- 更新日 : 2024年9月18日
安全配慮義務とは?範囲や違反した場合の罰則、注意点を解説!
安全配慮義務とは、従業員の心身の健康と安全を守るために事業者が配慮すべき義務のことです。労働契約法や労働安全衛生法に定められており、事業者は従業員の働く環境を整備し、事故や心身不調を回避するための対策を立てなくてはいけません。安全配慮義務に違反したときの罰則や事例、企業が取り組むべき事柄について説明します。
目次
安全配慮義務とは?
安全配慮義務とは、従業員の心身の健康と安全を守るために、事業者が配慮すべき義務のことです。事業者は、職場環境を整備し、従業員が事故や心身不調を回避するための対策を立てなくてはいけません。労働契約法では以下のように定められています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約に記載されていなくても、使用者(事業者)は労働契約上果たすべき義務として、安全配慮義務を負います。従業員が身体的あるいは精神的に健康を保てない環境で働くことがないよう、使用者は配慮しなくてはいけません。
また、労働衛生安全法では、以下のように定められています。
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
職種や業務内容、職場によって想定される危険は異なります。労働災害が起こることがないよう、事業者は職場環境を快適な状態にするように努めなくてはいけません。
安全配慮義務の範囲は?
安全配慮義務の範囲には次の2点が含まれます。
- 健康配慮義務
- 職場環境配慮義務
それぞれの範囲について説明します。
健康配慮義務
健康配慮義務とは、労働者が職場で健康な状態で働けるように配慮することです。労働災害を防止すること、就労中に病気にかからないように配慮することを指します。
健康配慮義務には、次の事柄も含まれます。
- 従業員の健康診断やストレスチェックを定期的に実施する
- 労働時間や休憩時間を適切に定める
- 休日を適切に定める
- 体調に配慮して労働者を適切な職務・職場に配置する
- 就労中に病気やケガをしたときは、適切に治療を受けさせる
職場環境配慮義務
職場環境配慮義務とは、労働者が安心して働けるように配慮して環境を構築することです。具体的には次の事柄などが含まれます。
- 作業環境を快適に整える
- 業務負荷を軽減する
- 職場内でハラスメントが起こらないための対策を実施する
労働契約法の安全配慮義務に違反した場合の罰則は?
労働契約法で安全配慮義務が定められていますが、違反による罰則は規定されていません。しかし、労働安全衛生法では、安全配慮義務違反に対して罰則が定められています。
たとえば、労働安全衛生法では第20条などで労働者の危険、または健康障害を防止するために事業主が講ずべき措置を定めています。これらの規定に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科される恐れがあります。
また、労働者を雇用したときに安全衛生教育を実施しなかった場合は、50万円以下の罰金が科せられます。安全配慮義務に違反したことにより労災事故が発生したと判断される場合は、労働者側から損害賠償を請求されるかもしれません。
懲役刑や罰金刑に科せられないときでも、安全配慮義務違反に問われる行為をしている企業と知られると、社会的イメージを大きく損ないます。就労希望者が減って人材確保が難しくなる、取引先が減るといったダメージを受ける可能性も想定されるでしょう。
労働契約法の安全配慮義務に違反した事例は?
労働契約法で定められた安全配慮義務に違反した事例をいくつか紹介します。なお、労働契約法では罰則は規定されていませんが、いずれの事例でも損害賠償請求に発展しています。
陸上自衛隊事件
陸上自衛隊事件(最高裁判所 1975年2月25日)は、安全配慮義務のきっかけとなった事件です。陸上自衛隊員が隊内の車両整備工場で業務にあたっていたところ、後退してきたトラックにひかれて死亡するという事故が起こりました。死亡した隊員の親は、国が使用者としての安全配慮義務を怠ったと指摘し、国を相手に損害賠償を求めて訴えを起こします。
最高裁では、国が公務員に業務を命ずるときは当然のこととして安全配慮義務を果たすことが求められると判断し、国の安全配慮義務違反を認めています。また、国に対して、国家公務員の給与の支払い義務に加え、公務員の安全と健康を守る義務があることを明確にしました。
川義事件
川義事件(最高裁判所 1984年4月10日)とは、宿直勤務中の従業員が侵入者により殺害された事件です。
企業側は従業員の就寝場所を社屋一階にある商品陳列場として指定しましたが、盗賊等が容易に侵入できないように配慮すべきであるところ、安全な施設を整えなかったことに問題があると最高裁では判断しています。また、物的施設を整えられない場合でも、宿直員を増やす、あるいは宿直員に対して安全教育を実施することなどでも事件は回避できたのではないかと指摘されています。
アテスト(ニコン熊谷製作所)うつ病自殺事件
株式会社アテストに就職し、株式会社ニコンの熊谷工場に勤務していたある従業員は、過度の仕事量と長時間に及ぶ労働時間により、身体的・精神的な負担を感じながら業務に従事していました。正社員ではなかったため、仕事を休むと解雇されるのではという不安もあり、勤務を続けた結果、自殺を選択してしまいます。
東京高等裁判所(2009年7月28日)では、自殺の主な原因は業務過重によるうつ病と指摘し、契約形態の違いはあっても疲労や精神的負担が蓄積しすぎないように注意すべきと、安全配慮義務違反を認定しました。なお、安全配慮義務違反は実際に勤務していた株式会社ニコンだけでなく、従業員の就職先である株式会社アテストにも認定し、損害賠償の支払いを命じています。
企業が安全配慮義務を果たすための注意点は?
安全配慮義務を果たすために、企業には以下の点に注意することが求められます。
- 安全装置の設置とマニュアル作成
- 労働時間と休暇の管理
- 心身の健康について相談できる専門家の配置
- 定期的な健康診断の実施
- 従業員・雇用者への適切な教育
それぞれのポイントについて解説します。
安全装置の設置とマニュアル作成
機械を扱う業種の場合、誤操作や故障による事故を回避するための安全装置を設置することが必要です。また、誤操作を防ぐためにも、次の事柄の実施が求められます。
- 安全装置が正常に作動するか定期的にチェックする
- 機械操作マニュアルを作成する
- 機械操作の講習会を実施する
労働時間と休暇の管理
従業員の身体的・精神的健康を守るため、過労を防ぐことが必須です。労働時間と休暇を管理し、健康的に働ける環境を構築しましょう。
時間外労働時間が月に80時間を超える月が続くと、健康被害のリスクが高まるとされています。時間外労働時間が長くなりすぎないように調整するだけでなく、適度に休暇を取得するように従業員に注意を喚起することも大切です。また、管理する側も労働時間・休暇を管理し、健康的に働くようにしなくてはいけません。
心身の健康について相談できる専門家の配置
従業員が健康問題について相談できる専門家を配置することも大切です。必要に応じて、産業医やカウンセラーなどの専門家に相談できれば、問題が深刻化する前に対処できるかもしれません。
なお、労働安全衛生法では常時使用する労働者が50人以上いる事業所では、産業医と衛生管理者の選任と、衛生委員会の設置が義務付けられています。また、労働者が50人未満の事業所でも、産業保健総合支援センターの窓口などをとおして、労働者は健康問題について相談できます。利用方法を周知するだけでなく、社内にも相談窓口を設け、健康的に働ける環境を構築しましょう。
定期的な健康診断の実施
従業員の健康状態を良好に保つためにも、定期的に健康診断を実施することが必要です。また、従業員に健康診断を受けさせることは、労働安全衛生法でも使用者の義務として定められています。
精神的な健康状態を良好に保つことも重要です。常時使用する労働者が50人以上の事業所では年に1回のストレスチェックが義務化されており、実施しない場合は安全配慮義務違反が問われます。
なお、ストレスチェックを実施することは企業側の義務ですが、ストレスチェックを受けるかどうかは従業員の自由意思です。しかし、ストレスチェックを受けない従業員をそのまま放置しておくと、企業として安全配慮義務を放棄していると判断される可能性があります。トラブルを回避するためにも、従業員にストレスチェックの重要性を周知しておくようにしましょう。
従業員・雇用者への適切な教育
ハラスメント行為を放置すると、企業が安全配慮義務違反に問われることがあります。すべての従業員・雇用者を対象に、どのような行為がハラスメントに該当するのか、ハラスメントを防ぐために何ができるのかなどについての教育を実施し、意識を高めることが大切です。
また、メンタルヘルスや安全管理、労働時間などについての教育も必要です。安全や健康管理に関して従業員や雇用者が知っておくべきことをリストアップし、適切な教育プログラムを実施しましょう。
安全衛生管理規定のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
適切な教育で安全に対する意識を高めよう
事業者側は従業員の安全に配慮する義務を負います。安全かつ健康な状態で働けるよう、全方位的に対策を練ることが必要です。
また、雇用者だけでなく従業員も、安全と健康に対する意識を高めることも重要です。適切な教育を実施し、すべての人にとって働きやすい環境を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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