- 更新日 : 2025年6月10日
役員に退職金は支払う?規定の必要性や作成するポイントを解説
会社と役員の雇用契約において、退職金を支払う契約になっていなければ役員は退職金を得られません。そのため、会社により支給額の算定方法が異なり、場合によってはトラブルにつながることもあります。
本記事では、役員が退職する際に退職金を支払われるかについて解説します。また、退職金規定の作成が必要かもあわせて解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
役員の退職金とは
役員の退職金は、取締役や監査役、執行役、会計参与などの会社法における役職の役員が退職した際に支払うものです。
しかし、一般的な社員の退職金とは異なり、役員の退職金を支給するためには、定款の規定や株主総会による決議が必要です。下記では、役員の退職金について、さらに具体的に解説します。
支払い義務はない
役員に退職金を支払う義務は、法律上ありません。
労働基準法をはじめとする労働法は、従業員を対象とした規定です。しかし、役員は従業員ではなく会社と委任契約を結ぶ立場のため、退職金を受け取る権利は法律で保障されていません。
一方、一般従業員は会社が退職金規定を設けている場合、当該規定を根拠として退職金が支給されます。ただし、一般従業員に対しても退職金を支払う法的義務はありません。
役員退職金については、会社法361条により「定款の定め」または「株主総会の決議」によって支払いが決まります。「役員退職金支給規定」は法的に必須ではありませんが、規定を設けることで運用の透明性や支払い基準の明確化といったメリットがあります。
つまり、役員退職金の支払いは、会社ごとの取り決め次第です。そのため、役員退職金制度の有無は事前に確認しておきましょう。
支給には定款か株主総会の決議が必要
会社で「取締役委任契約」や「退職慰労金支給規定」が設けられていない場合、役員の退職金支給は会社法361条に基づき、定款の定めか株主総会の決議で定める必要があります。一般従業員と異なり、単に「規定」があれば支給できるものではない点に注意が必要です。
株主総会では、支給の可否や金額、時期、方法などを議論し、支給基準を決定します。ただし、具体的な支給額は公開されず、個別額の決定は取締役会に委任されるのが一般的です。
上記により、役員の報酬が外部に知られることなく決定されます。株主総会や取締役会での決議内容は、会社法上、議事録に記録する必要があります。
役員の退職金を株主総会で決議する方法
役員退職金は定款に定めることも可能ですが、具体的な金額や支給条件を詳細に記載するのは柔軟性に欠けます。そのため、多くの企業では株主総会での決議により支給を決定しています。
株主総会による決議では、会社の状況や役員の貢献度を考慮し、公平かつ柔軟な判断が可能であり、多くの企業でも採用されているのです。
下記では、役員退職金を株主総会で決議する方法について解説します。
具体的な金額や支給方法を決議する
会社法361条1項1号により、株主総会では、具体的な退職金額または支給方法を明確にして決議することが定められています。
ただし、実務上は株主総会で退職金の支給自体を承認し、具体的な金額や支給条件の決定を取締役会に一任する方法が一般的です。
上記の手法は、詳細な決定を経営陣に任せることで、株主総会では役員退職金を支給することだけを決議します。
その後、具体的な退職金の支給条件については、取締役会で会社の経営状況や役員の貢献度に応じて判断される仕組みです。
役員退職金の規定を作成し、取締役会に一任する
役員退職金の支給には、株主総会の承認が必要です。しかし、具体的な金額や支給条件については、株主総会で決議するのではなく、取締役会に一任するのが一般的です。
ただし、取締役会に無条件で任せず、支給基準を決めてから可能な範囲内で金額や支給方法を決定する必要があります。また、役員退職金の規定を作成し、本店に備え置いて株主が閲覧できるようにすると、透明性を確保したうえで株主に対して周知することが重要です。
したがって、役員退職金の金額については、取締役会に一任する決議をし、決定しましょう。
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役員の退職金規定の必要性
役員退職金規定を作成することは、義務ではありません。しかし、作成することにより支給基準が明確になり、金額や支給方法に透明性を持たせることが可能です。
したがって、株主や社員の信頼を得やすくなり、トラブルや不正の防止にもつながります。下記では、役員の退職金規定の必要性について具体的に解説します。
株主総会で支給額等を開示せずにすむ
株主総会では、役員退職金の具体的な金額を株主総会で公開しないことが一般的です。
支給額を公開しない代わりに、株主総会で退職金の支給額の限度を決め、詳細な金額や支給方法については取締会に任せる方法が取られています。その結果、個々の役員の報酬額を公開することなく、株主に対して支給の基準や上限額を示せます。
支給基準を設定すると、不適切な金額設定や利益相反などの防止が可能です。
具体的な支給額については、取締役会で決定されることも事前に理解しておきましょう。
支払い根拠を明確にし、税務否認を回避できる
退職金規定の作成は、支払い根拠を明確にし、税務否認の回避に効果的です。
退職金支給の際、支給額が不適切であったり、適正な手続きを踏まなかったりすると、税務署は損金参入を認めない場合があります。たとえば「退職の事実がない」「支給額が不相当に高額である」と判断された場合、支払った金額が経費として認められなくなります。
上記のような場合、法人税や役員個人の所得税に悪影響が出る可能性もあるため、規定を作成して適正な手続きを守ることが重要です。
透明性を担保し、役員間の紛争を防止する
役員退職金規定の作成により、透明性を担保し、役員間のトラブルの防止が可能です。退職金支給の基準が曖昧になっていると、不公平感が生じ、役員間でトラブルが発生する可能性が高まります。
役員退職金規定を設けることにより、評価基準が明確になり、より透明性の高い退職金制度を構築可能です。規定の作成は、社内の信頼関係を維持し、会社運営の円滑化にも貢献します。
役員の退職金規定を作成するポイント
役員退職金規定を作成する際は、下記のポイントを押さえることが重要です。
- 適用範囲の明確化
- 支給基準と金額設定
- 減額・不支給規定
- 改廃規定の設置
- 財源確保の方法
まず、退職金が適用される役員を明確に規程します。たとえば、非正社員や短期在任の役員を対象外とする場合、基準を明確にすることにより、不公平感や役員間のトラブルを回避可能です。
また、退職理由や勤続年数に応じた支給基準の規定も必要です。とくに、定年退職や功労者への上積み支給、懲戒解雇や自己都合退職に伴う減額など、具体的な金額設定や基準を設けてください。勤続年数の計算方法や特別な加算規定についての明記も効果的です。
懲戒解雇に該当する退職においては、退職金の減額や不支給の規定を定める必要があります。支給後に不正が発覚した場合の変換義務についても、忘れず記載しておきましょう。
さらに、経済状況や会社の事情により規定を変更する可能性を明記することも大切です。
最後に、退職金共済制度などの外部積立制度を活用し、安定した支給財源の確保も明記しておきましょう。
上記のポイントを押さえて役員の退職金規定を作成すると、不公平感やトラブルを防ぐとともに、税務対応の基盤整備にもつながります。
役員の退職金規定の作成から支払いまでの流れ
役員退職金の支給は、会社法の規定に基づき、株主総会での決議が必要です。多くの会社では、株主総会で承認を得て支給額を定めています。役員退職金規定の作成から支払いまでの流れは、下記のとおりです。
- 役員の退職金規定を作成する
- 株主総会で決議する
- 取締役会で詳細を決定する
- 支払い手続きをする
まずは、役員退職金規定を作成し、支給基準や条件を明確に示します。規定を作成する際は、本店に備え置いて株主が閲覧できるようにする必要があります。
次に、株主総会で支給の取引方針を決議し、具体的な条件や金額の決定を取締役会に一任することが一般的です。一任された取締役会は、規定に基づき、役員の貢献度や業績を考慮して金額や支給方法、時期などを決定します。
最後に、決定事項に基づき、退職金を役員に支給します。支払い後の記録や税務処理なども適切に行うことが重要です。
上記のように、役員退職金は株主の承認を得ながら、透明性と公平性を保ちながら支給されます。
役員の退職金を確保するためにも、役員退職金規定を作成しよう
役員の退職金を支払う義務は、法律上ありません。しかし、役員退職金の支払いは、会社法に基づき、株式総会の決議が必要です。
退職金の支給額や条件が明確でなければ、税務署から損金参入を否認されたり、役員間で紛争が生じたりするリスクがあります。
そのため、役員退職金規定を作成し、支給基準や手続きを事前に定めることが重要です。退職規定を作成することで、退職金の透明性と公平性が担保され、株主や役員の信頼を得られるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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