- 更新日 : 2024年12月3日
健康保険の限度額とは?医療費が高額になった時
健康保険には限度額が定められており、医療費が高額になり自己負担限度額を超えた場合は高額医療費として払い戻しを受けることができます。事前に健康保険限度額適用認定証の交付を受けている場合は、外来受診時や退院時の支払いは自己負担限度額までです。この記事では高額医療費の払い戻し方法やどこに申請するべきかを紹介します。
目次
健康保険の限度額とは?
国民健康保険や協会けんぽなどの健康保険には限度額があり、医療機関受診時に支払った自己負担額が限度額を超えた場合、後から高額医療費として払い戻しを受けることができます。これが「高額療養費支給制度」です。
自己負担額は「世帯合算」することができます。ここでいう「世帯」とは、同一の健康保険組合に加入している被保険者とその被扶養者です。同一世帯で複数の被保険者が医療機関を受診した場合や、1人で複数の医療機関で受診した場合、1つの医療機関で入院と外来で受診した場合は合算することができます。
ただし、70歳未満の被保険者は自己負担金が21,000円以上のもののみ合算可能なので注意しましょう。70歳以上の被保険者はすべての自己負担金を合算可能です。なお、自己負担額は月ごと、被保険者ごと、医療機関ごと、外来・入院ごと、医科・歯科ごとに分けて計算されます。薬が処方された場合は、処方箋が発行された医療機関で支払った医療費に合算が可能です。
基本的に、高額療養費支給制度は後から自己負担限度額を超過した医療費の還付を受けられる制度なので、一旦は自己負担で医療費を支払わなければなりません。一時的とはいえ、高額な医療費は大きな負担となるため、医療費が高額になりそうなときは「健康保険限度額適用認定証」の交付を受けましょう。
限度額適用認定証を医療機関に提示することで、受診時に支払う金額が1ヶ月あたりの自己負担限度額までとなります。国民健康保険の被保険者は居住している市区町村に、社会保険の被保険者は加入している健康保険組合に申請手続きをしてください。
参考:
高額療養費支給制度|横浜市
高額な医療費を支払ったとき|こんな時に健保|全国健康保険協会
高額医療費になりそうな時は要注意!高額の目安は?
健康保険の自己負担限度額は被保険者の年齢と所得によって決まります。70歳未満の被保険者の場合は21,000円以上の自己負担金を合算し、自己負担限度額を超過した医療費が還付の対象です。70歳以上の被保険者はすべての自己負担金を合算して自己負担限度額と比較しましょう。ここでは協会けんぽを例に健康保険の自己負担限度額を説明します。
70歳未満の区分
所得区分 | 自己負担限度額 | 多数該当 |
---|---|---|
①区分ア (標準報酬月額83万円以上の方) (報酬月額81万円以上の方) | 252,600円+ (総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
②区分イ (標準報酬月額53万〜79万円の方) (報酬月額51万5千円以上〜81万円未満の方) | 167,400円+ (総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
③区分ウ (標準報酬月額28万〜50万円の方) (報酬月額27万円以上〜51万5千円未満の方) | 80,100円+ (総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
④区分エ (標準報酬月額26万円以下の方) (報酬月額27万円未満の方) | 57,600円 | 44,400円 |
⑤区分オ(低所得者) (被保険者が市区町村民税の非課税者等) | 35,400円 | 24,600円 |
総医療費とは、保険適用される費用の10割で、医療費の総額を意味します。多数該当とは、直近1年間に3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに軽減される制度です。
70歳以上75歳未満の区分
被保険者の所得区分 | 自己負担限度額 | ||
外来(個人ごと) | 外来・入院(世帯) | ||
①現役並み所得者 | 現役並みIII (標準報酬月額83万円以上で 高齢受給者証の負担割合が3割の方) | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% (多数該当:140,100円) | |
現役並みII (標準報酬月額53万〜79万円で 高齢受給者証の負担割合が3割の方) | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% (多数該当:93,000円) | ||
現役並みI (標準報酬月額28万〜50万円で 高齢受給者証の負担割合が3割の方) | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% (多数該当:44,400円) | ||
②一般所得者 (①および③以外の方) | 18,000円 (年間上限:144,000円) | 57,600円 (多数該当:44,400円) | |
③低所得者 | II (被保険者が市区町村民税の非課税者等である場合) | 8,000円 | 24,600円 |
I (被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合) | 15,000円 |
参考:高額な医療費を支払ったとき|こんな時に健保|全国健康保険協会
健康保険の限度額を超えそうな時の手続き
それでは、実際に健康保険の限度額を超えそうなときの手続きを確認してみましょう。
既に医療機関に医療費を支払っている場合は「健康保険高額療養費支給申請書」を健康保険組合に提出することで、高額医療費の払い戻しを受けることが可能です。
なお、高額医療費の支給を受ける権利の消滅時効は、診療を受けた月の翌月月初から2年間なので注意しましょう。2年間を過ぎてしまうと過去にさかのぼって申請ができなくなってしまいますが、期限前に必ず健康保険組合から申請書が届くので、忘れずに申請手続きをしてください。
事前に医療費が高額になることがわかっている場合は「健康保険限度額適用認定証」の交付を受けておくと、医療機関での自己負担を抑えることが可能です。限度額適用認定証の交付申請について、引き続き解説します。
参考:高額療養費制度を利用される皆さまへ|厚生労働省
引用:健康保険高額療養費支給申請書|全国健康保険協会
限度額適用認定証の申請書を協会けんぽに提出
限度額適用認定証の交付を受けるには、協会けんぽに「健康保険限度額適用認定申請書」を郵送しましょう。
住民税が非課税の被保険者は「住民税(非)課税証明書」もしくはマイナンバーを記載の上「本人確認書類貼付台紙 マイナンバーによる課税情報等の確認申出書」を添付し「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定申請書」を提出しましょう。
各種申請書は協会けんぽのWebサイトからダウンロードが可能です。送付先は健康保険証に記載されている全国健康保険協会支部となります。どこに申請すればよいのか分からない場合は勤務先の総務担当に問い合わせてみましょう。
引用:
健康保険限度額適用認定申請書|全国健康保険協会
健康保険限度額適用・標準負担額減額認定申請書|全国健康保険協会
限度額適用認定証の交付を受ける
協会けんぽに健康保険限度額適用認定申請書を提出すると、おおよそ1週間前後で「限度額適用認定証」が交付されます。住民税が非課税などの低所得者に発行されるのは「限度額適用・標準負担額減額認定証」です。限度額適用認定証の有効期限は申請月の初日から最長1年間となっており、引き続き認定を受ける場合は再度申請しなければならないため注意しましょう。なお、限度額適用・標準負担額減額認定証の有効期限は、申請月の初日から最初に到来する7月末日です。
参考:医療費が高額になりそうなとき|こんな時に健保|全国健康保険協会
医療機関に限度額適用認定証を提出する
医療機関の窓口に健康保険証と合わせて「限度額適用認定証」を提示することで、1ヶ月あたりの支払金額が自己負担限度額までとなります。限度額適用認定証は保険適用医療機関ごと、外来・入院ごと、保険調剤薬局ごとの取り扱いです。同月内に外来と入院などの複数受診がある場合は、後日高額医療費の支給申請を行わなければならない場合があります。
また、入院時の差額ベッド代や食費負担額などの保険適用外負担分は対象外なので注意しましょう。
自己負担限度額に至るまでの費用を支払う
自己負担限度額に到達するまでの医療費については自己負担となります。ここでは、前述の「所得区分ウ」の被保険者を例に実際の窓口負担額を計算してみましょう。
- 条件
- 総医療費:100万円(10割)
- 所得区分:区分ウ
(標準報酬月額28万〜50万円の方)
(報酬月額27万円以上〜51万5千円未満の方) - 窓口負担割合:3割
- 条件
- 限度額適用認定証を提示しない場合
- 支払額:30万円(3割)
- 自己負担限度額:80,100円+(1,000,000-267,000円)×1%=87,430円
- 高額療養費支給額:300,000-87,430=212,570円
限度額適用認定証を提示しなかった場合、一旦窓口で総医療費の3割に当たる30万円を支払い、後日高額療養費の支給申請を行うことで212,570円受け取ることができます。実質的な負担額は自己負担限度額である87,430円です。
- 限度額適用認定証を提示した場合
- 自己負担限度額:80,100円+(1,000,000-267,000円)×1%=87,430円
- 支払額:87,430円
限度額適用認定証を提示した場合は、窓口での負担上限額が自己負担限度額までとなるため、87,430円のみの支払いで済みます。高額療養費の支給申請も不要です。
高額療養費の制度を理解し適切に還付を受けよう
健康保険の限度額と高額医療費支給制度について解説しました。医療費負担を心配することなく治療が受けられるよう、健康保険には自己負担限度額が定められています。
限度額を超えた医療費は高額医療費として払い戻しを受けることが可能です。基本的に一旦自己負担で医療費を支払った後、支給申請を行うことで還付を受けられる制度ですが、あらかじめ医療費が高額になることがわかっている場合は限度額適用認定証の交付を受けることで窓口負担を抑えることができます。
高額な医療費は大きな負担となるため、高額医療費支給制度を十分理解し万が一の事態に備えましょう。
よくある質問
健康保険の限度額について教えてください。
健康保険には自己負担限度額が定められており、限度額を超えた医療費は高額医療費として払い戻しを受けることが可能です。詳しくはこちらをご覧ください。
健康保険の限度額を超えそうな時はどうすればよいですか?
既に医療機関の窓口で医療費を支払っている場合は高額医療費支給申請を行いましょう。まだ支払っていない場合は、前もって限度額適用認定証の交付を受けることで窓口負担を抑えることができます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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