる書類を預かっているケースでは、それらは本人固有の財産であり会社に留め置く正当な権利はないと考えるべきです。
仮に「資格取得費用を会社が負担したから資格証は会社のもの」といった理屈は通らず、費用負担の有無にかかわらず資格証自体は個人の所有物です。
この事件を教訓に、退職時には社員提出物の台帳などを用いて会社保管の物品を洗い出し、すみやかに返却する運用を行うことが望ましいでしょう。万一社員側から返還請求があったのに担当者が怠慢で返し忘れると、それだけで労働基準法違反になりかねません。
以上の判例から得られるポイントは、労働基準法23条の適用範囲は賃金のみならず広範な金品に及ぶということです。退職金のように名称がどうあれ労働提供の対価や福利厚生として労働者に約束されていたものは、退職時には適切に支給しなければなりませんし、資格証のように労働者個人の所有物についても会社は預かり続ける権利はなく返還義務を負うということです。
企業は契約形態や物品管理の慣行にかかわらず、労働者が退職時に正当に請求しうる一切の金品について、法律と判例の趣旨に沿った対応を取る必要があります。
労働基準法第23条に関して企業が注意すべきポイント
最後に、企業が労働基準法第23条を踏まえて実務上注意すべきポイントをまとめます。人事・労務担当者が押さえておくことで、退職者とのトラブルを未然に防ぎ、円満な退職手続きを実現する助けとなります。
退職金を速やかに支払う
従業員の退職が決まったら、その時点で給与計算担当者と連携し、退職日までに発生する給与・手当・残業代・精算すべき費用などを洗い出します。退職前にある程度金額を確定させ、退職日直後に支払い処理できる準備をしておくと良いでしょう。
請求があった場合は7日以内の支払いが必要ですが、理想的には退職から一週間を待たずできる限り早く支払うことが望ましいです。早期支払いは退職者との信頼関係維持にも役立ち、円満退社に繋がります。
就業規則・社内ルールを整備する
社内の就業規則や退職手続きマニュアルに、退職時の未払賃金等の支払手続きを明記しておきましょう。例えば、「退職時には未払いの給与・手当を精算し、退職者から請求があれば所定の支払日を待たずに速やかに支払う」旨を規定することで、人事異動で担当者が変わっても対応漏れを防げます。
また、退職金制度がある場合は支給時期(例:退職後◯ヶ月以内)や受給権者の範囲(死亡時の受取人の順位など)を就業規則で明確に定めておきます。これにより、退職後の請求権がいつ発生するかがルール化され、不要な紛争を避けられます(※退職金については規定された支給時期まで請求権が発生しないと解されるため、労働基準法23条の「7日以内」はその時期から起算されます)。
退職手続きのチェックリストを活用する
退職手続きの面談等の場で、最終給与の支払日や金額について退職者に案内します。例えば「最終のお給料は通常ですと翌月15日払いになりますが、もしお急ぎでしたらご請求いただければ1週間以内にお支払いします」といった説明を事前に行います。
退職者が支払時期を理解・納得していれば不要な不信感を与えずに済みますし、請求があった場合にもスムーズに処理できます。逆に何も説明がないと「退職したのに給料が振り込まれない」と不安や不満を抱かせる可能性があるため注意しましょう。
退職者に渡す会社支給品の回収(社員証、PC、制服等)や、会社から渡すべきもの(離職票、源泉徴収票など)は一覧表で管理し、漏れがないようにします。
その中に「未払給与・積立金の支払」という項目を入れ、担当部署と期限を明確にしましょう。チェックリストに「退職後○日以内に支払」と定めておけば、社内手続きとしても7日以内の支払いを遵守しやすくなります。
退職者とのトラブルを防止する
万が一、退職者との間で未払い金額に争点がある場合(残業時間の認識違い等)は、まず会社としての計算根拠を丁寧に説明し、可能であれば合意を図ります。それでも折り合わない部分があるなら、争いのない金額を先に支払い、残額について引き続き協議する姿勢を見せます。労働者側も一部でも支払われれば生活への影響は和らぎ、話し合いによる解決の余地が生まれやすくなります。
退職後に労働者から内容証明で請求書が届いた場合は、感情的にならず速やかに社内報告し法務部門の助言を仰ぎましょう。内容証明には先述のように労基署申告や法的措置の警告が記されていることが多く、無視すれば即座に行政介入・訴訟に発展しかねません。
回答期限や対応方針を社内で共有し、期日までに確実に支払うことが肝要です。
退職者との間で金品の返還を巡るトラブルが深刻化した場合(例えば労働者から多額の未払残業代を請求された、逆に会社が貸与物の損害賠償を主張して揉めている等)、早めに弁護士や社会保険労務士に相談することも検討してください。法に則った適切な解決策(支払うべき金額の査定や和解交渉の方針等)についてアドバイスが得られます。
特に労基署対応や裁判対応が必要になった場合は、専門家の助言を受けながら進めることで企業リスクを最小化できます。
以上の点に留意しつつ、退職者への金品支払いを円滑に行うことで労使トラブルを防止し、結果的に在職社員から見ても安心して働ける職場環境を維持することができます。
労働基準法23条の遵守は企業に課せられた責務であると同時に、適切な対応を通じて労働者との信頼関係を築く機会でもあります。
労働基準法第23条をもとに退職者の対応を行いましょう
労働基準法第23条(いわゆる「金品の返還」規定)は、退職や死亡によって労働関係が終了した際に、労働者が持つ金銭的権利を迅速に保障するための重要なルールです。企業は労働者から請求を受けた場合、7日以内という短い期限内に未払いの給料や預かり金などを支払い・返還する法的義務があります。
この規定は、支払い遅延による労働者の生活困窮や、会社による不当な引き留めを防ぐという趣旨で設けられており、賃金のみならず退職金や社員から預かった証書類まで広く対象となります。実務上は、退職者への金品の精算手続きを平時から整備し、請求があれば速やかに対応することでトラブルを未然に防げます。
違反すれば30万円以下の罰金等の罰則や労基署の介入といった企業リスクが生じ、信用失墜にもつながりかねません。判例もこの規定の厳格な適用を示しており、企業は退職者への対応に細心の注意を払う必要があります。
人事・法務担当者は、本記事で解説したポイントを踏まえ、円満な退職手続きと法令遵守の両立に努めましょう。その積み重ねが、労働者との信頼関係構築や企業の社会的評価向上にもつながっていくのです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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