- 更新日 : 2025年1月6日
社会保険の適用拡大とは?従業員50人以下はどうなる?2024年10月の変更点を解説
パート・アルバイトなど短時間で働く労働者であっても、労働時間などの要件を満たす場合には健康保険と厚生年金保険への加入義務が生じます。
今回は、パート・アルバイトなどの短時間で働く労働者が社会保険加入の対象となる条件や、2024年10月に法改正があった短時間労働者を対象とした社会保険適用拡大の詳細について解説します。
目次
社会保険の適用拡大とは?
社会保険の適用拡大とは、フルタイムの従業員などに限定されていた社会保険の加入対象者を、パートやアルバイトなどの短時間労働者に広げることです。適用拡大によって短時間労働者も、社会保険の手厚い保障が受けられるようになります。
なお、社会保険の適用拡大前からの社会保険の加入義務がある事業所と従業員は次の通りです。
(従来から社会保険の加入義務がある事業所と従業員)
事業所 |
|
---|---|
従業員 |
|
法改正により一部のパート・アルバイトの社会保険加入が義務化
2016年10月、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業は「特定適用事業所」とされ、一定要件を満たす短時間労働者の社会保険加入が義務となりました。また、被保険者数が常時500人以下の企業についても、労使の合意により申出をすることで、社会保険に加入できるようになりました。申出により短時間労働者の社会保険加入を行う事業所を「任意特定適用事業所」と呼びます。
従業員数が増加して新たに適用拡大の対象となった場合にも、パート・アルバイトなどの短時間労働者の社会保険加入が必要です。
【2024年10月から】社会保険の適用拡大の対象企業・対象者は?
2024年10月の厚生年金保険法改正により、特定適用事業所の範囲が拡大し、対象となる従業員がさらに増えました。社会保険の適用拡大の対象企業と対象者について解説します。
特定適用事業所の対象は、「被保険者数が常時51人以上の事業所」となりました。被保険者数が常時51人から100人の企業の短時間労働者が、新たな社会保険の加入対象です。
特定適用事業所に勤務する短時間労働者のうち社会保険の加入義務が発生するのは、次の要件をすべて満たす従業員です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある(一般の被保険者と共通)
- 学生ではない
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
週の所定労働時間が20時間以上
パート・アルバイトの従業員の中でも、週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員など常時雇用される従業員の4分の3以上となる従業員は、これまで同様社会保険の加入が義務であることに変わりはありません。
「週の所定労働時間が20時間以上」というのは、就業規則や雇用契約書で定められた時間数でカウントします。判断のポイントは、短時間労働者の通常であれば働かなければならない1週間の時間数が20時間以上であるかどうかです。業務が忙しい時期に一時的に残業が多くなって、週に20時間以上労働したケースでは対象とはなりません。
月額賃金が8.8万円以上
「月額賃金が8.8万円以上」というのは、日給や時給を1ヶ月の賃金額に換算した金額で判断します。
ただし、賞与のように1ヶ月を超える期間で算定された賃金や結婚手当のような一時的な賃金、時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金、精皆勤手当・通勤手当・家族手当などのような通常の労働日や労働時間に対する賃金に該当しないものは含みません。
2ヶ月を超える雇用の見込みがある(一般の被保険者と共通)
「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」というのは、「無期雇用の場合」や「2ヶ月超の期間を定めて雇用する場合」、「2月以内の雇用契約であったとしても更新されることが見込まれる場合」です。
雇入れ当初の雇用契約書の雇用期間が2ヶ月以内であったとしても、以下の要件のいずれかに該当する場合には、2ヶ月以内の雇用契約が更新されることが見込まれると判断します。
- 就業規則、雇用契約書などに雇用契約を「更新する」または「更新する場合がある」などと明示がある
- 同一の事業所で同様の雇用契約に基づき雇用されている労働者が、最初の雇用契約の期間を超えて更新された実績がある
ただし、最初に契約した2月以内の雇用契約期間を超えて雇用しないことを労使で合意している場合、社会保険の加入義務は発生しません。
学生ではない
大学や高等学校、専修学校、各種学校などの学生は、原則として適用拡大の対象者にはなりません。
ただし、卒業前に就職して卒業後引続き勤務する予定の学生(卒業見込証明書を有する)や休学中の学生、夜間の学生は、適用拡大の対象になりますので注意しましょう。
社会保険の適用拡大によるメリット・デメリットは?
企業としては社会保険の適用拡大のメリットとデメリットをしっかりと説明し、従業員の理解を得ることが大切です。
従業員が社会保険に加入するメリットには、以下のことが考えられます。
企業にも人手不足の解消や有能な人材の確保の点でメリットがあります。
- 社会保険の「130万円の壁(扶養の範囲)」がなくなり、従業員の労働時間の延長が期待できる
- 健康保険や厚生年金保険に加入して働きたいと考える従業員のニーズに応えられるため、採用の場面でも有利になる
- 福利厚生の充実により離職防止、定着率向上が見込める
一方、給与から社会保険料が控除されるため、従業員の給与の手取り額が減少するデメリットがあります。従業員への説明が不十分だと労使間のトラブルに発展することもあるので注意しましょう。
従業員が50人以下の社会保険加入条件
社会保険の適用拡大により、従業員51人以上の企業に勤務し所定の要件を満たす短時間労働者は社会保険に加入することになりました。適用拡大の対象にならなかった従業員50人以下の企業の短時間労働者について解説します。
現行のルールが適用される
2024年の改正で対象となるのは、従業員51人以上の企業に勤務する短時間労働者です。対象にならなかった50人以下の企業に勤務する短時間労働者は、現行ルール通り社会保険には加入できません。
従業員と企業の合意で加入要件とすることも可能
従業員50人以下の企業は社会保険の特定適用事業所になりませんが、企業が任意に適用事業所になる制度が設けられています。「任意適用事業所」といい、次の条件を満たせば所定の要件を満たす短時間労働者を社会保険に加入させることができます。
- 従業員の半数以上が適用事業所となることに同意する
- 事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受ける
任意適用事業所の社会保険加入者の保険給付や保険料は、特定適用事業所と同じ扱いです。
事業所が複数ある場合は注意
複数の特定適用事業所または任意適用事業所で勤務し、それぞれの事業所で社会保険加入条件を満たす場合、両方の事業所で社会保険に加入しなければなりません。保険料は各事業所での報酬を合計して計算しますが、それぞれの事業所で加入手続きを行い保険料を納付します。
また、「主たる事業所を選択」して、事実発生から10日以内に日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する必要があります。
社会保険の適用拡大の今後
現在確定している社会保険の適用拡大については、これまで解説した2024年10月改正までです。しかし、社会保障全般の総合的な検討を行う「全世代型社会保障構築会議」では、全ての労働者が安心して働けるように更なる適用拡大を検討しています。
短時間労働者の社会保険の適用拡大については「企業規模要件の撤廃」が検討課題とされ、実現すれば従業員50人以下の企業に勤務する短時間労働者も社会保険に加入できるようになります。その他にも、取り組むべき課題として次が挙げられています。
- 個人事業所の非適用業種(農林漁業、サービス業など)の解消
- 週労働時間20時間未満の短時間労働者への適用拡大
- フリーランス・ギグワーカー(※)の社会保険の適用の在り方の整理 など
※インターネット上のプラットフォームを介して単発の仕事を請け負って働く人。
社会保険の適用拡大にともない企業が対応すべきことは?
特に対象となる短時間労働者が多い企業の場合、手続きに手間がかかることや社会保険料の負担増加などの問題点が生じます。社会保険の適用拡大にともない発生する、企業が対応すべきポイントについて解説します。
会社の方針を決定する
最初に自社が特定適用事業所にいつから該当するのかをしっかりと確認し、短時間労働者の組織上の役割や位置付けなど、会社の方針を決定します。事前に準備できることを整理し、担当する部署や担当者の決定、対象となる従業員との面談や説明会の実施など、企業としてやるべきことをスケジュール化して進めていくのがよいでしょう。
また、社会保険に加入することによって従業員の社会保険料の負担が増加することから、「労働時間を増やして給与の手取り額アップを図りたい」「社会保険に加入すると手取り額が減少するため、社会保険に加入しないように労働時間を減らしたい」と、従業員の考えも二極化することが考えられます。
場合によっては、現状の短時間労働者の労働契約の内容を見直しし、労働時間の延長または短縮などの契約変更が必要となることもあります。
適用拡大を契機に短時間労働者に対して正社員へのキャリアアップにつながる提案も可能となるため、適用拡大への取り組みは、従業員の定着率の向上や有能な人材の確保にもつながります。短時間労働者が安心して働くことができる職場環境をつくるためには、会社の方針を明確化し、その方針に合わせて準備を進めていくことが重要です。
就業規則の見直し
社会保険の加入条件は就業規則への記載義務はありませんが、記載している場合は法改正に合わせて見直しが必要です。無料で利用できる就業規則のテンプレートもあるので、ぜひご活用ください。
社会保険の適用対象者を確認する
適用拡大の対象となる従業員の要件を確認し、適用対象者の洗い出しをする必要があります。対象者の洗い出しには、社会保険の被保険者となっていない従業員の労働条件を確認し、対象者リスト化するのがよいでしょう。
社会保険の適用拡大後の保険料を計算する
パート・アルバイトが多い企業の場合、社会保険の適用拡大により、企業の社会保険料の負担が増加します。
企業としては社会保険料の増加による企業の資金繰りへの影響にも備えなければなりません。企業が負担する社会保険料をあらかじめ計算し、資金調達面の準備も怠らないようにしましょう。
【社会保険料を概算で計算する場合】
- 年間給与額:2,400万円(月10万円のパートが20人、2024年度・東京都の保険料で計算)
- 健康保険の保険料率:11.58%(介護保険あり)
- 厚生年金の保険料:18.3%
- 社会保険料合計:29.88% (社会保険料は労使折半となるため企業負担は14.94%)
- 社会保険料概算額:約359万円(給与総額2,400万円×企業負担分14.94%)
※健康保険の保険料率は健康保険組合ごと(協会けんぽの場合は都道府県ごと)に異なります。また、従業員ごとに標準報酬月額によって社会保険料を計算することになるため、正確な計算は企業によって異なります。
被保険者資格取得届を準備する
法施行日以降、新たに適用拡大の対象となる企業は、原則「特定適用事業所該当届」の提出が必要となります。また、労働者が社会保険に加入する際には、企業が「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を作成し、日本年金機構へ提出する必要があります。
特に新たに適用拡大の対象となる事業所では、多数の被保険者資格取得の手続きが同時に発生するため、あらかじめ資格取得届を作成しておきましょう。対象となる従業員の被扶養者がいる場合には「被扶養者(異動)届」の提出も必要となりますので、準備を忘れないようにしましょう。
社会保険の制度を押さえて、短時間労働者が安心して働ける環境づくりを
パート・アルバイトなどの短時間労働者でも安心して働ける環境をつくるうえで、社会保険は必要不可欠な制度です。短時間労働者が社会保険に加入できることは、手続きにかかる手間や保険料といった負担はあるものの、従業員の保障充実につながり、離職率の低下、人手不足の解消など、企業側にメリットをもたらすと考えられます。
本記事を参考に2024年10月の改正内容を再確認して、短時間労働者の加入手続きを漏れなく行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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