- 更新日 : 2025年4月3日
外国人労働者とのコミュニケーション問題とは?具体的事例や解決策も紹介
日本では少子高齢化による労働力不足を補うため、外国人労働者を雇用する企業もあります。しかし、職場において日本人労働者と外国人労働者との間で「コミュニケーション問題」が発生するケースも少なくありません。
本記事では、日本の職場における外国人労働者とのコミュニケーション問題について具体的な事例を紹介しながら、その原因や解決策について解説します。
目次
多くの日本人労働者が外国人労働者とのコミュニケーション問題を実感
日本政策金融公庫総合研究所では、職場に外国人労働者がいる中小企業の日本人従業員に対してアンケート調査を実施しました。『外国人を雇用することで職場にどのような問題があると思うのか』という質問では「コミュニケーションに手間がかかる」と回答した人が49.3%にのぼりました。
また、中小企業の日本人従業員に対して『外国籍の人が言っていることがわからないことや、自分の言っていることが外国籍の人に伝わらないことがどれくらいあるか』という質問をしたところ、「よくある」と回答した人の割合が17.1%、「たまにある」と回答した人の割合が56.6%となっています。
さらに、「よくある」「たまにある」と回答した人に、日本語が伝わらないことによって仕事に支障をきたすことがあるのかと質問したところ、「ある」と回答した人が約70%を占めました。
どちらの回答も外国人労働者との間にある言語の壁が一因としてあげられるでしょう。
参考:日本公庫総研レポート『職場のコミュニケーションが鍵を握る 中小企業の外国人雇用』
外国人労働者とコミュニケーション問題とは
外国人労働者とのコミュニケーション問題には、「言語の壁」「文化や価値観の違い」「日本人従業員からの理解不足」の3つがあげられます。それぞれの問題が、現場にどのような影響を及ぼしているのか見ていきましょう。
言語の壁
外国人労働者にとって、日本語でのコミュニケーションは大きなハードルです。業務指示の伝達や日常的な会話において、正しく内容を理解できず、誤解が生じるケースが見られます。
たとえば、「できれば〇〇してもらえると助かる」という指示が、任意の対応と誤解されたというケースもあります。そして、言語の壁によるちょっとした誤解が、業務ミスや従業員トラブルを引き起こしてしまうのです。
言語の壁によるコミュニケーション問題を対策するには、企業全体で適切なサポート体制を整備しなければいけません。
文化や価値観の違い
日本と海外では、ビジネス習慣や職場での価値観が大きく異なり、日本人にとって当たり前のことが、外国人労働者には通じないことも少なくありません。
「時間厳守」は日本の仕事現場における象徴的な文化です。しかし、国によっては時間に対する考え方が異なり、「多少の遅れは問題ない」と考える文化もあります。こうした文化や価値観の違いが、不満やストレスの原因となり、職場でのトラブルに発展する恐れがあります。
トラブルを防ぐためにも、外国人労働者に対して日本の文化や価値観を理解できる研修や講習を行う必要があるでしょう。
日本人従業員からの理解不足
外国人労働者との円滑なコミュニケーションを実現するには、日本人従業員の理解が欠かせません。外国人労働者の文化的背景や習慣を知らないまま接すると、些細な言動でも誤解を生んだり、摩擦が起きたりする可能性があります。
外国人労働者に対して「なぜこんな当たり前のこともできないのか?」と不満をもつのではなく「なぜこんな行動をとるのか?」と考え、相手を尊重する姿勢を保つことが大切です。
企業側も日本人従業員を対象に異文化理解研修を実施するなど、外国人労働者が働きやすい環境を構築する取り組みが求められます。
実際に発生した外国人労働者とのコミュニケーショントラブル
外国人労働者とのコミュニケーション問題は、実際の職場でもさまざまなトラブルを引き起こしています。ここでは具体的な事例をもとに、どのような問題が発生しているのか見ていきましょう。
外国人労働者の行動が企業の損害につながった
日本語や日本文化になじめていない外国人労働者の行動が、企業との間でトラブルの原因となる事例もあります。
語学塾で派遣就労していた外国人労働者は、雇用契約満了まで3ヶ月を残した時点で知識・技術不足と欠勤・有給休暇取得を理由に解雇を通知されてしまいました。外国人労働者側はこれを不当な解雇だと主張し、契約残期間の給与を請求しました。
一方で、企業側は「帰省のため年末年始の長期欠勤を強行したため授業に支障が生じた」、また「それらが原因で労働者派遣契約自体が解約されたため会社に損害が生じている」と主張したのです。
こうしたトラブルを防ぐためには、外国人労働者と企業の双方が契約内容を十分に理解し、義務や権利を明確にしておく必要があります。
参考:外国人労働相談
外国人労働者側の意思がうまく伝わらず紛争に発展した
外国人労働者と事業主の間で、十分な意思疎通ができておらずトラブルに発展するケースもあります。
製造業に勤めている女性外国人労働者は妊娠を理由に事業主から雇止めを言い渡されてしまいました。しかし、事業主側は雇止めをする意図はなく、雇用を継続する意思があり、退職を希望したのは女性自身であると主張しました。
こうした主張の食い違いは、女性外国人労働者が休業や各種手当について十分に理解できていなかったことが原因であると考えられます。
外国人労働者が労働条件や制度について誤解している可能性があるため、企業側も本人の意向を十分に確認する必要があるでしょう。
コミュニケーション問題の解決策
外国人労働者とのコミュニケーション問題を解決するためには、企業全体での取り組みが重要です。ここでは、具体的な解決策をいくつか紹介します。
外国人労働者に対する日本語・文化教育を提供する
言葉の壁や価値観の違いを克服するためには、外国人労働者への日本語研修や日本のビジネスマナー・文化に関する教育を充実させることが重要です。
具体的には、企業主体の日本語学習支援や、日本の職場ルールや商習慣について教えるプログラムの提供などがあげられます。こうした取り組みによって、外国人労働者は職場で求められるコミュニケーションスキルを身につけられるでしょう。
外国人労働者との間にある文化的なギャップを埋めることで、互いに不満のないより良い職場環境を構築できます。
外国人労働者と積極的にコミュニケーションをとる
職場での心がけとして、日本人側から外国人労働者に積極的に話しかける機会を増やすことも有効です。
昼休みに一緒に食事をしながら雑談したり、休憩時間に趣味や週末の過ごし方について話したりするなど、業務外でのコミュニケーションを図りましょう。日々のコミュニケーションによって、お互いの人となりや文化・価値観への理解が深まり、信頼関係の構築につながります。
こうした日々の交流が、日本人・外国人双方にとって快適な職場づくりを促し、企業全体での生産性向上にも貢献するでしょう。
日本人従業員に対して異文化理解研修を行う
外国人労働者側への教育と同様に、日本人従業員側の意識改革も欠かせません。具体的には、社内で異文化理解研修やダイバーシティ研修を実施し、外国人労働者との接し方を学ぶ機会を設けましょう。
研修では日本人と外国人のコミュニケーションスタイルの違いや価値観の違いによる誤解の事例などを共有するのがおすすめです。
これにより、日本人社員も文化の違いを認識し、外国人労働者の想定外の行動にも、柔軟に対応できるようになります。
外国人労働者にも配慮した職場環境を構築する
外国人労働者との円滑なコミュニケーションを実現するためには、彼らが働きやすい職場環境を整えることも重要です。職場環境を整備すれば、外国人労働者は言語の壁や文化の違いに悩まされることがなくなるでしょう。
具体的には、業務マニュアルを多言語表記にしたり、図解・イラストを多用して直感的に内容が伝わるよう工夫したりする方法があります。
こうした取り組みによって、外国人労働者が職場に適応できるようになり、企業の生産性向上や職場の雰囲気向上を実現します。
翻訳サービスも利用する
外国人労働者とのコミュニケーション問題への対策として、翻訳ツールや多言語に対応したチャットシステムの導入も効果的です。これらのツールを取り入れることで、外国人労働者が指示の内容を正確に理解しやすくなり、職場全体のコミュニケーションの質を向上できます。
また、近年ではAI翻訳や音声翻訳デバイスなど、さまざまな翻訳ツールが普及しています。高性能な製品では、リアルタイムで精度の高い翻訳も可能です。
一方で、業務の専門用語やニュアンスが正確に翻訳されないケースもあるため、重要な場面ではネイティブスタッフの確認を入れる、簡単な日本語を使うといった工夫も必要です。
定期的にアンケートやヒアリングを実施する
外国人労働者が感じているコミュニケーションの問題を企業側が完全に把握するのは困難です。そこで、定期的に意見を聞く仕組みを導入することで、現状の課題を把握し、適切な対応を取れるようになるでしょう。
具体的な手法として、定期アンケート調査や面談・ヒアリングがあげられます。外国人労働者の声を直接収集し、「指示が早口すぎて理解できない」「専門用語が多くて困る」といった不満もキャッチできます。
外国人労働者の意見を積極的に取り入れることで、職場の課題を早期に発見し、適切な改善策を講じましょう。
外国人労働者とのコミュニケーション問題を解決するメリット
外国人労働者とのコミュニケーション問題を解決するのには手間とコストがかかります。これらの労力をかけて得られる企業側のメリットを見ていきましょう。
円滑な情報伝達が実現し業務効率が向上する
外国人労働者とのコミュニケーション問題を解消することで、情報伝達の精度とスピードが向上し、業務全体の効率が高まります。言語の壁や文化の違いによって生じていた誤解や伝達ミスが解消されるためです。
また、安全確認や報告連絡が確実になされることで、事故やトラブルの低減も期待できます。
このように、外国人労働者とのコミュニケーション問題を解決することは、企業の業務効率化に貢献し、事業の成長に欠かせない取り組みだといえます。
外国人労働者にとって働きやすい職場となり離職率が低下する
コミュニケーション環境を整えることは、外国人労働者の離職率低下にもつながり、人手不足の解消を実現します。日本語が不得意な従業員に配慮された職場は、外国人労働者のストレスを軽減し、働きやすさを向上させるためです。
また、離職率が下がれば、新たな人材の採用や教育にかかるコストを抑えられます。
外国人労働者の定着率が向上すれば、安定した労働力を確保できるようになるため、人手不足に苦しむ企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。
外国人労働者とのコミュニケーション問題への対策をしよう
外国人労働者とのコミュニケーション問題は、言語の壁や文化の違い、日本人従業員の理解不足など、さまざまな要因によって発生します。コミュニケーション問題を防ぐには、外国人労働者向けの教育セミナーの開催や定期的なアンケート調査の実施、などの取り組みが効果的です。
外国人労働者と日本人労働者が互いに理解し合い、協力しながら働ける環境を整えることは、業務の効率化や外国人労働者の定着率向上にもつながります。外国人労働者と適切な関係を構築し、現場での人手不足を解消しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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