- 更新日 : 2025年4月18日
2ヶ月休職で有給休暇はもらえない?休職中の有給申請や収入面の対策を解説
心身の病気やケガ、介護、自身のスキルアップなど、さまざまな理由で休職を検討することがあるでしょう。休職する際、有給休暇はどのように扱われるのでしょうか。
この記事では、休職中の有給休暇の取り扱いについて解説します。あわせて、休職中の収入保障や復職までの過程も解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
休職と有給休暇の違い
休職と有給休暇はどちらも会社を休む制度ですが、性質や期間などが異なります。休職と有給休暇の違いについて、事前に理解を深めましょう。
休職とは
休職とは、従業員が自己都合で勤務先を一定期間休むことです。休職期間は、雇用契約を維持したまま労働義務が免除されます。
休職は、会社と相談したうえで取得し、期間は1ヶ月や半年といったように長くなるケースが多いです。また、休職期間中は基本的に給料が発生しないため、収入をどのように確保しておくかも、事前に話し合っておくとよいでしょう。
休職の事由としては、以下のようなものが想定されます。
- 傷病による療養
- 親や祖父母の介護
- スキルアップ
- ボランティアへの参加
- 海外留学
休職を申請する際は、従業員、事業主ともにどういった理由で休職するのか明確にしておきましょう。
有給休暇とは
有給休暇とは、賃金が支払われる休暇のことです。従業員の心身をリフレッシュさせるのが目的で、事業主は最低でも年5日の有給休暇を従業員に与えなければなりません。
有給休暇には2年間の時効があり、労働基準法第115条に規定されています。その年に付与された有給休暇は、翌年まで繰り越すことが可能です。
労働基準法第115条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によって消滅する
有給休暇の付与日数は、雇用年数ごとに増加し、最大で年20日までです。休職とは異なり、短期間の休みを想定してつくられた制度といえます。
2ヶ月休職する際に有給休暇は使える?
もし従業員が2ヶ月間休職する際、休職期間の一部に有給休暇は使えるのでしょうか。休職期間中や、休職前後の有給休暇の取り扱いについて解説します。
休職中は有給休暇を使えない
休職期間中は有給休暇を使えません。有給休暇は労働日に取得できる休暇だからです。労働基準法第39条では有給休暇の付与について、以下のように定められています。
労働基準法第39条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
休職期間中は労働義務が免除されており、労働日とはみなされません。よって、有給休暇を取得できる期間には含まれないのです。
休職前後は有給休暇を利用できる
休職期間中は有給休暇を使えませんが、休職期間の前後は有給休暇の取得が可能です。休職前後は労働日であり、従業員が通常どおり出社しているためです。そのため、休職前や復職後の通院、体調不良の際は、申請すれば有給休暇を取得できます。
また、事業主は、労働日の有給休暇の取得申請を基本的に認める必要があります。ただし、事業の運営に支障が出る場合、事業主は有給休暇の取得日を別の日にずらす時季変更権の行使が可能です。
労働基準法第39条の5
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
引用:e-Gov法令検索「労働基準法 第39条の5」
事業運営に支障がないにもかかわらず、従業員の有給休暇取得を認めないといったことはできません。
なお、休職前に付与された有給休暇をすべて消化してしまった場合は、それ以上の休暇は取得できないため、注意しましょう。
2ヶ月休職した場合は有給休暇がもらえない?
2ヶ月休職した場合、有給休暇が付与されない可能性があります。有給休暇の付与条件をおさえ、休職した場合に付与される有給休暇の日数をシミュレーションしてみましょう。
有給休暇の付与条件
有給休暇は、以下の2点を満たした従業員に付与されます。
- 6ヶ月以上継続して雇用された
- 全労働日の8割以上出勤した
たとえ雇用年数が長くても、労働日の8割以上出勤していなければ、その年は有給休暇が付与されません。
有給休暇が付与される日数は、労働基準法第39条に基づき、以下のように決められています。
- 6ヶ月経過:10日
- 1年6ヶ月経過:11日
- 2年6ヶ月経過:12日
- 3年6ヶ月経過:14日
- 4年6ヶ月経過:16日
- 5年6ヶ月経過:18日
- 6年6ヶ月経過:20日
最初の6ヶ月が経過した時点で、10日が付与されます。以降は1年ごとに付与日数が増え、6年6ヶ月目以降は年20日が付与される仕組みです。
休職時の有給休暇の付与日数をシミュレーション
休職時の有給休暇の付与日数を、実際にシミュレーションしていきます。
たとえば、年間休日が120日の企業に勤める従業員が、2ヶ月間(労働日換算で45日間)休職するとしましょう。
この場合、年間の総労働日数は「365日-120日」で245日となります。有給休暇が付与されるには労働日の8割以上の出勤が必要なため、最低でも「245日×0.8」で196日は出勤していなければなりません。
なお、出勤日のうち有給休暇を取得した日については、出勤したものとみなして計算します。
休職期間の労働日は45日ですから、出勤日数は200日です。
出勤日数が196日を超えるため、翌年は通常どおり有給休暇が付与されます。
もし年間休日日数が130日ある場合や、休職期間とは別に欠勤した時期がある場合は、出勤日数が全体の8割に届かず、有給休暇が付与されない可能性があるでしょう。
休職に関する話し合いをする際は、翌年の有給休暇が付与されるかどうか、労務担当者に確認しておくことをおすすめします。
2ヶ月休職している間の収入・生活への影響
休職期間は、基本的に無給のケースが多いです。収入が途絶えるため、生活への影響がないか不安な人もいるでしょう。経済的な不安を解消できるよう、休職期間中の収入保障制度をおさえておきましょう。
事業主は休職中の賃金支払義務がない
事業主は休職中の従業員に賃金を支払う義務がありません。従業員は休職期間中に労働していないためです。よって、休職中は収入が保障されないのが一般的といえます。失業しているわけでもないため、雇用保険の失業給付(基本手当)も受給できません。
ただし、会社によっては休職中の従業員の収入を保障する給与補償制度を設置している場合があります。会社の就業規則や福利厚生制度を確認し、休職中の収入保障の有無を事前に確かめておきましょう。
傷病手当金や就業不能保険を活用する
もしケガや病気によって休職する場合、会社の健康保険の給付である「傷病手当金」が受け取れる場合があります。
傷病手当金とは、業務とは関連のない理由でケガや病気になった際に給付されるお金です。連続した3日間を含む4日以上仕事に就けない場合に、4日目から支給が始まります。支給額は、以下のとおりです。
傷病手当金が支給される期間は、支給開始から通算して1年6ヶ月間です。欠勤日に支給され、出勤した日には支給されません。
また、就業不能保険も活用するとよいでしょう。
就業不能保険とは、病気やケガなどで働けなくなった場合に、被保険者が保険金を受け取れる保険です。精神疾患でも保険金が受け取れるものもありますが、保険金の受け取り条件が厳しい場合がある点には注意しましょう。
就業不能保険の保険金を受け取るには、対象の保険に加入し保険金の払い込みが必要なので、日常の支出が増える点もおさえておきましょう。
休職後の復職までの道のり
病気やケガで休職している場合で復職を考えている人は、どのような道筋で復職していけばよいか展望が見えない人もいるでしょう。復職には段階的な手順があり、焦らずに一歩ずつ進めていくことが大切です。
休業後の復職までの道のりは以下のとおりです。
- 休職前の業務ができる健康状態に回復する
- 復職時期を見定めて復帰支援プランを作成する
- 職場復帰を決定する
それぞれのステップについて解説します。
1.休職前の業務ができる健康状態に回復する
まずは、休職する前の業務ができる状態まで、心身が回復している必要があります。従業員が復職の意思を伝えた際、事業主は従業員の主治医に「職場復帰が可能である」旨を記載した診断書の提出を求めます。
診断書をもとに、復帰時期などを事業主と話し合いましょう。
診断書は、あくまで病状やケガの状態が回復しているかどうかが記載されたものです。自身の業務遂行能力を含めて判断しているものではありません。
事業主は診断書をもとに産業医の判断も仰ぎながら適切な対応をとる必要があります。
現在の病状やケガの具合から、業務に支障がなさそうだと感じるのであれば、主治医に申し出てみましょう。
2.復職時期を見定めて復帰支援プランを作成する
復職の意思を正式に伝えたら、事業主が「復帰支援プラン」を作成します。プランの作成には従業員自身も携わり、問題なく復帰できるかどうかを確かめながら進めてもらいましょう。
復職支援プランの作成において、従業員自身が考えるべき点は以下のとおりです。
- 復職意思を明確にすること
- サポート体制のチェック
- お試し出勤期間の設置有無
復帰支援プランでは、段階的な復帰や業務内容の調整、勤務時間の短縮といったことも検討されます。現在の自分の状態を事業主に正しく伝え、無理なく復職できる計画を作成しましょう。
3.職場復帰を決定する
復帰支援プランができあがったら、従業員自身の復職意思の最終確認が行われます。ここで復職することを事業主に伝えれば、事業主の最終判断をもって復帰が決定します。
職場復帰後は、病気やケガの現状を報告しつつ、少しずつ業務のある日常に慣れていきましょう。もし精神的な不安や落ち込みが再発したり、ケガの状態が思わしくなさそうな場合は、すぐに上司に現状を伝えてください。無理をせずに徐々に体を慣らしながら、完全復帰を目指しましょう。
休職は勤務先とよく相談して決めよう
休職は長期間職場を空けることになるため、取得に慎重になってしまう人もいるでしょう。「周りに迷惑をかけてしまっている」「回復しなかったら退職」との思いから、復帰を焦ってしまうことも考えられます。
心身の故障は今後の勤務だけでなく生活にも影響します。休職する際は勤務先とよく相談し、万全の体制を整えてもらったうえで取得するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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