- 更新日 : 2025年7月14日
年末調整で源泉徴収票がないとどうなる?リスクや対処法を解説
従業員から前職の源泉徴収票が提出されない場合、正確な所得計算ができず、年末調整を実施できません。放置すると還付漏れや確定申告の対応負担につながり、労務トラブルの原因にもなり得ます。
本記事では、年末調整で源泉徴収票がないとどうなるか、またない場合の対処法などを解説します。
年末調整で前職の源泉徴収票がないとどうなる?
年末調整では、前職の源泉徴収票が必要です。しかし、退職後に受け取れず、手元にないまま年末調整の時期を迎えるケースもあります。事前に源泉徴収票の有無を確認することで、ない場合でもスムーズな対応が可能です。
以下では、源泉徴収票がない場合に起こり得るトラブルや対処法を解説します。
年末調整の基本情報については、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
関連記事:年末調整とは?【2025年最新】必要書類まとめ・書き方を簡単解説
1. 企業側は年末調整できない
年末調整とは、1月から12月までの給与に対して源泉徴収された所得税を実際の所得額や控除額に基づいて再計算し、税額の過不足を精算する手続きです。
転職した場合、前職の給与や源泉徴収税額が不明であれば、現職では1年分の正確な所得や納税額を把握できず、年末調整を行えません。所得税法において、企業は源泉徴収票を従業員に「退職後1ヶ月以内」または「翌年1月末まで」に交付する義務があります。
しかし、従業員がそれを受け取らず提出しない場合、企業側は年末調整を実施できないため注意が必要です。
2. 還付金が受け取れない
年末調整は、1年間の源泉徴収額と実際の所得税額の差額を精算し、納めすぎた税金を企業が従業員に還付する仕組みです。
しかし、前職の源泉徴収票がない場合は正確な所得や税額が把握できず、年末調整が実施できません。
過納の事実を確認できないため、還付金の手続きも行えず、本来受け取れるはずの税金が戻らないおそれがあります。還付を確実に受けるためにも、前職の源泉徴収票を忘れずに取得し、現職へ提出することが大切です。
3. 自分で確定申告する必要がある
年末調整は、企業が従業員から提出された源泉徴収票に基づき、所得税の精算を行う仕組みです。
前職の源泉徴収票が提出されていない場合、企業側は正確な税額を把握できず、年末調整が実施できません。そのため、従業員自身が翌年に確定申告を行う必要があります。
確定申告では、年間の給与総額と源泉徴収税額を正確に記入する必要があり、源泉徴収票は欠かせません。年末調整ができなかった場合の確定申告は、例年2月16日から3月15日までの期間に行います。
万が一、年末調整ができなかった場合は、従業員に自分で確定申告してもらうよう周知しておきましょう。
確定申告については、以下の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:確定申告とは?やり方と流れを全く分からない人向けに解説
源泉徴収票がない時の年末調整の対処法
年末調整の時期に、前職の源泉徴収票が手元にないというケースは珍しくありません。源泉徴収票がない場合、事前にどのように対処すべきかを確認しておくことが大切です。
事前に対応を把握しておけば、企業側ともスムーズにやり取りができ、手続きの遅れを防げます。以下では、源泉徴収票がない場合に取るべき対処法を解説します。
源泉徴収票がない従業員を一時的に年末調整の対象外とする
前職の源泉徴収票が提出されていない従業員については、実務上、年末調整の対象から一時的に外す対応が取られることがあります。対象外とした場合、本人が後日、自身で確定申告を行う必要があります。
年末調整は限られた期間内に多くの従業員を対象として行うため、数人のために処理を遅らせたり、再調整を行ったりするのは負担が大きく、現実的ではありません。
そのため、多くの企業では社内に締切を設け、期限までに必要書類が揃わない場合は対象外とされます。ただし、従業員の負担やトラブルを避ける観点から、提出の見込みがある場合は柔軟に締切を延ばし、可能な範囲で年末調整を待つ運用を選ぶこともあります。
源泉徴収票がない場合、確定申告が必要である旨を従業員に伝える
源泉徴収票がない場合、会社では年末調整ができず、過納分の所得税も還付されません。そのため、従業員には確定申告が必要になることを明確に伝える必要があります。
年末調整が行われなかった場合、従業員本人が翌年2月から3月の申告期間に確定申告を行い、還付を受ける必要があります。また、源泉徴収票が未提出のまま誤って年末調整を実施した場合でも、正しい税額に修正するためには確定申告が必要です。
誤解やトラブルを防ぐためにも、確定申告の必要性を早めに周知することが大切です。
期限後に提出された場合は再調整できないことを伝える
源泉徴収票が期限後に提出された場合、企業側では再調整できません。
再調整が認められるのは、源泉徴収票を交付する前、かつ翌年1月31日までの期間に限られます。翌年1月31日以降や源泉徴収票の発行後は、法的に企業での再調整が認められていないため、対応できません。
また、たとえ企業側に手続き上のミスがあった場合でも、源泉徴収票を交付した後であれば再調整はできません。従業員には対応できない旨を伝え、確定申告での対応を依頼する必要があります。
従業員が源泉徴収票を紛失した場合の企業の対応
従業員から源泉徴収票を紛失したと報告を受けた場合、トラブルを避けるには企業としてどのように対応すべきかを理解しておく必要があります。適切な対応ができなければ、年末調整や確定申告に支障が出るだけでなく、従業員とのトラブルにもつながりかねません。
以下では、源泉徴収票を紛失した際の具体的な対応方法について解説します。
1. 源泉徴収票を再発行する
従業員が源泉徴収票を紛失した場合、企業は再発行する必要があります。源泉徴収票の再発行には回数制限がなく、何度でも発行可能です。
発行元である企業には、源泉徴収票を保管し、従業員から依頼があれば再発行する義務があります。対応しない場合は、法的な問題につながる可能性もあるため注意が必要です。
多くの企業では、1〜2週間程度で無料対応しており、電子交付に対応している場合は即日再発行が可能なケースもあります。ただし、事務手数料として数百円程度の費用がかかる場合もあります。
源泉徴収票の再発行は企業の義務でもあるため、対応を怠ることがないよう社内の運用ルールを明確にしておきましょう。
源泉徴収票の再発行については、以下の記事でも詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
関連記事:源泉徴収票は再発行できる?即日で可能?対処法や申請場所を解説
2. 再発行の方法や所要日数を周知する
従業員が源泉徴収票を紛失した場合に備えて、再発行の方法や所要日数を周知しておくことが重要です。
再発行に関する情報が明確で事前に周知できていれば、従業員の不安を軽減できるだけでなく、対応の遅れによるトラブルも防げます。とくに確定申告の時期である翌年2月から3月に間に合わなければ、所得税の還付や追納に影響が出る可能性があります。
一般的に再発行には1〜2週間程度かかるため、早めの申請を促すためにも、所要日数についてもあわせて案内しておくといいでしょう。
3. 再発行した旨を記録・管理する
源泉徴収票を再発行した場合、再発行の記録・管理は法的義務ではありませんが、トラブルを防ぐために記録しておきましょう。
「いつ」「誰が」「何年度分を」「何通再発行したか」を記録しておくことで、対応漏れや重複の確認がしやすくなります。源泉徴収票自体には保管義務はありませんが、基となる源泉徴収簿には法定の保存義務があります。
再発行の対応履歴もあわせて管理することで、実務の正確性が高まり、社内対応の信頼性向上にもつながるでしょう。
年末調整をしないことのリスク
年末調整は、企業が適切に行うべき重要な税務手続きです。年末調整を怠ると、従業員だけでなく企業側にもさまざまなリスクが生じる可能性があります。リスクを知らずにいると、法令違反や信頼低下などの問題につながりかねません。
以下では、年末調整をしないことによるリスクを紹介します。
行政指導や罰則を受ける可能性がある
年末調整は、企業が従業員の所得税を正しく精算するための法定手続きです。
雇用主には、給与から所得税を源泉徴収し、年末に調整を行う義務があります。手続きを怠ると、税務署から行政指導を受けることがあります。
さらに、故意に年末調整を実施しなかった場合は、所得税法違反とみなされる可能性があるため注意が必要です。たとえば、年末調整をせずに適正な税額を徴収していなかった場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
また、源泉徴収した税金を納付しなかったなど、悪質なケースでは、10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科される可能性もあります。
従業員の所得に対する納税義務は会社側にあるため、適切な手続きを怠ると脱税とみなされるリスクがあることを理解しておきましょう。
会社のイメージを損なう
年末調整を行わなければ、企業のイメージに悪影響を及ぼすおそれがあるため注意が必要です。
税務署から行政指導を受けた場合、事実が報道で公になることがあり、「コンプライアンス意識が低い企業」と受け取られる可能性があります。報道により社会的信用が低下すれば、取引先や採用にも影響を与えかねません。
また、年末調整を実施しないことで、従業員は本来受け取れるはずの還付金を自ら確定申告で手続きしなければなりません。還付の遅れや手続きの手間が生じることで、企業に対する不満や不信感が高まるおそれがあります。
従業員の信頼を損なえば、離職率の上昇や職場の士気低下にもつながりかねません。年末調整は、企業の信頼と安定した組織運営を支える重要な業務の一つです。
年末調整で注意すべき4つのポイント
年末調整では、源泉徴収票の提出だけでなく、他にも注意すべき点がいくつかあります。対応を誤ると、従業員の税額に影響したり、企業の信頼を損ねたりするおそれがあるため注意が必要です。
以下では、年末調整で注意すべき4つのポイントを解説します。
1. 年末調整に使用した書類は7年間保存する
年末調整で使用する書類のうち、従業員が提出した扶養控除等申告書などは、翌年1月10日の翌日から7年間保存する必要があります。
源泉徴収の根拠となる源泉徴収簿も、同様に7年間の保存義務があります。年末調整に関する書類は、税務調査などで内容を確認するために必要です。
また、法人の場合は帳簿や取引に関する書類について、確定申告期限の翌日から7年間保存することが法律で義務付けられています。保存期間を正しく理解し、ルールに沿って書類を保管しましょう。
2. 中途入社の従業員は前職の源泉徴収票が必要である
年の途中で入社した従業員がいる場合は、前職で給与の支払いを受けていたかどうかを確認する必要があります。
前職で「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していた場合は、前職の給与と源泉徴収税額を含めて、現職で年末調整を行わなければいけません。
前職での支払額や徴収された所得税・社会保険料の情報は、原則として前職から交付される「給与所得の源泉徴収票」で確認します。源泉徴収票が提出されない限り、正確な所得や税額が把握できず、年末調整を実施できません。
従業員には、前職からの源泉徴収票を早めに提出してもらうよう周知しておきましょう。
3. 提出期限は必ず守る
年末調整に関する書類は、必ず期限内に提出する必要があります。
年末調整で確定した所得税額や源泉徴収票などの法定調書は、翌年1月31日までに税務署へ提出しなければなりません。そのため、企業は年内に従業員から必要書類を受け取り、速やかに年末調整を済ませる必要があります。
提出が間に合わなければ、企業で年末調整ができず、従業員が自ら確定申告を行う必要が生じます。結果として、企業・従業員双方の手間が増え、事務負担の拡大やトラブルの原因となる可能性があるため注意が必要です。
労使間のトラブルを避けるためにも、提出期限は必ず守りましょう。
4. 記入漏れや申告漏れに注意する
年末調整では、記入漏れや申告漏れに注意しましょう。
基礎控除申告書や扶養控除等申告書、保険料控除申告書などに記載漏れや未提出があると、該当の控除が適用されず、結果として所得税が多く徴収されるおそれがあります。
また、自社のチェック漏れによる誤記載があった場合は、税務署からの指摘により再計算や追徴課税、還付処理が発生する可能性があります。企業側のミスは、1月末までであれば社内で再調整が可能ですが、期日を過ぎると従業員が確定申告で対応しなければなりません。
正確な処理を行うためにも、確認体制を整え、各書類を丁寧に取り扱うことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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