• 更新日 : 2025年3月31日

韓国における外国人労働者|受け入れ政策の現状や問題点、日本との違いについて解説

日本では少子化に伴って生産年齢人口が減少しており、外国人労働者の受け入れが増加しています。実は、韓国も同様に少子化による労働力不足が起きており、外国人労働者受け入れ政策を実施しているのはご存知でしょうか。

本記事では、今後も日本で確保するべき外国人材を雇用し続けられるよう、韓国で行われている受け入れ政策の現状や問題点について解説します。

韓国の外国人労働者受け入れ政策の現状

韓国は少子化による労働力不足を背景に、外国人労働者受け入れ政策を推進しています。非専門労働者には「雇用許可制」を導入し、労働力確保を図っている状況です。一方、専門人材の誘致には「電子ビザ発給」「点数移民制」「留学生誘致」「投資移民活性化」など、多岐にわたる戦略を展開しています。

2004年の雇用許可制の導入以降、労働者数は増加しましたが、優秀人材の獲得には課題が残っています。韓国はこれらの政策を通じて、労働力不足の解消と経済成長を目指しているのが現状です。

外国人労働者受け入れ政策の導入背景

韓国は1993年に「外国人産業技術研修制度」を導入し、単純技能労働者の受け入れを開始しています。それまでは単純技能の外国人労働者は受け入れが禁止されていましたが、合法的に外国人を受け入れられるようになりました。

しかし、人手不足の企業ではすぐに研修生を労働に従事させてしまい、外国人研修生が離脱して不法滞在者になるといった問題が発生しました。

そこで、2000年に研修就業制を導入し、2年の研修後に1年の就業を可能にしています。2003年には「外国人労働者の雇用などに関する法律」が制定され、2004年に雇用許可制が開始されました。

韓国の雇用許可制とは?

雇用許可制とは、2004年8月17日から施行された「合法的に外国人労働者の雇用を許可する制度」です。すべての企業が利用できるわけではなく、政府から外国人労働者雇用の許可を受けた中小企業のみが利用できます。

また、雇用許可制は純粋外国人労働者を対象とした「一般雇用許可制」と、韓国系外国人を対象とした「特例雇用許可制」にわかれています。一般雇用許可制と特例雇用許可制それぞれの対象国と対象業種は、以下のとおりです。

制度対象国対象業種
一般雇用許可制・フィリピン
・タイ
・インドネシア
・ベトナム
・モンゴル
・ウズベキスタン
・カンボジア
・パキスタン
・中国
・バングラデシュ
・キルギス
・ネパール
・ミャンマー
・スリランカ
・東ティモール
・ラオス
・製造業
・造船業
・農畜産業
・漁業
・建設業
・サービス業
(リサイクル、冷凍倉庫等)
特例雇用許可制中国や旧ソ連邦内の韓国系外国人(在外同胞)サービス業を含む38業種

参考:2025年の非専門職外国人労働者の導入規模を20万7,000人に設定(韓国:2025年1月)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

韓国で働く外国人労働者数の推移

韓国では、少子高齢化による労働力不足を背景に、外国人労働者の受け入れが進んでいます。2013年から2016年にかけて、外国人労働者数は約76万人から約96.2万人へと増加しました。

新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に減少したものの、2021年時点でも約85.5万人の外国人労働者が就業しています。韓国における外国人労働者数を産業別に比較すると以下のとおりです。

2021年
人数割合
農林漁業61,000人7.1%
鉱業・製造業370,400人43.3%
建設業102,100人11.9%
卸小売・飲食・宿泊業161,600人18.9%
電気・運輸・通信・金融20,700人2.4%
事業・個人・公共サービス139,600人16.3%
合計855,300人100%

参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「産業別就業者数及び割合」

「鉱業・製造業」がもっとも多く、2021年では43.3%を占めていることがわかります。

韓国で働く外国人労働者の平均賃金

雇用許可制によって韓国で働く外国人労働者は、1ヶ月の平均労働日数が23.1日であり、平均基本給は144万ウォンです。時間外手当や特別給付などを韓国人(内国人)労働者と比較すると以下のようになっています。※2025年3月19日時点のレートで算出しています。

韓国人(内国人)労働者外国人労働者
基本給174,210円147,966円
通常手当4,212円1,335円
その他の手当924円205円
時間外労働手当36,476円44,182円
特別給付13,559円8,423円
宿泊施設3,287円14,073円
宿泊施設利用に伴う付帯費用924円4,519円
食費14,996円21,158円
合計248,588円241,861円

参考:ニッセイ基礎研究所「韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―」

基本給や通常手当、特別給付については外国人労働者のほうが賃金が低いようです。一方で、宿泊施設や食費のような現物給付は外国人労働者のほうが多い傾向にあり、合計金額にすると韓国人労働者との差額は1万円未満に収まることがわかりました。

日本と韓国の外国人労働者の違い

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの資料によると、日本と韓国における外国人労働者の在留状況は以下のとおりです。

日本韓国
外国人労働者数182.3万人(2022年10月時点)84.3万人(2022年5月時点)
主な国籍・ベトナム(25.4%)
・中国(21.2%)
・フィリピン(11.3%)
・韓国系中国人(39.3%)
・ベトナム(10.5%)
・中国(5.7%)
主な業種・製造業(26.6%)
・卸売業/小売業(13.1%)
・宿泊業/飲食サービス業(11.5%)
・鉱業・製造業(43.9%)
・卸売業/小売業(18.7%)
・建設業(12.2%)
主な人材層・高度人材(22.0%)
※特定技能除く
・技能実習(18.8%)
・留学(14.2%)
・永住者等の身分系(32.7%)
・高度人材(4.8%)
・低熟練労働者(33.3%)
・留学(3.4%)
・在外同胞( 29.2%)

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「韓国、台湾における低・中熟練外国人労働者受入れ拡大の潮流」

国籍や業種は似通っている一方で、人材層には大きな違いがあります。日本は高度人材が22.0%、技能実習が18.8%なのに対し、韓国では高度人材はたったの4.8%で低熟練労働者が33.3%にのぼります。

つまり、韓国では専門的な高度技術を持った外国人材の割合が少なく、単純労働を担う労働者の割合が多い状況です。

韓国の外国人労働者受け入れ政策の問題点

雇用許可制の導入により、中小企業の労働力不足問題解消の手助けになっていたり、韓国に対する印象が改善されたりなど、メリットは大きいです。しかし一方で、以下のような問題点も抱えています。

高度外国人材の不足

韓国では、簡単にビザを発給できる電子ビザ制度のように、外国人材を確保するためのさまざまな制度を導入しているものの、高度外国人材の獲得では日本に後れを取っています。日本と韓国の専門人材の割合を比較すると、以下のとおりです。

 

引用:ニッセイ基礎研究所上席研究員 亜細亜大学 都市創造学部准教授

金 明中「韓国における外国人労働者受け入れ政策の現状と課題」

これは、韓国の高度人材受け入れ政策が、主に労働力不足解消に重点を置いているためと考えられます。しかし近年では、高度外国人材が韓国で働きやすいよう、新しい制度が導入され始めました。

韓国における高度人材獲得のための主要な制度を表にまとめると、以下のとおりです。

制度概要目的
優秀人材ファーストトラック制度特定分野の優秀な外国人材に対し、迅速なビザ発給や永住権取得を可能にする制度高度な専門知識や技術を持つ人材を迅速に誘致する
Study Korea 300k Project2027年までに外国人留学生を30万人誘致する計画高度人材の育成と定着を目指し、韓国の国際競争力を強化する
RAIN POOL PLUS(BP+)プログラム海外の優秀な研究者を韓国の研究機関に招待し、共同研究や教育活動を支援するプログラム世界トップレベルの研究者を誘致し、韓国の研究開発力を向上させる

参考:ニッセイ基礎研究所上席研究員 亜細亜大学 都市創造学部准教授

金 明中「韓国における外国人労働者受け入れ政策の現状と課題」

2025年は一般雇用許可制による非専門職外国人の受け入れを縮小している

韓国は2025年の非専門職外国人労働者の受け入れ人数を20万7,000人に設定しました。このうち、一般雇用許可制にもとづく受け入れ人数は13万人に決定し、前年から3万5,000人減少しています。

これは、一般雇用許可制の需要縮小を考慮したものであり、背景には専門職の需要増大が考えられます。韓国は高度外国人材の獲得に注力しており、非専門職から専門職へのシフトが進んでいる可能性があるでしょう。

事業場変更の制限

韓国で働く外国人労働者には、事業場(職場)変更の制限が設けられています。

  • 移動制限:職場の移動は3年以内に最大3回までと制限されている
  • 承認制:移動する際には使用者の承認が必要

さらに、倒産や賃金未払いなど、例外的なケースの事実が確認されないと、移動が認められません。これらの制限は、外国人労働者の安易な職場移動を防ぎ、雇用主の安定的な労働力確保を目的としています。しかし、労働者にとっては不当な労働環境から抜け出すことが難しいという側面もあります。

賃金の未払い

韓国の新聞社調査によると、2022年の外国人労働者への未払い賃金は1223億ウォン(約125億円)にのぼり、過去5年で約25%増加しています。とくに中小企業や製造・建設業で深刻です。

外国人労働者は原則、職場変更が制限されるため、賃金未払いの通報が困難です。労働庁への報告も解決までに数ヶ月を要し、就労期間終了後の外国人労働者にとって、賃金回収は容易ではありません。

この問題は、外国人労働者の権利保護だけでなく、韓国社会の公正性にも関わる重要な課題です。

不法滞在者と犯罪件数の増加

韓国における外国人労働者問題は、使用者側だけでなく労働者側にも課題があります。2023年時点で40万人を超える不法滞在者がおり、外国人犯罪件数も増加傾向が顕著です。これは、不法滞在者が低賃金で違法雇用されるケースが後を絶たないためと考えられます。

背景には、外国人労働者の権利意識の低さや、不法滞在のリスクを冒してでも高収入を得たいという経済的な要因が考えられるでしょう。また、雇用主側も労働力不足を補うために、安易に不法滞在者を雇用するケースが見られます。

韓国における外国人労働者政策

日本も韓国と同様に少子高齢化による労働力不足に直面しており、外国人労働者の受け入れは差し迫った課題です。対策を怠れば、優秀な人材が韓国などの他国に流出し、日本の競争力低下を招く恐れがあります。

とくに、アジア人労働者の獲得競争は激化しており、日本よりも高待遇を提示する国も現れています。単純技能労働者の確保には、韓国の雇用許可制のような制度が有効ですが、高度人材の獲得には、ビザ発給の迅速化や生活環境の整備が不可欠です。

韓国の電子ビザ制度や熟練技能点数制ビザを参考に、日本も外国人にとって魅力的な就労先となるよう、制度改革や日本語教育の強化など多角的な取り組みが求められます。

韓国の外国人労働者に関するよくある質問

最後に、韓国の外国人労働者に関するよくある質問を2つ紹介します。

韓国で働く外国人労働者数は何人?

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの資料によると、2022年5月時点での韓国の外国人労働者数は84.3万人です。182.3万人の外国人労働者を抱える日本と比較すると半分以下の人数ですが、総人口に占める在留外国人は日本が2.5%なのに対して韓国では3.3%と高いことがわかります。

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「韓国、台湾における低・中熟練外国人労働者受入れ拡大の潮流」

韓国で働く外国人労働者はどこの国の人が多い?

韓国で働く外国人労働者の国籍は、韓国系中国人がもっとも多く、39.3%を占めています。これは、韓国の外国人労働者受け入れ政策の「雇用許可制」が、純粋外国人労働者を対象とした「一般雇用許可制」と、韓国系外国人を対象とした「特例雇用許可制」に区分されていることも関係しているでしょう。

「一般雇用許可制」に該当する人の対象職種が、製造業や建設業などに限定されているのに対して「特例雇用許可制」に該当する人は38業種から選べるなど、優遇されていることも原因のひとつだと考えられます。

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「韓国、台湾における低・中熟練外国人労働者受入れ拡大の潮流」

韓国の外国人労働者受け入れ政策について理解しておこう

韓国は労働力不足解消のため、外国人労働者の受け入れを推進しています。雇用許可制による非専門労働者の受け入れと、電子ビザ制度や点数移民制などによる高度人材の誘致を両立させていますが、高度人材の獲得が現状の課題です。

日本も韓国と同様に少子高齢化による労働力不足に直面しており、韓国の事例を参考に、外国人労働者にとって魅力的な就労環境を整備する必要があります。高度人材の獲得競争が激化する中で、多角的な取り組みが求められるでしょう。


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