• 更新日 : 2025年3月5日

会社都合で勤務時間は変更できる?違法リスクやトラブルを防ぐ方法を解説

企業の業務効率化や経営の見直しによって、勤務時間の変更を検討するケースは少なくありません。しかし、会社都合で勤務時間を変更する際には、法律上のルールを守る必要があり、適切な手続きを踏まないと違法と判断されるリスクがあります。

とくに急な勤務時間の変更は、従業員の不満や労働トラブルを招く可能性もあるため、慎重な対応が求められるでしょう。本記事では、勤務時間変更の可否や適切な進め方を解説します。

会社都合での勤務時間の変更は違反になる?

会社都合で勤務時間を変更されると「違反なのでは?」不安になる方も多いでしょう。結論からいうと、労働者の同意を得る、もしくは就業規則に明記されていれば、法律違反にはなりません。

ただし、例外や注意点もあるため、以下で詳しく説明します。

労働者の同意を得る・就業規則を変更すれば問題ない

労働基準法に違反しない範囲なら、労働者の同意を得れば、勤務時間の変更が可能です。

また、就業規則に以下の文言を記載しておけば、必ずしも都度同意を得る必要はなく、時間外・休日労働に従事させられます。

  • 時間外労働や休日労働を命じる場合がある
  • 就業時刻が変更になる場合がある

ただし、これは法定労働時間を守ることが前提です。

労働基準法では、労働時間は1日8時間、1週間で40時間までと定められています。加えて、毎週1日、または4週間に4日以上の休日を与える必要があります。

もし、法定労働時間を超える場合は、時間外労働協定(36協定)の締結が必要です。事前通知や承諾なしで、突然就業規則を変更することは認められていないため、注意しましょう。

会社都合で就業規則を変更する場合でも、必ず従業員への説明と同意を得る手順を踏む必要があります。就業規則の変更方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

就業規則の不利益変更に該当する場合

下記のような変更をする場合には、注意が必要です。

  • 賃金の引き下げ
  • 所定労働時間の変更
  • 年間休日の変更
  • 福利厚生の廃止
  • 各種手当の廃止

待遇が悪化する変更は、従業員にとって不利益となる可能性があります。このような場合は、労働契約法8条・9条により、従業員との個別合意が認められれば変更可能です。

なお、合理的かどうかは、労働契約法第10条の基準に照らしあわせて判断されます。

  • 従業員の受ける不利益の程度
  • 労働条件を変更する必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合などとの交渉状況
  • それ以外の就業規則の変更に係る事情

最終的には、変更後の就業規則が労働基準監督署に受理されれば、同意していない社員にも適用されます。

変形労働時間制は原則として変更できない

変形労働時間制を導入している場合は、会社側が自由に勤務時間を変更することは原則認められていません。

昭和63年1月1日の厚生労働省の通達には、「変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは認められない」と記載されています。

ただし、下記のように正当な理由がある場合は、例外として認められることがあります。

  • 地震や台風などの災害
  • 業務に使う設備の故障
  • 従業員の事故・怪我

明確な定義はないため、変更が必要な場合は労働基準監督署に問い合わせるのが賢明です。変形労働時間制については、以下の記事で詳しく解説しているため、ご参考ください。

勤務時間を短縮する場合は休業手当が必要になる

会社都合で勤務時間を短縮し、従業員を休ませる場合は、休業手当の支払いが必要です。

労働基準法第26条では「平均賃⾦の6割以上の休業⼿当を支払わなければならない」と定められています。経営難で一時休業する・業務を短縮するなど、自然災害のようなやむを得ない事情を除いた理由は、すべて会社都合に該当します。

ただし、勤務時間を短縮しても、1日あたりの平均賃金の60%以上を支払っていれば、休業手当は不要です。これに満たない場合は、支払い義務が発生するため注意しましょう。

休業手当の計算方法

休業手当は、以下の計算式で求めます。

<休業手当の計算式>

休業手当=平均賃金×0.6以上×休業日数

参考:厚生労働省|労働基準法第26条で定められた休業手当の計算について

平均賃金は「算定期間中の賃金総額÷3ヶ月間の総日数」で算出します。算定期間中の賃金総額は、算定事由発生日=休業日の前日から3ヶ月間です。

ただし、平均賃金の6割は最低保障の割合です。実際は最低保障金額よりも多く支払う方が、従業員の納得を得やすくなるでしょう。

勤務時間の変更に必要な6つの手続き

勤務時間を変更する際は、いくつかの手順を踏む必要があります。以下では、それぞれの手続きについて詳しく解説します。

就業規則の届出について、以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

1. 変更内容を検討する

勤務時間を変更する際、まずは「なぜ勤務時間を変更するのか」「どのように変更するのか」を具体的に整理する必要があります。

たとえば「朝9時から18時の勤務を、8時から17時に変更する」というように変更内容を明確にしなければなりません。このとき、既存の就業規則と矛盾が生じないかも確認しておきましょう。

さらに、勤務時間の変更によって、会社や従業員にどのようなメリット・デメリットが生じるのかを分析することも大切です。勤務時間を早めることで、生産性の向上や仕事終わりのプライベート時間が確保しやすいといったメリットが期待できますが、通勤ラッシュと重なって従業員の負担が増すデメリットもあげられます。

勤務時間の変更は会社の都合だけでなく、従業員の生活にも直結します。そのため、影響を最小限に抑える方法を事前に考えておくとよいでしょう。

2. 就業時間の条文を変更する

変更内容が固まったら、就業規則の就業時間に関する条文を変更します。正社員・パート・アルバイトなど、勤務形態ごとに異なる場合は、それぞれに明記する必要があります。

また「繁忙期は勤務時間が変更になる可能性がある」のように、柔軟な働き方を見据えた条文を盛り込むことで、将来的な変更にも対応しやすくなるでしょう。安易に変えるのではなく、実態に合った内容に整える意識をもつことが重要です。

3. 意見書を作成する

就業規則の変更は労働基準法第89条に基づき、労働者代表から意見を聴取し、意見書を作成する義務があります。

労働者代表とは「労働者の過半数で組織する労働組合」または「上記がない場合は、労働者の過半数を代表する者」のことを指します。ただし、労働基準法上の管理・監督者は代表者にできないため、注意しましょう。

意見書には、就業規則変更に対する労働者代表の意見をまとめます。理由や背景も、具体的に記載すると信頼性が高まります。

意見を記載したあとは代表者から署名と捺印をもらい、正式な書類として完成させましょう。就業規則変更届の書き方については、以下の記事で詳しく解説しています。

4. 就業規則(変更)届を作成する

意見書が整ったら、就業規則の変更内容を記載した「就業規則(変更)届」を作成します。この書類は、就業規則を変更したことを労働基準監督署に届け出るために必要です。

フォーマットは自由ですが、記載内容の例は下記のとおりです。

  • 記入した日付
  • 宛名(労働基準監督署長)
  • 主な変更事項
  • 労働保険番号
  • 事業所名
  • 所在地
  • 使用者職氏名(社長名)
  • 業種
  • 労働者数

就業規則の改正は、一度で済む話ではありません。

提出書類に不備があると再提出を求められることもあります。日付や労働者数など、基本的な事項も正確に記載し、ミスのないように確認しましょう。

5. 必要書類を管轄の労働基準監督署に提出する

書類が整ったら、会社所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。提出方法は、以下の3つです。

  • 窓口持参
  • 郵送
  • 電子申請

窓口持参の場合は、会社用の控えをもらうために、2部提出します。1部は受理印を押した会社控えとして、その場で戻してくれます。また、郵送の場合も、2部提出し、会社控え返送用として返信用封筒を同封しましょう。

審査には時間がかかることもあるため、急ぎで変更したい場合は書類の不備がないように気をつけることが大切です。

なお、就業規則の届出を怠ると、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性があります。罰則を受けることがないように、確実に提出しましょう。

6. 社内への周知を徹底し、従業員の理解を得る

変更が決定したら従業員に対して明確に通知し、十分な説明を行います。周知が不十分だと「知らなかった」「聞いていない」と混乱や不満を招きかねません。

周知方法として、以下の手段を組み合わせるのが効果的です。

  • 書面で配布し、各自確認してもらう
  • 全体説明会を開いて、直接説明する
  • 必要に応じて個別相談の場を設ける

ただ一方的に伝えるだけでなく、従業員からの質問や意見にも丁寧に耳を傾ける姿勢が大切です。納得感を持ってもらうことで、勤務時間変更後もスムーズに業務を進めやすくなるでしょう。

勤務時間変更を円滑に伝える3つの方法

勤務時間変更を円滑に伝えるためには、ただ通知するだけでは不十分です。従業員に納得してもらい、協力を得るには、伝え方やフォローの仕方に工夫が必要になります。

以下で、勤務時間変更を円滑に伝える3つの方法について詳しく解説します。

1. 急に勤務時間を変更する場合は従業員の負担を考慮する

勤務時間の変更は、生活リズムや通勤手段、家庭の事情など、従業員の私生活にも大きく影響します。そのため、分かった時点ですぐに伝達する姿勢が重要です。

変更日直前になって伝えるのではなく、数日前には知らせ、心構えができるようにしましょう。

また、従業員の負担を軽減しつつ、納得してもらうための工夫も必要です。変更初日は早退を認める・時差出勤や在宅勤務を一時的に許可するなどの柔軟な対応で、従業員がスムーズに対応できるようサポートします。

ただし、急な変更に戸惑う従業員も少なくありません。そのため、変更後のフォロー体制を整えておくと安心です。

すぐに相談できる窓口を設置したり、定期的にヒアリングを行ったり、不満やストレスを早期に解消するように心がけましょう。変更を受け入れる側の気持ちに寄り添い、無理を強いるのではなく協力してもらう姿勢でいることが大切です。

2. 変更の理由を明確に伝える

勤務時間変更に対して、従業員が不安を感じるのは、なぜ変更するのか分からないという疑問です。変更理由が不透明なままでは、不満や不信感を抱く原因になります。

そのため、従業員に「なぜ変更する必要があるのか」を明確に説明することが大切です。業務効率の向上・コスト削減の必要性など、会社側の事情があるなら具体的に伝えましょう。

経費削減のためが理由であっても、隠さず誠意を持って説明すると、納得してもらえる可能性があります。

また、生活に影響が大きそうな従業員には個別に説明することも必要です。通勤時間が長い方や家庭と両立している方など、一人ひとりの事情を考慮し伝えると、納得してもらいやすくなるでしょう。

3. 変更後のメリットも提示する

勤務時間の変更は、従業員に面倒や不安などのネガティブな印象を持たれがちです。しかし、変更によって生まれるメリットも存在します。

残業の削減や通勤時間の短縮など、勤務時間変更によって得られるポジティブな点も、積極的に伝えることで受け入れやすくなるでしょう。

また、勤務時間変更に伴い、以下のような金銭的メリットがあれば、あわせて提示すると説得力が増します。

  • 残業時間削減による負担減
  • 夜勤手当・早朝手当など、時間帯による手当の増額
  • 通勤時間短縮による交通費削減

「夜間帯に変更する方には手当が付く」「早番にすれば残業が減るため、負担が軽くなる」など、具体的に伝えると変更を受け入れるハードルが下がるでしょう。

会社都合で勤務時間を変更する場合の注意点

会社都合で勤務時間を変更する場合は、法律の遵守や従業員への配慮が欠かせません。ここでは、注意すべきポイントを3つ解説します。

1. 労働基準法違反にならないか確認する

勤務時間の変更で確認すべきなのが「変更後の勤務時間が法定労働時間を超えていないか」です。労働基準法では労働時間・休憩時間・休日について具体的な規定があります。

これらに違反すると、会社側に罰則が科せられるだけでなく、従業員とのトラブルに発展する恐れもあります。変更後の勤務時間が、以下の法定基準を満たしているか必ずチェックしましょう。

  • 1日8時間、1週間40時間以内
  • 6時間超勤務の場合は45分以上、8時間超勤務の場合は1時間以上の休憩時間を確保
  • 毎週1日または4週間で4日以上の休日を与える

参考:厚生労働省|労働時間・休日

基準を満たしていない場合は、36協定(時間外労働協定)を締結して届け出る必要があります。

また、みなし残業(固定残業制)との整合性を確認することも大切です。勤務時間を変更すると、設定していた時間外労働の枠を超えるケースも考えられます。この場合は、固定残業時間を見直し、必要に応じて労働契約書を変更しなければなりません。

なお、法律に不安がある方は、社会保険労務士や労務管理の専門家に確認するのがおすすめです。事前に相談しておけば、後々のトラブルを防げるでしょう。

2. 特定の従業員に不利益が集中しないように調整する

勤務時間変更によって、特定の従業員に負担が偏るケースも少なくありません。「一部の人だけ早出になった」「遠方から通勤する人だけ帰りが遅くなった」などの不利益が生じると、不満が高まり、職場の士気低下や退職につながる恐れもあります。

そのため、変更内容が決まった段階で、影響が大きいと考えられる従業員には個別にヒアリングを行いましょう。とくに、以下のような特定の層に影響が偏ることがないように、無理を強いらないよう配慮します。

  • 小さな子どもがいる母子・父子家庭
  • 親の介護を担っている従業員
  • 通勤距離が長く、交通機関に制限がある従業員

勤務時間変更後も、一定期間シフト勤務を取り入れたり、従業員同士で勤務時間を交換できる制度を設けたりすると、公平感が保たれやすくなります。影響が大きい従業員には、時差出勤やテレワークといった柔軟な働き方を提案するのもひとつの方法です。

このように、従業員の負担を軽減する工夫を心がけることが大切です。

3. 変更に伴う退職者の増加を防ぐ工夫をする

勤務時間変更が原因で、従業員の不満が高まり、離職率が上がるリスクがあります。「生活リズムが崩れる」「子育てや介護と両立できなくなる」など、勤務時間が変わることで従業員が働き続けるのが困難になるためです。

離職を防ぐためには、変更を一方的に通知するのではなく、従業員の意見を聞く・変更によるポジティブな要素を伝えることが大切です。

また、今後の働き方に不安がある従業員に対しては、キャリア相談や異動希望の受付を設けると、離職回避につながります。以下のような選択肢を示しておくと、安心してもらいやすくなるでしょう。

  • 時短勤務や在宅勤務への切り替え
  • 業務内容や担当部署の変更

従業員の疑問や不安の解消を心がけることで、従業員の理解と協力を得やすくなります。

従業員の理解を得て、トラブルなく勤務時間を変更しよう

勤務時間の変更は、適切な手続きと従業員への配慮があれば実施可能です。法令順守はもちろん、従業員との丁寧なコミュニケーションを心がけることが大切です。

変更の必要性を明確に説明し、それぞれの事情に配慮した柔軟な対応を行うことで、円滑な変更が実現できます。従業員の理解と協力を得ながら、働きやすい職場環境を整えましょう。


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