- 更新日 : 2025年2月21日
裁量労働制の疑問を解決!休日出勤や深夜業、休憩時間はどう考える?
裁量労働制と休日出勤・深夜業
裁量労働制においては、「業務遂行の方法や時間配分を大幅に労働者に委ねている」ため、いつ、どのくらいの時間労働するかは、基本的に労働者の裁量に委ねられています。一方で、休日労働・深夜業の割増賃金規定が適用が除外されているわけではありません。
例えば、労働者が日中の勤務時間の業務を少なくして、恣意的に休日出勤や深夜業を行った場合でも、割増賃金を支払うのか、といった問題が考えられます。反対に、業務量過多のため、労働者が日中の時間ではとてもこなしきれずに、やむなく休日労働・深夜業を行うこともあるでしょう。
まず、労働者の恣意的な対応については、就業規則に「休日や深夜に勤務する場合は予め所属長の許可を得る。」といった定めを設けるのが通例でしょう(東京労働局などのモデル就業規則文例参照)。専門業務型裁量労働制を導入する際に締結する労使協定や、企画業務型裁量労働制を導入する際の労使委員会の決議においても、休日労働・深夜業の事前許可制などは就業規則に従うことを明記して、恣意的な乱用を防ぐべきでしょう。
一方で、労働者が日中フルに働いていてもなお休日出勤・深夜業が相次ぐのであれば、業務量や業務の内容、人員配置などに問題がある可能性があります。労使協定や労使委員会決議の見直しまで踏み込んで検討が必要な場合も考えられます。次のようなポイントを検討し、業務体制を構築し直す必要があるかもしれません。
(1)裁量労働制の業務にふさわしい内容なのか
(2)人員配置は適切なのか
(3)対象労働者が当該裁量労働制の業務にふさわしい知識・能力を持っているか、配置転換などの必要がないか、など
ワーク・ライフ・バランス、労働者の健康管理の観点からも休日出勤・深夜業が常態的に続くことは避ける工夫が必要でしょう。
裁量労働制と休憩時間
裁量労働制であっても休憩時間の定めは適用されます。ただし、裁量労働制が適用される場合、実労働時間ではなくみなし労働時間で考えますので、みなし労働時間が6時間を超え8時間までの場合は45分以上の、みなし労働時間が8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えなければなりません。
裁量労働制が適用される従業員に対して「一斉休憩(事業場全員が一斉に休憩を取得する)の原則」を適用するのは、制度と馴染まないため、「一斉休憩の適用除外に関する労使協定」を従業員代表との間で締結し、休憩時間をいつ取るかについても従業員側に委ねるほうが望ましいでしょう。
一方で、休憩時間の取得を従業員任せにし、実態としては全く休憩していないといった事態にならないよう、休憩時間の取得有無に関しては、使用者側が適宜確認をし、過重労働に陥っていないか、配慮する必要があると思います。
裁量労働制と安全配慮義務、健康・福祉の確保措置
裁量労働制の導入にあたっては、健康福祉の確保の措置、苦情処理の措置を設けることが使用者に義務付けられています。労働契約法第5条の安全配慮義務の具体化の一つと見ることができるでしょう。概要は次の通りです。
(1)健康・福祉の確保措置:対象労働者の勤務状況・健康状況に応じた代償休日または特別休暇の付与、健康診断の実施、有給休暇の連続取得の促進、相談窓口の設置、産業医等による指導助言、必要な場合には適切な部署に配置転換
(2)苦情処理の措置:相談窓口、取り扱う苦情の範囲の明確化
特に休日出勤が度重なるような場合には、通常の振替休日や代休のほか、代償休日や特別休暇の付与、有給休暇の連続取得の促進、などの措置を積極的に考えるべきでしょう。
これに関連し、2019年4月1日に施行される働き方改革関連法の中で、企業は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日の年次有給休暇を取得させることが義務づけられました。有給休暇は、労働者が希望すれば取得できるものですが、そもそも「労働者自身が取得の希望を言い出しにくい」という状況から、現在、有給休暇の取得率は50%程度にとどまっています。裁量労働制が適用される労働者の健康・福祉の確保措置の一環としても、有給休暇を定期的に取得することで、心身ともにリフレッシュし、結果として業務効率の向上につなげていくことが望まれます。
裁量労働制対象労働者の健康・安全管理は必要
裁量労働制が適用される労働者には、業務の遂行方法や労働時間の配分が大幅に委ねられます。一方で、会社が従業員の時間管理を一切行わなくてもよいというものではなく、在社時間や出退勤の時間を把握し、過重労働に陥っていないか、きちんと休憩や休日はとれているか確認し、労働者の安全・健康確保の措置を行う必要があります。
裁量労働制対象となる労働者の高度なスキルや専門知識を生かすためにも、裁量労働制を適切に活用し、会社・労働者双方にとってより良い働き方を実現していきましょう。
<参考>
東京労働局「『企画業務型裁量労働制』の適正な導入のために」
東京労働局「『専門業務型裁量労働制』の適正な導入のために」
厚生労働省パンフレット 「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」有給休暇の取得義務づけについて4頁
<関連記事>
“残業違反”に罰則!2019年から始まる「時間外労働の上限規制」を解説
みなし残業は労働基準法違反か?法的根拠と注意点を解説
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
特別休暇とは?給料は支払われる?種類や日数も解説!
労働者に与える休暇のうち、法定休暇とは別に企業が任意で付与する休暇を特別休暇と言います。企業は特別休暇の種類や付与日数、給料支払いの有無などについて自由に設定でき、無給としても問題ありません。 代表的な特別休暇には病気休暇や慶弔休暇、裁判員…
詳しくみる副業禁止は法律的にOK?解禁されない理由や就業規則との関係についても解説!
経済が不安定な中、副業を検討されている方も多いかもしれません。しかし、副業OKの企業も増えている一方、就業規則で労働時間外の副業や兼業を制限する会社も多いのが現状です。公務員の副業は禁止されてますが、民間企業における制限は法律的に許されるも…
詳しくみる勤怠管理はなぜ必要?企業が守るべき5つの理由や管理方法を解説
勤怠管理は本当に必要なのかと疑問に思う企業担当者もいるでしょう。しかし、従業員の出退勤を正確に把握することは法律上の義務であり、企業運営の根幹を支える重要な業務です。 働き方改革やテレワークの普及で、勤怠管理の重要性は高まっています。本記事…
詳しくみる裁量労働制とは?制度の概要や勤怠管理の必要性を解説
裁量労働制とは、労働者が業務の進め方や時間配分を自ら決める働き方のことを指します。実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」にもとづいて、賃金が支払われるのが特徴です。 本記事では、裁量労働制の概要や勤怠管理の必要性を詳しく…
詳しくみる退職の流れと受け取る書類一覧 – 会社を辞めるときの注意点
退職の理由はさまざまです。しかし、いざ仕事を辞める決意をしてから、ハローワークなど役所関係のめんどうな手続きがあることに気づくこともあります。今回は、退職の際に会社から受け取る書類、提出しなければならない書類とともに、退職後の手続きの流れに…
詳しくみる夜勤の仮眠時間の理想は?16時間夜勤で仮眠なしは違法?
深夜に及ぶ夜勤で労働時間が長時間になる場合、仮眠時間が問題となることがあります。例えば、16時間に及ぶ夜勤で仮眠時間が与えられない場合、法律上違法なるのでしょうか。今回は、仮眠時間の付与について、労働基準上の扱いについて解説していきます。 …
詳しくみる