• 更新日 : 2025年2月28日

台風で有給取得させるのはおかしい?強制取得の禁止や無給のルールなどを解説

台風などの悪天候で出社が困難な場合、企業が従業員に有給を取得させる対応は適切なのでしょうか。本記事では、台風時の有給休暇取得に関する法律的な側面について詳しく解説します。安全確保と法令順守の観点から、台風時の対応をチェックしておきましょう。

台風で会社を休む場合は原則無給

台風による交通機関のストップや危険な暴風雨で出勤できない場合、原則として「ノーワーク・ノーペイ(働かなければ賃金は発生しない)」が適用されます。つまり、労働者・使用者いずれの責任でもない不可抗力による休業で仕事をしなかった場合、その時間分の給料は支払われないのが原則です。したがって、台風で会社を休んだ場合、年次有給休暇を取得しない限り原則無給となります。

ただし、この原則には重要な例外があります。労働基準法第26条により、会社都合の休業時には、少なくとも平均賃金の60%以上の手当を支払わねばなりません。例えば、「台風の影響自体は軽微だが会社判断で念のため休業した」ようなケースでは、会社都合の休業と評価され、休業手当の支払い対象となります。さらに、本来出社・就労可能だったのに会社の判断で休みにした場合には、民法536条2項の適用により、賃金の100%の請求が認められる場合もあります。

まとめると、台風で会社が休業となった場合、その原因が「会社の判断」か「台風という不可抗力」かで賃金補償ルールが異なるのです。会社判断による休業なら休業手当の支払いが必要ですが、台風で休業せざるを得ない場合は無給でも法律違反ではありません。

台風で有給取得させるのはおかしい?

年次有給休暇(年休)は労働者の正当な権利であり、労働者が取得したい時季に与えられるものと法律で定められています。労働基準法第39条により年休取得権が保障されており、会社は労働者からの申請を受けて初めて有給休暇を取得させることができます。

したがって、会社が一方的に「この日は有休扱いにする」と強制することはできません。台風の日に出社困難となり休業させる場合でも、会社が従業員に無断で有給を消化するのは違法となります。例えば、不可抗力ではない会社都合の休業なのに、休業手当の支払いを避ける目的で有給休暇を従業員に消化させる行為は許されません。労働基準監督署など行政の見解でも、年次有給休暇は労働者の請求によって初めて成立するものとされ、会社が一方的に有給扱いと命じることはできないとしています。

ただし、従業員が同意した場合に限り、有給休暇として処理することは可能です。また、従業員側が台風の日に無給欠勤となるのを避けるため、自主的に有給休暇を申請して休むことも認められています。実際、「他の社員は出社できても自分の地域は暴風雨がひどい」「利用路線が計画運休した」などのケースでは、従業員の判断で年休を取得する選択肢も合理的でしょう。その際、会社への有給申請理由の書き方としては「台風のため出社困難のため」などと簡潔に記載すれば十分です。

台風で有給を強制取得させた場合の罰則

台風時の有給の対応で法律違反があった場合、労働基準監督署など行政機関が介入するケースもあります。例えば、会社が労働基準法に反して有給休暇を強制消化させたり、支払うべき休業手当を支給しなかった場合、従業員は労働基準監督署に相談・申告して是正を求めることができます。労基署が調査の上で明らかな労働基準法違反を認めれば、会社に対して是正勧告や改善指導といった行政指導が行われます。

是正勧告を受けた企業は、速やかに違反状態を解消するよう求められ、従わない場合は罰則適用のため司法手続きに移行する可能性も出てきます。過去には、台風の日に有休取得を拒否・欠勤扱いした会社を労働基準監督署に通報したという例や、逆に「台風で休ませたが有給扱いにされた」として相談が寄せられたケースも伝えられています。

いずれにせよ、「台風時に会社休みにならない」「有給を使わされた」といった従業員の不満が高まれば、行政に相談され企業名公表や立ち入り調査につながる恐れもあります。企業としては法令遵守はもちろん、従業員の声にも耳を傾け、トラブルを未然に防ぐ配慮が重要です。

台風時に出勤する場合の安全配慮義務

労働契約法第5条では、使用者(会社)は労働者の安全に配慮する義務を負うことが明記されています。これは、従業員がその生命・身体の安全を確保しながら働けるよう配慮する責任で、自然災害時にも適用されます。

そのため、台風による暴風雨が予想される状況下で「絶対に出社せよ」と強制することは、場合によっては安全配慮義務違反に問われる可能性があります。例えば、台風直撃の日に出社を命じた結果、通勤途中で従業員が負傷したり命の危険に晒された場合、企業は安全配慮を怠ったとして損害賠償責任を追及されうるのです。

企業には従業員の安全を最優先に考える姿勢が求められており、無理な出社命令は法的リスクだけでなく社会的信用の低下にもつながりかねません。法律上、安全配慮義務違反そのものに刑事罰はありませんが、重大な事故が起きれば民事上の賠償責任や労災認定にも発展し得るため注意が必要です。

台風時の一般的な企業の対応

多くの企業では、就業規則や社内マニュアルで台風など荒天時の出勤基準や対応を定めています。一般的な対応は、以下の通りです。

  • 特別休暇の付与
  • 自宅待機の指示
  • 時差出勤・早退の許可
  • 在宅勤務・テレワークへの切替
  • 出勤日の振替 など

例えば、大型台風接近が予報される場合、前日までに「明日は自宅待機」「出社不要」と指示して従業員の安全確保を図る企業もあります。就業規則上、災害時の休業に関する項目を設けている会社では、一定の条件下で従業員を出勤させない措置を講じ、その際の賃金取扱いも定めています。

典型的な規定例として「始業時刻までに暴風警報が発令され公共交通機関が運休している場合は臨時休業とする」「主要交通機関が止まった場合は全社休業」等があります。実際に「通勤にもっとも利用者が多い路線が運休の場合は休業」と社内基準を決めている会社もあり、そのような全社統一ルールがあると従業員間で不公平感が生じずスムーズです。

一方、災害時に出勤を各社員の自己判断に委ねる方針の企業もあります。この場合、「来られる人だけ来て、来られない人は欠勤または有給で対応」という形になりますが、後述するトラブルの元にもなりやすいため、事前に十分な説明が必要でしょう。

なお、公務員については「交通遮断による特別休暇」制度が整備されており、台風等で出勤不能な場合に年休とは別枠の特別有給休暇を取得できます。たとえば「台風の影響による交通機関不通で出勤できないときは特別休暇扱い」となり、公務員は年休を消費したり欠勤控除されたりしません。

いずれにせよ、会社側は事前に台風時の対応ガイドラインを策定し、就業規則や社内通知で周知しておくことが望ましいでしょう。それにより、いざ台風接近となった際に混乱を避け、「出社する・しない」の判断を迅速かつ公平に下すことができます。

台風時のトラブルを避けるためのポイント

台風などの自然災害が発生すると、企業と従業員の間で「出勤すべきか」「休業時の給与はどうなるか」といった問題が生じやすくなります。企業と従業員が互いに納得し、トラブルなく合意形成を行うためには、事前のルール整備、適切な情報共有、柔軟な対応が求められます。ここでは、会社と従業員が円滑に合意するための台風時の対応について詳しく解説します。

就業規則や社内マニュアルにルールを記載しておく

台風時の対応について、事前にルールを整備しておくことは、トラブルを防ぐ上で極めて重要です。企業側は、従業員に対し「どのような基準で出勤・休業を決めるのか」「休業時の給与処理はどうするのか」といった点を明確にし、事前に周知しておく必要があります。

例えば、以下のようなルールを就業規則や社内マニュアルに記載しておくことで、従業員の混乱を防ぐことができます。

台風時の出勤ルールを設定する

「暴風警報が発令された場合は原則自宅待機」「主要公共交通機関が運休した場合は休業とする」といった具体的なルールを明文化しておくと、従業員も判断しやすくなります。

台風時の給与の取り扱いを明確にする

台風による休業が「会社の判断によるもの」なのか「従業員の自己判断によるもの」なのかによって、給与の取り扱いが異なります。会社の判断で休業とする場合は、休業手当を支払う必要があるため、その点も明確にしておくべきです。

台風時の在宅勤務のルールを設定する

オフィスワークが可能な職種であれば、台風時には在宅勤務に切り替える方針を示すことで、出勤のリスクを避けることができます。在宅勤務が可能な職種・業務について明確に定め、事前に従業員へ伝えておくことが重要です。

こうしたルールをあらかじめ策定し、従業員に共有しておけば、台風が接近した際に「どうすればよいのか」と迷うことがなくなり、スムーズな合意形成が可能になります。

迅速かつ明確な情報を提供する

ルールを整備するだけでなく、台風が接近した際に、企業が従業員に対して迅速かつ明確な情報を提供することも重要です。情報共有が遅れると、従業員が自主的に判断するしかなくなり、出勤・休業の対応にバラつきが生じてしまいます。

企業は、台風の進路や公共交通機関の運行状況を注視し、可能な限り早めに「出勤の可否」について方針を決定する必要があります。前日の夕方や当日の朝6時など、明確な情報提供のタイミングを決めておくと、従業員も安心して対応できます。

会社側からの連絡だけでなく、従業員が「自分の居住地や通勤経路の状況」を適宜報告できる仕組みを整えることも有効です。「最寄り駅が運休している」「自宅周辺が冠水している」といった情報を会社に報告できるようにしておくと、個別対応がしやすくなります。

個別の事情を考慮して柔軟に対応する

会社が「出社か休業か」の二者択一しか認めない場合、従業員の不満や混乱を招きやすくなります。特に台風の影響は地域によって異なるため、個々の状況に応じた柔軟な対応が求められます。

例えば、会社のある地域では交通機関が通常通り運行していても、従業員の居住地では暴風雨が激しく通勤が困難なケースもあります。そのような場合、一律の判断で出勤を求めるのではなく、従業員ごとの状況を踏まえて対応することが重要です。

台風時に出勤した人が通常の給与を受け取り、休んだ人は有給消化を強制されると、不公平感が生じやすくなります。このような状況を防ぐため、特別休暇の導入や代替勤務日を設けるといった工夫も考えられます。

台風時の有給に関するルールを明文化しましょう

台風による出勤困難時の対応は、企業と従業員の双方にとって重要な課題です。法律上、会社都合の休業では休業手当(賃金の60%以上)が必要ですが、台風などの不可抗力による休業はノーワーク・ノーペイが原則です。また、有給休暇は労働者の権利であり、会社が一方的に有給取得を強制するのは違法です。

適切な対応として、就業規則に台風時の勤務ルールを明文化し、特別休暇や在宅勤務の選択肢を用意すると良いでしょう。また、早めの社内連絡と従業員との合意形成が円滑な対応につながります。台風時の安全確保は企業の社会的責任でもあります。適切な判断と誠実な対応を心がけ、従業員の安全と企業の信頼を守りましょう。


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