• 更新日 : 2025年4月17日

人的資本投資とは?企業における効果や導入事例を紹介

人的資本投資とは、従業員のスキルや能力を高め、企業価値を向上させるための戦略的な投資です。

近年、企業には人的資本の情報開示が義務化され、従業員への投資を強化する必要があります。本記事では、人的資本投資の概要や必要性、企業にもたらす5つの効果、具体的な取り組み事例を紹介します。

人的資本投資とは|人材を資本として価値を引き出すために投資すること

人的資本投資とは、従業員の知識や技能、経験を「資本」と捉え、最大限に引き出すための投資です。単なる教育や研修だけでなく、キャリア開発や働き方改革、福利厚生の充実なども含まれます。

人材教育だけでなく、従業員の能力やモチベーションを高める施策も人的資本投資にあたります。たとえば、柔軟な勤務制度や評価制度の見直しなどです。

企業の持続的な成長には、人的資本投資が重要です。優秀な人材を育成し、組織全体の生産性を向上させることで、競争優位性を確立できます。

戦略的な取り組みを進め、企業価値の向上を目指しましょう。

下記の記事では、人的資本経営の基本概念について徹底解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

人的資本投資が必要な理由

人的資本投資は、企業の持続的な成長と競争力強化において重要です。従業員の知識や技能を高めることで、生産性向上やイノベーション創出につながります。

経営戦略の一環として人的資本に投資することで、企業の発展を支える基盤を築けるでしょう。以下では、人的資本投資が必要な具体的な理由を紹介します。

条件を満たす企業に対して人的資本の情報開示が義務化されたため

日本では、2023年3月期決算以降、上場企業や一定の条件を満たした企業に対し、人的資本の情報開示が義務化されました。情報開示は、企業が自社の人的資本に関する情報を投資家やステークホルダーに対し、透明性高く提供することを求めるものです。

義務化の背景には、ESG投資の拡大があります。環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を重視するESG投資が世界的に広がり、人的資本の評価が企業価値に直結するようになりました。

また、企業価値の源泉が有形資産から無形資産へと移行するなかで、人的資本が無形資産の中核として重要視されています。投資家の情報ニーズも変化し、財務情報に加えて、人的資本に関する非財務情報も投資判断の材料とされています。そのため、人的資本投資の重要性は一層高まっているといえるでしょう。

人的資本の情報開示については、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

財務指標の改善と資本効率が向上するため

人的資本への投資は、短期的には費用として計上されるため、一時的に資本効率を低下させる可能性があります。投資直後は、営業利益やROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)などの指標が低下することもあります。

しかし、中長期的には生産性向上や離職率の低下につながり、財務指標が改善するケースが多いです。とくに、働きやすい環境を整えることで人材の定着率が上がり、採用や教育コストの削減にもつながります。

企業が人的資本投資と経営戦略、財務指標との関連性を明確に示せば、短期的な利益確保と長期的な企業価値向上の両立が可能になります。

人的資本投資による企業への5つの効果

人的資本投資は、企業の成長や競争力強化に大きく貢献する重要な要素です。人的資本投資の効果を理解することで、経営戦略と人的資本投資を効果的に連携させることが可能になります。

以下では、人的資本投資による企業への効果について紹介します。

1. 企業の人材育成につながる

企業が人的資本投資を行うことで、従業員のスキルや知識が向上し、人材育成につながります。教育や訓練への投資により、従業員の能力が高まり、生産性の向上にも貢献します。人材育成の強化は、企業の成長にとって欠かせません。

また、市場の変化が激しいなかで、企業は適応力の高い人材を育成する必要があります。人的資本投資を通じて、従業員と企業の双方が成長するサイクルの形成が可能です。たとえば、人的資本経営を重視する企業では、従業員のエンゲージメントが高まり、離職率が低下する傾向があります。

結果として、企業の競争力も強化され、持続的な発展につながります。

2. 企業価値の向上につながる

人的資本投資に積極的に取り組む企業は、社会的信頼を得やすく、企業価値の向上につながります。人材育成を重視する姿勢は、従業員の成長だけでなく、企業の競争力強化にも直結します。

人的資本は無形資産のなかでも経済的競争力を左右する要素です。近年、投資家の関心は従来の財務指標を中心とした有形資産から、人的資本をはじめとする無形資産へと移りつつあります。

そのため、企業は人的資本投資を通じて、投資家への説明責任を果たし、企業価値を高めることが重要です。適切な人的資本戦略を実行することで、持続的な成長と市場での評価向上が期待できます。

3. 従業員エンゲージメントが向上する

人的資本投資により、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。従業員エンゲージメントとは、社員が会社の目標や価値観に共感し、主体的に貢献しようとする意欲の度合いです。

企業が働きやすい環境を整えることで、従業員のモチベーションが向上し、離職率の低下につながります。

また、職場への満足度が高まることで、仕事への意欲が高まり、提供する商品やサービスの質の向上にもつながります。結果として、企業全体の業績とブランド価値の向上にも貢献するでしょう。

従業員エンゲージメントに関する具体的な情報は下記の記事で解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

4. 生産性が向上する

人的資本投資によって、従業員のスキルが向上し、業務の生産性を高めることが可能です。従業員一人ひとりが最大限のスキルが発揮できる環境を整えることで、企業全体の利益拡大にもつながります。

また、組織全体で能力を最大限に活かすことは、企業の競争力向上にも直結します。内閣府の調査によると、従業員一人当たりの人的資本投資額を1%増加させると、労働生産性が0.6%向上する可能性があると報告されました。

そのため、適切な人的資本投資によって業務効率が向上し、無駄なコスト削減が可能です。結果として、企業の持続的成長を支える基盤を強化できます。

5. 投資家による信頼を得られる

人的資本投資を強化することで、投資家からの信頼を得やすくなります。従業員の成長や福利厚生に積極的に投資する企業は、社会的評価が高まり、長期的な企業価値向上につながります。

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の重要性が高まり、人的資本経営が企業価値を左右する要因です。たとえば、企業が従業員の健康管理や福利厚生を充実させることで、社会的責任を果たす企業として投資家から高く評価されることがあります。

さらに、2023年3月期以降、有価証券報告書での人的資本情報の開示が義務化されました。情報開示により、企業の人的資本投資の透明性が向上し、投資家がより適切な判断を行いやすい環境が整っています。

人的資本投資の具体的な取り組み

人的資本投資を進めるには、具体的な取り組みを理解し、適切に施策を実施することが重要です。従業員の成長を促すことにより、企業の競争力向上につながります。また、企業の状況や目標に応じて、最適な取り組みを選択することが大切です。

以下では、人的資本投資の具体的な取り組みについて解説します。

従業員のスキルアップのための研修・教育体制を整える

従業員のスキルアップを促進するには、研修や教育体制の整備が重要です。職務に必要なスキルを磨く機会を提供することで、従業員の成長を支援し、キャリアアップのモチベーション向上につながります。

現代の技術の進化や市場の変化に対応するには、従業員の継続的なスキル向上が必要です。教育研修を実施することで、新たな知識や技能を習得し、業務の質を高められます。

また、研修を通じて従業員の専門性を強化すれば、企業全体の生産性向上にも貢献します。計画的な教育制度を導入し、従業員の能力開発を支援することが、企業の成長につながるでしょう。

ワークライフバランスを整える

ワークライフバランスを整えることで、従業員が働きやすい環境を実現できます。プライベートの時間を確保し、休息やリフレッシュができる環境を提供することで、仕事へのモチベーション向上につながります。

具体的な施策として、テレワークの導入や、介護・育児と両立しやすい勤務体制の整備が効果的です。柔軟な働き方を実現することで、従業員の負担を軽減し、仕事の効率も高められます。

また、ストレスの少ない職場環境を整えれば、従業員の定着率が向上し、離職率の低下につながるでしょう。企業がワークライフバランスを重視することは、従業員の満足度を高めるだけでなく、企業全体の生産性向上にも有効です。

福利厚生を見直す

福利厚生は、企業が従業員に提供する給与や賞与以外の制度であり、家族向けの支援制度を含む場合もあります。充実した福利厚生は、従業員の働きやすさを向上させ、企業への満足度を高める重要な要素です。

福利厚生の見直しに加え、適切な評価制度や昇給の仕組みを整えることも、従業員のモチベーション向上に効果的です。また、健康管理サポートや育児・介護支援制度を充実させることで、従業員が安心して働ける環境を提供できます。

反対に、福利厚生が不十分だと、従業員のパフォーマンス低下や離職率の上昇につながる可能性があります。福利厚生を整備することは、従業員のエンゲージメント向上と企業の競争力強化につながるでしょう。

人的資本投資に取り組む企業の事例

人的資本投資に積極的に取り組む企業は多く存在します。各企業がどのような施策を実施し、どのような成果を上げているのかを知ることは、効果的な投資において重要です。

具体的な事例を確認することで、自社に適した施策を見つけやすくなります。

以下では、人的資本投資を実践し、成果を上げている企業の具体的な事例を紹介します。

オムロン株式会社

オムロン株式会社は、ビジョンと志の実現のため、人的資本投資に積極的に取り組んでいる企業の一つです。社会価値と経済価値の両方を創出し、企業価値の最大化を目指すことで、会社と従業員の持続的な成長を追求しています。

具体的には、従業員のスキル向上やキャリア形成を支援する制度を整え、働きがいのある職場環境を提供しています。

人的資本投資を行った結果、オムロン株式会社は「人的資本調査2023」において、人的資本経営品質ゴールドを受賞しました。オムロン株式会社の取り組みは、人的資本経営を重視する企業の成功事例として注目されています。

参考:人財アトラクション | サステナビリティ | オムロン

参考:オムロン、「人的資本調査2023」において、「人的資本経営品質ゴールド」を初受賞 | オムロン

株式会社SHIFT

株式会社SHIFTは、ステークホルダーに対する透明性を高めるため、投資状況や組織の状況などの人的資本開示を積極的に行っています。

2018年頃から積極的な情報開示を開始した結果、投資家からの評価が向上し、株価や時価総額の上昇につながりました。上記は、人的資本への投資が企業価値の向上につながることを示す事例の一つです。

また、「人的資本調査2023」において、「人的資本リーダーズ 2023」および「人的資本経営品質 2023(ゴールド)」を受賞しています。受賞したことにより、人的資本経営の先進企業としての地位を確立しています。

参考:SHIFTにおける人的資本開示のリアル|SHIFT Group 技術ブログ

参考:人的資本調査2023において「人的資本リーダーズ 2023」および「人的資本経営品質 2023(ゴールド)」を受賞しました – 株式会社 SHIFT

人的資本投資に取り組む注意点

人的資本投資を進める際には、いくつかの注意点があります。適切な戦略を立てずに投資すると、期待する成果が得られず、かえってコストが増大する可能性があります。あらかじめ注意点を理解し、適切に対策することで、人的資本投資の効果を高められるでしょう。

下記では、具体的な注意点について解説します。

企業全体で同じ目標を持つ

人的資本投資を成功させるには、企業全体で同じ目標を持つことが重要です。同じ目標に向かうためには、明確なビジョンを定め、組織全体に浸透させる必要があります。

経営層だけが目標を決めるのではなく、すべての従業員が共通の認識を持つことが大切です。目標が共有されていないと、各部署や個人の方向性が定まらず、投資の効果が分散してしまいます。

共通の目標を持つことで、組織内の認識のギャップや誤解を防ぎ、一つのゴールに向かって効率的な経営が可能になります。人的資本投資の成果を最大化するためにも、全社的な目標の明確化と共有が欠かせません。

経営戦略と人事戦略を連動させる

人的資本投資を効果的に進めるには、経営戦略と人事戦略を連動させることが重要です。人事戦略は、採用や研修にとどまらず、組織設計やタレントマネジメント、リーダー育成、評価・報酬制度の設計など、幅広い要素を含みます。

企業の現状と将来の目指す姿のギャップを考慮し、中長期的な視点で経営戦略に基づいた人事戦略を設計する必要があります。適切に連動させることで、企業の成長を支える人材の確保・育成が可能です。

企業の競争力を維持するには、必要な人材像を明確にし、適切に育成・配置することが重要です。戦略的な人事施策の実施が、企業の持続的成長につながります。

人的資本の情報開示を行う

 

人的資本の情報開示は、投資家やステークホルダーが無形資産への投資状況を正確に評価するために重要です。人的資本への取り組みが適切に開示されることで、企業の経営方針や成長戦略がより明確になります。

日本だけでなく、米国や欧州でも人的資本開示は重視されており、ISO 30414が国際的な指針とされています。透明性のある情報開示を行うことで、投資家からの信頼を得られ、企業のブランド価値を高めることも可能です。

また、人的資本の開示には、従業員エンゲージメントやダイバーシティ、スキル開発、リーダーシップ育成などが含まれます。上記の情報を積極的に公開することで、企業の戦略実現可能性を外部に示せます。

企業の成長のために人的資本投資を積極的に導入しよう

人的資本投資は、企業の持続的な成長に欠かせない要素です。

従業員のスキル向上や働きやすい環境の整備により、生産性や従業員エンゲージメント、企業価値の向上にもつながります。人的資本への投資を積極的に行い、企業の成長と発展を実現していきましょう。


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