- 更新日 : 2025年3月5日
1からわかる給与計算業務!計算の流れやつらく感じる理由を紹介
給与計算業務は基本給や各種手当、社会保険料などを誤りなく正確に計算しなければならない重要な仕事です。
もし給与計算を間違えば、従業員の生活に影響が出るためミスは許されません。
さらには最新の法令にも対応しなければならず、労務に関する日々の情報収集が不可欠です。
この記事では、給与計算業務のやりがいやつらい理由、給与計算の流れなどを解説します。
目次
給与計算業務とは
給与計算業務とは、企業が従業員へ給与を支払うために、従業員の労働に対して適切な賃金を計算する業務です。
社内では一般的に経理や総務の担当者が行います。
給与計算では、まず基本給や各種手当を計算し、そこから健康保険料や雇用保険料などの社会保険料や各種税金を控除して、最終的な支給額(手取り額)を決定します。
給与計算業務に対して地味な印象を持つ方もいるかもしれませんが、従業員の生活を支える重要な業務であり、法律にもとづいて正確な給与を算出しなければなりません。
また、給与計算は単なる計算作業ではなく、不定期に改正される労働基準法や税法、社会保険制度など幅広い知識も必要になります。
さらには従業員ごとに雇用や勤務の形態が異なる点も考慮する必要があり、高い専門性と責任感が求められる仕事だと言えます。
給与計算業務の流れ
実際の給与計算業務の流れを解説していきます。
①勤怠締め
給与計算を行う前に「勤怠締め」という、従業員の出退勤の時間、残業時間、休暇日数などの勤怠情報を確定する作業を行わなければなりません。
勤怠情報に誤りがないかしっかり確認したうえで勤怠締めを行い、初めて正しい給与計算ができるようになります。
打刻ミスなど勤怠情報に誤りがあるまま給与計算をすると、給与の金額にズレが生じてしまいます。
そのため、勤怠締めを行う前に勤怠記録を細かく確認し、必要があれば本人に修正してもらいましょう。
勤怠締めは毎月10日・15日・20日など、区切りのよい日付で行うことが一般的です。
②総支給額の計算
勤怠締めの完了後は勤怠情報をもとに、総支給額を計算します。
▼ 総支給額の計算式
基本給は、職務内容や能力、職務の責任などにもとづいて決められる給与のベースとなる賃金です。
この基本給に、残業手当や交通費、役職手当などの各種手当を含めることで、給与の総支給額を決定します。
また、各種手当は固定手当と変動手当に分かれているため、計算時は注意しましょう。
固定手当 | 変動手当 | |
---|---|---|
特徴 | 支給額が一定 | 条件や実績に応じて支給額が変動 |
手当の例 |
|
|
そして、変動手当のうち時間外労働については、通常の賃金に割増率を掛け算する割増賃金が適用されます。
種類 | 支払条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 法定時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働 | 25% ※60時間を超えた場合は50%以上 |
休日労働 | 法定休日(週1日)の労働 | 35% |
深夜労働 | 22時から5時までの間の労働 | 25% |
これらすべてを計算して、総支給額を算出します。
③控除額の計算
次に社会保険料や各種税金を計算し、給与の控除額を算出します。
控除の種類と計算方法は下記のとおりです。
分類 | 保険料名 | 概要 | 計算方法 |
---|---|---|---|
社会保険料 | 健康保険料 | 医療費の負担の軽減に使用 | 標準報酬月額に健康保険の保険料率を掛け算 会社と従業員で折半し、保険料率は加入先で異なる |
介護保険料 | 介護サービスの支援に使用 | 40歳以上65歳未満の従業員の標準報酬月額に介護保険料率を掛け算 会社と従業員で折半 | |
厚生年金保険料 | 老後の年金や障害・遺族年金などに使用 | 標準報酬月額に厚生年金保険料率を掛け算 会社と従業員で折半 | |
雇用保険料 | 失業時や育児休業の給付に使用 | 給与に雇用保険料率を掛け算した額を負担 業種で負担率が異なる | |
税金 | 所得税 | 社会保障や防衛費その他に使用 | 給与から社会保険料を差し引いた額に対して、所得税率を適用(累進課税制度) 税率は給与額や扶養人数で変動 |
住民税 | 住んでいる自治体のインフラ整備やサービスに使用 | 前年の所得をもとに課税所得を算出 市区町村民税と都道府県民税の税率を適用し、均等割を加える | |
勤怠控除 | 欠勤控除 | 欠勤日数に応じた控除 | 月給を所定労働日数で割り、欠勤日数分を控除 |
遅刻・早退控除 | 遅刻や早退による控除 | 月給を所定労働時間で割り、遅刻や早退した時間に応じて控除 |
それぞれ計算方法が異なりますが、給与計算においてミスは許されません。
チェックリストを活用したり、複数人で計算し、ダブルチェックやトリプルチェックを行いミスを防止しましょう。
控除額の詳しい計算方法については、関連記事をご参考にしてください。
関連記事:「給与明細の控除項目とは?計算から記載方法まで解説」
④手取り額の決定
手取り額(差引支給額)はこれまで計算した、総支給額と控除額から以下のように簡単な式で算出できます。
▼ 手取り額の計算式
※勤怠控除は、欠勤や遅刻があった場合に給与から控除する金額。
複雑な給与計算もこれで完了です。
⑤賃金台帳の更新・給与明細の作成などの事務処理
給与計算が完了したら、賃金台帳の更新や給与明細の作成といった事務処理を行いましょう。
賃金台帳は法定四帳簿のひとつで、従業員ごとの給与の支払い履歴を記録する書類です。
労働基準法109条により、最後の記入日を起算日として、原則5年間(源泉徴収簿と兼ねる場合は7年間)の保存が義務付けられています。
この保存期間は、2020年4月に改正労働基準法により3年から5年へ延長されました。
しかし、現在(2025年3月時点)は法改正にともなう経過措置の期間中であることから、保存期間は3年間でも問題ないとされています。
また、給与明細書は所得税法にもとづき、従業員に対しての交付が義務付けられています。
賃金台帳も給与明細書も不備がないように注意して更新・作成を行いましょう。
⑥給与の支払い
給与支給日に従業員の口座へ給与が支払われるよう、振込手続きを行います。
給与の支払い方法については、労働基準法で定められている「賃金支払の五原則」を守らなければいけません。
賃金については、労働基準法第24条において、(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されています
※(1)について労働基準法施行規則の改正にともない、令和5年4月から指定された電子マネーの支払いも可能になっている。
賃金支払の五原則には一部例外もあり、詳しくは下記記事で解説しています。
関連記事:「労働基準法第24条とは?賃金支払いの5原則や違反した場合の罰則を解説」
⑦社会保険料や税金の納付
最後に社会保険料や各種税金を納付します。
納付方法は保険料や税金によって異なるため、間違えないように気をつけましょう。
▼ 納付方法の例
健康保険料:納付対象月の翌月末日までに金融機関で納付(例:5月分保険料は6月末日までに納付) 住民税:給与から差し引いた分を従業員の住所地である市区町村へ翌月10日までに納付 |
以上が給与計算業務の一連の流れになります。
各種社会保険料や所得税、住民税の納付方法について、詳しくは関連記事で解説しています。
▼ 関連記事
給与計算業務は資格がなくてもできる
給与計算は専門性の求められる仕事ですが、国家資格のような特別な資格は必要ありません。
しかし、正確な給与計算のためには労務に関する知識が不可欠です。
もし資格を取得するとしたら、給与計算の実務能力を評価する「給与計算実務能力検定」を受けてみてもよいでしょう。
給与計算実務能力検定は年間数千人が受ける試験であり、2024年度では2級の合格率は約70%前後、1級の合格率は約37%となっています。
資格があれば、給与計算についての確かな知識・スキルを持っていることの証明になり、社内評価や転職時に有利に働くこともあるかもしれません。
また、キャリアアップをしたい方は労務関連の知識を深めるために、社会保険労務士や税理士の資格取得を目指してもよいでしょう。
自身のキャリア形成に合わせ、資格を取得するべきか判断しましょう。
参考:給与計算実務能力検定試験®とは|人事・総務・経理でつかえる資格取得|実務能力開発支援協会
給与計算業務の年間スケジュール
給与計算業務の年間スケジュールを紹介します。
経理の仕事は給与計算以外にも、各所税金の納付や提出書類の作成などさまざまです。
月 | 内容 |
---|---|
1月 | |
4月 | |
6月 |
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7月 |
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8月 |
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9月 |
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10月 |
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11月 |
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12月 |
|
※4月入社かつ、賞与支払いは7月、12月の年2回と仮定。
経理の繁忙期は、会社によって多少異なる場合もあるものの、一般的には3~6月、12~1月頃となります。
年間スケジュールを把握し、先々の予定を考えながら日々の業務をこなしていきましょう。
給与計算業務はつらい・難しい?3つの理由を解説
給与計算業務がつらい、難しいと感じる方もなかにはいます。
ここでは給与計算が負担に感じる3つの理由を解説します。
①ミスをしてはいけないというプレッシャーがある
「ミスをしてはいけない」というプレッシャーの強さが、給与計算業務がつらい理由のひとつです。
給与は日々働く従業員の労働の対価であり、生活を支えるための大切なお金です。
そのため、もし金額に誤りがあれば従業員からの信頼を失いかねません。
また、万が一支払いが遅れた場合は、ローン返済の滞りなど、従業員の生活に大きな問題をおよぼす場合もあります。
そして、納付する税金の金額が間違っていると、税務署や年金事務所への修正申告や従業員への説明が必要になり、多くの時間と労力が掛かります。
給与計算に誤りがあると、上記のような事態を引き起こすためミスが許されません。
さらに、近年は働き方改革が推し進められている影響で、労働に関連した法律の内容が毎年のように変更されています。
給与の計算方法が変更されることもあり、改正に随時対応しなければなりません。
このような状況のなか、細心の注意を払って給与計算を進めなければならないため、心理的な負担を感じる方も少なくありません。
②「正しく計算できて当たり前」という雰囲気がある
給与計算は重要性が高く慎重を期す仕事であるにも関わらず「正しくできて当たり前」という雰囲気があります。
給与計算に関わったことがない従業員からは、単純な計算を機械的にするだけの業務と捉えられているような場合もあるでしょう。
そのため、給与計算の大変さを理解している従業員以外からは、仕事を評価されにくい一面があります。
③締め日前後は仕事を休みにくくなる
給与計算は毎月必ず行わなければならず、締め日前後は業務が集中するためその間は休みが取りにくくなってしまいます。
ミスをできないプレッシャーがあるうえに休みも取りづらいため、毎月締め日の前後は疲弊してしまいがちです。
給与計算業務を効率化する方法
給与計算は大変な作業ですが、効率化する方法を2つ解説します。
給与計算システムを利用する
給与計算業務を効率化する1つ目の方法は、給与計算システムを利用することです。
給与計算システムは、従業員の勤怠情報をもとに給与を自動計算するシステムで、勤怠管理システムの一部として備わっている場合もあります。
給与計算の自動化により、担当者の工数を大幅に削減でき、ヒューマンエラーを防げる点が大きなメリットになります。
最新の法改正による税制の変更についても、クラウドソフトであれば自動でアップデートし計算結果に反映してくれます。
一方、デメリットとしてはシステムに慣れるまでが大変であり、クラウドソフトであれば、システム開発会社への支払いが継続的に発生する点が挙げられます。
また、大元の勤怠情報が間違っている場合は、計算ミスが発生するため注意しましょう。
多少のデメリットはあるものの、給与計算システムを使いこなせば、長期的には膨大なコストの削減につながるでしょう。
社労士などに外部委託(アウトソーシング)する
外部委託(アウトソーシング)も給与計算業務の効率化に有効です。
社労士など社外の専門家に業務を委託することで、給与計算の工数を大幅に削減でき、最新の法令への対応も安心して行えます。
外部業者とのやり取りは必要になるものの、給与計算の業務時間が浮く分、担当者は別の業務へ注力できるようになるでしょう。
デメリットとは、給与計算に関するノウハウが社内に蓄積されにくく、突発的なトラブルに対応しにくい点です。
また、外部委託の際は相手方のスケジュールに余裕を持たせるため、締め日~支払い日の間隔をなるべく15日以上は空けて依頼するようにしましょう。
給与計算業務は会社の根幹を担うやりがいのある仕事
給与計算業務は心理的な重圧が掛かるなかで完璧を求められる仕事であり、毎月プレッシャーを感じる方もいるでしょう。
しかし、給与の正確な支払いができなければ会社は成り立ちません。
そのため、給与計算業務は組織の土台を支えるやりがいのある仕事であるとも言えます。
給与計算システムや外部委託を利用して負担を軽減し、自分の業務が会社を支えているという自信を持って日々の業務に取り組んでみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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