• 更新日 : 2025年3月11日

副業すると社会保険料が増える?社会保険加入時に注意すべきポイントを解説!

働き方改革が推進され、多様な働き方の一つとして副業・兼業のダブルワークを認める企業が増えています。「自身の能力を一つの企業にとらわれず幅広く発揮したい」という想いから前向きに検討している方もいるのではないでしょうか。

今回は、副業・兼業に関する社会保険料について、会社員と個人事業主の社会保険の違いも含めて解説します。

副業すると社会保険料が増える?

副業・兼業といっても働き方の形態はさまざまであり、一つではありません。副業・兼業には、現在の会社員としての勤務先以外に別の会社でパートなどの非正規社員として勤務するケースと、会社員として勤務をしながら事業主として起業するケースがあります。社会保険料は、どちらの形態で副業を行うかによって違ってきます。

まず、パートなどの非正規社員として副業をする場合、労働時間や賃金の額によっては副業先の企業で社会保険の加入要件を満たしてしまうことがあります。

会社員の社会保険にはいくつもの種類がありますが、被保険者となれば当然、本業の勤務先と同様に社会保険料を負担しなければなりません。もちろん、労働時間や賃金額などが被保険者として適用される要件を満たしていなければ、被保険者とならず、社会保険料は発生しません。

一方、個人事業主として起業する場合は、労働者ではないため、新たに社会保険に加入する必要はありません。

そもそも会社員と個人事業主は加入する保険が違う!

会社員と個人事業主の社会保険について詳しくみていきましょう。それぞれどのような違いがあるのでしょうか。

会社員・サラリーマンが加入する社会保険は?

副業でも会社員であれば、加入するのは現在の勤務先で加入している社会保険と仕組みは同じです。つまり、健康保険、介護保険、厚生年金保険雇用保険、労災保険の5つになります。

健康保険

健康保険は、公的医療保険の代表格です。業務・通勤外での傷病や出産・死亡などの際に保険給付が受けられます。保険事業を運営する保険者は、民間企業の場合、基本的に大手企業では健康保険組合(組合健保)、それ以外は全国健康保険協会(協会けんぽ)です。

原則として医療機関を受診した場合の自己負担は3割です。保険料は事業主と折半で負担します。

介護保険

介護が必要になった場合に、所定の介護サービスを受けられる制度です。被保険者として加入義務があるのは40歳以上であり、40~64歳は第2号保険者、65歳以上は第1号被保険者となります。第2号保険者の保険料は事業主と折半であり、健康保険料と一緒に給与から控除され、会社が納付します。

厚生年金保険

雇用される労働者の公的年金の2階部分になるのが厚生年金保険です。1階部分は国民年金(基礎年金)になります。いずれも老齢、障害、死亡の際に支給されます。厚生年金保険料は事業主と折半で負担しますが、国民年金保険料は、会社員の場合、直接負担することはありません。

雇用保険

失業した場合のほか、自ら教育訓練を受けた場合や育児・介護休業を取得した場合などに、所定の保険給付を受けられる制度です。保険給付事業以外に雇用安定事業や能力開発事業などの二事業があります。保険料は、保険給付事業分は事業主と折半ですが、二事業の分は事業主負担となっています。

労災保険

労災保険は、業務上・通勤途上の際の傷病、障害、死亡に対して保険給付するものです。本来業務上災害が発生した際には、労働基準法に基づき労働者を雇用する事業主に無過失の補償義務が発生します。

労災保険は、事業主が労災保険に加入することで労災事故が発生した際の補償義務を免れ、労災保険から被災労働者等に保険給付される仕組みになっています。こうしたことから、労災保険料は全額、事業主負担となります。

個人事業主・フリーランスが加入する保険は?

次に、個人事業主・フリーランスが加入する社会保険についてみていきます。

国民健康保険

公的医療保険として居住する市町村・都道府県が保険者として運営しています。個人事業主は労働者ではないため、傷病や出産による休業の際の所得保障にあたる給付はありませんが、それ以外は健康保険の保険給付とほぼ同じです。保険料は自治体によって異なります。

介護保険

健康保険と同様、被保険者は40歳以上であり、国民健康保険料と一括して納付します。

国民年金

公的年金制度の1階部分にあたり、自営業者だけでなく、すべての国民の基礎的な年金を担っています。そのため基礎年金などと呼ばれます。自営業者については、基礎年金のほか、付加年金などの独自給付があります。保険料は、給与額によって異なる厚生年金保険料と違い、定額制となっています。

雇用保険

個人事業主・フリーランスは労働者ではなく事業主にあたるため、自分自身のために雇用保険に加入することはできません。従業員を雇った場合に、従業員のために加入の手続きをします。

個人事業主の場合、農林水産の事業で労働者数が5人未満など一部の例外を除き、原則として1人でも従業員を雇えば適用事業となります。そのため、雇用保険の加入要件を満たす従業員を雇った際は、雇用保険加入の手続きをしなければなりません。雇用保険料は労働者負担分を給与から控除し、事業主負担分と合わせて事業主が納付します。

労災保険

個人事業主・フリーランスは労働者ではなく事業主にあたるため、原則として業務災害や通勤途上の災害に遭っても労災保険の適用を受けることはできません。雇用保険と同じく、自分自身のために加入することはできず、従業員のために加入します。

個人事業主の場合、労働者数5人未満の特定の危険・有害な作業を主としない農業や、畜産・養蚕・水産の事業、一定の個人経営の林業など一部の例外を除き、原則として、パートやアルバイトであろうと、従業員を1人でも雇えば労災保険の加入義務が発生します。労災保険料は年間で支払った賃金総額をもとに計算し、事業主が全額負担します。

ただし、個人事業主やフリーランスであっても業務災害や通勤災害に遭った際に補償が受けられる労災保険特別加入制度があります。労災保険特別加入制度を利用する場合には、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365)に業種ごとに定められた保険料率を乗じて計算した保険料の負担が必要です。

社会保険の加入条件は?

上記の社会保険のうち、労災保険だけは被保険者という概念自体がなく、従業員を雇えば自動的に適用されます。他の社会保険の制度には、それぞれ定められた所定の加入要件があります。

健康保険や厚生年金保険は、すべての法人事業所(代表者1人のみの場合も含む)と常時5人以上の従業員を雇用する個人の事業所(農林水産業やサービス業など一定の業種を除く)に加入する義務があります。これらの事業所を適用事業所と呼び、適用事業所に該当すれば、被保険者となる要件を満たす従業員を必ず厚生年金保険・健康保険に加入させなければなりません。

パートやアルバイトで働く従業員であっても、1週間の所定労働時間と1カ月の所定労働日数について、同事業所で同業務に従事している正社員の4分の3以上になる場合には被保険者になります。

また、正社員の4分の3未満の所定労働時間や所定労働日数であっても、以下の5つの要件をすべて満たす場合は、被保険者になります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 勤務期間が2カ月を超えて見込まれる
  3. 所定内賃金の月額が8.8万円以上
  4. 学生以外
  5. 厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業に勤務していること

雇用保険については、正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがある場合は、原則として被保険者となります。

なお、雇用保険は二重加入できないため、生計維持に必要な主たる賃金を受け取っている会社で雇用保険に加入していれば、副業・兼業先で加入要件に該当しても原則として手続きは不要です。

副業で社会保険料が増えるケース・増えないケースとは?

副業で社会保険料が増えるケース、あるいは増えないケースについて考えてみましょう。

ダブルワーク(アルバイト・パートなど)の場合

アルバイトやパートなど非正規の従業員としてダブルワークをしている場合、上記で説明した通り、健康保険や厚生年金保険の加入要件に該当すると被保険者となり、保険料納付義務が生じます。

この場合、現在の勤務先の健康保険や厚生年金保険の保険料だけでなく、ダブルワークをしている会社でも新たに社会保険料を納めなければなりません。したがって、ダブルワーク先の会社の1週間の所定労働時間を20時間未満にすれば、健康保険や厚生年金保険の被保険者とはならず、新たな社会保険料は発生しません。

事業所得や雑所得がある場合

個人でFXや株などの投資をしている人は少なくないでしょう。この場合は、事業所得雑所得が生じて確定申告が必要になるケースはあるものの、雇用されているわけではないため、健康保険や厚生年金保険に加入する必要はありません。

個人事業主として開業する場合

個人事業主として起業する場合には、原則として本人が社会保険に加入することはありません。ただし、従業員を雇用すると話は違ってきます。従業員を雇えば、自分自身が事業主として従業員を社会保険に加入させる義務が生じます。つまり、従業員の分の社会保険料も納付しなければならないため、社会保険料の事業主負担分が増加します。

法人として会社を設立する場合

法人として起業した場合、従業員のいない1人法人であっても、代表者や常勤の役員となって報酬を受け取れば被保険者になります。この場合、本業の勤務先で健康保険や厚生年金保険に加入していたとしても、設立した会社で健康保険や厚生年金保険に加入しなければなりません。

法人として起業した場合、本業で勤務する会社の給与と新たに設立した会社の役員報酬との合計額をもとに決定した標準報酬月額に健康保険や厚生年金保険の保険料率を乗じて計算されます。そのため、標準報酬月額が増加した分だけ社会保険料が増加します。また、設立した法人で従業員を雇えば、従業員の分の社会保険料も事業主負担分が増加します。

参考:兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務する皆さまへ|日本年金機構

社会保険に二重加入する場合は自分で手続きが必要!

会社に就職または転職した場合、社会保険の加入手続きはすべて勤務先で行います。副業によって健康保険・厚生年金保険に二重加入することになった場合も同様なのでしょうか。

社会保険の加入方法は?

実は、本人がまったく何もしなくてよいというわけにはいきません。すでに加入済みの現在の勤務先では手続きは不要ですが、新たに社会保険に加入することになった会社では通常の手続きが必要になります。勤務先となった会社が「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出します。

次に被保険者となった本人は、二重加入することになる会社のうち、一方を「主たる事業所」として選択し、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に日本年金機構に提出する必要があります。健康保険組合に加入している場合、健康保険組合を選択した場合には健康保険組合への届け出も必要です。

この場合、届出によって選択した事業所の所在地を管轄する年金事務所や事務センター(健康保険組合に加入している場合は健康保険組合)が被保険者や保険料決定に関する事務を行うこととなります。

なお、保険料は、決定した標準報酬月額による保険料額を、それぞれの会社で受ける報酬月額に基づき、按分して決定されます。

参考:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構

社会保険に加入しないとどうなる?

副業によって健康保険や厚生年金保険に2カ所以上で加入しなければならないのにもかかわらず、加入手続きをすることなく放置していた場合は、どうなるのでしょうか。

年金事務所では、例年、総合調査を実施しています。調査対象となった事業所は、指定された日時に労働者名簿、雇用契約書、源泉所得税領収書、個人別所得税源泉徴収簿(直近2年分)、賃金台帳、賃金支給明細書、給与振込明細書(直近2年分)、出勤簿またはタイムカード(直近2年分)、就業規則、被保険者資格取得届などの指定された帳簿を年金事務所に持参し、被保険者資格の範囲と報酬に関する調査を受けることになります。

調査対象となる頻度は不定期ですが、行政の方針によって2~3年に1度となることもあります。

特に行政が力を入れているのが、社会保険の加入漏れです。発覚した場合、最大、過去2年間に遡って社会保険に加入することが必要になります。例えば、月給が20万円であった場合、社会保険料は毎月約5万円であり、2年間の遡及分は約140万円になります。

本人負担分でも70万円にもなり、一度に支払う金額としては高額になるため注意しなければなりません。

社会保険に二重加入した場合の社会保険料は?

複数の事業所で健康保険や厚生年金保険に加入している場合、それぞれの事業所で受けとっている報酬月額を合計した金額で標準報酬月額が決定されます。保険料は、この標準報酬月額に厚生年金保険料率(健康保険料は選択した事業所の健康保険料率)を乗じて計算した金額を、それぞれの会社で受ける報酬月額に基づき、按分して計算します。

例えばA社の報酬月額が20万円、B社の報酬月額が10万円の場合、合算した金額標準報酬月額は30万円になります。

厚生年金保険料率は18.3%で計算して労使で折半するため、以下のようになります。

厚生年金保険料=標準報酬月額300,000円×18.3%=54,900円(厚生年金保険料)
  • A社の被保険者負担分=54,900円×200,000円÷(200,000円+100,000円)×1/2=18,300円
  • B社の被保険者負担分=54,900円×100,000円÷(200,000円+100,000円)×1/2=9,150円

健康保険料についても同様の計算方法により計算します。ただし、主たる事業所が加入している健康保険の保険者が全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は各都道府県支部、健康保険組合の場合は加入する健康保険組合によって保険料率が異なるため、保険料率を確認する必要があります。

社会保険に二重加入すると受け取れる年金額は増える?

複数の事業所で厚生年金保険に加入している場合、それぞれの事業所で受け取っている報酬月額を合算した金額で標準報酬月額が決定されるため、将来受け取れる年金額が増加します。なぜなら、老齢厚生年金の報酬比例部分は標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割って計算した平均標準報酬額などをもとに計算する仕組みになっているからです。

ただし、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は65万円、標準賞与額の支給1カ月の上限は150万円となっているため、上限金額を超える場合には上限金額で年金額が計算されます。

副業で社会保険料が二重加入になる場合もあるので注意しよう

かつては就業規則で禁止するのが当たり前だった副業・兼業ですが、働き改革によって政府や経済団体が普及を推進しています。しかし、安易に副業を始めると社会保険料が増えてしまうことがあります。どのような場合に二重加入になるのか、きちんと把握した上で副業を始めることが大切です。

よくある質問

副業すると社会保険料が増える?

社会保険の二重加入にならない場合は増えません。詳しくはこちらをご覧ください。

社会保険に二重加入する場合の手続きは?

主たる事業所を選択し、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構に提出します。詳しくはこちらをご覧ください。


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