• 更新日 : 2025年7月25日

勤怠管理システムの導入に使える補助金・助成金|申請方法から注意点まで徹底解説

現代の企業経営において、正確な勤怠管理はコンプライアンス遵守、適正な労務管理、そして生産性向上の基盤です。特に中小企業にとって、勤怠管理システムの導入や刷新は大きなコスト負担となることがあります。そんな時に、国や自治体が提供する補助金・助成金を活用すると、負担を軽減できる可能性があります。

本記事では、勤怠管理システムの導入に利用できる主要な補助金・助成金について、対象、金額、申請方法、注意点などを詳しく解説します。

勤怠管理システムに使える補助金・助成金

勤怠管理システムの導入に活用できる補助金・助成金は多岐にわたりますが、ここでは、中小企業が特に利用しやすい代表的な3つの制度を詳しく解説します。

1. IT導入補助金2025

IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化や売上アップをサポートする制度です。ITベンダーが登録・認定した勤怠管理システムは、このITツールに該当する代表的なものの一つです。

参考:IT導入補助金2025

IT導入補助金の主な申請枠と補助額・補助率

勤怠管理システムの導入では主に「通常枠」が利用されます。対象経費はソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入コンサルティングや保守サポート等の関連費用です。

IT導入補助金(通常枠)
  • 対象経費:ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費(活用支援含む)
  • プロセス/機能要件:業務プロセスが1~3つ、または4つ以上
  • 補助率:通常枠の補助率は1/2、賃上げ等の要件を満たせば2/3
  • 補助上限額:1~3プロセス:5万円~150万円未満、4プロセス以上:150万円~450万円
  • 賃上げ目標の扱い:補助率や採択に影響
IT導入補助金(インボイス枠)
  • 対象経費:会計・受発注・決済ソフト、PC・タブレット等
  • プロセス/機能要件:会計・受発注・決済のうち1機能以上、または2機能以上
  • 補助率:ITツール:50万円までが3/4(小規模事業者は4/5)、ハードウェア:1/2
  • 補助上限額:ITツール:~350万円、PC・タブレット等:~10万円
  • 賃上げ目標の扱い:通常枠ほど強調されていない

IT導入補助金の申請準備と流れ

申請には事前の手続きが不可欠です。

  1. 必須準備
    • gBizIDプライムの取得
      電子申請に必須のアカウント。公式マニュアルによれば審査完了まで概ね2週間(繁忙期は延びる場合あり)かかります。
    • SECURITY ACTIONの宣言
      IPAが実施する情報セキュリティ対策の自己宣言(「★ 一つ星」または「★★ 二つ星」)が必要です。
  2. 申請フロー
    • 上記の準備を整え、事務局認定の「IT導入支援事業者」を選定します。
    • IT導入支援事業者と共同で事業計画を作成し、電子申請します。
    • 交付決定通知を受けた後、ITツールの契約・発注・支払いを行います。
    • 導入後に事業実績報告を提出し、審査を経て補助金が交付されます。
IT導入補助金の活用のポイントと注意点
  • 事前着手の厳禁
    補助金の交付決定前に契約・発注・支払いを行ったITツールは補助対象外です。この順序の厳守が絶対条件です。
  • IT導入支援事業者の選定
    自社の課題解決に最適な提案や、導入後のサポートまで信頼できる事業者を選ぶことが成果を左右します。
  • 不採択の理由
    対象外経費の申請、書類不備、事業効果の具体性の欠如などが主な不採択理由として挙げられます。公募要領を熟読し、計画的に準備を進めましょう。

2. 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

この助成金は、生産性を向上させ、労働時間の縮減や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業事業主を支援するものです。2023年度限りで従来の「労働時間適正管理推進コース」が廃止され、2024年度以降は「労働時間短縮・年休促進支援コース」に一本化されました。

参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) |厚生労働省

対象となる事業者と主な要件

労働者災害補償保険の適用事業主であり、特定の資本金・従業員数の要件を満たす中小企業事業主が対象です。また、成果目標として、全ての対象事業場で年5日の年次有給休暇の取得に向けた就業規則等の整備や、月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数の縮減などを設定する必要があります。

勤怠管理システム導入と関連性の高いコース

勤怠管理システムは「労務管理用ソフトウェアの導入・更新」として、以下のコースなどで助成対象となります。

  • 労働時間短縮・年休促進支援コース
    時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進を目指す企業向けです。
  • 勤務間インターバル導入コース
    勤務終了から次の勤務開始までの休息時間を設ける制度の導入を支援します。
  • 業種別課題対応コース
    建設業や運送業など、特定業種の働き方改善を支援します。

助成対象となる取り組みと成果目標

助成金を受給するには、単にシステムを導入するだけでなく、コースごとに定められた「成果目標」の達成が必須です。また目標達成には、多くの場合、就業規則の作成・変更と労働基準監督署への届出が必要です。

助成額・補助率の目安と対象経費
  • 補助率:勤務間インターバル導入コースの補助率は原則3/4、常時使用する労働者数が30人以下かつ高額取組(150万円超)で4/5に引き上げ。
  • 上限額:同コースの助成上限額は、取組区分により50万・60万・100万・120万円の4段階です。
  • 対象経費:勤怠管理システム導入費用のほか、研修費用や社会保険労務士など外部専門家へのコンサルティング費用も対象となることがあります。
働き方改革推進支援助成金活用のポイントと注意点
  • 成果目標の達成:事業計画で設定した成果目標の達成が支給の絶対条件です。未達成の場合、減額や不支給の可能性があります。
  • 事前着手の禁止:交付決定前のシステム購入や契約は助成対象外です。
  • 法令遵守:申請前に、未払い残業代がないかなど、自社の労務管理が法令を遵守しているかを確認することが大前提です。就業規則の記載不備も不支給の原因となります。

3. 業務改善助成金

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げ、設備投資など(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。生産性向上のための設備投資の一環として、勤怠管理システムの導入が認められる場合があります。

参考:業務改善助成金|厚生労働省業務改善助成金とは?メリットや申請プロセスに加えて成功事例を解説 | マネーフォワード クラウドERP

対象となる事業者と主な要件

事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内の中小企業・小規模事業者が対象です。助成金を受けるためには、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる事業計画を策定し、実行する必要があります。賃上げ額に応じて助成の上限額が変わる仕組みです。

補助対象となる経費と助成率

勤怠管理システムの導入のほか、POSレジシステムの導入による業務効率化、専門家による業務フロー見直しコンサルティングなど、生産性向上に資する幅広い投資が対象です。

2025年度の助成率は、4/5(1000円未満)または3/4(1000円以上)、上限額は取組規模により30〜600万円です。

2025年の活用方法と注意点

この助成金は賃上げが前提となるため、従業員の待遇改善と設備投資を同時に行いたい企業に最適です。申請前に、管轄の労働局へ相談し、計画の妥当性を確認することが推奨されます。

勤怠管理システムに関する補助金・助成金の選び方

どの補助金・助成金を選択すべきかは、企業の置かれた状況と導入目的によって大きく異なります。まず、自社の最も解決したい課題は何かを明確にすることが重要です。

IT導入補助金
  • 主な目的:ITツール導入による業務効率化・売上向上
  • 対象事業者:中小企業・小規模事業者
  • 補助対象経費の例:ソフトウェア購入費、クラウド利用料
  • 特徴:登録済みIT導入支援事業者との連携が必要。2025年度は通常枠5回、インボイス枠5回の年10回の締切を予定。
働き方改革推進支援助成金
  • 主な目的:労働時間削減、年休取得促進
  • 対象事業者:中小企業事業主
  • 補助対象経費の例:勤怠管理システム、労務管理コンサルティング費用、就業規則作成費用
  • 特徴:働き方改革への取り組みが評価される。コンサル費用も対象になる。
業務改善助成金
  • 主な目的:最低賃金の引き上げと生産性向上
  • 対象事業者:中小企業・小規模事業者(賃金要件あり)
  • 補助対象経費の例:生産性向上に資する設備投資(勤怠管理システム含む)
  • 特徴:「賃上げ」が必須要件。助成率が非常に高い場合がある。

自社の経営課題、改善したい具体的な目標、システム導入にかけられる予算、そして各制度が求める要件を総合的に比較検討し、最もメリットが大きく、かつ達成可能な制度を選ぶ戦略的な視点が求められます。

勤怠管理システムに関する補助金申請の流れ

補助金の種類によって詳細は異なりますが、申請から受給までの大まかな流れは共通しています。

  1. 公募要領の確認・情報収集
    自社が対象となるか、スケジュール、必要書類などを公式サイトで熟読します。
  2. 事業計画の策定
    なぜ勤怠管理システムが必要なのか、導入によってどのような課題が解決され、どう生産性が向上するのかを具体的に記述します。
  3. 申請手続き
    IT導入補助金の場合はIT導入支援事業者と、その他の場合は社会保険労務士など専門家の支援を受けながら申請書類を作成し、提出します。
  4. 交付決定・事業実施
    審査を経て交付が決定したら、計画に沿って勤怠管理システムの発注・導入を行います。
  5. 実績報告・受給
    事業完了後、実績報告書と証拠書類(契約書、請求書領収書など)を提出し、検査を経て補助金が振り込まれます。

勤怠管理システムに関する補助金の採択率を高めるポイント

  1. 事業計画書を具体的に書く
    「業務が楽になる」といった曖昧な表現ではなく、「手作業による集計時間が月間〇〇時間削減され、その時間を△△業務に充てることで、売上〇%向上を目指す」のように、可能な限り数値を用いて具体的かつ客観的な計画を示しましょう。
  2. 専門家を積極的に活用する
    申請書類の作成は煩雑で、不備があると不交付・取消しに繋がります。IT導入補助金であればIT導入支援事業者、働き方改革推進支援助成金や業務改善助成金であれば社会保険労務士など、知見を持つ専門家のサポートを受けることで、採択の可能性が格段に高まります。
  3. 早めに準備を始める
    公募開始から締切までは期間が短いことが多く、準備不足になりがちです。公募開始前から情報収集を進め、どの補助金を活用するか目星をつけ、専門家への相談や見積もりの取得などを進めておきましょう。

勤怠管理システムの補助金を賢く活用しましょう

勤怠管理システムの導入は、もはや単なるコスト管理ツールではなく、コンプライアンス遵守、従業員の働きがい向上、そして企業全体の生産性向上を実現するための戦略的な投資です。

今回ご紹介した「IT導入補助金」「働き方改革推進支援助成金」「業務改善助成金」は、その投資負担を大幅に軽減してくれる心強い味方です。それぞれの制度の特徴を正しく理解し、自社の課題や目的に合ったものを選ぶことが重要です。

2025年も、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2024年6月21日閣議決定)等で、企業の働き方改革とDX化を明確に後押ししています。ぜひこれらの制度を最大限に活用し、コストを抑えながら、企業の持続的な成長を実現してください。まずは各補助金の公式サイトを確認し、専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。


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