- 作成日 : 2023年2月10日
同一労働同一賃金とは?目的や根拠法などをわかりやすく解説
働き方改革の重要施策の1つに「不合理な待遇差を解消するための規定の整備」があります。これが、いわゆる「同一労働同一賃金」であり、その目的は、同一企業内での無期雇用のフルタイム労働者と非正規労働者との不合理な待遇差の解消にあります。
同一労働同一賃金の「均等待遇」と「均衡待遇」の違いや、根拠法についてわかりやすく解説します。
目次
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金とは何を意味するのでしょうか。その目的や根拠となる法律など基本的な事項から確認しましょう。
なお、この記事では主にパート・アルバイトの従業員や有期雇用の従業員を対象とした同一労働同一賃金への対応について解説します。
同一労働同一賃金の目的
同一労働同一賃金とは、同一企業内で働く、いわゆる「正規労働者」と呼ばれる労働者と、いわゆる「非正規労働者」と呼ばれる労働者との不合理な待遇差を解消するために導入する制度のことです。
非正規雇用の社員が日本の労働者の約4割を占めるといわれ、今や日本の企業にとって非正規社員は貴重な戦力です。また、少子高齢化により、今後日本の人口は減少することが推計されており、日本の企業の人手不足は今後さらに深刻化することが予想されています。
そのような情勢の中で、非正規社員と正規社員の待遇差を解消し、日本で働く方がどのような雇用形態を選んだとしても納得して働くことができる待遇を受けることができるルールを整備したのが、同一労働同一賃金です。
問題となっているのはパート・アルバイトおよび契約社員と正規型の社員との待遇差
「正規労働者」には正社員のように無期雇用のフルタイムで働く通常の労働者が該当し、「非正規労働者」にはパート・アルバイトのような労働時間の短い労働者、契約社員のような期間の定めがある契約で働く労働者や、派遣労働者などが該当します。
つまり、問題となっているのは、パート・アルバイトの従業員や有期雇用で契約することが多い契約社員、派遣社員と、無期雇用のフルタイムで働く従業員との待遇差です。ただし、非正規社員と比較する上で対象となるのは、正社員だけではなく、正社員ではない無期雇用のフルタイムで働く従業員も含まれます。
参考:「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」【省令・指針反映版】|厚生労働省
同一労働に含まれる範囲
「同一労働」に含まれる範囲には、①「職務の内容(職務・職種の内容や責任の程度)」、②「職務の内容・配置の変更の範囲(転勤や職種を超えた配置転換の有無や範囲)」、③「その他の事情」などが含まれます。
①「職務の内容」では、業務の内容が無期雇用で働くフルタイム労働者と同じであるかを比較します。業務の種類・職種、個々の業務の中の中核的な業務が実質的に同じであれば、同じ業務の内容と判断されます。また、責任の程度が異ならないかも「職務の内容」で判断されます。
②「職務の内容・配置の変更の範囲」では、転勤・人事異動・昇進などの有無や範囲など、人材活用や人事制度の運用も含めた実質的な内容から判断されます。
③「その他の事情」としては、①と②で取り上げた事項にはない事情が個々に検討・判断され、成果、能力、経験、労使慣行のほか、労使交渉の経緯などが考えられます。
参考:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応~第2章|厚生労働省
同一労働同一賃金の施行はいつから?
同一労働同一賃金の考え方は法施行以前からありましたが、法的に整備されたのはパートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法が施行された2020年4月1日です。ただし、中小企業においては対応に準備が必要となるため、パートタイム・有期雇用労働法の改正規定が適用されるのは大企業に1年遅れて2021年4月1日となりました。
従来は労働契約法第20条に有期雇用労働者の不合理な労働条件を禁止する規定がありましたが、現在は労働契約法第20条は削除され、パートタイム労働法へ統合する形で同一労働同一賃金の規定が整備されました。パートタイム労働法は、パートタイム労働者と有期雇用労働者を対象とする法律として、「パートタイム・有期雇用労働法」へ改称されています。
同一労働同一賃金における「均等待遇」と「均衡待遇」
同一労働同一賃金を正しく理解するためには、同一労働同一賃金のキーワードとなる「均等待遇」と「均衡待遇」の違いを知ることが大切です。それぞれについて解説します。
均等待遇とは
パートタイム・有期雇用労働法第9条では、パートタイム労働者や有期雇用労働者と正社員のような無期雇用のフルタイムで働く通常の労働者とで、次の①②が実質的に同じである場合に、非正規の労働者であることを理由とした差別的な扱いを禁止しています。
①「職務の内容」(業務の種類・職種、個々の業務の中核的な業務の内容や責任の程度)
②「職務の内容・配置の変更の範囲」(転勤や職種を超えた配置転換や人事異動・昇進などの有無とその範囲)
職務の内容や責任の程度、転勤や職種を超えた配置転換の範囲などが同じであれば、同じ待遇にする必要があります。しかし、能力や経験等の違いにより差があれば、その程度によって差を設けるのは問題ありません。
均衡待遇とは
パートタイム・有期雇用労働法第8条では、パートタイム労働者や有期雇用労働者と正社員のような無期雇用のフルタイムで働く通常の労働者とで、次の①~③について不合理な待遇差を設けるのを禁止しています。
①「職務の内容」(業務の種類・職種、個々の業務の中核的な業務の内容や責任の程度)
②「職務の内容・配置の変更の範囲」(転勤や職種を超えた配置転換や人事異動・昇進などの有無とその範囲)
③「その他の事情」(①②以外の要素として個々に検討・判断され、成果、能力、経験、労使慣行のほか労使交渉の経緯などが考えられる)
①②の内容は均等待遇と同じ内容となりますが、均衡待遇では判断の要素に上記③が付け加えられています。つまり、①〜③の違いがなければ同じ待遇にする必要がありますが、違いに差があればその違いに応じて待遇差をつけることは問題ないということになります。
同一労働同一賃金は義務?
同一労働同一賃金は企業の義務とまでいえるのでしょうか。その根拠法から確認していきましょう。
同一労働同一賃金は企業の義務なのか?
同一労働同一賃金が守られているかについての具体的な線引きはなく、行政で守られているかどうかを判断することは困難です。したがって、企業の義務とまでは明確にはいえないでしょう。同一労働同一賃金の考え方は多くの裁判例でこれまで判断されてきたように、最終的には司法の判断に委ねられます。
しかし、パートタイム・有期雇用労働法には同一労働同一賃金に対する企業の義務に該当する事項もあります。以下の事項は企業の義務であり、従業員への説明義務は果たさなければなりません。
【雇入れ時】
- パートタイム・有期雇用労働法第8条~第13条までの雇用する従業員に対する雇用管理上の措置を説明すること
- パートタイム・有期雇用労働法第6条~第13条までの待遇の決定で考慮した事項を説明すること
- パートや有期雇用の従業員と通常の無期雇用のフルタイム従業員との待遇の相違点やその理由を説明すること
- 説明を求めたことを理由とした解雇など不利益取扱いの禁止
【パートや有期雇用の従業員から求められた場合】
同一労働同一賃金の根拠法
同一労働同一賃金の根拠法は、2020年4月1日に改正・施行されたパートタイム・有期雇用労働法です。この記事では解説していませんが、派遣労働者の場合は改正労働者派遣法に規定があり、派遣先企業の労働者や同種の業務に従事する労働者と比較することとなるため、待遇決定方法の考え方が異なりますので注意しましょう。
同一労働同一賃金の適用について例外はある?
同一労働同一賃金で問題となるのは、パートタイム労働者や有期雇用労働者と無期雇用のフルタイム労働者との待遇差です。正社員と正社員ではない無期雇用のフルタイムで働く従業員との間の待遇差は、法的には対象とならないことにも注意しましょう。
同一労働同一賃金については個々の具体的な事情を考慮して判断されることになるため、最終的には司法の判断に委ねられるものであり、例外という考え方はありません。派遣労働者に対する労使協定方式の一般賃金の額に新型コロナウイルス感染症による雇用への影響から例外的な取扱いがありましたが、こちらも例外があるとはいえないでしょう。
同一労働同一賃金の注意点
給与には基本給だけではなく各種手当が含まれます。すべての手当が同一労働同一賃金の対象になるのか、迷う方も多いでしょう。企業が同一労働同一賃金に対応する際の注意点について確認します。
賞与は同一労働同一賃金の対象?
厚生労働省の「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に 関する指針」、いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」では、基本給・昇給・賞与などすべての賃金だけではなく、教育訓練や福利厚生などについても記載があります。
また、退職手当、住宅手当、家族手当などのように、ガイドラインの具体例にないものについても不合理な待遇差の解消が求められることとされており、賞与はもちろんのこと、雇用管理上におけるすべての待遇が対象となるといってよいでしょう。
参考:「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要|厚生労働省
同一労働同一賃金が守られていない場合の従業員および会社の対応
同一労働同一賃金による待遇差の救済を裁判ですべて判断をするというのは、労使共に負担が大きくなります。同一労働同一賃金が守られていない場合には、同一労働同一賃金の枠組みとして、裁判外紛争解決手続(行政ADR)の制度が整備されています。
パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者が不合理な待遇差に対する是正や救済を求められやすくするためのものであり、以下の制度を利用することが可能です。
- 都道府県労働局長による助言・指導・勧告
- 調停会議による調停案の作成・受諾勧告
パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者が迅速に解決をしてもらいたい場合に利用可能
パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者が中立的な第三者機関に対応を求め、和解などをして解決したい場合に利用可能
非公開かつ中立で公正な場で、無料で迅速に問題を解決することは、企業にもメリットがあります。行政ADRの制度は労働者・企業双方から申し出ることが可能です。
同一労働同一賃金の違反に関する具体例
同一労働同一賃金の考え方について、「賞与」を具体例にあげて見ていきましょう。
賞与が従業員の会社行政への貢献に応じて支給される場合、正社員などと同じだけ貢献していれば、パートタイム労働者や有期雇用労働者にも同一の賞与を支給しなければなりません(均等待遇)。ただし、貢献度合いに差があるのであれば、その差の程度に応じて賞与の金額に差をつけて支給することは問題ありません(均衡待遇)。
会社の業績への貢献に応じて賞与を支給しているにもかかわらず、正社員などと同一の貢献をして貢献度合いに差がない有期雇用労働者に同一の賞与を支給しないことは、均衡待遇に反し、違法と判断されるでしょう。
また、賞与を会社業績への貢献に応じて賞与を支給しているものの、正社員などに対しては職務の内容や職種、成績などにかかわらず支給し、パートタイム労働者には賞与を支給しないというのも、パートタイム労働者であることを理由とした差別的取扱いとなり、均等待遇に反し、違法と判断される可能性があります。
同一労働同一賃金事態には罰則の規定はありませんが、企業の説明義務を怠れば、雇用管理改善の必要があるとみなされ、報告徴収の対象となり、指導・勧告を受け、20万円以下の過料を科される可能性があります。また、差別的な取扱いなどの禁止事項に該当して従わなければ、企業名を公表されることもあります。
同一労働同一賃金のガイドラインには、賞与のほか各種手当における問題となる例と問題にならない例が詳しく紹介されています。
参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 | e-Gov法令検索
同一労働同一賃金の対応は非正規社員が納得できる説明が重要
「職務の内容」や「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じであれば、差別的取扱いが禁止されます。「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」を勘案して、その差に違いがあるのであればその違いに応じて待遇を決定するというのが、同一労働の考え方です。
同一労働同一賃金の問題は訴訟にまで発展することもあり、企業は重大な訴訟リスクを抱えることになりかねません。非正規の従業員が待遇差の説明に納得できない場合には、企業内の雰囲気が悪くなり、モチベーションの低下、非正規社員の離職などにつながる恐れがあります。
同一労働同一賃金への対応は、非正規社員が納得できる説明が何よりも重要です。
よくある質問
同一労働同一賃金とはなんですか?
①「職務の内容」や②「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じであれば差別的取扱いが禁止され、①②に「その他の事情」を加えた判断により、その差に違いがあれば違いに応じた待遇を決定するという考え方です。詳しくはこちらをご覧ください。
同一労働同一賃金の施行はいつからですか
同一労働同一賃金が法的に整備されたのはパートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法が施行された2020年4月1日です。ただし、中小企業では、大企業に1年遅れて2021年4月1日から適用されました。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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