- 更新日 : 2025年4月17日
月177時間は法定労働時間の範囲内!違法になるケースや有給取得時の対応を紹介
「月177時間の労働時間は違法なのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。月177時間が適法かどうかは、勤務形態や36協定の有無によって異なります。
本記事では、月177時間の法定労働時間の扱いや違法になるケース、有給休暇の影響、よくある疑問について詳しく解説します。
働き方の適法性を確認し、適切な労働環境を確保するためにぜひ参考にしてください。
目次
月177時間は「1ヶ月単位の変形労働時間制」において上限内
結論から言えば、月177時間は1ヶ月単位の変形労働時間制における法定労働時間の上限です。
労働基準法では「1日8時間・週40時間」が法定労働時間の上限とされており、1ヶ月単位に換算した月177時間(31日月の場合)は1ヶ月変形労働時間制の月の総枠時間です。
そのため、月177時間は、変形労働時間制において、法律上ではギリギリ問題ないということになります。
月の法定労働時間の暦日数別の目安は以下の通りです。
【月の法定労働時間(暦日数別の目安)】
法定労働時間 | 28日 | 29日 | 30日 | 31日 |
---|---|---|---|---|
一般事業場(40時間) | 160.0 | 165.7 | 171.4 | 177.1 |
特例措置事業場(44時間) | 176.0 | 182.2 | 188.5 | 194.8 |
4週間(28日)の場合は160時間、4.3週間(30日)の場合は171.4時間が基準になります。
つまり、暦日数が31日ある月に「月177時間働く」というのは、法定の上限ギリギリの時間です。
なお、法定労働時間における端数の扱いについては明確な規定がありませんが、実務上は労働者に有利な「切り捨て処理」が一般的とされています。
171.4時間であれば「171時間」、177.1時間であれば「177時間」として取り扱っても問題ありません。
実際の所定労働時間は会社の就業規則やシフトにより多少前後しますが、177時間を超えていれば「時間外労働」に該当する可能性が高いです。
1ヶ月の法定労働時間の計算方法
法定労働時間は、基本的に週40時間をもとに暦日数に応じて月ごとの上限が決まります。
計算式は以下の通りです。
【法定労働時間】= 週40時間 × 月の週数(暦日数 ÷ 7)
具体的には以下のようになります。
月 | 週数の目安 | 法定労働時間 |
---|---|---|
2月(28日) | 4.0週 | 160時間(40 × 4.0) |
30日の月 | 4.3週 | 約171.4時間(40 × 4.3) |
31日の月 | 4.4週 | 約177.1時間(40 × 4.4) |
月ごとの法定労働時間は、週40時間制をベースに「暦日数」から換算されます。
もっともシンプルなケースは2月(閏年でない年)で、28日間=ちょうど4週間に相当するため、4週 × 40時間 = 160時間が法定労働時間の目安となります。
一方、30日の月はおよそ4.3週分に相当し、40時間 × 4.3週 ≒ 171.4時間が基準で、31日の月は約4.4週と換算され、177.1時間が法定労働時間の目安です。
法定労働時間とは労働時間・休日に関する制度
法定労働時間とは、労働基準法で定められた「1日8時間・週40時間」の労働時間の上限を意味します。
労働基準法第32条では、原則として「1日8時間」「1週間40時間」が上限とされており、時間を超えて労働させることは、原則として違法です。
ただし、例外的に「36協定(時間外・休日労働に関する協定)」を締結し、労働基準監督署へ届け出ることで、一定の範囲内で時間外労働が認められる仕組みになっています。
なお、法定労働時間は「1日あたり」「1週間あたり」で定められており、原則として月単位での基準は設けられていません。
そのため、通常の労働時間制度において「月の法定労働時間」という考え方は存在しません。
「月177時間」が問題になるケース
1ヶ月単位の変形労働時間制にて、月177時間以内で働いている場合でも、条件を満たしていなければ違法になることもあります。
違法労働が発覚すると、企業には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることもあるため、注意が必要です。
時間外労働をさせているのに36協定がない
労働基準法では、1週間の労働時間は40時間までと明確に定められています。
基準を超えて従業員を働かせる場合、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
もし36協定を結んでいないにもかかわらず、週40時間を超えて勤務させている場合、時間外労働はすべて違法となります。
1ヶ月の変形労働時間制において「1日ごと」「1週間ごと」「変形期間ごと」それぞれで、時間外労働が発生する場合には36協定が必要です。
さらに、企業側には以下のリスクが生じます。
- 労働基準監督署からの是正勧告・指導
- 悪質な場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法第119条)
- 残業代の未払い請求・労働トラブルのリスク
月177時間という数字だけで判断せず、「1日ごとの労働時間」+「1週間ごとの労働時間」+「36協定の有無」も必ずチェックすることが重要です。
36協定があっても限度時間を超えている
36協定を締結していたとしても、時間外労働には「原則の上限時間」が法律で定められています。具体的には、月45時間・年360時間以内でなければなりません。
さらに、特別条項付きの36協定を結んでいる場合でも、上限が緩和されるだけで無制限になるわけではありません。
特別条項の場合でも、1年間の時間外労働は720時間以内、1ヶ月あたりの時間外労働は100時間未満、2〜6ヶ月の平均で80時間以内という基準が適用されます。
そのため、36協定があっても限度時間を超えていたら、違法となる可能性があります。
変形労働時間制が適用されていない
変形労働時間制を導入している企業では、一定の条件のもとで一時的に週40時間を超えて勤務させることが認められています。
たとえば、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用している場合、その月の総労働時間が法定労働時間内(週40時間×週数)に収まっていれば、特定の週に40時間を超える労働があっても違法とはなりません。
しかし、こうした制度を導入していない企業で、月177時間を超える場合「週40時間」「1日8時間」を超える週・日が含まれている可能性が高いので注意が必要です。
もし36協定が締結されていない状態でムリな働かせ方をしていれば、違法な時間外労働に該当します。
変形労働時間制について
変形労働時間制とは、特定の週や月に法定労働時間(週40時間)を超えて働いたとしても、一定期間内で平均すれば法定労働時間の範囲内とみなされる制度です。
本来、労働基準法では「1日8時間・1週間40時間」が上限とされています。
しかし、業務の繁忙期と閑散期がある職場では、変形労働時間制を活用することで労働時間を柔軟に調整することが可能になります。
ただし、変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結や、就業規則への明記が必要です。
また、労働基準監督署への届出も必要となるため、適切な手続きを経て導入する必要があります。
未払い残業が発生している
法定労働時間を超えて働いた場合、企業は時間外労働に対して割増賃金を支払う義務があります。
具体的には、以下のような割増率が法律で定められています。
労働の種類 | 割増率 |
---|---|
通常の時間外労働(週40時間超) | 25%以上 |
休日労働(法定休日に働いた場合) | 35%以上 |
深夜労働(22:00〜翌5:00) | 25%以上(時間外や休日労働と重なると加算) |
たとえば、月177時間の勤務のうち、法定労働時間を超えた時間分の割増賃金が支払われていなければ、「未払い残業」に該当します。
未払い残業が発生した場合、企業側には以下のリスクがあります。
- 労働基準監督署による調査や是正勧告
- 未払い残業代の過去3年分の請求(2020年の法改正で時効が2年→3年に延長)
- 労働者とのトラブルや訴訟リスク
割増賃金は労働者の健康と生活を守るための重要な制度です。
「残業代込み」といった曖昧な契約でも、労働時間の実態に応じた支払いがなければ違法とされる可能性があるため、注意が必要です。
過労死ライン(月80時間以上の時間外労働)を超えている
厚生労働省では、月80時間以上の時間外労働を「過労死ライン」として定義しており、このラインを超える働き方は、脳・心臓疾患などの健康被害リスクが著しく高まるとされています。(参考:しごとより、いのち。│厚生労働省)
1ヶ月の変形労働時間制を導入していても、月の法定労働時間の目安である177時間を超えて、さらに80時間以上の時間外労働を行っている場合は、明確に過労死ラインを超えているとされ、危険な労働環境です。
企業が過重労働を継続的に強いていた場合、万が一労働者が病気や死亡に至った際には、労災認定の対象となる可能性があります。
加えて企業側が損害賠償を請求されるリスクもゼロではありません。
働き方改革が進む現在においても、過労死ラインを意識した労務管理は非常に重要な課題のひとつです。
月177時間の労働時間の中で有給を取得した場合
1ヶ月単位の変形労働時間制にて月177時間の労働時間の中に有給休暇を取得した日が含まれていても、基本的に法的な問題はありません。
有給は「労働したものとみなす」ため、総労働時間の扱いに変化はありません。ただし、取得日を別日で補填させるなどの行為は違法です。
運用ルールを正しく理解しておくことが重要です。
有給休暇は労働時間にカウントない
有給休暇を取得した日は、所定労働時間としてはカウントされますが、実労働時間としてはカウントされません。
たとえば、1日8時間勤務の正社員が1日有給を取得した場合、所定労働時間には含まれるので賃金は発生しますが、実際の労働時間に含まれないので、時間外労働の計算の際には注意が必要です。
有給は休暇であるため、賃金カットや勤務時間調整の対象にはなりません。
法定労働時間を超えることにはならない
有給休暇は実労働時間に含まれないため、たとえ月177時間の労働時間の中に有給が含まれていても、法定労働時間を超えることにはなりません。
有給2日(16時間分)を取得して月161時間実労働した場合、所定労働時間は合計177時間ですが、実労働時間は161時間のままであるため時間外労働は発生しません。
具体例は以下の通りです。
月の内訳 | 所定労働時間合計 |
---|---|
実労働161時間+有給16時間 | 177時間 |
全日出勤・実労働177時間 | 177時間 |
有給取得で実際の勤務時間が減っても、労働時間計算上はカバーされています。
そのため、有給休暇を取ることで法定労働時間を超えることにはならず、違法にもなりません。
違法になるケース
有給休暇の取得に関しては、労働基準法にもとづき厳格なルールが定められており、企業が法律に反する対応をした場合は違法となる可能性があります。
以下は有給休暇の取得に関して違法になるケースです。
違法な対応内容 | 該当する法律違反 |
---|---|
有給分を別日に働かせる | 労基法第39条違反 |
有給取得後の減給 | 賃金不払い(労基法第24条) |
有給を理由とした降格・人事評価の低下 | 不利益取扱い(パワハラ) |
有給休暇を取得した分の労働時間を別の日に勤務するよう強制する行為は、明確な労基法違反です。
また、有給を取得したにもかかわらず給与が減額されるようなケースも、賃金未払いとして違法になります。
有給休暇の取得を理由に人事評価を下げたり、昇進や賞与に不利な扱いをしたりすることは、パワハラや不当な人事評価として問題視されます。
安心して休む権利を守るためにも、ルール違反には注意して確認しておきましょう。
月177時間の法定労働時間に関するよくある疑問
1ヶ月単位の変形労働時間制における月177時間は、暦日数が31日の月における法定労働時間の上限目安であり、1週間当たりの平均労働時間が40時間を超えないよう設定することも必要です。
しかし、運用を誤ると、時間外労働や未払い残業の問題につながる可能性があります。
法定労働時間が月177時間を超えたら?
1ヶ月単位の変形労働時間制において月の労働時間が177時間を超える場合、超過分は時間外労働(残業)として扱われる可能性があります。
というのも、週40時間制を前提とした法定労働時間の月換算値が、暦日数31日の場合で約177時間とされているためです。
企業が36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結していない場合に、「1日ごと」「1週間ごと」「変形期間ごと」に労働時間を算定した結果、法定労働時間を超えた労働時間は違法な時間外労働に該当します。
未締結の場合、労働基準法違反として是正勧告や罰則の対象となる可能性があります。
また、企業が36協定を締結していたとしても、特別条項が付いていない通常の協定では、月45時間までが残業の上限です。
したがって、月45時間を超える残業を行わせていた場合には、協定違反となり違法性が生じることになります。
177時間は何日出勤?
1ヶ月単位の変形労働時間制において月の労働時間が177時間と設定されている場合でも、1日の所定労働時間によって、何日分の勤務に相当するかは変わってきます。
たとえば、1日8時間勤務の正社員であれば「177 ÷ 8 = 約22.1日」、1日7時間勤務であれば「約25.3日」、6時間勤務であれば「約29.5日」となります。
1日の勤務時間 | 月177時間 ÷ 所定時間 | 出勤日数(目安) |
---|---|---|
8時間 | 177 ÷ 8 | 約22.1日 |
7時間 | 177 ÷ 7 | 約25.3日 |
6時間 | 177 ÷ 6 | 約29.5日 |
所定労働時間が短くなるほど、同じ月177時間を達成するにはより多くの日数の出勤が必要になるため、労働時間と勤務日数の関係性を把握しておくことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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