- 更新日 : 2024年12月2日
定額減税はいつから・いつまで減税される?
近年の企業の賃上げが物価上昇に追いついていない現状や家計負担の増加もあって、政府の経済対策として2024年6月から所得税と住民税の定額減税が実施されています。
定額減税がはじまると、労務担当者は月次の給与計算事務だけでなく、年末調整にも対応が必要です。定額減税がいつから始まり、いつまで行うのかについて再度確認しましょう。
目次
そもそも定額減税とは?概要・目的
定額減税は、近年の急激な物価上昇による家計負担の増加に伴い、企業の賃上げが物価高に追い付いていない社会情勢の状況を鑑みて導入された政府の経済対策の1つです。2024年6月から所得税と個人住民税の定額減税が実施されているため、企業としては、月次の給与計算の事務だけでなく、年末調整時にも対応が必要になります。
定額減税の実施方法は、細かいルールが定められています。しかし、これまでにないイレギュラーな源泉所得税や個人住民税の計算が必要となるため、給与計算や年末調整の過程でミスが起きないように気をつける必要があります。
具体的には、2024年6月以降に支払われる給与や賞与から控除する源泉所得税から、従業員(納税者)とその同一生計配偶者や扶養親族1人につき3万円が減税されます。2024年度分の個人住民税についても、個人住民税所得割額から従業員、同一生計配偶者、扶養親族1人につき1万円が減税されます。定額減税の詳細については以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
参考:【2024年6月開始】定額減税とは?給与計算の方法と具体例をわかりやすく解説(令和6年6月開始
定額減税と併せて、住民税非課税世帯への給付金や住民税均等割のみ課税世帯への給付金のほか、定額減税しきれないと見込まれる方への給付金など、定額減税と併せた様々な給付金も実施されることになっているため、最新情報は国税庁や各市区町村のWebサイトを確認しましょう。
定額減税における減税はいつから行われる?
企業として定額減税における実務対応が必要となるのは、2024年6月に支払う給与からです。その対応は、「給与所得者の源泉所得税に対する定額減税」と「給与所得の個人住民税に対する定額減税」で異なります。
給与所得者の源泉所得税に対する定額減税
「給与所得者の源泉所得税に対する定額減税」では、2024年6月1日以降に最初に支払われる給与や賞与の源泉所得税額から定額減税額を控除する必要があります。控除をしてもしきれない金額が残る場合は、次回以降に支払われる給与や賞与に対する源泉所得税額から順次控除していきます。
引用:令和6年分所得税の定額減税Q&A(概要・源泉所得税関係【令和6年5月改訂版】) 1-6 定額減税の実施方法(給与所得)|国税庁
給与所得の個人住民税に対する定額減税
「給与所得の個人住民税に対する定額減税」では、特別徴収の場合、2024年6月分は徴収せず、定額減税実施後の個人住民税額を7月分〜翌年5月分の11ヵ月で分割して徴収します。あらかじめ定額減税額を控除した金額が通知されるため、企業で特別な計算をする必要はありません。
定額減税の対象になる従業員の場合、2024年5月に市区町村から送られてきた個人住民税の決定通知書には、6月分の個人住民税額の納付額は「0円」と記載されていますので注意しましょう。また、摘要欄には、減税を実施した金額と減税しきれなかった金額(控除外額)が記載されています。
なお、個人住民税が普通徴収の場合、定額減税実施前の税額をもとに計算した第1期分の税額から定額減税の金額が控除され、控除しきれない金額がある場合は、第2期分以降の税額から順次控除さることになっています。
定額減税における減税はいつまで行われる?
「給与所得者の源泉所得税に対する定額減税」は、2024年12月までに行います。2025年1月以降の給与や賞与から控除する源泉所得税からは控除できないことに注意しましょう。
定額減税の金額は最終的に年末調整によって確認する必要があります。年末調整の結果、控除しきれない金額が残った場合、源泉徴収票(給与支払報告書)の摘要欄に、「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」「控除外額〇〇円」などと、控除した額と控除しきれなかった金額を記載します。
引用:給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた|国税庁
「給与所得の個人住民税に対する定額減税」は、所得割の合計金額が定額減税の限度額になります。特別徴収で定額減税の対象になる従業員の場合、7月分〜翌年5月分の11ヵ月で分割して徴収するため、2025年1月以降の給与から控除が行われることはあり得ます。
また、控除対象配偶者以外の同一生計配偶者については、現状、市区町村で対象者を把握することが困難な事情から、2025年分の個人住民税から定額減税を実施することになっています。そのため、2025年分の個人住民税からも、定額減税が行われるケースがあり得ます。
参考:個人住民税の定額減税に係るQ&A 令和6年1月29日(令和6年4月1日改訂)(第2版)(3)定額減税額の算出方法等|総務省自治税務局市町村税課
定額減税の全体スケジュール
定額減税の概要とスケジュールについて、今一度確認しましょう。
【定額減税の概要】
税金の種類 | 対象者の従業員 | 減税額 | 実施方法 | その他注意点 |
---|---|---|---|---|
源泉所得税 |
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個人住民税 |
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|
※1同一生計配偶者とは、納税者と生計を一にする配偶者で、青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与の支払を受けていない人や白色申告者の事業専従者でない人を指し、年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入だけの場合は金額が103 万円以下)が条件
※2扶養親族とは、納税者と生計を一にする年間の合計所得金額が48万円以下の配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)などで、青色申告者の事業専従者としてその年に一度も給与の支払を受けていない人や白色申告者の事業専従者でない人
※3控除対象配偶者を除く同一生計配偶者とは、納税義務者本人の合計所得金額が1,000万円超、かつ、配偶者の合計所得金額が48万円以下が条件
参考:
令和6年分所得税の定額減税Q&A(概要・源泉所得税関係【令和6年5月改訂版】)|国税庁
個人住民税の定額減税に係るQ&A集 令和6年1月29日(令和6年4月1日改訂)(第2版)|総務省自治税務局市町村税課
【源泉所得税の定額減税のスケジュール】
①5月~6月:控除対象者を確認する
月次給与から定額減税を行う従業員は、6月1⽇現在勤務している従業員で「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している居住者です。以下の従業員は対象者から除外します。
【控除対象者とならない従業員】
- 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が未提出の従業員や、ダブルワークで他社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員
- 2024年6月2日以降に入社した従業員
- 2024年5月31日以前に退職した従業員や非居住者となった従業員、死亡した従業員
②6月:定額減税額を計算する
従業員本人、同一生計配偶者、扶養親族の合計人数から定額減税額を計算します。例えば同一生計配偶者と扶養親族が2名いる従業員の場合は以下のように計算します。
30,000円(本人)+30,000円×3名(同一生計配偶者と扶養親族2名)=120,000円
③6月以降:定額減税額の控除を開始する
2024年6月以後、最初に支払う給与や賞与の源泉所得税額から控除を開始します。控除しきれない残りの金額がある場合、次回以降に支払う給与や賞与から②で計算した定額減税額まで順次控除していきます。
国税庁ホームページなどに掲載されている各人別控除事績簿の作成は任意ですが、計算ミス防止のために活用するとよいでしょう。また、源泉徴収簿や賃金台帳に定額減税額を記載し、給与明細書にも定額減税額を記載するのを忘れないようにします。
➃12月~1月:年末調整時の定額減税額の精算・確認
年末調整の際にも、年末調整時点の定額減税額と年間の源泉所得税額との精算が必要です。2024年6月2日以降に入社した従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受けた場合、年末調整時に定額減税の適用を受けることができます。また、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載した事項に変更や異動があった際、所得控除の金額の変更に伴い定額減税額が変わることがあるため注意しましょう。なお、源泉徴収票には、摘要欄に実際に控除した定額減税額を記載する必要があります。
定額減税の未実施は法律違反に
毎月の給与から定額減税額を控除するのが面倒で、「年末調整で実施しても同じではないか」と考える人がいるかもしれません。しかし、6月以降の賃金から定額減税を実施しないで先送りすることは過剰な税額を賃金から控除することになり、労働基準法の賃金の「全額払い」に違反すると考えられています。自社の従業員のためにも正確な給与計算の事務手続きをしましょう。
個人住民税と所得税の年間の納税額が4万円に満たないなど、減税可能額が定額減税実施前の所得税額と個人住民税所得割額を上回り、定額減税がしきれないと見込まれる場合、減税しきれなかった差額を給付金として支援することが予定されています。扶養家族の多い従業員や、パートやアルバイトなど給与所得が少ない従業員の場合、給付金の対象になるケースもありますので、今後の政府の公表にも注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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