- 更新日 : 2025年4月17日
時間単位の有給休暇の義務化はいつから?2025年最新内容〜導入方法を紹介
「時間単位年休」は、現在は企業の任意導入ですが、今後義務化が検討されています。
導入すれば有給取得のしやすさが向上する一方、勤怠管理の負担増や業務効率の低下といった課題も考えられるでしょう。
本記事では、基本ルール・企業のメリット・導入時の注意点・スムーズな運用方法を解説します。
目次
時間単位の年次有給休暇導入に法的義務はない
時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)は、企業にとって導入が義務付けられているものではなく、任意の制度です。
現行の労働基準法では、企業が労使協定を締結することで、年5日以内の範囲で時間単位年休を導入できます。
しかし、すべての企業がこの制度を導入しているわけではなく、従業員が自由に利用できるとは限りません。
2021年に発表された厚生労働省の「年次有給休暇の現状について」によると、時間単位年休制度を導入している企業は以下の通りです。
時間単位年休制度導入の有無 | 割合 |
---|---|
導入している | 22.0% |
導入していない | 77.8% |
無回答 | 0.3% |
また、企業規模が大きくなるほど、時間単位年休の導入率はやや高くなる傾向があり、従業員99人以下の中小企業でも導入率は22.9%あります。
300~999人規模の企業では17.0%と、企業規模によってばらつきがあります。(引用:年次有給休暇の現状について|厚生労働省)
年次有給休暇は、従業員の満足度向上や離職率低下といったメリットがあるものの、導入が進んでいないのも事実です。
いつから?時間単位年休の上限を付与日数の50%程度に緩和を検討
2024年12月、政府の中間答申において、時間単位年休の上限を年次有給休暇の付与日数の50%程度に緩和する案が検討されました。
緩和検討により、従業員が柔軟に有給休暇を活用できる可能性が高まります。労働政策審議会にて議論が進められており、2025年度中に結論が出る予定です。
現状の制度では年5日以内しか時間単位年休を取得できません。しかし、上限が緩和されると、有給休暇が14日付与されている場合は7日分までの時間単位年休が取得可能です。
そのため、育児や介護・通院など、個別の事情に対応しやすくなり、従業員のワークライフバランスの改善につながることが期待されています。
現時点で正式に決定しているわけではありませんが、企業は今後の法改正を見据え、時間単位年休の運用ルールを再検討する必要があります。
現在の年次有給休暇の基本ルール
年次有給休暇は、労働基準法にもとづき、一定の条件を満たした労働者に対して付与される休暇制度です。
有給休暇は、労働者が給与を受けながら休息を取る権利を保障するために設けられています。
付与の条件
労働者が有給休暇を取得するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 雇い入れの日から6ヶ月が経過している
- 全労働日の8割以上出勤している
たとえば、新入社員が4月1日に入社した場合、10月1日には最初の有給休暇が付与されます。
ただし、欠勤が多く、6ヶ月間の出勤率が8割を下回る場合は、付与されない点に注意が必要です。
パートタイムや契約社員も、上記の条件を満たせば有給休暇を取得できます。
勤務日数が少ない人ほど出勤率を維持することが大切なので、計画的に基準をクリアすることを心がけましょう。
付与される日数
有給休暇の付与日数は、週の所定労働日数と勤続年数によって異なります。
法律上の最低付与日数は以下のとおりです。
【有給休暇の最低付与日数(法定基準)】
勤続年数 | 週5日以上勤務 | 週4日 | 週3日 | 週2日 | 週1日 |
---|---|---|---|---|---|
6ヶ月 | 10日 | 7日 | 5日 | 3日 | 1日 |
1年6ヶ月 | 11日 | 8日 | 6日 | 4日 | 2日 |
3年6ヶ月 | 14日 | 11日 | 8日 | 6日 | 3日 |
5年6ヶ月 | 16日 | 13日 | 10日 | 7日 | 4日 |
6年6ヶ月 | 20日 | 15日 | 11日 | 8日 | 4日 |
企業によっては最低基準よりも多くの日数を付与しているケースもあります。
たとえば、勤続年数に応じて追加の特別休暇を付与する企業もあり、社内規定を確認することが重要です。
2019年から有給休暇の年5日取得が義務化
2019年4月の労働基準法改正により、有給休暇の取得促進が強化されました。
冒頭に述べたように有給休暇が年間10日以上付与される労働者については、年5日の取得が義務化されています。
有給休暇に関する企業の義務をまとめると以下の通りです。
- 従業員が年5日以上の有給休暇を取得していない場合、企業側が取得日を指定
- 指定する際は、労働者の希望を考慮する必要あり
- 違反した場合、企業に対して30万円以下の罰金あり
改正により、従業員が有給休暇を取得しやすくなった反面、企業側には適切な管理が求められるようになりました。
注意点として、5日分の有給休暇を時間単位で取得しても、法定の5日間の取得義務にはカウントされません。
そのため、企業が日単位で有給休暇を取得させなければ違法になる可能性があります。
企業は、有給休暇の取得状況を定期的に確認し、労働者が適切に休暇を取得できる環境を整えることが重要です。
有給休暇の使用ルール
有給休暇は、労働者が自由に取得できる権利であり、取得理由を企業に説明する必要はありません。
たとえば、「旅行をする」「リフレッシュしたい」といった私的な理由であっても問題なく取得できます。
しかし、企業には「時季変更権」が認められており、業務に著しい支障がある場合には、取得時季の変更を求めることが可能です。
時季変更権とは、労働基準法第39条にもとづき、企業が労働者の請求した年次有給休暇の取得時季を変更できる権利です。
たとえば、繁忙期に多くの従業員が同時に休暇を申請した場合、企業は時季変更権を行使し、休暇の時期をずらすように求められます。
ただし、この権利はあくまで「変更を求める」ものであり、企業が有給休暇の取得自体を拒否することはできません。
労働者は、自分の権利を理解したうえで、適切に有給休暇を活用しましょう。
時間単位の年次有給休暇の義務化によるメリット
時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)が義務化されると、労働者と企業の双方にメリットがあります。
時間単位年休の義務化は、労働環境の改善だけでなく、企業の人材定着や生産性向上にもつながる可能性があり、今後の労働政策の方向性としても重要な制度です。
労働者のメリット
時間単位年休が義務化されることで、労働者はこれまでよりも柔軟に有給休暇を活用できるようになります。
たとえば、通院や育児・介護、役所手続きなど、短時間の対応が求められる場面での休暇取得がしやすくなります。
労働者にとっての時間単位年休の具体的なメリットは以下の通りです。
- 短時間の予定に対応:通院・育児・介護・役所手続きなどへの対応可能
- 労働時間の調整:フルタイム勤務が難しい日の時間単位での休暇取得可能
- 有給の有効活用:1日単位では消化しづらい有給の細かい活用可能
- 取得率の向上:有給のムダをなくし、リフレッシュの促進
「午前中だけ出勤して午後は役所手続きを済ませる」「子どもの送り迎えに合わせて2時間だけ休む」など、これまで1日単位の休暇では取りづらかった状況でも、有給休暇を取得しやすくなります。
時間単位年休が義務化されることで、有給の取得ハードルが下がり、結果的に労働者のワークライフバランスの向上につながります。
企業側のメリット
企業にとっても、時間単位年休の義務化には多くのメリットがあります。
従業員が柔軟に休暇を取得できることで、満足度が向上し、離職率の低下につながると考えられます。
また、短時間の休暇取得が可能になることで、突発的な欠勤が減り、業務の計画が立てやすくなるでしょう。
時間単位年休の企業側のメリットは以下の通りです。
- 従業員の満足度向上:柔軟な働き方の実現と働きやすい環境の整備
- 離職率の低下:ワークライフバランスの向上による定着率の向上
- 業務調整のしやすさ:1日単位の休暇取得減少による計画的な勤務の実現
たとえば、従業員が午前中だけ休んで午後から出社することで、完全な欠勤を防ぎ、業務への影響を最小限に抑えられます。
時間単位年休の義務化は、企業にとっても従業員にとってもメリットがあり、労働環境の改善と生産性向上に寄与する制度といえるでしょう。
時間単位の年次有給休暇を義務化する際の3つのデメリット
時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)の義務化は、労働者にとって利便性が向上します。
一方で、企業にとっては管理の負担や業務効率の低下、人員配置の難易度上昇といった課題が発生する可能性もあるでしょう。
1. 勤怠管理の負担増
時間単位年休が義務化されると、企業は時間単位での有給休暇の管理を行う必要があり、労務管理が複雑化します。
とくに、手作業やExcelで勤怠管理を行っている企業では、計算ミスや手続きの負担が増大するリスクが高まるでしょう。
たとえば、従業員が「2時間の有給休暇」を取得するたびに、残りの有給日数を正確に計算し管理する必要があります。
そのため、中小企業では、新たなシステム導入やレギュレーション強化などを行い、管理負担を軽減できるようにしましょう。
2. 業務効率が低下する可能性
時間単位での有給休暇取得が増えることで、業務の流れが頻繁に途切れ、効率が低下するリスクがあります。
チームで進める業務やプロジェクト単位で動く仕事では、担当者が短時間だけ抜けることで進捗に影響が出る可能性があります。
たとえば、会議の直前や直後に担当者が1〜2時間程度の有給休暇を取得するだけでも、情報共有の手間が増えることも考えられるでしょう。
また、短時間の休暇を取得する従業員が増えることにより、引き継ぎ回数が増えて、チーム内のコミュニケーションコストも上がる可能性があります。
結果的に業務全体の生産性が低下する可能性があるため、従業員の休暇取得方法については社内で取り決めをしておくのがよいでしょう。
3. 人員配置・シフト調整の難易度上昇
時間単位年休の義務化により、「この時間だけ休みたい」という従業員の申請が増えると、企業は人員配置の調整に配慮しなければなりません。
とくに、シフト制で動いている業種では、時間単位での休暇取得が増えることで人員不足のリスクが高まります。
たとえば、飲食店のランチタイムに複数の従業員が時間単位年休を取得すると、現場の人手が不足し、サービスの質が低下する可能性があります。
また、医療や介護の現場では、特定の時間帯に人員が減ることで、業務負担が一部のスタッフに偏るリスクが高まる場合もあるでしょう。
時間単位の年次有給休暇を導入する5つのステップ
時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)を導入するには、企業が適切な手続きを踏む必要があります。
とくに、労使協定の締結や就業規則の改定、勤怠管理システムの整備など、スムーズな運用に向けた準備が重要です。
1. 労使協定の締結
時間単位年休を導入するためには、企業と労働者の間で労使協定を締結することが必須です。
労使協定とは、労働組合または従業員代表と協議し、時間単位年休の取得ルールを明確にするための手続きを指します。
労使協定で決定すべきポイントは以下の通りです。
- 取得可能な上限:年間5日(40時間)まで(現行の労働基準法)
- 取得対象者:フルタイム・パートタイムの範囲を明確にする
- 適用開始時期:社内で導入スケジュールを決定
2025年度には時間単位年休の上限が拡大される可能性があるため、最新の法改正の動向も確認しながら協定を進めることが重要です。
2. 取得ルールを決定
時間単位年休の導入後、従業員が適切に利用できるように、取得ルールを明確に定める必要があります。
取得ルールの主な決定事項は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
取得単位 | 1時間単位(例:2時間だけ取得可能など) |
年間取得上限 | 5日分=40時間(現行法) |
申請方法 | 事前申請・当日申請の可否 |
承認フロー | 上司の承認が必要か、申請のみで取得可能か |
企業によっては、業務の影響を考慮し「当日申請は不可」「1回の取得は2時間以上」などの制限を設けることもあります。
取得ルールを明確に定め、従業員が休暇を取得しやすい組織体制にしましょう。
3. 就業規則を改定
労使協定で決定したルールを正式な社内規則として明文化し、従業員に周知するために、就業規則を改定する必要があります。
就業規則に記載すべきポイントは以下の通りです。
- 時間単位年休の取得方法(申請手続きや取得単位)
- 取得制限の有無(繁忙期の取得制限など)
- 有給休暇の消化順序(通常の有給休暇とのバランス)
また、変更後の就業規則を従業員に説明し、誤解が生じないように対策することも重要です。
とくに、新ルールに戸惑う可能性のある管理職には、事前の説明を徹底することが求められます。
4. 勤怠管理システムを整備
時間単位年休を正しく運用するためには、勤怠管理システムの対応状況を確認し、必要に応じてシステムを整備する必要があります。
まずは、既存の勤怠管理システムが時間単位年休に対応しているか確認し、必要に応じて新しいシステムの導入を検討しましょう。
たとえば、紙やExcelで有給休暇を管理している企業では、計算ミスや手続きの手間が増大する可能性があるため、クラウド型勤怠管理システムの導入が推奨されます。
勤怠管理システムを導入すると業務効率も上がるため、組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
5. 従業員に周知し運用を開始
制度を円滑に運用するためには、従業員に対してルールをしっかり周知し、適切に活用できる環境を整えることが重要です。
時間単位年休に関する取り決めを社内周知する方法として、以下のようなものが挙げられます。
- 社内説明会の実施:取得ルールや申請手続きの説明
- マニュアルの作成・共有:社内ポータルや掲示板で情報を提供
- 管理職向け研修:適切な対応ができるよう指導
とくに、管理職には「時季変更権の運用方法」や「繁忙期の休暇調整方法」など、実務に即した研修を行うことで、スムーズな導入を支援できます。
従業員に取得条件について事前に伝え、働きやすい環境を実現しましょう。
時間単位の有給休暇義務化は2025年度に決まる予定
現在、政府では時間単位年休の上限を拡大する法改正を検討しており、2025年度中に結論が出る見込みです。
今後の法改正に備え、企業は早めに制度導入の準備を進めることが求められます。
企業が時間単位年休を適切に導入し、従業員が有効活用できる環境を整えることで、働きやすい職場環境の実現につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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