- 更新日 : 2025年2月21日
【原則5年】賃金台帳の保存期間と違反のリスクとは?経過措置についても解説
賃金台帳の保存期間は原則5年間です。
もしも保存期間を誤って賃金台帳を破棄・紛失したり、不適切な管理をしていると労働基準法の違反につながるおそれがあります。
この記事では詳しい保存期間と、賃金台帳を安全に保存する方法を解説していきます。
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賃金台帳の保存期間は原則5年
賃金台帳の保存期間は、原則5年間と労働基準法109条により定められています。
従来は3年間でしたが、2020年4月の改正労働基準法により5年間へ延長されました。
この期間中は賃金台帳を勝手に処分したり、紛失してはいけません。
法改正による経過措置中は3年でもOK
現在は法改正にともなう経過措置の期間中であり、この期間中は労働基準法143条により、3年間の保存期間でも法的に問題はありません。
理由としては、法改正にともなう企業の負担を軽減するためです。
また、経過措置の終了時期は2025年2月現時点では明確にアナウンスされていません。
しかし、経過措置が終われば5年間の保存が義務となるため、保存期間の延長に対応できる体制を早めに整えておくことが大切です。
源泉徴収簿と兼ねる場合は7年
賃金台帳を源泉徴収簿と兼用している場合、保存期間は7年間へ延長されます。
源泉徴収簿は7年間保存する義務があるためで、7年間の保存期間は経過措置中であっても変わりません。
賃金台帳と源泉徴収簿を一体で管理している場合は、保存期間が長くなる点に注意しましょう。
参考:No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間|国税庁
起算日は「最後の記入日」と「賃金の支払期日」を比較する
賃金台帳の起算日は、最後の記入日と賃金の支払期日を比較して決めます。
起算日とは、賃金台帳の保存期間をカウントするための最初の日付のことです。
以前は、最後に賃金台帳へ記載した日が起算日でしたが、現在は「賃金台帳に最後に記入した日」と「賃金の支払期日」を比較し、より遅い日が起算日になります。
▼ 起算日の例
賃金台帳への記入日:2025年2月10日 同年1月分の賃金支払期日:2025年2月15日 →この場合、賃金の支払期日の方が遅いため「2025年2月15日」が起算日になる |
起算日の計算がズレてしまうと、保存期間内の賃金台帳を誤って破棄するようなことになりかねません。
また、出勤簿や労働者名簿など重要な他の帳簿の起算日や保存期間は、賃金台帳とは異なります。
賃金台帳と他の書類の保存期間を、取り違えないように注意しましょう。
関連記事:「出勤簿とは?保存期間や書き方を解説(テンプレート付き)」
賃金台帳を保存していなかった場合の2つのリスク
賃金台帳を保存することは、従業員を雇用している事業者の義務です。
保存期間を守らず賃金台帳を破棄・紛失すると、労働基準法に違反し是正勧告や罰則を受けるおそれがあります。
この章では罰則の内容や、違反した場合のリスクを解説します。
①罰則を受け社会的信用を失うおそれがある
賃金台帳を適切に保存していないと労働基準法違反で罰則を受けるおそれがあり、社会的信用を失う場合があります。
労働基準監督署は定期的に企業を監査しており、臨検監督という立ち入り調査で賃金台帳やその他の重要書類を確認することがあります。
このとき賃金台帳の記載に不備があったり、保存期間内にも関わらず破棄していた場合は、改善指導による指導票を交付されたり、是正勧告を受けるでしょう。
さらに、是正勧告に従わなかったり、故意に賃金台帳を改ざんしていた場合は、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金を科される場合があります。
また、これらの監督指導の内容は、厚生労働省の公式サイトで随時公開されます。
報道機関によって全国へ報じられる機会も頻繁にあるため、場合によっては企業としての社会的信用も失いかねません。
万が一指導票を交付されたり是正勧告を受けたら、早急に内容を確認し対応しましょう。
▼ 賃金台帳の記載を巡る近年の報道
賃金台帳に労働時間記入せず 運送業者を送検 四日市労基署|労働新聞社
労基法違反:NHKに是正勧告 賃金台帳に記載漏れ | 毎日新聞
関連記事:「賃金台帳の不正はバレる?罰則や不正の防止方法を解説」
②助成金の手続きや雇用保険の申請が遅れる
賃金台帳をしっかり保存していないと助成金の申請手続きや、従業員の雇用保険の申請に遅れが出る場合もあります。
なぜなら助成金の申請を進めるには、基本的に賃金台帳の提出が義務付けられているためです。
▼ 賃金台帳の提出が必要な助成金の例
|
また、従業員の雇用・転勤の際も賃金台帳が必要になります。
これら助成金や雇用保険の申請手続きに支障があると、企業経営が滞り、大きなダメージになりかねません。
経営に支障を来さないためにも、賃金台帳は不備なくしっかり管理しておきましょう。
参考:業務改善助成金の提出書類 | 鹿児島労働局│厚生労働省
賃金台帳の安全な保存方法は?
この章では賃金台帳を安全に保存しておくための方法を解説します。
電子データで保存する
賃金台帳を紙媒体で作成している場合、電子データでの保存に移行するとさまざまなメリットがあります。
▼ 電子データで保存するメリット
|
ただし、電子データで保存する場合にはどのような形式でもよいわけではなく、下記条件を満たす必要があります。
▼ 電子データで保存する際の必須条件
|
引用:労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか。│厚生労働省
上記の条件は守らなければいけませんが、賃金台帳のフォーマット自体はとくに決まっていません。
そのため、電子データで保存する場合は自社でフォーマットを作成しても問題はないでしょう。
厚生労働省でもフォーマットを配布していますが、常時雇用の従業員と日雇いの従業員で記載項目が異なるため注意が必要です。
そして、賃金台帳には必須の記載項目があるため、自社で作成する際もこれらの項目は必ず設置するようにしましょう。
また、フォーマットの作成やデータの管理が大変な場合は、クラウドの管理ソフトを使う方法もあります。
▼ 厚生労働省配布の賃金台帳のフォーマット
事業所ごとに保存する
賃金台帳を保存する際は、事業所ごとに保存しなければならないという規定があります。
本社とは別の住所に支社や営業所がある場合、賃金台帳を本社で一括管理することは認められていません。
本社でまとめて賃金台帳を作成した場合でも、各支社や事業所にもそれぞれ賃金台帳を配布して保存する必要があります。
また、電子データで保存している場合でも事業所ごとにデータを配布し、どこからでも賃金台帳にアクセスできる状況にしておかなければなりません。
紙媒体だと管理が大変ですが、クラウドの管理ソフトであれば、どこからでもアクセス可能な保存の要件を満たしつつ、更新作業などもリアルタイムでできて便利です。
取り扱いの社内ルールを整備する
賃金台帳の保存や記入に関する混乱が起きないよう、賃金台帳を取り扱う際の社内ルールを整備することも大切です。
社内の誰が管理するのか、そしてどのように管理するのかなどのルールを明確に定めることで、より安全に賃金台帳を保存できます。
▼ 社内ルールの例
|
こうした社内ルールを明確に設定することで、賃金台帳をより安全に管理できます。
賃金台帳を保存する際の注意点
賃金台帳の保存に関しては、法律による規定が決まっています。
賃金台帳を保存する際の注意点を解説します。
データ消失に気をつける
賃金台帳を電子データで保存する場合、データの消失に気をつけましょう。
電子データで賃金台帳を保存すれば、紙媒体と違って物理的な消失の可能性はなくなります。
しかし、誤った操作ひとつで保存していたデータが飛んでしまう可能性がゼロではありません。
賃金台帳を保存する場合は、自社サーバーであっても、クラウドであっても、不意の消失に備えバックアップだけは確実に取っておきましょう。
また、特定の担当者だけアクセス可能にするなど、複数人が賃金台帳を触らない環境にしておくことも不意の消失を防ぐ対策になります。
必須項目の記載漏れに注意する
賃金台帳は必須の記載項目が「労働基準法施行規則第54条」により規定されているため、記載漏れに注意をしましょう。
▼ 必須の記載項目
|
出典:労働基準法施行規則(54条) | e-Gov 法令検索
賃金台帳のフォーマットは自由ですが、これらの項目については必ず記載しなければなりません。
賃金台帳は安全・適切に保存しよう
賃金台帳の保存期間の遵守は労働基準法によって定められており、企業にとって重要な義務です。
3年間の経過措置もいつかは撤廃されるため、賃金台帳に関しての厚生労働省の公式発表を定期的に確認しておきましょう。
賃金台帳を安全に保存するためには、社内ルールを整備し、保存の方法をしっかりと規定しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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