- 更新日 : 2025年7月18日
退職者への源泉徴収票の発行はどうする?再発行の対応や注意点を解説
退職者への源泉徴収票の発行は、企業が必ず対応すべき重要な法定業務のひとつです。これは退職者が確定申告や転職先での年末調整を行う際に必要不可欠な書類であり、正確かつ期限内に交付しなければなりません。発行手続きには給与情報の集計や送付方法の確認など実務的な対応が伴い、記載ミスや送付漏れといったトラブルも起こりがちです。
本記事では、発行義務の基本から再発行の対応方法、起こりがちなミスとその防止策、よくあるQ&Aまで、担当者が押さえるべきポイントを解説します。
目次
退職者への源泉徴収票発行手続きとは
退職者に対しては、所得税法に基づき源泉徴収票を交付する義務があります。これは、退職者がその年の所得や税額を確定申告や年末調整で正しく申告するために必要な重要書類です。ここでは、発行の流れについて簡潔に整理します。
源泉徴収票の交付義務
会社は、退職した従業員に対して、その年の1月1日から退職日までに支払った給与・賞与・源泉所得税の情報を記載した源泉徴収票を発行する義務があります。この義務は、たとえ退職者が年末調整を会社で行わない場合でも生じます。源泉徴収票の交付期限は、翌年の1月31日までです。また、退職者に関しては退職後1ヶ月以内に交付しなければなりません。
発行手続きの流れ
まずは、退職日までの給与明細を確定させ、所得金額・社会保険料・源泉徴収税額などを正確に集計します。次に、会計ソフトや給与計算システムを使って源泉徴収票を作成します。書面で交付するのが原則ですが、退職者からの同意がある場合にはPDFなどの電子データでの交付も認められています。交付方法は郵送が一般的ですが、連絡先が不明な場合は事前に確認しておくことが重要です。
退職者への源泉徴収票発行に関する法的義務と罰則
源泉徴収票は、給与所得者が正確な所得申告を行うために必要な書類であり、退職者に対してもその交付は法律上の義務です。企業がこの義務を怠った場合には、税務署からの指導や罰則の対象となることがあります。ここでは、発行義務の根拠と違反時のリスクについて解説します。
源泉徴収票の発行義務の法的根拠
退職者に対する源泉徴収票の発行義務は、所得税法第226条に基づいています。この条文では、給与支払者(雇用主)は、給与等の支払いを受ける者に対し、所得の金額、源泉徴収税額その他必要事項を記載した源泉徴収票を交付しなければならないと明記されています。
退職者においても例外ではなく、退職日までに支払われた給与・賞与・源泉徴収額の情報を記載した源泉徴収票を交付する必要があります。退職者が次の勤務先で年末調整を受ける場合や、自ら確定申告を行う際にこの書類が不可欠です。
交付期限を守らない場合のリスク
源泉徴収票の交付には、明確な期限が設けられています。原則として、退職者に関しては退職後1カ月以内、それ以外に関しては翌年1月31日までが交付期限となります。たとえば、10月15日に退職した社員に対しては、11月14日までに交付する必要があります。
この期限を過ぎても交付されない場合、税務署からの是正指導を受ける可能性があり、重大な場合は「法定調書の不提出」と見なされ、罰則の対象になります。また、源泉徴収票は確定申告や扶養控除等申告書の作成に不可欠なため、退職者に大きな不利益を与えることになり、信頼問題にも発展しかねません。
違反時に適用される罰則
源泉徴収票の未交付や虚偽記載があった場合、所得税法に基づき以下のような罰則が科されることがあります。
まず、「源泉徴収票の不交付または記載不備」に対しては、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります(所得税法第242条)。
さらに、法定調書合計表の未提出や誤記載と連動している場合、調査時に追徴課税の対象となることもあります。これらのリスクを避けるためにも、退職時の給与計算や法定書類の作成は速やかかつ正確に行う必要があります。
退職者から源泉徴収票の再発行を求められた場合の対応と注意点
退職者が転職先での年末調整や自身での確定申告を行う際、源泉徴収票が必要になることは多々あります。しかし、紛失や引越しなどで手元になくなり、会社に再発行を求めてくるケースも珍しくありません。こうした場合、企業側には適切に対応する義務があり、再発行の体制を整えておくことが求められます。ここでは、退職者から再発行依頼があった場合の対応方法、実務手続き、注意点について解説します。
再発行は明確に義務化されていないが事実上の義務
源泉徴収票の再発行について、所得税法では「再発行義務」という形で明文化されているわけではありません。しかし、退職者の確定申告や転職先での年末調整に不可欠な書類であるため、企業が対応しなければ実質的な支障が出ます。
税務当局の運用でも、過去に交付した源泉徴収票を紛失した退職者からの依頼には、合理的な範囲で再交付に応じるよう指導されています。これに応じないと、退職者が税務署に相談・苦情を申し立てる可能性があり、企業の信用リスクにもつながります。よって、明文の規定がなくとも、「事実上の義務」として対応する姿勢が求められます。
再発行依頼を受けたときの基本的な対応
まず、退職者から再発行の依頼があった際は、本人確認と依頼の意図を明確にすることが第一です。電話やメールで依頼が届いた場合でも、「なりすまし」や「誤発行」を防ぐために本人確認が取れる情報(氏名・退職年月・社員番号・生年月日など)を照合する必要があります。
可能であれば、文書やメールでの再発行依頼書を提出してもらい、記録として残すと安全です。依頼の内容は、「いつ退職したか」「どの年度の源泉徴収票が必要か」「送付方法(郵送・電子)」を明記してもらいましょう。
源泉徴収票の再発行手続きと送付方法
再発行の際は、給与計算システムまたは税務ソフトに保存されているデータから、該当年分の源泉徴収票を再出力します。原本と同じ内容であることが原則のため、再作成ではなく「複写(再出力)」という扱いになります。
送付方法は、通常は退職者の自宅住所宛に郵送することが多いですが、本人からの申し出と同意があれば、PDF形式の電子データをメールで送信することも可能です。ただし、電子交付には事前に本人の同意を得ることが法令上求められるため、同意書やメール履歴などの保存が重要です。
封書で送付する場合は、封筒に「親展」「重要書類在中」と明記し、個人情報の漏洩が起きないよう配慮します。送付後は、送付記録や控えを保管し、後日の問い合わせにも対応できるようにしておくと安心です。
再発行における注意点と留意事項
源泉徴収票は法定調書の一種であり、複数枚が存在すると混乱を招くことがあります。そのため、「再発行」である旨を本人に伝え、原本と内容が同じであることを明確にしておくことが重要です。必要に応じて「再発行」とスタンプや但し書きを入れておく対応も有効です。
また、再発行に関する社内フローが定まっていないと、対応が属人化したり遅延したりするリスクがあります。あらかじめ社内に「退職者への証明書類再発行手続きマニュアル」などを設け、対応手順を標準化しておくと、スムーズに対応できます。
企業によっては、再発行依頼に対して返信用封筒や切手を同封するよう求めるケースもありますが、対応の可否や方針は事前に社内ルールとして明示しておくことが望ましいです。
退職者への源泉徴収票発行におけるよくあるミスと防止策
源泉徴収票は、退職者が確定申告や転職先での年末調整を行ううえで必須の書類です。しかし、退職者への発行業務は時期や作業内容が煩雑になりやすく、さまざまなミスが発生しがちです。ここでは、よくある誤りの例と、防ぐための対応策を解説します。
記載内容の誤り
もっとも多いミスのひとつが、記載情報の誤りです。退職日や支払金額、源泉所得税額などの数値が間違っていると、退職者が確定申告で誤った情報を提出することになり、税務処理に影響が出ます。
誤記の原因としては、退職日直前に手動での計算や転記を行うことが多いため、確認不足や人為的な入力ミスが挙げられます。また、賞与や残業代などの支払いが退職月にまたがる場合には、集計対象の判断ミスも起こりやすくなります。
こうした記載ミスを防ぐためには、給与計算ソフトや税務ツールを活用し、データを自動連携させる運用が有効です。加えて、出力後に別の担当者がチェックする「ダブルチェック体制」を設けることも有効です。
送付漏れや宛先不備
退職者への源泉徴収票は通常、郵送で交付されますが、その際に起こりやすいのが送付漏れや宛先間違いです。退職者の住所が古いまま登録されていたり、転居先の連絡がなかった場合など、書類が届かずトラブルになることがあります。
こうしたミスを防ぐには、退職時に「退職後の連絡先・住所確認シート」などを提出してもらう運用を定着させることが有効です。また、送付履歴を記録として残すとともに、重要書類であることを明記して封書で送ることで、受け取りミスも防げます。
加えて、退職者が電子交付を希望するケースでは、PDF送付の際にパスワード設定や同意取得を怠ると、個人情報漏洩のリスクが高まるため、セキュリティ対策と証跡の保存も必要で
年末調整の有無
退職時期によっては、「年末調整を行うべきか、源泉徴収票だけを交付すべきか」といった判断が曖昧になることがあります。たとえば、12月に退職し、その会社が年末調整対象として処理するかどうかで、源泉徴収票の様式や記載内容が変わります。
誤って年末調整済の源泉徴収票を交付してしまうと、転職先や確定申告での処理が二重になり、税額の過不足が生じるおそれがあります。正しい処理を行うには、退職日とその時点の給与支払履歴、扶養控除申告書の提出状況を確認したうえで、年末調整対象かどうかを社内で明確に判断することが重要です。
発行期限の遅れ
源泉徴収票の交付期限は、退職者に関しては「退職後1か月以内」、退職者以外に関しては「翌年1月31日まで」とされていますが、これを失念して対応が遅れるケースも見られます。特に年末に退職者が集中する場合、年末調整や法定調書の作成と重なって業務が逼迫し、後回しにされやすい傾向があります。
これを防ぐには、退職時の業務フローの中に「源泉徴収票の作成・交付」を必ず含め、給与計算と同時並行で処理するようにスケジュールを組んでおくことが有効です。また、発行状況を一覧で管理するチェックシートを導入し、進捗を可視化することも効果的です。
退職者への源泉徴収票発行に関するQ&A
Q1. 退職者が転居しており、送付先住所が不明な場合はどうする?
A1. 本人に新しい住所を確認する必要があります。
勝手に旧住所に送付すると、個人情報漏洩のリスクがあるため、必ず本人から住所の確認を取ったうえで発送します。退職時に「退職後の連絡先届」を取得しておくと、スムーズに対応できます。
Q2. 電子メールでの送付は可能?
A2. 可能ですが、本人の事前同意が必要です。
電子交付には、退職者の明確な同意が必要です。PDF送付する場合は、パスワードを設定し、送信記録を保管するなど、情報漏洩防止の対策を講じましょう。メール本文に「これは電子交付された源泉徴収票である」旨を記載しておくと親切です。
Q3. 年末に退職した社員に年末調整は必要?
A3. 原則不要です。
年末調整は12月31日時点で在籍中の社員を対象としているため、12月31日より前に退職した場合には原則として実施する必要はありません。ただし、既に12月の給与を受け取り年間の給与所得額が決まっている場合や、病気等で退職し、再就職先が決まっていない場合などは年末調整の対象となります。
Q4. 退職者が源泉徴収票を第三者に提出したいが、「会社名を伏せたい」と言ってきた場合、対応できるか?
A4. 原則として対応できません。
源泉徴収票は正式な法定調書であり、企業名・所在地・法人番号などの記載は必須項目です。会社名を削除したり伏せたりすることは、書類の真正性を損なうため認められません。退職者の個人的な事情(転職活動など)がある場合は理解を示しつつも、記載内容の改変には一切応じられない旨を丁寧に説明する必要があります。
Q5. 源泉徴収票の記載金額と、退職者が受け取った手取り金額が合わないと指摘された場合はどうする?
A5. 税額控除や社会保険料の仕組みを説明する必要があります。
源泉徴収票に記載される金額は「支給総額(額面)」であり、実際の振込金額(手取り)とは異なります。多くの場合、住民税・社会保険料・所得税などが差し引かれており、その差額を理解していない退職者が疑問を持つケースがあります。明細を用いながら、源泉徴収票の構成と手取りとの差の理由を丁寧に説明することが重要です。誤りではなく仕組みであることを正しく伝えましょう。
退職者への源泉徴収票発行は正確・迅速に
退職者への源泉徴収票発行は、企業に課された法的義務であり、所得税法に基づき、退職者に関しては退職後1カ月以内に交付する必要があります。記載内容の誤り、送付漏れ、年末調整の判断ミス、発行遅延など、実務上のリスクも多いため、正確な情報管理と社内フローの整備が欠かせません。また、再発行は明文化された義務ではないものの、実務上は義務として誠実に対応すべきです。企業の信頼を保つためにも、丁寧な運用体制を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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