- 更新日 : 2025年7月14日
離職防止コミュニケーションの5つの方法!企業の実践例も紹介
気づいたら退職者が続出していたという背景には、コミュニケーション不足の可能性があります。
実際、退職理由として多くあげられるのは、給与や業務内容よりも「人間関係」「上司との信頼関係の欠如」です。
日々の小さなすれ違いや、声をかけづらい空気感が蓄積され、「もうここでは働けない」と感じさせてしまうのです。
本記事では、退職者を生まないために必要な離職防止コミュニケーションの種類と具体的な実践法を整理し、企業事例も紹介します。
チームの定着率を高めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
離職防止にはコミュニケーションの取り方が重要
離職防止には、社内でのコミュニケーションの取り方が大切です。
従業員の離職にはさまざまな要因がありますが、根深い理由のひとつに、人間関係の不満や上司との信頼関係の欠如があげられます。
給与や待遇の問題が表面的な理由としてあげられることもあります。
しかし、その根底には「自分の気持ちをわかってもらえていない」という感情があるでしょう。
離職は突然起こるわけではなく、日々の小さなサインや違和感の積み重ねが引き金になります。
何気ない表情や発言の変化、雑談への参加頻度の低下など、見過ごされがちな兆候が「離職予備軍」である可能性もあります。
こうした予兆を見逃さないためには、日常的なコミュニケーションの質を高め、信頼関係を育てることが不可欠です。
上司やマネージャーが、ただ業務を指示するだけでなく、相手の気持ちや価値観に寄り添う姿勢をもつことで、ここで働き続けたいと感じてもらえる職場にも近づけるでしょう。
関連記事:コミュニケーションスキルとは?種類や活きる場面、大事な要素
部下と関わるためのコミュニケーションの種類
離職を防止するためには、「会話・討議・対話」という3種類のコミュニケーションを適切に使い分け、部下との関係性を段階的に深めていくことが重要です。
それぞれの役割と目的を理解し、日常業務に取り入れていきましょう。
会話
会話とは、あいさつや雑談、ちょっとした業務連絡など、気軽なコミュニケーションを指します。
この段階では、内容よりも「話しかけやすさ」や「親しみやすさ」が重要です。
具体的には以下になります。
- 「お疲れさま。最近忙しいけど、体調大丈夫?」
- 「今週ちょっと寒いですね。風邪引いてないですか?」
- 「週末リフレッシュできました?」
- 「この辺に新しいカフェできたみたいですよ」
- 「今日もありがとう。助かってます」
たとえば、朝の「おはようございます」やランチ後の雑談など、軽いやりとりを積み重ねることで、部下の心理的ハードルが下がり、話しやすい関係が築かれていきます。
気軽な会話の積み重ねが、信頼関係の入口となり、あとの深いコミュニケーションにつながる基盤になります。
討議
討議とは、業務や課題に関する具体的な意見交換を指し、会議や1on1ミーティングなどで行われます。
ここでは、上司が一方的に話すのではなく、部下の意見や考えを「引き出す」姿勢が重要です。
- 「率直な意見を聞きたいのだけど、この進め方どう感じた?」
- 「○○さんの視点をもっと取り入れたいんだけど、どう思う?」
- 「一緒に改善ポイントを探してみようか」
- 「ミスはあって当然。そこから学べればOKですよ」
- 「忙しい中での対応、本当に助かってます」
質問を投げかけ、ともに考え、課題に対して建設的に向き合うことで、業務上の信頼が深まっていきます。
討議の場が機能すれば、「自分の意見が尊重されている」「チームに貢献できている」という実感が生まれ、エンゲージメントの向上にもつながります。
対話
対話は、感情や価値観・キャリアなど、より深いテーマについて向き合うコミュニケーションです。
- 「この先、どんなことに挑戦してみたいか考えていますか?」
- 「今の業務でやりがいを感じる瞬間ってありますか?」
- 「ここまでのキャリア、何かご自身で大事にしていることってあります?」
- 「最近、働き方やチームの雰囲気で気になる点ありますか?」
- 「ムリのない範囲で聞かせてもらえたら嬉しいです」
たとえば、「なぜこの仕事をしているのか」「今後どんな働き方をしたいのか」といった本人の内面に踏み込む対話を通じて、上司と部下の間に共感と信頼が生まれます。
対話は一朝一夕にできるものではありませんが、会話や討議を丁寧に重ねた先にこそ成り立つ関係です。
この深い信頼関係こそが、離職の防止において最大の力となります。
従業員の離職につながる3つのコミュニケーションの取り方
離職の背景には、待遇や仕事内容だけでなく、日々のコミュニケーションの質が大きく影響しています。
何気ない言動や接し方が、部下に「理解されていない」「ここでは働き続けたくない」と感じさせてしまうことは珍しくありません。
ここでは、従業員の離職を招きやすい3つのコミュニケーションの特徴について解説します。
1. 一方的な指示・命令になっている
「これやっておいて」「早く仕上げて」など、命令口調ばかりの関わり方は、部下のモチベーションを著しく下げてしまいます。
上司が自分の都合だけで業務を割り振り、部下の状況や意見をまったく聞かないと、部下は「考慮されていない」「機械のように扱われている」と感じやすくなるでしょう。
積み重なると、「やらされている感」が強まり、仕事への主体性も失われていきます。
よくある一方的なコミュニケーション例は以下の通りです。
- 依頼内容に理由や背景がなく、ただ指示されるだけ
- スケジュールのムリな押し付け
- 相談の余地がなく、反論を許さない雰囲気
部下が納得感をもち、自分ごととして仕事に取り組めるようにするには、対話と説明が不可欠です。
2. 否定から入る・感情を無視した対応
部下が発言した直後に「でもそれは違う」「いや、それはムリだよ」と否定の言葉を返すコミュニケーションも、離職につながりやすい典型的なパターンです。
たとえ正論であっても、まず感情や立場への共感がないと、相手には「否定された」「わかってもらえない」という印象が強く残ります。
結果として、部下は「何を言っても意味がない」と感じ、次第に意見を言わなくなっていきます。
感情を無視した対応の例は以下の通りです。
- 疲れている部下に対し「甘えだ」と一蹴する
- 提案に対して「前例がない」「現実的じゃない」と即否定
- 悩みに共感せず、解決策だけを提示して終わる
まずは「話を聴く姿勢」と「共感」から入り、その後に建設的な議論を進めることが信頼形成の基本です。
3. 相談や雑談の機会がなく、業務連絡だけになっている
上司と部下の関係が、業務連絡と報告だけで終始している場合、心理的な距離はどんどん広がっていきます。
日々の会話が仕事の話だけになると、部下は上司を業務の管理者としか認識せず、ちょっとした不安や本音を吐き出せる場がなくなってしまいます。
孤立感につながり、職場に居場所を感じられなくなる要因にもなりかねません。
離職につながりやすい状況例は以下の通りです。
- 1on1が形式的で、踏み込んだ話ができない
- 雑談の文化がなく、相談しづらい雰囲気がある
- 困っているときも「今忙しいからあとで」と後回しにされる
業務とは直接関係のない雑談やちょっとした声かけが、信頼関係を築く上での土台になります。
小さなコミュニケーションの積み重ねが、離職防止につながるのです。
関連記事:コミュニケーション能力とは?4つの構成要素や高い人の特徴、鍛える方法を解説!
離職防止のための具体的な5つのコミュニケーション方法
離職を防ぐためには、制度や待遇の整備だけでなく、日々のコミュニケーションの質が極めて重要です。
ここでは、現場で実践できる具体的なコミュニケーション手法を5つ紹介します。
1. 定期的な1on1で本音を引き出す
1on1ミーティングは、上司と部下が1対1で向き合う貴重な時間です。
月1回以上の頻度で継続的に行うことで、部下の本音や悩みをキャッチしやすくなります。
業務の進捗確認にとどまらず、感情面や将来のキャリアに関する不安・希望にまで踏み込んだ内容にすることがポイントです。
形式的なヒアリングでは意味がなく、信頼関係があってはじめて本音は引き出せます。
上司はムリに話を聞き出そうとせず、聴く姿勢を徹底することが大切です。
共感的に耳を傾けることで、部下はこの人には話していいと感じ、関係性が深まります。
実践ポイントは以下の通りです。
- 「最近どう?」など雑談から自然にはじめる
- 話の主導権は部下にもたせ、遮らずに聴く
- 感情や考えを否定せず、まずは受け止める
この習慣が、離職のサインを早期に察知するセンサーとなります。
2. 感謝とフィードバックをセットで伝える
「ありがとう」のひと言は、想像以上に強いモチベーションの源になります。ただし、それを習慣化しなければ意味がありません。
日常の小さな行動や姿勢に対しても、言葉でしっかり感謝を伝えるよう心がけましょう。
また、感謝とセットでフィードバックを伝えると、より効果的です。
ただ成果だけを褒めるのではなく、「事実+感情+期待」の3点セットを意識しましょう。
例 )
「〇〇の資料を短時間で仕上げてくれて助かった(事実)。本当に頼りになると感じたよ(感情)。これからも、〇〇さんらしい工夫を期待してる(期待)」
このように伝えることで、単なる「評価」ではなく、「認められている感覚」が相手に届きます。
フィードバックの質を高めるための工夫は以下の通りです。
- 主語を「私」にして感情を伝える
- ネガティブな指摘がある場合も、最後は前向きな期待で締めくくる
- 他の人の前ではなく、1対1で伝えるのが基本
感謝とフィードバックは、日々の信頼構築の基盤です。
3. 雑談や日常会話を意識的に取り入れる
離職を防ぐうえで、雑談が重要な役割を果たします。
雑談は、業務に関係のない会話を通じて、人としてのつながりを感じられるからです。
あいさつや天気の話、趣味の共有など、ちょっとした会話の積み重ねにより、心理的安全性を高められます。
心理的安全性とは、「この職場なら、自分の意見や失敗をしても大丈夫だ」と安心して発言・行動できる状態です。
部下の方から話しかけるのをまつのではなく、上司の側から積極的に声をかけることで、壁を取り払いやすくなります。
雑談から得られる情報例は以下の通りです。
- 趣味や関心 → モチベーション源を知る手がかりに
- 表情やトーンの変化 → 小さな不調や違和感の察知
- 家族や休日の過ごし方 → ワークライフバランスの把握
部下を仕事の成果で判断する存在としてではなく、ひとりの人間として接することが、信頼と定着の鍵です。
4. 社員の目標ややりたいことに合わせた業務へアサインする
離職防止の観点で見落とされがちなのが、本人のやりたいことと実際の業務内容とのギャップです。
たとえ待遇や人間関係が良好でも、自分の成長や関心と無関係な仕事が続けば、モチベーションは次第に低下していきます。
そのため、1on1や評価面談を通じて、社員の志向やキャリアビジョンを把握しておくことが重要です。
たとえば「マーケティングに挑戦したい」「新しいプロジェクトに関わってみたい」といった希望を把握しておけば、業務の一部に反映できます。
もちろん、すべての希望を即時に叶えることは難しいかもしれません。しかし、「完全に反映すること」よりも、「一部でも取り入れようとする姿勢」が、上司や会社への信頼につながります。
実践ポイントは以下の通りです。
- 定期的に「やってみたいことリスト」を更新してもらう
- 志向に合ったタスクやプロジェクトを少しずつ試してもらう
- 異動・社内公募制度など、将来的な選択肢も示す
社員にとって「自分の未来が描ける職場」であることは、定着の大きな原動力になります。
5. 意見を言いやすいフラットな環境を築く
「何かあれば言ってね」と声をかけるだけでは、社員は本音を打ち明けてはくれません。
意見がきちんと受け止められ、反映された経験があるかどうかが、心理的安全性に直結します。
ミスや指摘に対してすぐに否定したり責めたりすると、社員は萎縮し、「もう何も言わない方が楽だ」と考えるようになるでしょう。
反対に、ミスを責めず、挑戦や意見を歓迎する文化をつくることで、自然と声が上がるようになります。
また、上司自身が自らの失敗や弱みをオープンに話すことも有効です。
完璧な人ではなく、同じように悩んでいる存在として見えることで、上下関係の壁が和らぎます。
フラットな環境をつくる具体策は以下の通りです。
- 会議やチャットで「意見を歓迎するスタンス」を毎回明示する
- 反対意見や指摘が出た際は、まず感謝と受容の姿勢を示す
- 上司が自分のミスや課題を共有する時間を意図的に設ける
意見が届く職場には信頼と安心が生まれ、離職の歯止めにもつながるでしょう。
関連記事:社内コミュニケーションツールで解決できることは?目的別おすすめ12選!
離職防止のためのコミュニケーション|企業の実践事例
離職防止には、制度や待遇だけでなく、職場内のコミュニケーションの質が大切です。
近年では、従業員同士や上司・部下の関係性を深めるため、さまざまな取り組みを実践する企業が増えています。
ここでは、コミュニケーションを起点に従業員の定着率向上を実現している3社の成功事例を紹介します。
株式会社資生堂|リバースメンター制度の導入
資生堂では、2017年からリバースメンター制度を導入し、若手社員が上司や経営層に対してフィードバックを行う仕組みを構築しています。
この制度は、若手社員が主導となって意見や考えを伝えることで、上司との相互理解を深め、世代間の価値観のギャップを埋めることが目的です。
上司にとっては、自分では気づけなかった若手の悩みや視点に触れる機会となり、若手にとっては、「自分の声が上に届く」という実感を得られる貴重な場になります。
効果は以下の通りです。
- 若手社員のエンゲージメント向上
- 上司の固定観念のアップデート
- 信頼関係にもとづく双方向の対話が社内に定着
リバースメンター制度は、従来の縦型組織に風通しの良さを生み出し、離職防止に大きく寄与しています。
パナソニックホールディングス株式会社|オンラインコミュニティ「キャリクロ」
パナソニックでは、中途入社社員の定着支援を目的に、社内オンラインコミュニティ「キャリクロ(キャリアクロスオーバー)」を運用しています。
この取り組みでは、パナソニック2,000人の社員同士がつながることで、孤立感を防ぎ、業務に関する悩みを相談しやすくする場を提供しています。
さらに、社内チャットツールには「相談チャンネル」を設置し、気軽に困りごとを共有できる環境を整えているのが特徴です。
効果は以下の通りです。
- 中途社員の早期離職リスクを軽減
- 相談・雑談のしやすさから、心理的安全性が向上
- 部署や上下関係を越えた横のつながりを形成
業務外のゆるやかなつながりが、組織への帰属意識や安心感を育む土台となっています。
北の達人コーポレーション|「GOOD&NEW」で社内の一体感を醸成
北の達人コーポレーションでは、毎日実施される「GOOD&NEW」という仕組みを通じて、社員同士のコミュニケーションを活性化しています。
3〜5人の少人数グループに分かれて、24時間以内にあった「よかったこと(GOOD)」や「新しい発見(NEW)」を共有するというものです。
業務に直接関係のない内容も歓迎されており、リラックスした雰囲気の中でお互いを知るきっかけとなっています。
効果は以下の通りです。
- 会話の量が増え、社内の雰囲気が明るくなる
- 小さな成功や気づきに対する意識が高まる
- 感情や価値観の共有が信頼構築につながる
日常に根ざした仕組みが、結果として離職率の低下に寄与しています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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