• 更新日 : 2025年2月28日

1年単位の変形労働時間制とは?違いやメリット・デメリット、残業代の計算方法を解説

1年単位の変形労働時間制には、1ヶ月単位や1週間単位のものと異なる特徴や利点があります。

本記事では、変形労働時間制のメリット・デメリットや残業代の計算方法、シフト制との違いなどを解説します。ぜひ参考にしてください。

1年単位の変形労働時間制の定義とそのほかの違い

変形労働時間制とは、業務の繁閑や特性に応じて労働時間の配分を調整できる制度です。

1年の期間内で1週間あたりの労働時間が40時間を超えないように労働時間を調整・配分できます。ただし、年間労働日数は280日、1日の労働時間は10時間、1週間では52時間までと決まりがあります。

また、「夏は勤務時間を長めに、冬は勤務時間を短めに」といった働き方も可能です。「毎年夏場が忙しく冬は空き時間が多い」といった、繁忙期・閑散期にバラツキのある企業に適すでしょう。

ひと月に1回以上・2日の休みがある週を設定する「週休2日制」や、週ごとに必ず2日の休日が必要な「完全週休2日制」とは異なる働き方です。違いについて、次章より詳しく解説します。

1ヶ月単位との違い

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月の範囲内に週40時間の労働時間を超えないように調整・配分する働き方です。

1年単位の変形労働時間制と異なる点は、週40時間を超えないように毎月で調整が必要になります。「1月は週42時間、2月は週38時間」のような調整は認められていません。

「毎月の半ばが忙しく、月末は落ち着いている」など、繁忙期と閑散期の期間が短い企業には1ヶ月単位の変形労働時間制が適するといえるでしょう。

1週間単位との違い

1週間単位での変形労働時間制は、1週間の範囲で週40時間、1日10時間の労働時間を超えないように調整・配分する働き方です。1週間単位で時間配分の調整が必要となるため、1年単位の変形労働時間制に比べて労力を要します。

1ヶ月単位と同様に、第1週44時間・第2週36時間のような平均週40時間を超える労働は認められていません。混雑時間や売り上げが日ごとで変動しやすい宿泊業や飲食業に適するでしょう。

フレックスタイムとの違い

フレックスタイム制は、あらかじめ決められた労働時間内であれば、従業員は個々で勤務時間を自由に決めることができます。労働時間の決定権が使用者にないことが、1年単位の変形労働時間制と異なる点です。

たとえば、フレックスタイム制であれば、朝遅くからの始業や夕方の終業ができます。必須の勤務時間となる「コアタイム」の時間帯を決めておくことで、大規模なミーティングや商談などの調整も可能です。

通勤時間の短縮を図りたい人や、子育てや介護をしながら働きたい人に適す制度といえます。

シフト制との違い

変形労働時間制とシフト制は、似た勤務方式と認識されやすいですが実際は異なります。

変形労働時間制勤務時間が法定時間内になるように、各従業員の労働時間を配分する
シフト制あらかじめ決められた労働時間に対して従業員を当てはめる

変形労働時間制は、繁忙期・閑散期にあわせて労働時間を調整するのが一般的です。一方で、シフト制は早番・遅番といった時間区分に対して働ける従業員を当てはめる形態が主になります。

1年単位の変形労働時間制を導入するメリット

1年単位の変形労働時間制を導入するメリットは以下の3つです。

  • ワークライフバランスを取りやすい
  • 残業代支出を減らせる
  • 業務効率や生産性の向上が期待できる

ワークライフバランスを取りやすい

変形労働時間制を導入すれば、ワークライフバランスの充実が期待できます。閑散期の退勤時間が早くなり、時間を自由に使えるためです。

また、閑散期のみ勤務時間を短くするなど、メリハリのある働き方にできます。仕事と休日のバランスを取ることで、従業員のモチベーション維持につながるでしょう。

残業代支出を減らせる

1年単位の変形労働時間制は、法定内労働時間が1日10時間・週52時間と決められており、週休2日制と比べて幅があります。そのため、週休2日制のように勤務8時間を超えても残業代が発生しません。

賃上げなど、人件費の削減が難しい企業に有効な働き方といえるでしょう。

業務効率や生産性の向上が期待できる

1年単位の変形労働時間制の導入によって、従業員は閑散期に休暇を集中させることが可能です。そのため、従業員のモチベーションアップにつながりやすいといえます。

繁忙期に業務時間を増やすなど、業務の効率化もできます。企業・労働者ともにWin-Winの関係を築けるでしょう。

1年単位の変形労働時間制を導入するデメリット

週休2日制などに比べて仕組みが複雑な分、変形労働時間制は管理や運用に手間がかかります。デメリットをふまえて導入を検討しましょう。

  • 労働時間の管理が難しくなる
  • 従業員の健康管理に気を配る必要がある
  • 導入までに手間がかかる

労働時間の管理が難しくなる

「土日休み・平日仕事」のような決まった時間の労働は、変形労働時間制ではできません。そのため、勤務スケジュールを把握しにくく、事務負担となる可能性があります。

導入後すぐは、勤怠管理の担当者が慣れるまでに時間がかかることも考えられます。制度への理解を深めたうえで検討しましょう。

従業員の健康管理に気を配る必要がある

従業員の健康管理に配慮しなければなりません。繁忙期の過剰な労働時間など、労働時間が増えることによるリスクを考える必要があるためです。

変形労働時間制を導入する際は、従業員の健康管理にも配慮した勤務スケジュールを組みましょう。

導入までに手間がかかる

変形労働時間制を適切なタイミングで導入できるように、あらかじめ以下の手続きを済ませましょう。

  • 現状の労働時間を把握
  • 就業規則の変更
  • 新しい労使協定の締結

変更する際は、従業員からの理解も大切です。理解を得られていない状態では不平や不満を招く可能性があります。説明会や勉強会を開催するなどし、丁寧にフォローアップをおこないましょう。

1年単位で変形労働時間制を導入した場合の残業代の取り扱い

1年単位の変形労働時間制を導入した場合の残業代は、以下のように集計します。

日ごと
  • 1日の勤務時間を8時間以上に設定:実際の勤務時間が設定した勤務時間を超えているかどうか
  • 1日の勤務時間を8時間以下に設定:実際の勤務時間が8時間を超えたかどうか
週ごと
  • 1週間の勤務時間を40時間以上に設定:実際の勤務時間が設定した勤務時間を超えているかどうか
  • 1週間の勤務時間を40時間以下に設定:実際の勤務時間が40時間を超えたかどうか
年ごと
  • 365日分の法定労働時間である2,085時間42分(※1)を超えたかどうか
  • うるう年は366日の年間法定時間である2,091時間24分(※2)を超えたかどうか

※1:365日÷7×40時間

※2:366日÷7×40時間

たとえば、特定の時期で1日の勤務時間を10時間に設定した場合、1日に10時間を超えて働いていれば割増残業代が支給されます。また、別の時期で1日の勤務時間を6時間に設定した場合は、当日の勤務時間が8時間を超えた場合は残業代が支給されます。

週ごとも同様で、特定の時期で週44時間勤務とした場合は、45時間目の勤務からは時間外労働となります。一方で、週36時間勤務の場合も、41時間目からの勤務に対して割増残業代が支給されます。

年ごとでは、365日の法定労働時間を超えた場合に残業代が支給されます。ただし、うるう年は366日で計算する必要があるため注意しましょう。

変形労働時間制の導入手順

変形労働時間制の導入する際は、適切に手順をふむことが大切です。従業員への混乱や法令違反とならないように、以下の手順をチェックしておきましょう。

  1. 従業員の勤務状況の把握
  2. 労働時間や対象者の設定
  3. 就業規則の変更・労使協定の締結
  4. 労働基準監督署への届出
  5. 従業員への周知

1. 従業員の勤務状況の把握

まずは、従業員の勤務状況を把握しましょう。変形労働時間制の採用を判断するうえで必要になります。

確認する際は、繁忙期・閑散期の時期も調査しておきましょう。1年単位・1週間・1ヶ月単位と、変形労働時間制の単位を決める際に役立ちます。

「従業員がより効率よく勤務できる」や「生産性の向上につながる」など、明確な効果が現れるかを確認しましょう。

2. 労働時間や対象者の設定

次に、実際の労働時間や変形労働時間制の対象となる従業員の範囲を決めましょう。たとえば、1年単位の場合は繁忙期1日10時間・閑散期1日6時間のように、法令の範囲内で設定します。労働時間は繁忙期を長く、閑散期は短いのが一般的です。

対象者の範囲も決めておくとよいでしょう。繁閑で労働時間の差が大きい部署や業務量に偏りのある部署にするなど、対象を設定することで、社員全員が働きやすい環境をつくりやすくなります。

もちろん、すべての従業員を対象としても構いません。事業形態・部署などの状況に応じて決めましょう。

3. 就業規則の変更・労使協定の締結

変形労働時間制の導入によって、働き方や労働時間を変更した場合は就業規則の見直しも必要です。運用方法が決まったら、労使協定を新たに締結することも忘れずおこないましょう。

就業規則は働き方の指針となります。作成の際は、労働者・使用者の双方が不利にならないようにし、労使協定に基づいた規則にしましょう。

参考:e-Gov法令検索「労働基準法」

4. 労働基準監督署への届出

就業規則の変更後や労使協定の締結後は、労働基準監督署への届出が必須です。必要書類を用意しておきましょう。

変更後は、時間外労働や休日労働の取り扱いも変わります。36協定と呼ばれる「時間外・休日労働に関する協定書」もあわせて提出しましょう。

5. 従業員への周知

届出が完了したら、正式に導入することを従業員へアナウンスしましょう。周知しなければ効力が発揮されません。就業規則の周知忘れによるトラブルで裁判となった事例もあります。注意しましょう。

周知する際は、社内の掲示板や勤怠管理システムを活用することがおすすめです。周知することで、従業員の疑問にも対応しやすくなります。学習会や説明会を開催し、理解を深めてもよいでしょう。

参考:裁判所「裁判例結果詳細 最高裁判所判例集 平成13(受)1709」

1年単位の変形労働時間制で働きやすい職場環境に

変形労働時間制は、労働時間削減による残業代の削減やワークライフバランスを整えられます。一方で、導入までの事務手続きやスケジュール管理、制度の運用に手間がかかります。法律遵守に注意しながら、適切な労働環境を目指しましょう。


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