- 更新日 : 2025年5月27日
社会保険の後期高齢者医療制度とは?切り替え手続きを解説
社会保険の後期高齢者医療制度とは、主に75歳以上の後期高齢者を対象とした公的医療制度のことです。それまで社保に加入していた場合は、脱退手続きを行わなくてはいけません。なお、後期高齢者保険証は1人につき2枚ではなく、1枚ずつ交付されることが特徴です。今回は後期高齢者医療制度の概要と切り替え手続きを解説します。
目次
社会保険の後期高齢者医療制度とは?
社会保険の後期高齢者医療制度とは、主に後期高齢者を対象とした公的医療保険制度の1つです。
日本の国民皆保険は、大きく「被用者保険」と「国民健康保険」の2本立てで実現しています。被用者保険とは基本的に労働者が加入するもので、国民健康保険は被用者保険に加入しない人が入ります。
しかし、所得は高く医療費が少ない傾向にある現役世代は、被用者保険に加入する割合が高い一方で、高齢期になると国民健康保険に加入するという構造的な課題がみられました。そのため、高齢者医療を国民健康保険だけで支えるのではなく、社会全体で支援する必要性が高まっている状況です。
このような背景のもと、老人保健法の改正によって後期高齢者と現役世代の負担を明確にして、後期高齢者自身が保険料を負担する後期高齢者医療制度が誕生しました。
後期高齢者医療制度は、後期高齢者の心身の特性や生活の実態を考慮した診療報酬体系となっている点が特徴です。また財源の構成は1割の患者負担分を除き、4割の現役世代からの支援金と5割の公費のほか、高齢者一人ひとりに保険料を負担してもらうしくみです。
なお、後期高齢者医療制度は、都道府県単位ですべての市町村が加入する「後期高齢者医療広域連合」が運営主体とされています。
後期高齢者医療制度の対象
後期高齢者とは、75歳以上の方を指す言葉です。なお高齢者は一般的に65歳以上を指し、65歳以上75歳未満の方を前期高齢者といいます。
後期高齢者医療制度の対象者は、以下のとおりです。
- 75歳以上の方
- 65歳以上75歳未満で、政令で定める程度の障害の状態にあるとして後期高齢者医療広域連合の認定を受けた方
上記はいずれも、後期高齢者医療広域連合の区域内に住んでいることが要件とされています。また、前述のとおり後期高齢者は75歳以上の方を指しますが、後期高齢者医療制度は65歳以上75歳未満で一定の障害状態にあると認められた方も対象です。
75歳以上になると勤めているかいないかにかかわらず、それまで加入していた被用者保険や国民健康保険から、自動的に高齢者医療制度に加入するしくみになっています。
参考:75歳以上の方が全国健康保険協会管掌健康保険から後期高齢者医療制度に移行することにより、その扶養家族である被扶養者の方が新たに国民健康保険に加入する場合の手続きについて|全国健康保険協会
後期高齢者医療制度によって社会保険料がどう変わる?
後期高齢者医療制度の保険料は、「均等割額」と「所得割額」の2つの合計額です。それぞれの概要は以下のとおりです。
概要 | 東京都の場合(令和4・5年度) | |
---|---|---|
均等割額 | 被保険者一人ひとりに均等に賦課される | 年額46,400円 |
所得割額 | 被保険者の所得に応じて決定される | 9.49% |
均等割額と所得割額はいずれも、都道府県ごとに存在する後期高齢者医療広域連合によって異なります。たとえば東京都後期高齢者医療広域連合では、令和4・5年度の均等割額は年額46,400円、所得割率9.49%で、保険料の賦課限度額は被保険者1人につき66万円です。
所得割額の計算方法
東京都に住んでいる年金収入のみの方の場合、上記の均等割額46,400円に所得に応じた所得割額を加えた金額が、後期高齢者医療制度の保険料となります。所得割額の計算方法は以下のとおりです。
なお、公的年金控除は収入金額などに応じて決められています。65歳以上で収入金額が330万円未満の場合、110万円です。
ここからは、具体的な計算例を確認していきましょう。たとえば、公的年金などの収入が250万円ある、東京都に住む単身で77歳の方の後期高齢者医療制度の年額保険料は、下記のとおりです。
- 均等割額:46,400円
- 所得割額:(250万円-110万円-43万円)×9.49%=92,053円
- 後期高齢者医療制度の保険料【年額】:
46,400円+92,053円=138,400円(※100円未満切り捨て)
後期高齢者医療制度の切り替え手続きについて
基本的に国民健康保険の加入者が75歳になった際は、自動的に後期高齢者医療制度に加入するため、加入の手続きは必要ありません。後期高齢者医療広域連合から、誕生月の前月の下旬頃に被保険者証(保険証)が送付されるのが一般的です。また保険料の案内は、誕生月の翌月あるいは翌々月を目処に郵送されてくるケースが多いです。
ただし、被用者保険(会社の健康保険組合など)に加入していた場合は、それまで加入していた健康保険からの脱退手続きなどが必要になることがあります。そのほか、次の証書が必要な場合には別途手続きが必要になる可能性が高いです。
- 限度額適用・標準負担額減額認定証
- 限度額適用認定証
- 特定疾病療養受療証
また、後期高齢者医療制度に加入する方が家族を社会保険の扶養に入れている場合、家族の方の国民健康保険などへの切り替え手続きが必要になる点に注意しましょう。
参考: 来月75歳になるのですが、何か加入の手続きをする必要はありますか。|船橋市
参考:【制度加入】もうすぐ75歳を迎え後期高齢者医療制度の対象となりますが、何か手続きが必要ですか。|岡山市
後期高齢者医療制度の保険証は2枚?それとも1枚?
後期高齢者医療制度の保険証は、1人につき1枚が交付されます。なお老人保健制度では、医療保険の保険証のほか「老人医療受給者証」も交付されていました。つまり医療機関などにおいては、これら2枚を提示する必要があったのです。
また現行制度においても、70歳から74歳までは協会けんぽをはじめとする加入している保険から「高齢受給者証」が交付されています。
高齢受給者証は、医療機関などの窓口で支払う金額の、自己負担割合を証明するものです。そのため、70歳以上74歳未満の方が医療機関などを受診する際には、健康保険証と一緒に高齢受給者証を提示する必要があります。
ただし、後期高齢者医療制度の被保険者が提示するのは保険証1枚のみになります。
後期高齢者医療制度に関する手続きを確認しよう
社会保険の後期高齢者医療制度は、主に75歳以上の後期高齢者を対象とした公的医療制度の1つです。
もともと所得が高く、医療費が少ない傾向にある現役世代は、被用者保険に加入する割合が高い一方で、高齢期になると国民健康保険に入るという構造的な課題がみられました。そのため、高齢者医療を国民健康保険だけで支えるのではなく、社会全体で支援する必要性が高まっており、こういった課題認識を踏まえて誕生したのが後期高齢者医療制度です。
国民健康保険の加入者が75歳になった際には、自動的に後期高齢者医療制度に加入するため、特に手続きは必要ありません。しかし、75歳になるまで会社の健康保険組合などに加入していた場合は、脱退手続きなどをおこなわなければならない可能性があります。
後期高齢者医療制度の概要を理解し、各社で必要な手続きも把握しておきましょう。
よくある質問
社会保険の後期高齢者医療制度とはなんですか?
老人保健法の改正によって誕生した、主に75歳以上の後期高齢者を対象とした公的医療制度のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
後期高齢者医療制度の保険証は何枚ですか?
1人につき1枚ずつ交付されます。なお、老人保健制度では医療保険の保険証と「老人医療受給者証」が交付されていたため、1人2枚ずつ交付されていました。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社会保険の加入要件「月額賃金8万8,000円」に残業代や通勤手当は含まれる?
社会保険(ここでは健康保険・厚生年金を指します。以下同じ)の適用拡大により加入条件が緩和され、月額賃金8万8,000円以上の短時間労働者も社会保険に加入することになります。8万8,000円には基本給や諸手当が含まれ、残業代などは含まれません…
詳しくみる労災の骨折には見舞金を出すべき?相場はいくら?給付金、慰謝料との関係も解説
仕事中の予期せぬ事故によって従業員が骨折した場合、会社として見舞金を出すべきかどうか、その金額の目安などどのように対応すべきか悩むことも多いのではないでしょうか。この記事では、見舞金の法的位置づけや支給の相場、労災保険給付の内容と併用の可否…
詳しくみるぎっくり腰は労災認定される?仕事で発症した腰痛の認定基準や休業補償の金額などを解説
職場での何気ない動作や急な負荷によって、突然襲ってくるぎっくり腰。想定外の痛みとともに業務が中断されることも多く、「これは労災になるのか?」と悩まれる方も少なくありません。実は、ぎっくり腰も一定の条件を満たせば、労働災害として認定される可能…
詳しくみる社会保険の随時改定はいつから反映される?タイミングや手続き方法を解説
社会保険料を決定する際に用いられる「標準報酬月額」は、基本的には年1回の定時決定によって見直されます。しかし、昇給や降給などで給与が大きく変動した場合には、「随時改定」という手続きが必要です。 本記事では、随時改定がいつから反映されるのか、…
詳しくみる公務災害と労災の違いは?対象や給付内容、手続きの流れなどをわかりやすく解説
公務災害と労災の違いは、初めて事故や病気に遭った際に混乱しやすいポイントです。「自分はどちらに該当するの?」「どうやって申請するの?」と悩む方も多いでしょう。この記事では、公務災害と労災それぞれの定義や補償内容、適用対象者、具体的な申請手続…
詳しくみる労災で医療費が10割負担?払えないときの対応や返金手続きを解説
労災(労働災害)によるけがや病気で病院を受診したにもかかわらず、医療費を全額(10割)請求されることがあります。受診した医療機関が労災指定病院でない医療機関を受診した場合や、必要書類がそろっていなかった場合などに発生するケースです。高額な医…
詳しくみる