• 更新日 : 2025年3月19日

年間残業時間が720時間までなら違法ではない?残業時間の上限ルールを解説

年間残業時間が720時間なのは違法ではないか、疑問を抱く人もいるでしょう。

まず36協定を締結していなければ、企業は従業員に残業させることはできません。さらに720時間の年間残業時間が認められるのは、特別な事由があり、かつ特別条項が適用された場合のみです。

36協定に違反すると懲役や罰金が科せられる可能性があるため、残業時間の上限ルールについて把握しておきましょう。

残業(時間外労働)とは?

残業(時間外労働)とは、法律で定められた所定の労働時間を超えて働くことです。

日本の労働基準法では、通常は1日8時間・1週間40時間が法定労働時間とされています。法定労働時間を超えた労働は「時間外労働」として扱われ、企業や職場は残業代を支払う義務が生じます。

具体的には、所定労働時間を超えた場合は通常の賃金に対して25%以上の割増賃金が適用され、さらに月60時間を超える残業には、50%以上の割増賃金が発生するため注意が必要です。

また企業や職場で残業の実施方法や管理に差があるため、業務内容によっては過剰な残業が発生する場合もあるでしょう。企業や職場は、従業員の健康維持と残業時間の短縮に努めなければなりません。

36協定とは?

36協定とは、労働基準法第36条にもとづく労使協定であり、企業が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた残業を従業員へ命じるために必要です。

36協定を締結していなければ、企業は法律で定められた労働時間を超える労働を従業員に命じられません。36協定には通常、月の残業時間の上限や条件が明記されていますが、さらに長時間の残業が発生する場合は、特別条項を設けることも可能です。

特別条項が適用されれば、条件付きで、さらに上限を超える残業が認められます。

年間残業時間の上限は720時間?

36協定や特別条項が適用されたからといって、残業時間に上限が設けられていないわけではありません。法律で定められている残業時間の上限について、パターン別に解説します。

36協定を締結していない場合

36協定を締結していない場合は、労働基準法にもとづき、企業や職場は従業員に残業を課せません。残業を命じられないため、36協定を締結していない場合の残業時間の上限はゼロです。

労働基準法では、労働時間の上限が1日8時間・週40時間として定められており、上限を超えて労働させるためには36協定の締結と届け出が必要です。36協定の締結がない場合、仮に残業を行った場合でも、労働者の権利を侵害することになり、企業や職場が法的責任を問われる可能性があります。

36協定を締結している場合

36協定を締結している場合、残業時間は月45時間・年間360時間を上限とした残業が認められており、上限を超えた残業は違法です。

また、残業時間として認められている月45時間・年間360時間はあくまでも上限なので、企業や職場はできるだけ残業時間の短縮に努めなければなりません。

さらに、やむを得ず残業時間が上限を超える場合は、特別条項の適用が必要です。残業時間の上限については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

特別条項付きの36協定を締結している場合

36協定の特別条項が適用された場合は、年間の残業時間の上限が720時間まで認められます。また、月あたりの時間外労働と休日労働の合計時間が100時間未満、かつ複数月にわたって平均して80時間を超えないことも求められます。ただし、残業時間が月45時間を超えられるのは、年間で6ヶ月までです。

やむを得ない状態である場合に、届け出ることで36協定の特別条項が適用されます。やむを得ない状態および適用される条件とは、おもに以下があります。

  • 臨時的な特別な事情がある
    ⇒ 予期せぬ納期変更で納期がひっ迫している
    ⇒ 予期せぬ大規模なクレームへ対応しなければならなくなった
    ⇒ 予期せぬ重大な機械のトラブルへ対応が必要になった
  • 従業員との間で合意がある

36協定の特別条項が適用される条件については、以下の記事で詳しく解説しています。特別条項の適用を検討している企業・職場は、あわせてお読みください。

残業代(割増賃金)の計算方法

企業や職場は、従業員に残業させた場合、かならず残業代を支払わなければなりません。残業代の計算方法や考え方について、パターン別に解説します。

法定労働時間の1日8時間・週40時間を超えた場合

労働基準法により、法定労働時間は1日8時間・週40時間と定められており、法定労働時間を超えて働く場合は残業代が発生します。残業代は、基本的には通常の賃金に一定の割増率を加えた形で支払われます。

法定時間外の労働は、通常の賃金に対して25%以上の割増が適用されるため、1日8時間または週40時間を超えた場合、超過分に対しては25%以上の割増賃金が必要です。

たとえば時給が1,000円の業務に就く場合、時間外労働の時間あたりの賃金は以下のようになります。

通常の時給:1,000円

残業時給(25%割増):1,000円 × 1.25 = 1,250円

したがって、1日8時間を超えた分は1,250円の時給で計算します。

時間外労働が月45時間を超えた場合

時間外労働が月45時間を超えた場合、法定時間外の労働は、通常の賃金に対して25%以上の割増が適用されます。したがって、1日8時間または週40時間を超える労働を課した場合は、超過分に対しては25%以上の割増賃金が必要です。

残業代の計算式は以下のとおりです。

残業代 = 1時間当たりの賃金 × 割増率 × 残業時間

たとえば、時給1,000円の業務に就き週に50時間残業した場合、残業代は以下のようになります。

50時間 × 1,000円 × 1.25 = 62,500円

したがって、当月の残業代は62,500円として通常の給与に加算されて支払われます。

時間外労働が月60時間を超えた場合

時間外労働が月60時間を超えた場合、超過分に対しては50%以上の割増賃金が適用されます。

計算方法は以下のとおりです。

  • 月60時間までの残業:1時間あたりの賃金 × 1.25 × 60時間
  • 月60時間を超えた残業:1時間あたりの賃金 × 1.5 × (残業時間 – 60時間)

たとえば、月給が30万円で、1ヶ月の所定労働時間が160時間(つまり1時間あたりの賃金は1,875円)の業務に就いたとします。すると、残業代の計算は以下のとおりです。

  • 最初の60時間の残業の賃金:1,875円 × 1.25 × 60 = 140,625円
  • さらに20時間の残業を行い、合計が80時間になった場合: 1,875円 × 1.5 × 20 = 56,250円

残業代は、あわせて総額で140,625円 + 56,250円 = 196,875円になります。

月60時間を超える残業に対しては割増率が上がり、支払う残業代も大きな金額になるため注意が必要です。

休日出勤手当の計算方法

法定休日(週1日)に出勤した場合、35%以上の休日出勤手当が発生します。休日出勤手当の計算方法は以下のとおりです。

休日出勤手当 = 基礎賃金 × 勤務時間数 × 割増率

時給制の場合

たとえば、時給1,500円の従業員が休日に8時間働いたとします。すると休日出勤手当の計算は以下のとおりです。

休日出勤手当 = 1,500円 × 8時間 × 1.35 = 16,200円

月給制の場合

月給制の場合、所定労働時間をもとに1時間あたりの基礎賃金を求め、割増率をかけます。たとえば月給30万円で、月の所定労働時間が160時間の場合は、休日出勤手当が以下のようになります。

基礎賃金 = 300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円

休日出勤手当 = 1,875円 × 8時間 × 1.35 = 20,250円

ただし法定休日を満たしている場合は、土日・祝日に出勤したとしても、休日出勤手当は発生しないため注意が必要です。

残業時間の上限に違反した場合の罰則

残業時間の上限に違反した場合、企業や職場に対して科される罰則は、労働基準法にもとづいて定められています。

具体的には、違反があると「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。また、36協定を締結したうえでの時間外労働にも上限が設けられており、上限を超えた際も協定違反となり、同様の罰則が適用されるため注意が必要です。

罰則が科せられるほか、企業名が公表される場合もあり、社会的信用度の低下にもつながるでしょう。

36協定に違反した場合の罰則や実際に罰則を受けた企業・職場の事例について、以下の記事で紹介していますので、あわせてお読みください。

残業規制にともなう企業側の3つのデメリットと対策

残業時間の上限が厳しく制限されると、従業員の権利や健康が守られる一方で、企業や職場、従業員自身に対してもデメリットが発生する場合があります。残業規制にともない、考えられるデメリットと対策について解説します。

1. 従業員ひとりあたりへの負担が増加する

残業時間の厳格な規制は、長時間労働を防ぐための施策として導入されました。

しかし業務量にそれほど変化がないにもかかわらず、業務時間が短縮されるため、各従業員に求められる負担が増加する可能性があります。

対策として「多能工化」が効果的です。多能工化とは、ひとりの従業員が複数の業務を担えるように教育・育成する取り組みを指し、業務の効率化や属人化の解消が期待できます。たとえば、ある社員が製造ラインでの作業だけでなく品質管理や在庫管理も実施できるようになれば、企業の生産性が向上します。

2. 企業としての売り上げが減少する

時間外労働の制限により受注できる業務が減り、企業や職場としての売り上げが減少する可能性があります。

そこで、業務全体を見直し、定型化された業務を自動化する方法がおすすめです。定型化されている業務とは、業務の開始から終了までの手順が一貫しており、従業員にかかわらず必ず同様の結果になる業務を指します。

人間ひとりが担える業務量には限界があります。自動化ツールは定型化された業務を得意としているため、ツールを導入して自動化させれば業務効率の向上が期待できるでしょう。

また、残業を事前申請制にすることで、従業員が計画的に働くよう促せます。無駄な残業を減らし、組織全体の労働時間を適切に管理できます。さらにノー残業デーを設けることで、定期的に残業を見直す習慣も作れるでしょう。

3. 納期までに業務が完了できない

時間外労働の制限により、業務が納期に間に合わない問題が発生します。

対策として、業務の優先順位と不要な作業の削減や業務フローの見直しが効果的です。納期に影響を与えている業務を分析し、最も重要なタスクにリソースを集中させるのです。

勤怠管理システムを導入して、残業時間を正確に把握し可視化します。残業時間の管理だけではなく、各業務における所要時間が把握でき、適切な対策を立てやすくなります。

36協定を締結する3つの手順

基本的には、従業員には残業を課さない状態が望ましいとされています。しかし、業務量が多かったり人員不足だったりする関係で、どうしても残業が発生することもあるでしょう。従業員に残業を課すには36協定の締結が必要です。36協定を締結する手順について説明します。

手順1:労働者の代表を定める

36協定は、使用者(企業や職場)と労働者の代表とで締結する協定です。はじめに労働者の代表者を選出する必要がありますが、労働者の過半数で組織された労働組合がある場合は、労働組合と締結します。

労働者代表には、以下に当てはまる従業員を選出する必要があります。

  • 労働者が活動できる状態であること
  • 過半数の労働者からの信任を受けていること
  • 監督・管理する立場にないこと

また労働者代表の選出方法には以下があります。

  • 投票:労働者全体から候補者を選び、投票によって選出する
  • 挙手:小規模な事業所では、挙手によって選出する
  • 合意形成:労働者が集まり、合意にもとづいて代表者を選ぶ

選出された労働者代表は、労働者の意見を集約し、使用者と協議する役割を担います。そのため、協議の場では労働者の意見を的確に伝え、労働条件の向上を図ることが求められます。

手順2:使用者と労働者の代表とで協議する

労働者の代表を選出したら、企業や職場とのあいだで協議します。

  • 使用者と労働者代表とで協議する:
    使用者と選出された労働者代表の間で、協定に必要な事項を協議します。おもに残業可能時間や休日出勤についての条件を話し合います。
  • 協定の文書化:
    協議の結果にもとづいて、双方が合意した内容を協定書として文書化します。協定書には、協定の期間や労働時間の上限など具体的な内容を記載し、企業や職場に就業規定があれば、変更した箇所の修正が必要です。

36協定における協定書の記載例や協定届との違いについて、以下の記事で解説しています。36協定に関する協定書のテンプレートもダウンロードできるため、あわせてお読みください。

手順3:管轄の労働基準監督署長へ届け出を出す

使用者と労働者の代表とで36協定を締結したら、管轄の労働基準監督署長に届け出ます。届け出が受理されるまで、36協定における時間外労働や休日労働が適用されないため注意が必要です。

36協定の届け出は、通常は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署にて直接行います。必要な書類は窓口で入手可能で、届け出た協定内容は、労働者が見やすい場所に掲示するなどして周知しなければなりません。

特別条項が未適用の年間残業時間720時間は違法!

年間残業時間の上限が720時間まで認められるのは、36協定の特別条項が適用された場合に限ります。

そのため、未適用にもかかわらず従業員へ残業させている、または年360時間を超えて残業させている場合は違法です。

法律違反を犯すと、罰則や罰金が科されるだけでなく社会的な信用を失う恐れがあるため、法律を理解しつつ従業員の権利と健康を守りましょう。


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