- 更新日 : 2025年4月18日
一人暮らし向け社宅のメリット・デメリットは?導入のポイントを解説
一人暮らし向け社宅の導入は、企業と従業員双方に大きなメリットをもたらします。福利厚生の充実により企業イメージを向上し、採用活動が有利になります。従業員側にも転居手続きの簡素化やコスト軽減などがあげられるでしょう。
ただし、退職時の空室リスクが発生したり、物件選択の自由が制限されたりと双方にデメリットもあるため慎重に検討することが必要です。
目次
一人暮らし向けの社宅を導入するメリットは?
企業が、一人暮らし向けの社宅制度を福利厚生として導入することで、企業と従業員双方に多くのメリットが期待できます。
企業側のメリット
企業側のメリットは以下の通りです。
- 人材の定着
- 採用活動での差別化
- 社会保険料の削減
- 税制上の負担軽減
一人暮らし向けの社宅制度があると、従業員は転勤時の住居手続きの手間が不要となり、さらに家賃負担の軽減により異動しやすくなるでしょう。採用活動の際も、一人暮らしが必須となる遠方からの優秀な人材を獲得するなどの効果が期待できます。
社宅制度導入による福利厚生の充実で離職者が減り、求職者に対する企業の魅力向上につながり、人材の定着や採用活動での差別化を図ることが可能です。
社宅導入で企業が負担する家賃は、ある一定の条件を満たせば、福利厚生費として損金に計上できるため法人税の負担軽減につながります。
また、給与から社宅の家賃を天引きすることで、社会保険料の会社側の負担も軽くなる可能性があるでしょう。
社宅を経費にして節税する方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
従業員側のメリット
続いて従業員側のメリットは以下の通りです。
- 経済的負担の軽減
- 物件探しや手続きの時間削減
- 社会保険料や税金の軽減
借り上げ社宅では、企業が家賃の一部を負担するため、従業員の住宅費用が軽減されます。とくに一人暮らし向けの社宅を利用する新入社員や若手社員にとって、経済的負担の軽減は大きなメリットでしょう。
また、物件探しや契約にかかる煩雑な手続きが不要となり、異動時や入社前の準備で忙しく余裕のない時期において、住居に関する時間と労力の節約が可能です。
その他、従業員が一定以上の家賃を負担することで、税金や社会保険料が抑えられます。社宅の家賃は、住居手当のように上乗せされるものではなく、給与から天引きされるため、それに伴い課税所得が減少します。
給与をもとに算出される税金や社会保険料の負担が軽減されるのもメリットの一つです。
一人暮らし向けの社宅を導入するデメリットは?
一人暮らし向けの社宅制度の導入には、メリットばかりではありません。企業と従業員双方にデメリットもあります。
企業側のデメリット
社宅制度導入による企業側のデメリットは、以下の通りです。
- 契約や手続きの労力がかかる
- 社宅の維持・管理コストがかかる
従業員に社宅を提供するためには、物件の手配や契約手続き、支払いを企業で行わなければなりません。従業員と賃貸会社でトラブルが発生した場合も対処する必要があるでしょう。
とくに従業員の異動時期や新入社員の4月の入社時期は、短期間で多くの手続きが求められ、業務量が増えます。
また契約時の敷金や礼金などの初期費用、家賃負担分のコストが発生します。とくに、従業員が、異動や急な退職などで社宅を退去し空室になった場合でも、企業が家賃を支払い続けなければなりません。
もし、その時点で賃貸会社との賃貸契約を解約すれば、契約内容によっては違約金が発生する可能性があるため、注意が必要です。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットとしては、以下のようなものがあげられます。
- 物件の選択肢が限定される
- 退職時に即時退去の可能性がある
- 従業員以外の居住は基本的に認められない
借り上げ社宅は、企業が物件を借り上げて従業員に提供するため、従業員が物件を自由に選べるわけではありません。住むエリアや間取りが制限される場合が多く、従業員側の希望がすべて叶えられるわけではないでしょう。
急に退職することになった場合、社宅は賃貸会社と企業名義で契約しているため速やかに退去することが必要です。従業員の都合で退去する場合は、事前に企業側にその意思を伝えておかなければなりません。
また、一人暮らし向け社宅には基本的に従業員以外の居住が認められていません。居住対象者は従業員のみとされており、同棲のように二人で住むことは認められないケースが多いでしょう。従業員にこのようなデメリットも十分に説明しておくことで、後々のトラブルを避けられます。
一人暮らし向け社宅の選び方
次に一人暮らし向けの社宅に適した広さや間取り、家賃相場を紹介します。また、女性従業員に向けた社宅を選ぶ際の注意すべき点を紹介します。
部屋の広さの目安・一般的な間取り
国土交通省による「住宅基本計画」で示されている、文化的な営みに適した居住面積の水準によると、単身者用の部屋の広さは25平米とされています。なお、水回りやキッチンなどが配備されていればこの限りではありませんが、一人暮らし向け社宅の部屋の広さの目安にできるでしょう。
以下、一人暮らし向け社宅に適した一般的な間取りを紹介します。
間取り | 特徴 |
---|---|
1R | 室内に仕切りがなく、居室とキッチンがつながっている |
1K | 居室とキッチンがドアで仕切られ、完全に別室 |
1DK | ・居室と別に、ダイニングを兼ねたキッチンスペースがある |
1LDK | ・居室と別に8畳以上のリビング・ダイニング・キッチンスペースがある ・2人暮らしにも対応できる広さ |
2K | ・狭いキッチンが1つと居室が2つある |
一人暮らし向けの社宅であれば、家賃や広さを考慮すると1Rや1K、1DKの部屋が適切でしょう。ただし、間取りだけでなく築年数や立地条件も考慮する必要があります。
一人暮らし向け社宅の家賃相場
一人暮らし向けの借り上げ社宅の家賃相場は、企業が定めた社宅規定や、周辺地域の家賃相場によって異なります。
一般的には企業が家賃の一部を負担し、従業員の負担額は周辺地域の家賃相場の10〜20%といわれています。
ただし、企業が家賃負担分を経費として計上するには、従業員の家賃負担額が「賃貸料相当額」の50%以上であることが必要です。「賃貸料相当額」は国税庁の規定によって算出されるもので、家賃そのものの金額ではありません。
従業員が家賃を「賃貸料相当額」の50%以上負担することで、社宅の利用に関しての所得税・住民税が課税されず、双方に有利に働く設定となります。
参考:国税庁 No.2597使用人に社宅や寮などを貸したとき
女性従業員に向けたセキュリティ対策
女性従業員に一人暮らし向けの社宅を提供する場合は、セキュリティ対策が重要です。以下のような点に注意してください。
- オートロック付きのエントランスがあるか
- モニター付インターフォンがあるか
- 防犯カメラの設置があるか
- 管理人が常駐しているか
- 2階以上の部屋か
1階の部屋は侵入リスクが高いため、上層階の部屋を選ぶことで安全性が高まります。さらに会社からのアクセスや周辺環境を確認しておくことも必要です。
このように安全対策がされている物件を選ぶと、女性従業員が安心して暮らせる住宅環境を整えられます。
社宅を契約する際にかかる費用
社宅を契約する際には、敷金や礼金などの初期費用が発生します。また、家電を設置する場合は家電の費用も考慮することが必要です。
社宅にかかる初期費用の内訳
借り上げ社宅を賃貸契約する際に、以下のような初期費用がかかります。
内訳 | 用途 |
---|---|
敷金 | 貸主に支払う。家賃未払い時の補填や退去時の修繕回復などに使用し、退去時に使用分を差し引いて返却される。 |
礼金 | 賃貸契約時に支払う。退去時に返却されない。 |
前家賃 | 入居時当月の家賃。途中入居の場合は日割りで計算されるのが一般的。 |
仲介手数料 | 貸主と借主の仲介役である不動産会社への手数料。 |
火災保険料 | 火災や自然災害時などの補償のための保険。契約時に保険加入が義務付けられている場合もある。 |
鍵の交換費用 | 安全対策に鍵の交換費用として約1〜2万円かかる。 |
敷金や礼金、仲介手数料は、福利厚生の観点からすると企業側が負担するのが一般的でしょう。その他の初期費用の項目についても社内規定で定めておき、従業員にきちんと説明しておくことが大切です。
家電を設置する場合の費用の目安
一人暮らし向けの社宅に家電を設置するかどうかは、企業の判断によります。従業員が負担することが一般的ですが、転勤が頻繁にある企業は基本的な家電が設置してあると利便性が高いでしょう。
購入商品によって異なりますが、代表的な家電製品と一般的な価格の目安は以下の通りです。
家電 | 価格 |
---|---|
エアコン(6畳用) | 4~6万円 |
洗濯機(5kg用) | 3~5万円 |
冷蔵庫(単身用) | 3~5万円 |
テレビ(32型) | 3万円前後 |
電子レンジ | 1万円前後 |
なお、家電を購入するのではなく、一定の契約期間でレンタルする方法もあります。
家電を設置する場合のメリット・デメリット
企業が一人暮らし向け社宅に家電を設置した場合、海外駐在者や、新入社員にとってとくに時間的、経済的なメリットは大きいでしょう。転勤者は異動がしやすくなり仕事に集中できます。採用活動時も、家電込みの社宅があれば有利に働くことが考えられます。
一方、デメリットとしては企業に管理コストが発生する点です。家電購入の初期費用だけでなく故障時の対応や修理、買い替えなど企業の負担は大きいでしょう。
また、従業員もあらかじめ家電が設置してある場合、好みの家電を自由に選べず、社員の満足度が下がることも考えられます。
企業が一人暮らし向け社宅を導入する際のポイント
企業が一人暮らし向けの社宅制度を導入する際は、条件に適した物件を選択することが重要です。注意すべき点もあわせて確認しておきましょう。
一人暮らしの条件に適した社宅を選ぶ
一人暮らし向けの社宅を選ぶ際は、以下のポイントに気を付けて慎重に選択しましょう。
- 社内規定との整合性の確認
- 物件の内見
- 築年数・間取りの確認
- 立地条件の確認
- 適切な家賃設定
まずは、検討中の物件が社内規定とあっているかどうか確認します。規定外の物件を選ぶと後々のトラブルに発展する可能性があるためです。
なお、物件は可能な限り内見し、周囲の環境や日当たりを確認しておきます。遠方の場合は、オンライン内見サービスを利用すると良いでしょう。その際は、築年数と一人暮らしに適した間取りかどうか、あわせて確認しておくのがおすすめです。広すぎる間取りは無駄なスペースが発生することも考えられ、築年数が古すぎると、老朽化している可能性があります。
職場からのアクセスや周辺環境などの立地条件も、十分に検討しましょう。家賃も従業員の収入に適した設定かどうか確認します。
従業員が快適に暮らせる環境を整備することで従業員満足度が向上し、企業も人材の定着につなげることができます。
空室発生リスクなどの管理コストに注意する
社宅制度を導入するにあたり、企業が借り上げている社宅に空室が発生してしまうリスクを考慮する必要があります。従業員が急に退社した場合、次の従業員が入居するまでは空室であっても家賃を払わなければなりません。なお、この期間の家賃は全額企業の負担になります。
もし空室が長期化する見込みがあり、契約を解約する場合は違約金が発生する可能性があるため注意しましょう。これらのリスクと管理コストを十分に考慮したうえで、一人暮らし向けの社宅制度を導入するかどうか慎重に検討することが重要です。
一人暮らし向けの社宅のメリット・デメリット・コストを把握して、スムーズに運用しよう
一人暮らし向けの社宅導入は、初期費用や維持費などの管理コストが発生する点はデメリットといえるでしょう。一方で、社宅制度は企業には税制上の節税効果があり、人材の定着や採用活動に有利となるメリットもあります。
一人暮らし向けの社宅導入の際は、適した広さや間取りを考慮し、女性従業員向けに安全な環境を提供することも必要です。また、空室リスクも考慮したうえで慎重に検討することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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