- 更新日 : 2025年1月20日
配置転換はパワハラになる?該当するケースや拒否された場合の対応を解説
配置転換の詳細が就業規則に定められている場合、雇用主は配置転換を行う権限を持っています。したがって、配置転換の辞令が出た従業員は原則として受け入れなければなりません。ただし、配置転換が雇用主の権利の濫用という場合、パワハラに該当することが考えられます。
本記事では配置転換がパワハラに該当するケースと対応策を解説します。
目次
従業員が望まない配置転換はパワハラ?
就業規則や労働契約書などに明記されている場合、配置転換は使用者に認められた権限です。従業員にとって不本意な配置先だったという理由で、直ちにパワハラおよび権利の濫用となるとは限りません。まずは、パワハラとはどのような行為なのかを理解しておく必要がありますので、パワハラに絡んだワードの説明を交えて詳細を解説しましょう。
パワハラの3要素とは?
パワハラとは、次の3つの要素を全て満たす言動のことです。
- 優越的な関係を背景としている言動
⇒ 行為者に対して抵抗したり拒絶したりすることができない場合を指す - 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
⇒ 業務上の必要性がなく、通常では考えられないような言動 - 労働者の就業環境が害されているもの
⇒ 言動によって身体的・精神的苦痛を受け、就業に支障が生じる状態を指す
パワハラの6類型とは?
厚生労働省は、以下の6つのパワハラ類型を提示しています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し:隔離、仲間外し、無視など
- 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行が極めて難しい業務の強制
- 過小な要求:本人の能力や経験と比較して著しくレベルの低い仕事を命令
- 個の侵害
配置転換がパワハラに該当する基準
就業規程にのっとり会社側が配置転換の権限を持っている場合、仮に従業員の意に沿わない配置転換であっても原則としてパワハラにはなりません。配置転換がパワハラになるのは権利の濫用に該当する場合であり、その基準は次の通りです。
- 業務上の必要性がない
- 不当な動機や目的がある
- 労働者にとって通常よりも大きな不利益となる
配置転換がパワハラに該当するケース
配置転換がパワハラに該当するケースを、厚生労働省が提示しているパワハラ6類型に基づいて確認しましょう。
精神的な攻撃に該当する場合
配置転換の対象者に対して異動の理由を伝える際に、「無能だから」「成長の見込みがないから」など、対象者の人格を傷つけるような言動をした場合、業務命令の範囲を逸脱し、パワハラとなる可能性があるでしょう。コメントの内容は名誉毀損や侮辱を意図するものであり、6類型のうち精神的な攻撃に該当しています。
人間関係からの切り離しに該当する場合
通常は人が出入りしないような部屋に隔離し、職場で孤立させるような配置転換は、職務上の必要性も相当性も欠けています。これは、明らかに人間関係からの切り離しに該当するパワハラです。退職に追い込むために、他の職員と接触がない部署で単純作業をさせるといった「追い出し部屋」が代表的な例です。このような配置転換は違法な行為でもあります。
過大な要求に該当する場合
傲慢な態度をとりがちな新入社員の自信を喪失させるために、当人の知識や経験では対応が困難な業務を所管する部署に配置転換した場合は、6類型のうちの過大な要求に該当します。このように新入社員が対処できない業務部署に配置換えするのは、職務上の必要性と相当性を欠いています。
仮にキャリアアップを目的としているのであれば、異動の理由を説明し、適切なサポート体制を整えるなどの措置を講じ、異動者本人が了解できる状況をつくる必要があります。
過小な要求に該当する場合
過小な要求とは、業務上の合理性がないにもかかわらず、本人の能力や経験よりもはるかに低いレベルの仕事をさせることです。ときには仕事を与えないこともあります。コピーや電話番などといった簡易な業務に従事させるなどして、本人が本来の能力を発揮するチャンスを奪われている場合がこれに該当します。特に、専門職や管理職に対して、このような業務をさせる配置転換は、パワハラに該当します。
配置転換をパワハラだと拒否された場合の対応
配置転換を拒否されたら、まずは、パワハラに該当するかどうかを見直してみます。見直しの視点は、業務上の必要性があるか、業務において相当と言える措置か、社会一般の労働者であればどう感じるかの3点です。さらに、権利の濫用になっていないかどうかも見直してみます。どちらかの見直し過程で問題があるのであれば、命令は撤回するのが賢明でしょう。
何ら問題がない場合には、従業員に従ってもらうよう説得します。説得に応じない場合には、必要に応じ懲戒処分の検討をしましょう。
パワハラの加害者・被害者を配置転換する際の注意点
パワハラ認定後の対応策の一つとして、加害者と被害者を切り離すために行う配置転換があります。加害者・被害者のいずれかまたは両者ともに行う場合がありますが、どのような点に注意が必要かを確認しましょう。
加害者を配置転換する場合の注意点
パワハラ加害者の配置転換であっても、不当な動機や目的で行われた場合、加害者が我慢の限界を超えた不利益を負わせる場合などは権利の濫用になり、その配置転換は無効となります。事前に加害者との面談を重ね、どのような改善点があるかを認識させたうえで配置転換し、配置先の上司との面談を義務付けるなどのケアも必要です。
被害者を配置転換する場合の注意点
加害者の配置転換を検討したものの、適当な配置先がない場合や労働契約を理由に拒否された場合などがあり得ます。このような場合には、加害者に対して懲戒処分をしたうえで、被害者の配置転換を行うこととなります。とはいえ、本来であれば被害者が配置転換される必要のないケースです。被害者の気持ちを受け止めつつ、きちんと納得してもらう必要があります。なお、被害者の配置転換が不利益処分と誤解されるような事態は論外です。
配置転換がパワハラにあたるか?に関してよくある質問
配置転換とパワハラとの関係でよく聞かれる質問をピックアップしました。
妊娠や出産を機に配置転換するとパワハラ?
従業員の健康や安全に配慮し、業務の負担軽減を図る目的の配置転換であれば、パワハラに該当しません。ただし、妊娠や出産となると本人のキャリア形成プランも絡むため、事前に十分な話し合いが必要です。一方で、妊娠や出産を把握したうえで、意図的に負担が大きい部署に配置転換して退職に追い込む、または人員確保が難しくなるのを見越して早めに他部署に追いやる行為は、パワハラに該当する可能性が高いでしょう。
通勤時間が長くなる勤務地への配置転換はパワハラ?
自宅および勤務先の交通事情や家族構成(例:未就学児や小学生、介護対象者の有無)などの理由によって通勤時間に関する評価は異なります。しかし、仕事や日常生活に支障が生じるほど通勤時間が長くなる場合にはパワハラに該当する可能性があります。労働者の事情と業務管理上の課題とを再確認したうえで、「業務上の正当性と相当性」に疑問がある場合、他の一般的な労働者であっても支障が生じると見込まれる場合には、配置転換は見直すのが適切です。
入社時に配置転換の可能性を説明しなかったのに命じたらパワハラ?
2024年4月1日から使用者は、労働者に対する「就業の場所及び従事すべき業務」の明示が義務付けられました。これには配置転換も含まれています。この明示は、労働契約の締結時、有期労働契約の更新時に書面(労働条件通知書、労働契約書または就業規則)によって行う必要があります。書面の交付による明示がなかった場合は配置転換の労使合意は存在せず、使用者に配置転換を命じる権限はありません(パワハラ問題ではありません)。
配置転換の目的は組織の活性化と人材育成
配置転換の目的は、組織の活性化と人材育成です。適材適所の人材配置によって、企業の生産性が向上する一方、従業員は多様な業務経験を通じてキャリアの幅を広げることができます。
配置転換は企業の人事権に基づいて行われるため、原則として本人の同意は不要です。しかし、権利の濫用などによる配置転換でパワハラや違法行為に該当する場合、結果的には人材を生かした経営に支障をきたします。そのため、配置転換をする際は、起こり得るトラブルを想定したうえで、慎重に進めることが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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