- 更新日 : 2025年7月11日
就業規則の退職1ヶ月前ルールは絶対?民法の2週間前ルールとの違いや注意点を解説
退職を決意したとき、多くの方が最初に確認するのが会社の就業規則ではないでしょうか。そこに「退職する際は、1ヶ月前までに申し出ること」といった記載を見つけ、「これは絶対守らなければならないのか?」「法律では2週間前と聞いたことがあるけれど…」と疑問や不安を感じる方が少なくありません。
この記事では、就業規則における退職1ヶ月前の規定について、法律との関係性、守らなかった場合のリスク、そして何よりも円満に退職するための具体的なステップや注意点を詳しく解説します。
目次
就業規則で退職1ヶ月前ルールを定める理由
企業が就業規則で「退職は1ヶ月前までに申し出ること」と定めるのには、事業を円滑に運営するためのいくつかの重要な理由があります。
スムーズな業務引き継ぎのため
退職者が出ると、その担当業務を後任者へ引き継ぐ必要があります。業務内容の複雑さや範囲によっては、十分な引き継ぎに数週間から1ヶ月程度の期間を要することは少なくありません。企業は、この期間を確保し、業務の停滞や商品やサービスの品質低下を防ぎたいと考えます。1ヶ月前という期間は、後任者の選定、業務説明、関係各所への周知など、一連の引き継ぎプロセスを無理なく行うための現実的な目安として設定されることが多いです。
後任者の採用・配置期間の確保のため
特に専門性の高い職種や、人材獲得が難しいポジションの場合、後任者を見つけて採用し、配置するまでには相応の時間がかかります。求人活動、選考、内定、そして実際に入社して業務を開始するまでには、1ヶ月以上の期間を要することが珍しくありません。企業は、欠員期間を最小限に抑え、組織運営への影響を軽減するために、この採用・配置に必要な期間を考慮して1ヶ月前の申し出を求めるのです。
組織運営の安定性と計画性のため
従業員の急な退職は、残る従業員の業務負担増加、職場の士気低下、生産性の悪化など、組織運営にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。企業は、人員の変動を可能な限り予測し、計画的な人員管理・人員配置を行いたいと考えます。「1ヶ月前ルール」は、企業が組織の安定性を維持し、突発的な混乱を避けるためのリスク管理の一環としての意味合いも持っています。これにより、企業はより安定した事業継続を目指すのです。
就業規則の1ヶ月前と民法の2週間前はどちらが優先される?
退職の申し出期間が就業規則と民法で規定が異なる場合、どちらが優先されるのかは、多くの方が抱く疑問です。ここでは、それぞれの規定内容と法的な考え方を整理します。
原則は2週間前で退職可能
日本の民法第627条1項では、雇用期間が期間の定めのない契約の場合、労働者は退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば雇用契約が終了することが定められています。この規定は、労働者を不当な長期間の拘束から守るためのものであり、労働者の「退職の自由」を保障する基本的な規定です。つまり、法律上は、労働者は会社に対して2週間前に退職を申し出れば、原則として退職できることになります。就業規則1ヶ月前ルールの法的効力
一方、多くの企業では就業規則で「退職は1ヶ月前までに申し出ること」と定めています。この規定は、民法の2週間よりも長い期間を要求するものですが、直ちに無効となるわけではありません。就業規則の規定も、それが著しく不合理でない限り、労働契約の内容として一定の効力が認められます。業務の引き継ぎや後任者確保に必要な期間として、1ヶ月程度の予告期間は社会通念上合理的と判断されることが多いのが実情です。
過去の判例での判断
過去の裁判例を見ると、1ヶ月程度の退職予告期間を定めた就業規則は、企業の円滑な事業運営に必要な範囲内として有効と判断される傾向にあります。しかし、これが半年や1年といった極端に長い期間になると、労働者の退職の自由を不当に制限し、公序良俗に反するものとして、その全部または一部が無効と判断される可能性が高くなります。つまり、就業規則に民法の規定より長いルールを定めたとしても無制限に有効となるのではなく、その合理性が問われることになります。
円満退職を目指すなら1ヶ月以上前の申し出が賢明
法的には民法の2週間ルールが労働者の権利として存在しますが、実務上は就業規則の1ヶ月前ルールも一定の効力を持ちます。
円満退職を目指すなら、まずは就業規則の規定を尊重し、1ヶ月以上前に申し出るのが賢明です。ただし、やむを得ない事情がある場合や、就業規則の規定が不当に長い場合は、民法の原則が重視されることがあります。法的な権利と円滑な実務対応のバランスを考慮することが大切です。
就業規則の退職1ヶ月前ルールを無視したらどうなる?
「もし就業規則の1ヶ月前ルールを守らなかったら、何か法的なペナルティがあるのだろうか?」「会社に不利益を与えたとして、責任を問われることは?」と不安を感じる方もいるでしょう。ここでは、予告期間を守らなかった場合のリスクについて解説します。
強制労働は禁止されている
まず大前提として、日本国憲法や労働基準法により強制労働は禁止されています。労働者が退職の意思を明確に示した場合、会社が不当に退職を妨げることはできません。たとえ就業規則の予告期間を守らず、民法に基づき2週間で退職を申し出たとしても、その期間が経過すれば法的には雇用契約は終了します。会社が「辞めさせない」と主張しても、労働者を無理やり働かせ続けることはできません。
損害賠償請求のリスクは少ない
「予告期間を守らないと損害賠償を請求される」と不安を感じる方もいますが、実際に労働者が会社から損害賠償を請求され、それが裁判で認められるケースは少ないのが現状です。なぜなら、会社側が、労働者の急な退職と会社の被った具体的な損害との間に直接的な因果関係があり、かつ労働者に悪質な意図や重大な過失があったことを証明するのは非常に困難だからです。ただし、無断欠勤や機密情報持ち出しなど、労働者に悪質な行為があった場合は別です。
退職金が減額・不支給になる可能性がある
就業規則や退職金規程の中に、「正当な理由なく会社の承認を得ずに退職した場合」や「懲戒解雇に相当するような状況で退職した場合」に退職金を減額または不支給とする条項が設けられていることがあります。予告期間を守らないことが、これらの条項に該当すると判断されれば、退職金に影響が出る可能性は否定できません。裁判などで争った場合に退職金の減額や不支給が無効と判断される可能性はありますが、まずは自社の規程を確認することが重要です。
円満退職が困難になる可能性がある
法的なリスク以上に懸念すべきは、円満な退職が難しくなることです。十分な引き継ぎができず職場に迷惑をかけたり、上司や同僚との関係が悪化したりする可能性があります。特に同業界での転職を考えている場合、悪い評判が流れ、転職に影響することがないとは言えません。また、退職後の手続き(離職票の発行など)で会社に協力を得にくくなることもあります。社会人としてのマナーを守り、円満な関係を保つ努力が大切です。
就業規則の退職1ヶ月前ルールを守って円満退社する方法
法的な権利やリスクを理解した上で、やはり目指したいのは「円満退職」です。就業規則の退職1ヶ月前ルールと上手に付き合い、スムーズな退職を実現するための具体的なポイントを解説します。
1. 退職の意思を固めたら、まずは直属の上司に相談・報告
円満退職の第一歩は、直属の上司に退職の意思を伝えることです。
- タイミング
就業規則の「1ヶ月前」を意識しつつ、担当プロジェクトの区切りや繁忙期を避けるなど、職場への配慮も大切です。 - 伝え方
まずは口頭で、上司に時間を作ってもらって個別に伝えましょう。 退職理由は詳細に話す必要がなければ「一身上の都合」で構いません。感謝の気持ちと共に誠意を持って伝えることが重要です。 いきなり人事部やさらに上の役職者に伝えるのは、上司の顔を潰すことになりかねないので避けましょう。 - 退職希望日
具体的な退職希望日を伝え、相談の上で最終的な退職日を決定します。
2. 退職願(または退職届)を正式に提出する
上司との話し合いで退職の合意が得られたら、会社の規定に従って退職願(または退職届)を提出します。一般的には、退職願は「退職のお願い」であり、会社の承認を持って退職が成立します。一方、退職届は「退職します」という確定的な意思表示で「辞職」の意味を持ちます。会社に書式があればそれに従い、なければ自分で作成します。
3. 計画的かつ誠実な引き継ぎを行う
円満退職に不可欠なのが、責任ある引き継ぎです。
- 引き継ぎ資料の作成
担当業務の内容、業務フロー、関連資料の保管場所、社内外の連絡先などをまとめた資料を作成しましょう。 誰が見ても分かるように、丁寧かつ具体的に記載することがポイントです。 - 後任者へのOJT
後任者が決まったら、口頭での説明だけでなく、実際の業務を通じて指導(OJT)し、スムーズに業務を移行できるようサポートします。 - 進捗報告
引き継ぎの進捗状況を上司に定期的に報告し、不明点や懸念点を残さないように努めましょう。 - 関係各所への挨拶
社内外でお世話になった方々へ、可能な範囲で挨拶を済ませておきましょう。
4. 有給休暇の消化について話し合う
残っている有給休暇があれば、退職日までに消化できるよう会社と交渉しましょう。引き継ぎ期間との兼ね合いもあるため、早めに上司に相談することが大切です。法律上、労働者には有給休暇を取得する権利がありますが、円満に退職するためには、会社の状況も考慮した上で話し合う姿勢が必要です。
就業規則の退職1ヶ月前ルールに関してよくある疑問
ここでは、退職1ヶ月前ルールに関して、特に多く寄せられる疑問についてQ&A形式でお答えします。
退職1ヶ月前の正しい数え方は?
退職1ヶ月前の数え方は、就業規則の具体的な文言によりますが、一般的には退職希望日から暦に従って1ヶ月遡った日を指します。たとえば、6月30日に退職したい場合、5月31日までに申し出る、といった具合です。民法では申し出の翌日から起算しますが、就業規則では「退職日の1ヶ月前の日までに」といった表現が多いでしょう。不明な場合は、月の大小(30日か31日か)やうるう年も考慮し、余裕をもって人事担当者に確認するのが確実です。
会社を辞めさせてくれない場合の対処法は?
労働者には退職の自由があり、会社は不当に退職を拒否できません。「後任が見つかるまで」といった理由で退職を認めないのは違法になる可能性が高くなります。どうしても退職しなければならない事情があるのに会社が強引に引き留める場合は、まずは退職の意思を明確に記載した退職届を内容証明郵便で送付しましょう。それでも状況が改善しない場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談し、適切なアドバイスやサポートを求めることをおすすめします。
1ヶ月前に伝えたら怒られた…どうすれば?
就業規則通りに伝えても、上司が感情的になるケースはあります。まずは冷静に対応し、相手の懸念(人手不足など)を理解しようと努めましょう。退職の意思が固いことを改めて伝え、引き継ぎに責任を持つ姿勢を示すことが大切です。会社の不満を述べるのは避け、誠実な対話を心がけてください。それでも改善しない場合は、さらに上の役職者や人事部に相談することを検討しましょう。
円満退職のために就業規則の退職1ヶ月前ルールを守りましょう
就業規則の退職1ヶ月前ルールは、円滑な事業運営のための企業側の要請・依頼です。法的には民法の2週間ルールも存在しますが、円満退職を目指すなら就業規則を尊重し、計画的に準備を進めるのがよいでしょう。引き継ぎに誠意を尽くし、会社と良好なコミュニケーションを取ることが重要です。やむを得ない事情がある場合やトラブルが生じた場合は、一人で抱え込まず、専門家に相談しましょう。正しい知識と誠実な対応で、スムーズな退職と新たな門出を実現してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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