• 更新日 : 2025年4月2日

自分の不注意による怪我でも労災認定される?事例や具体的な手続きなども解説

仕事中や通勤途中に自分の不注意で怪我をしてしまった時、「労災保険は本当に使えるの?」と心配になる方もいるかもしれません。実は、自分のミスやちょっとした不注意が原因でも、労災保険が適用されるケースは意外と多くあります。本記事では、「自分の不注意で怪我をした場合の労災認定のポイント」や、「労災申請を成功させるために必要な手続きや具体的な事例」まで、初心者にもわかりやすく徹底解説します。

目次

自分の不注意による怪我も労災の対象になる

労災保険の適用範囲や給付条件は、労働基準法と労働者災害補償保険法(労災保険法)によって定められています。これらの法律には、「自分の不注意による怪我」を労災保険の対象外にする明確な規定はありません。労災保険は、労働者を広く守ることを目的としているため、業務中または通勤途中の災害であれば、単純なミスや注意不足による怪我でも基本的には給付対象となります。

一方で、故意に起こした事故や重大な過失によって起きた事故など、労災保険法の給付が認められないケースも明確に規定しています。例えば、仕事中に飲酒をして事故を起こした場合や、自傷行為を意図的に行った場合などは、労災保険の給付対象外とされています。

つまり、自分の不注意が通常のミスや確認不足であれば労災保険は適用されますが、明らかに異常な不注意や意図的な行為が原因の場合は適用されません。この点が、労働者自身にとって非常に重要なポイントになります。

そもそも労災保険とは

労災保険とは、日本の法律もとづき、仕事中または通勤途中で起きた事故や病気に対して、働く人が必要な治療や補償を受けられる公的な保険制度です。

労災保険の主な目的は、働く人が仕事や通勤が原因で負った怪我や病気について、経済的に困らないよう治療費や生活費などを補償することです。また、働けない期間の収入を補ったり、障害が残った場合の支援や、亡くなった場合には遺族の生活を支援する役割も担っています。

労災保険の加入はすべての企業に義務付けられており、従業員を1人でも雇っている会社は規模や業種に関係なく必ず加入しなければなりません。そのため、労災保険の保険料は会社(事業主)が全額を負担し、従業員から保険料を徴収することはありません。この仕組みにより、労働者は安心して労災保険を利用できるようになっています。

労災保険が適用される災害には、大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。「業務災害」は仕事中に起きた事故や病気のことを指し、「通勤災害」は通勤途中に発生した事故や病気を指します。

労災保険の給付の種類

労災保険では、労働者の怪我や病気の状況に応じて複数の給付が用意されています。以下では、それぞれの給付内容について詳しく説明します。

療養(補償)給付

業務災害や通勤災害で怪我や病気を負った場合、その治療に必要な費用を全額補償する給付です。治療が完了(治癒)するか、症状がこれ以上良くならない状態(症状固定)になるまで、病院の診察料、薬代、手術費用、入院費用などが給付対象となります。基本的に自己負担はなく、無料で治療を受けることが可能です。

休業(補償)給付

怪我や病気が原因で働けなくなった場合に受け取れる給付です。仕事を休んだ4日目から支給され、休業期間中の給料の約8割(正確には給付基礎日額の80%)が支払われます。これにより、働けない期間も生活の安定を図ることができます。

障害(補償)給付

治療が終わっても障害が残った場合、障害の重さに応じて年金または一時金として支給される給付です。障害は「障害等級」で分類され、等級が重いほど支給される金額が高くなります。例えば、指の欠損や視力の低下など、後遺障害の状態により年金または一時金で補償されます。

傷病(補償)年金

業務災害や通勤災害による治療が長期化し、治療開始から1年6か月経過しても治らず、一定の障害が残っている場合に支給される年金です。治療を続けていても症状が回復せず、仕事復帰が難しいと判断された労働者に対して、障害の重さに応じた年金が継続的に支給されます。

介護(補償)給付

事故や病気により重度の障害を負い、日常生活で介護が必要になった場合に支給される給付です。常時または随時、介護を受けている労働者に対し、その介護費用を補助する形で支払われます。これにより介護を受ける本人や家族の経済的負担を軽減することができます。

遺族(補償)給付・葬祭料

労働者が業務災害や通勤災害で亡くなった場合、遺族の生活を支えるために年金または一時金として支給されます。また、葬儀にかかる費用の一部も葬祭料として支払われます。遺族年金は、亡くなった方の収入に基づいて計算され、遺族の生活安定を目的としています。

二次健康診断等給付

仕事によるストレスや負荷が原因で、健康診断の結果に異常が見つかった場合に受けられる給付です。一度目の健康診断で異常が確認された労働者は、二次健康診断(精密検査)や健康指導を無料で受けることができます。これにより、病気の早期発見や予防に役立てることができます。

労災保険の給付を受けるための条件

労災保険の給付を受けるには、怪我や病気が業務災害または通勤災害であることを労働基準監督署に認定してもらう必要があります。その際、業務遂行性(仕事中に起きた事故かどうか)と業務起因性(仕事が原因で起きた事故かどうか)という2つの要件が判断基準となります。

また、通勤災害の場合は「合理的な通勤経路」で事故や怪我が発生したかどうかが判断されます。寄り道などをして通勤経路から大きく外れた場合は、通勤災害とは認定されない可能性があります。

これらの条件を満たしているかどうかを、労働基準監督署が確認し、労災給付を決定します。

自分の不注意による怪我で労災が認められた事例

実際の事例を通して、自分の不注意によって起きた怪我が労災保険の対象となるかどうかを詳しく見ていきましょう。

工場内での機械操作ミスによる怪我の事例

ある工場で働く従業員が機械を操作していたところ、うっかり操作を間違えてしまい、自分の手を機械に挟んで怪我をしました。この事故は、従業員の注意不足による単純なミスが原因でしたが、業務中に発生した事故であり、業務に直接関係する行動であったため、労働基準監督署は業務災害として認定し、労災保険の給付が承認されました。

通勤途中に駅の階段で転倒した事例

通勤途中の労働者が、駅の階段を急いで降りている最中に、足を滑らせて転倒し怪我を負いました。この事故も、急いでいた労働者本人の注意不足が原因でしたが、合理的な経路・手段による通勤途中に起きた怪我であったため、通勤災害として認定され、労災保険の給付対象となりました。

通勤災害の場合、通勤のために通常利用する経路で発生した事故であれば、自分の注意不足が原因でも基本的に認定されるケースが多くなっています。

職場で踏み台から転落して怪我をした事例

事務所内で、棚の上の荷物を取るために踏み台を使って作業していた従業員が、バランスを崩して踏み台から落ち、骨折をする怪我を負いました。このケースも、明らかに本人の注意不足やミスがありましたが、業務を遂行するための行動中に発生した事故であったため、労災保険が適用されました。

以上のように、労働者本人の「通常の範囲の不注意」やミスがあっても、事故が仕事や通勤中に起きた場合は、労災保険の対象になる可能性が高いことがわかります。

自分の不注意による怪我で労災が認められなかった事例

次に、自分の不注意で怪我をしたにもかかわらず、労災保険が認められなかった具体的な事例を見ていきます。

故意による自傷行為の事例

ある労働者が仕事を休みたいと考え、自分の手を意図的に傷つけて怪我をした事例がありました。このケースは、労働者自身が意図的に事故を起こしたという明らかな故意による事故だったため、労災保険の給付は認められませんでした。

労災保険は、意図的に自分自身を傷つけるなど明らかに本人の意思で起こされた事故は給付対象外として明確に定めています。

勤務中の飲酒による事故の事例

ある作業員が勤務時間中にお酒を飲み、酔った状態で機械を操作したため、事故を起こして怪我をしたケースがあります。この事故は、本人の行為が重大な過失に該当すると判断され、労災保険の対象外となりました。

勤務時間中の飲酒や薬物使用など、明らかに非常識で危険な行為により発生した事故は、労災認定から除外されることになります。

通勤経路からの大幅な寄り道による事故の事例

ある労働者が仕事帰りに、自宅とは直接関係のない場所へ長時間寄り道をした後に事故に遭い、怪我をしたケースがありました。この事例では、寄り道の規模が大きく、合理的な通勤経路を逸脱していたと判断され、通勤災害とは認められませんでした。

通勤災害として認定されるためには、合理的な通勤経路から逸脱せずに事故が起きることが重要です。

自分の不注意で怪我をした場合の労災申請の手続き

自分の不注意で仕事中または通勤中に怪我をしてしまった場合でも、労災申請の手続き自体は通常の労災と特に変わりません。しかし、不注意が原因の場合、事故の状況をより丁寧かつ正確に説明する必要があります。ここでは、労災申請の具体的な流れや必要な書類、注意点を詳しく解説します。

医療機関の受診

まず、事故が発生したら速やかに病院で治療を受けます。病院では必ず「仕事中(または通勤中)の事故」であることを医師に伝え、診断書を取得しておきます。また、怪我をした直後に会社にも速やかに報告し、事故状況を明確に伝え、証拠となる事故現場の写真や動画があれば残しておくとよいでしょう。

労働基準監督署への申請書提出

申請書類が準備できたら、労働基準監督署に提出します。通常は会社経由で提出しますが、もし会社が非協力的であったり、「不注意が原因である」という理由で申請を渋る場合には、労働者本人が直接、労働基準監督署に申請を行うことも可能です。

提出する際には、事故の状況を記載した申請書の内容が正確であるかどうかを十分に確認してください。不注意による事故であった場合でも、事実を正確にありのまま記入することが、給付のスムーズな認定につながります。

労働基準監督署による調査と労災認定

申請書が提出されると、労働基準監督署が事故状況の調査を行います。この調査では、事故が業務中または通勤中の事故であるかどうかを判断するため、場合によっては本人や会社へのヒアリング、事故現場の確認、医療機関への問い合わせなどが行われます。

「自分の不注意」である場合、調査において事故状況を特に詳しく尋ねられることがありますが、正直に答えることが大切です。単純な不注意であれば、通常は問題なく労災認定が下ります。

自分の不注意で怪我をした場合の労災申請に必要な書類

労災申請を行うために必要な書類として、怪我の状況や治療内容、休業状況などを証明する以下の書類が必要となります。

療養(補償)給付請求書

仕事中や通勤途中に怪我や病気をした際に、その治療費を補償してもらうための書類です。「様式第5号(業務災害の場合)」または「様式第16号の3(通勤災害の場合)」を使用します。この書類には、事故の状況や怪我の部位、治療を受けた医療機関の情報などを詳しく記入します。

休業(補償)給付支給請求書

怪我や病気が原因で仕事を休んだ際に、休業補償(給与の約8割)を請求するための書類です。通常、「様式第8号(業務災害の場合)」または「様式第16号の6(通勤災害の場合)」を使います。記入する内容には、休業した期間や怪我の状況、給与額などが含まれます。

障害(補償)給付支給請求書

治療が終わった後、障害が残った場合に障害補償を受けるための書類です。「様式第10号(業務災害の場合)」または「様式第16号の7(通勤災害の場合)」を提出します。障害の程度や状態を医師が診断し、その診断書を添付する必要があります。

その他の添付書類

これらの申請書に添付する主な書類には、医師の診断書や医療費の領収書、給与明細書、賃金台帳や出勤簿の写しなどがあります。これらの書類は、治療内容や休業期間を証明する重要な証拠となるため、漏れなく準備しましょう。

自分の不注意で怪我をした場合の労災申請でよくある課題

自分の不注意が原因で労災保険の申請をする場合、他の労災申請と比べて慎重に進める必要が出てきます。この章では、不注意が原因の場合に労災申請で発生しやすい課題と、その具体的な対策を詳しく解説します。

事故の状況説明が難しい

自分の不注意による事故では、「なぜその事故が起きたのか」という状況説明が難しい場合があります。例えば、「操作ミス」や「確認不足」のような単純な理由だと、「重大な過失」かどうかを労働基準監督署に疑われる場合があり、申請がやや慎重に審査される可能性があります。

そのため、自分の不注意による事故では、「通常の範囲内の不注意」であることを明確に説明できるよう準備する必要があります。

会社側が労災申請に非協力的

会社が、「労災保険を使うと保険料が上がる」などの理由で、労働者の申請を妨害したり、協力を拒否したりするケースがしばしばあります。特に労働者の不注意が原因の場合、「本人の責任だから労災は使えない」と誤った理由で労災申請を拒否しようとする会社も存在します。

こうした会社の行動は法律違反(労災隠し)ですが、労働者が自分の権利を知らない場合、申請が困難になる場合があります。

重大な過失と判断されるリスクがある

事故状況が特に深刻だったり、注意義務を明らかに怠っていたと判断される場合、重大な過失とみなされる可能性があります。例えば、禁止された危険行為や飲酒・薬物などが絡んだ場合です。その場合、労災の認定が受けられなくなります。

これを防ぐためには、事故状況を客観的に示せる証拠を用意し、あくまでも通常範囲内の不注意であることを示すことが重要です。

自分の不注意による怪我の労災申請を成功させるポイント

上記のような課題を克服し、自分の不注意による怪我でも労災申請を成功させるためには、以下のような具体的な対策が必要になります。

事故直後から証拠や記録をしっかりと残す

労災申請を成功させるためには、事故状況を証明できる資料をできるだけ多く揃えることが重要です。具体的には、事故直後の現場の写真や動画、目撃者の証言、事故が発生した時刻や状況を記録したメモ、病院での診断書や治療記録などを揃えます。これらがあれば、事故の状況を客観的かつ正確に伝えることができ、労働基準監督署の判断もスムーズになります。

病院の診察時に事故の状況を明確に伝える

病院で診察を受ける際は、事故が「仕事中(または通勤中)に起きた不注意による事故」であることを医師に明確に伝え、診断書に正確に記録してもらいましょう。診断書は労災認定で非常に重要な資料になります。そのため、曖昧な説明を避け、事故状況を正しく医師に伝えることが不可欠です。

会社が非協力的な場合は自分で労災を申請する

会社が協力しない場合でも、労働者本人が直接、労働基準監督署に労災申請を行うことが可能です。会社が「不注意だから労災は使えない」などと主張しても、それを理由に労災申請を拒否する権利はありません。会社を通さずに申請する場合は、労働基準監督署にその理由を説明すると、適切な対応が得られます。

労働基準監督署や専門家に事前に相談する

労災申請の方法や進め方に不安がある場合、事故直後から早めに労働基準監督署に相談するとよいでしょう。また、会社とのトラブルや事故状況の説明に難しさを感じる場合は、労働問題や労災に詳しい弁護士や労働組合など専門家への相談も検討してください。早めの相談が申請成功につながります。

不支給の場合は審査請求や再審査請求を活用する

万が一、労働基準監督署が不支給を決定した場合でも、諦めずに不服申し立て制度を活用できます。「審査請求」や「再審査請求」を経て、裁判にまで進むことも可能です。不服申し立ての際は、専門家のサポートを受け、証拠を整えて再度申請に臨むとよいでしょう。

労災認定は故意や重大な過失でないことがポイント

この記事では、自分の不注意で怪我をした場合でも、業務中や通勤中であれば労災保険が使えることを解説しました。重要なポイントは、「故意や重大な過失」ではなく、単純なミスや確認不足による怪我であれば、基本的に労災の対象となることです。万が一、会社が申請に協力しない場合でも、自分で労働基準監督署に申請できるので安心してください。申請時には、事故状況を記録した証拠や診断書を用意し、困った時は専門家への相談も活用して、適切な補償を受けましょう。


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