• 更新日 : 2025年7月14日

福利厚生費に所得税はかかる?課税・非課税の条件をケース別に解説

福利厚生費に対する所得税の取扱いは、制度の内容や運用方法によって異なります。適切な知識を欠いたまま処理を行うと、課税対象とみなされるリスクもあるため、制度に対する正確な理解が不可欠です。

本記事は、福利厚生費が課税・非課税となる条件や企業担当者が押さえておくべきポイントについて、具体例を挙げながらわかりやすく解説します。

福利厚生費が所得税の課税対象となる場合

福利厚生費は、従業員の生活の安定や働きやすい環境づくりを目的とした企業の支出ですが、支給の内容や方法によっては所得税が課されることがあります。

たとえば、現金や商品券の支給、一部の従業員のみを対象とした制度は給与性が強いと判断されるため、所得税の課税対象です。

つまり、福利厚生費であっても「給与としての性質」が強い場合は、原則として所得税が課税されます。

福利厚生費と所得税については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて確認してみてください。

福利厚生費の所得税が非課税となる4つの条件

ここでは、福利厚生費の所得税が非課税となるために必要な4つの条件を解説します。

条件1:福利厚生の目的として適切な内容である

福利厚生費が非課税と認められるためには、従業員の健康維持や生活支援、労働環境の改善など、福利厚生の本来の目的に即した内容であることが欠かせません。

具体的には、健康診断やスキルアップのための研修費用、育児支援サービスなどが挙げられます。一方で、娯楽目的で提供するサービスは所得税の課税対象となるため注意が必要です。

このように、福利厚生費の目的が適正であれば非課税と判断されやすくなります。

条件2:すべての従業員に公平に提供されている

福利厚生費にかかる所得税が非課税となるためには、支給対象が特定の従業員に限られず、すべての従業員に平等に提供されている必要があります。

つまり、特定の役員や一部の従業員だけに限定された福利厚生は給与扱いとなり、所得税の課税対象です。たとえ従業員本人が福利厚生を利用しない場合でも、制度自体がすべての従業員を対象としていることが重要です。

「カフェテリアプラン」のような選択型の福利厚生においても、全従業員に平等に選択肢が与えられているかどうかが課税・非課税の判断基準となります。

カフェテリアプランについては、以下の記事をご確認ください。

条件3:社会通念上妥当な金額である

福利厚生費として認められるためには、金額が社会通念上妥当な範囲内にあることが求められます。

たとえば、常識的な範囲内で実施される健康診断や社員旅行の費用は、非課税として取り扱われます。しかし、従業員一人あたり数十万円の豪華な社員旅行や高額な贈答品などは福利厚生の趣旨から外れるため、税務署から指摘を受けやすいでしょう。

条件4:現金や換金性の高い支給ではない

国税庁の見解では、福利厚生は現物給付(物品やサービスの提供)が原則とされており、現金や換金可能な商品券を支給する場合は課税対象となります。

つまり、現金または現金に近い形での支給は給与性が強いと判断され、所得税が課されます。たとえば、健康診断費用を従業員が立て替えた後に現金で精算するケースも課税対象となるため、福利厚生費として計上する際は支給方法に細心の注意が必要です。

所得税が原則非課税となる福利厚生費【7選】

ここでは、所得税が非課税となる福利厚生費のうち、企業が実際に導入しやすいものを7つ厳選し、非課税の条件や注意点についてわかりやすく解説します。

1. 社内イベント費用

忘年会や新年会、創立記念式典などの社内イベントにかかる費用は、一定の条件を満たせば福利厚生費として所得税が非課税になります。具体的な条件は以下の3つです。

  • すべての従業員を対象に実施されている
  • 部署・支社を問わず、平等に開催機会が与えられている
  • 相当数の従業員が参加している

つまり、役員のみの懇親会や特定部署のイベントは、福利厚生費として認められず、課税対象となる可能性があります。

社内イベントで従業員に記念品を支給する場合も、「記念品としてふさわしいもの」や「金額が1万円以下であること」などの条件があるため注意しましょう。

参考:No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき|国税庁

2. 慶弔見舞金

結婚祝いや出産祝い、葬儀の香典、見舞金などの慶弔見舞金は、福利厚生の一環として支給する場合、原則として所得税は課税されません。ただし、非課税と認められるためには「金額が社会通念上相当」と認められる必要があります。

とくに災害見舞金は、被災の状況に応じて合理的な支給基準を設け、被災した従業員に公平に適用することが求められます。退職者や採用内定者に対して、現職の従業員と同様の基準で支給する場合も非課税扱いです。

参考:
所得税基本通達9-23(葬祭料、香典等)|国税庁
所得税基本通達28-5(雇用契約等に基づいて支給される結婚祝金品等)|国税庁
5 従業員等に支給する災害見舞金品|国税庁

3. 食事の支給

企業が従業員に支給する食事の費用は、以下の2つの条件を満たすことで非課税扱いとなります。

  • 従業員が食事代の半額以上を自己負担している
  • 企業の負担額が月額3,500円(消費税を除く)以下である

なお、現金で食事代を補助する場合は原則として課税対象ですが、深夜勤務者に対する1食300円(税抜)以下の補助は例外的に非課税です。残業や勤務時間外の宿直勤務に伴って提供される食事は、従業員の負担がなくても非課税となります。

参考:
所得税基本通達36-24(課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事)|国税庁
No.2594 食事を支給したとき|国税庁

4. 資格取得支援費用

従業員のスキルアップを目的とした「資格取得支援費用」は、一定の条件を満たすことで所得税が課税されない福利厚生費として取り扱われます。

具体的には、業務に必要な資格や免許の取得を目的とした研修費、講習会費、大学等の聴講料、教材費などが対象です。

これらの費用が「職務に直接必要な知識や技術の習得」を目的としており、会社が適正に支給している場合は非課税となります。ただし、趣味や私的な目的の資格取得支援は課税対象となるため、支援内容の妥当性・業務関連性を明確にすることが重要です。

参考:No.2601 職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき|国税庁

5. 人間ドックの費用

企業が従業員の健康管理を目的として人間ドックの費用を負担する場合、原則としてその費用にかかる所得税は非課税となります。これは、一定年齢以上の希望者全員が受診可能で、かつ、会社が検診費用を一律に負担するものとして認められる場合に適用されます。

一方で、役員や特定の従業員に限定して費用を負担する場合は、課税対象となる可能性があるため注意が必要です。

参考:人間ドックの費用負担|国税庁

6. レクリエーション費用

福利厚生費のうち所得税が非課税となるレクリエーション費用には、社員旅行や運動会、サークル活動に関する費用が含まれます。

ただし、社員旅行の場合は「旅行期間が4泊5日以内」「参加者が全従業員の50%以上」などの条件を満たす必要があります。

これらの条件を満たさない場合や、役員のみの旅行、接待目的の旅行は福利厚生費として認められず、給与や交際費として扱われるため注意が必要です。参加を辞退した従業員に金銭を支給した場合も課税対象となります。

参考:
所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)|国税庁
No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行|国税庁

7. 育児・介護費用

企業が従業員の育児や介護を支援する目的で、保育施設の利用料や介護用品の購入費用を補助する場合、それが全従業員を対象とし、かつ妥当な金額であれば非課税扱いとなります。

つまり、個人の生活費に相当する過剰な支援(例:衣類、食費、家賃補助など)は給与と判断され、課税対象となる可能性があります。

福利厚生費が所得税の課税対象となるケース|具体例あり

ここでは、福利厚生費が課税対象となる7つのケースについて、課税リスクを回避するための実務上の注意点とあわせて解説します。

1. 過剰な通勤手当

通勤手当は、従業員への福利厚生の一環として支給される場合でも、一定の非課税限度額を超えると所得税の課税対象となります。

電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合は、「最も経済的かつ合理的な経路」で通勤した場合の費用、または月15万円のいずれか低い金額までが非課税です。一方、マイカーや自転車通勤の場合は、片道2km未満では全額課税であり、2km以上でも通勤距離に応じて月額の上限額が定められています。

福利厚生の一環で支給される場合であっても、限度額を超えた通勤手当は課税対象となるため、通勤手段と支給額の整合性が重要です。

参考:
No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁
No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁

通勤手当の課税・非課税の判断基準について詳しく知りたい方は、以下の記事を確認してみましょう。

通勤手当は課税それとも非課税?限度額やルールを解説

2. 現金で支給した健康診断費用

企業が医療機関へ直接支払うケースとは異なり、従業員に健康診断費用を現金で支給した場合は非課税になりません。この場合の費用は給与とみなされるため、所得税の課税対象となります。

支給金額や対象者にも注意が必要です。

常識的な範囲を超えた高額な健康診断費用は福利厚生と認められず、全額が課税対象になるリスクがあります。さらに、正社員・契約社員などの雇用形態や性別、役職を問わず、すべての従業員に公平に提供されていなければなりません。

以下の記事では、健康診断費用を福利厚生費として経費計上する際の仕訳例を紹介しています。あわせてご確認ください。

3. 従業員の負担額が基準に満たない社宅・寮の家賃

社宅や寮の家賃負担が課税か非課税かは、従業員負担が「賃貸料相当額の50%以上」かどうかで判断されます。

賃貸料相当額は、次の(1)~(3)の合計額で算出されます。

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント

(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))

(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント

引用:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁

従業員の家賃負担が賃貸料相当額の50%未満の場合、賃貸料相当額と従業員負担額の差額が所得税の課税対象となります。

住宅手当の現金支給や、従業員が直接契約して支払う家賃も社宅の貸与とは認められないため、所得税が課されます。

社宅に所得税を発生させないポイントや注意点については、以下の記事を参考にしてみてください。

4. 一部の従業員しか参加できない社員旅行・研修旅行

社員旅行や研修旅行の費用にかかる所得税が非課税となる主な条件は、全従業員を対象として企画されており、かつ参加率が50%以上であることです。

これらの要件を満たさず、特定の部署や限られた従業員のみが参加する場合、従業員個人への給与とみなされ、課税対象となる可能性があります。

旅行と業務の関連性が薄い場合や、研修旅行の名目でも実質的に観光が中心である場合にも、所得税が課されるリスクがあるため注意が必要です。

5. 従業員負担が少ない食事の支給

福利厚生として従業員に食事を提供する場合でも、所得税が課されるケースがあります。

課税を避けるためには、「従業員が食事代の半分以上を自己負担していること」「企業の負担額が月額3,500円(税抜)以下であること」などの要件を満たさなければなりません。どちらかを満たさない場合、企業負担分は給与とみなされ、所得税の課税対象となります。

たとえば、1ヶ月あたりの食事代5,000円のうち従業員の負担が2,000円の場合、「従業員が食事代の半分以上を自己負担していること」を満たしていません。この場合、企業負担の3,000円が給与扱いとなり、所得税が課されます。

なお、現金支給による食事手当は原則として課税対象となるため、弁当や社員食堂などの現物支給が基本です。

6. 高額な飲食費

社内の飲み会や食事会を「福利厚生費」として所得税の非課税扱いとするには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

  • 全従業員を対象として開催される
  • 飲食の提供が金銭ではなく現物である
  • 社会通念上妥当な金額である

ただし、これらの条件を満たしていたとしても、一人あたりの飲食費が数万円を超えるなど高額な場合は「交際費」とみなされ、非課税の扱いを受けられないことがあります。

常識的な範囲内の飲食費であれば問題なく非課税扱いとなりますが、万が一高額な支出が発生した場合には、顧問税理士に相談し、適切に処理するようにしましょう。

7. 現金や換金性の高い物品の支給

福利厚生費として非課税で処理できるのは、従業員全体を対象にし、業務遂行上必要かつ私的利用が難しい物品に限られます。

そのため、現金や旅行券、商品券など自由に使える金銭的価値の高いものを支給した場合は、所得税の課税対象です。

スーツやバッグなどの現物支給も、業務用としての必要性や私的利用の制限が明確でない場合は「制服等の非課税要件」を満たさないため、課税される可能性があります。

非課税とするためには、支給品が業務上必要であること、私用が困難であること、支給対象が広く平等であることが重要な条件となります。

参考:背広の支給による経済的利益|国税庁

福利厚生費と所得税に関する注意点

福利厚生費と所得税の関係は複雑で、企業や従業員が誤解しやすいポイントがいくつかあります。

まず「福利厚生費はすべて非課税」と誤解されがちですが、現金や商品券の支給は原則として所得税の課税対象です。ただし、食事券など一定の条件を満たす福利厚生目的の支給は非課税になる場合があります。

また、福利厚生費として負担する費用が経費として認められるかどうかは、税務署の判断基準によって異なります。

そのため、就業規則や福利厚生規程に支給内容や利用条件を明確に記載し、従業員に周知することが重要です。これにより、税務調査での説明責任が果たせるだけでなく、従業員間のトラブル防止や適切な経費計上の根拠にもなります。

誤解やトラブルを避けるためには、税法の最新動向を踏まえた適切な制度設計と運用、そして税理士など専門家への相談が欠かせません。


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