- 更新日 : 2025年7月25日
ICカード式のタイムカードとは?種類やメリット、スマホ対応・モバイルSuicaも解説
毎月の給与計算前、山積みの紙のタイムカードを前に頭を抱えていませんか? 打刻漏れや押し忘れの確認、手書きの時間の判読、そしてExcelへの手入力…。これらの作業は、コア業務の時間を奪うだけでなく、ヒューマンエラーによる給与計算ミスの温床にもなります。
本記事では、勤怠管理のあり方を根本から変える、ICカード式のタイムカードについて、その仕組みからメリット・デメリット、さらには自社に最適なシステムの選び方まで詳しく解説します。
目次
ICカード式のタイムカードとは
ICカード式のタイムカードとは、従来の紙のカードの代わりに、ICチップが埋め込まれたカードを利用して出退勤時刻を記録するシステムのことです。専用の読み取り端末(タイムレコーダー)にICカードをかざすだけで、瞬時に打刻が完了し、データは自動的に勤怠管理システムに集約されます。
ICカード式の仕組み
- 従業員一人ひとりに、世界で一つだけの識別番号(ID)が割り当てられたICカードを用意します。カード規格や設定によっては同一UIDが存在したり、再発行時に変更される場合もあります。
- 従業員は出勤・退勤時に、設置された専用ICカードリーダーにカードをかざします。
- リーダーがカードの識別番号を読み取り、勤怠管理システムに送信します。
- システムは、あらかじめ登録された従業員情報とIDを照合して個人を特定し、正確な時刻とともに打刻データを自動で記録・蓄積します。
この一連の流れがすべて自動で行われるため、手作業によるミスや不正の介在する余地がほとんどありません。
紙のタイムカードとの違い
紙のタイムカードとの違いは、以下の通りです。
比較項目 | ICカード式タイムカード | 紙のタイムカード |
---|---|---|
打刻方法 | ICカードリーダーにかざすだけ | タイムレコーダーに差し込み印字 |
データ形式 | デジタルデータ | 紙への印字 |
集計作業 | 自動集計(システムが労働時間を計算) | 手作業(目視確認、Excel入力など) |
リアルタイム性 | 打刻後すぐに管理画面で確認可能 | 月末に回収するまで全体の状況把握が困難 |
正確性 | ヒューマンエラーの発生を大幅に低減できる | 読み間違い、入力ミス、計算ミスが発生しやすい |
不正防止 | 代理打刻をある程度防げる | 代理打刻が容易にできてしまう |
コスト | 消耗品費・保管スペースが不要 | タイムカード・インクリボン代、保管スペースが必要 |
タイムカードに使えるICカードの種類と特徴
ICカード式タイムカードでは、主に「FeliCa(フェリカ)」と「MIFARE(マイフェア)」という2つの国際規格に対応したカードが利用されます。
- 主なカード例:Suica、PASMOなど
- 規格:FeliCa
- 特徴:多くの従業員が通勤で利用しており、そのままタイムカードとして使えます。新たにカードを持つ必要がなく、導入がスムーズです。
- 主なカード例:楽天Edy、nanaco、WAON
- 規格:FeliCa
- 特徴:交通系ICカード同様、普段使っているカードを流用できる可能性があります。
- 主なカード例:企業独自のICカード
- 規格:MIFARE/FeliCa
- 特徴:既に入退室管理で利用しているICカードを勤怠管理にも利用できる場合があります。セキュリティカードと一体化でき便利です。
- 主なカード例:成人用たばこ自動販売機用カード
- 規格:MIFARE
- 特徴:MIFARE規格に対応したシステムであれば利用できる可能性があります。
タイムカードをICカードへ移行するメリット
紙のタイムカードからICカードへ移行することは、単なるツールの変更ではありません。勤怠管理業務全体の生産性を飛躍的に向上させる経営判断と言えます。ここでは、導入によって得られる具体的なメリットを解説します。
メリット1. 勤怠管理業務を効率化できる
最大のメリットは、集計・計算業務の自動化です。月末にタイムカードを回収し、Excelに入力し直すといった一連の手作業が完全に不要になります。システムが労働時間、残業時間、深夜労働時間などを自動で計算するため、人事・労務担当者は給与計算の締め作業に追われることなく、より創造的な業務に集中できるようになります。
メリット2. 打刻データの正確性と信頼性が向上する
手書きや印字のタイムカードでは、時間の判読ミスや入力ミスが避けられませんでした。ICカードによる打刻は、システムが正確な時刻をデジタルデータとして記録するため、手入力に比べてヒューマンエラーは極めて少なくなります。また、打刻漏れや修正があった場合も、システム上で申請・承認のワークフローを構築できるため、記録の正確性と透明性が担保されます。
メリット3. 不正打刻を防止できる
紙のタイムカードでは、本人以外が代理で打刻する「不正打刻」が容易に行えてしまうという問題がありました。ICカードは原則として本人のみが所持するため、こうした不正行為を物理的に困難にします。これにより、労働時間の実態を正確に把握でき、サービス残業の温床を防ぐなど、コンプライアンスの強化にも直結します。
メリット4. 多様な働き方へ柔軟に対応できる
リモートワークやフレックスタイム制など、働き方が多様化する現代において、ICカードシステムは柔軟な勤怠管理を実現します。複数の拠点にリーダーを設置すれば、どの場所で勤務しても一元的に管理が可能です。また、多くのシステムはスマートフォンアプリやPCからの打刻にも対応しており、場所を選ばない働き方を力強くサポートします。
タイムカードをICカードへ移行するデメリット
多くのメリットがあるICカード式のタイムカードですが、導入を検討する際にはデメリットも理解しておく必要があります。しかし、これらは事前に対策を講じることで十分にカバーできるものがほとんどです。
デメリット1. 導入・運用コストが発生する
最も気になるのがコスト面でしょう。ICカードリーダーなどの専用端末を購入する初期費用に加え、勤怠管理システムの月額利用料(ランニングコスト)が発生します。紙のタイムカードとインクリボン代に比べれば、高額に感じるかもしれません。
複数のサービスを比較検討し、自社の従業員規模や必要な機能に見合ったプランを選びましょう。クラウド型のサービスであれば、初期費用を抑えられる場合が多いです。また、業務効率化によって削減できる人件費や、ヒューマンエラーによる損失額を算出し、費用対効果を総合的に判断することが重要です。
デメリット2. ICカードの紛失・忘れのリスクがある
従業員がICカードを紛失したり、自宅に忘れたりする可能性はゼロではありません。その場合、打刻ができなくなり、かえって管理が煩雑になる可能性があります。
紛失・忘れが発生した際の運用ルールを事前に明確に定めておきましょう。また、スマートフォンアプリでの打刻機能を併用できるシステムを選べば、カードを忘れた際の代替手段として機能します。
自社に最適なICカード式の勤怠管理システムの選び方
数多くのICカード式勤怠管理システムの中から、自社に最適なものを選ぶためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
ポイント1. 自社の規模・業態に合っているか
まずは自社の従業員数や業態に対応しているかを確認しましょう。小規模なクリニックと、複数の拠点を持つ大企業では必要な機能が異なります。シフト管理が複雑な小売業や飲食業であれば、高度なシフト作成機能が必須です。自社の勤怠ルール(フレックス、変形労働時間制など)に対応可能かも重要なチェックポイントです。
ポイント2. サポート体制は充実しているか
システムの導入時や、運用開始後にトラブルが発生した際に、迅速かつ丁寧なサポートを受けられるかは非常に重要です。電話やメールでの問い合わせ対応はもちろん、マニュアルやFAQサイトが充実しているかどうかも確認しましょう。導入時の設定を代行してくれるサービスがあるかも選定のポイントになります。
ポイント3. 他のシステム(給与計算ソフトなど)と連携できるか
勤怠データを給与計算ソフトにスムーズに連携できるかも必ず確認しましょう。CSVファイルでデータを出力し、手動でインポートする形式なのか、API連携によってボタン一つで自動連携できるのかによって、業務効率は大きく変わります。将来的な拡張性も視野に入れて選ぶことをお勧めします。
ポイント4. セキュリティ対策は万全か
勤怠データは個人情報そのものです。クラウド型のシステムを利用する場合は特に、データセンターの安全性、通信の暗号化、不正アクセス防止策など、ベンダーのセキュリティ対策が信頼できるものであるかを確認することが不可欠です。プライバシーマークやISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得しているかどうかも一つの判断基準になります。
ポイント5. スマホ対応・モバイルSuicaは使えるか?
NFC機能を搭載したAndroid端末をICカードリーダーの代わりに利用できるアプリも増えています。
一方、モバイルSuicaやモバイルPASMOは、セキュリティ上の理由で打刻のたびにIDを変動させる仕様が標準的で、対応が難しいとされてきました。しかし、一部のシステムではこの課題をクリアし、モバイルSuicaでの打刻に対応しているものもあります。導入前には必ず提供会社に対応可否を確認しましょう。
ICカード勤怠管理の自作も可能
技術的な知識があれば、Raspberry Pi(ラズベリーパイ)などの安価なシングルボードコンピュータとICカードリーダーを組み合わせて、勤怠管理システムを自作することも可能です。しかし、安定した運用やセキュリティの確保、法改正への対応などを考慮すると、専門的な知識と相応の工数が必要となります。ビジネスで利用するのであれば、信頼できるベンダーの提供するサービスを利用するのが賢明な選択と言えるでしょう。
ICカードで始める、次世代の勤怠管理
本記事では、ICカード式のタイムカードの基本から、メリット・デメリット、システムの選び方までを網羅的に解説しました。
紙のタイムカードによるアナログな管理は、もはや過去のものです。ICカードへの移行は、単なる業務効率化に留まらず、データの正確性を高め、コンプライアンスを強化し、従業員の多様な働き方を支える経営基盤となります。
初期コストや運用ルールの策定といったハードルはありますが、それらを乗り越えた先には、人事・労務担当者が本来注力すべきコア業務に集中できる環境が待っています。ぜひ本記事を参考に、自社に最適なICカード勤怠管理システムの導入を検討し、生産性の高い、新しい働き方を実現してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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