- 更新日 : 2021年6月21日
役員報酬を変更する時に知っておくべき手順と注意点

役員報酬は支給額や支給方法によっては企業の納税額を大きく左右します。一度決めてしまっても業績などによって役員報酬を調整すれば、節税することも十分可能です。
しかし節税効果を悪用して脱税する企業がでないように、役員報酬の変更をするには正しい手順を踏む必要があります。
ここではその手順と、変更の際の注意点について解説します。
役員報酬を変更する時の手順
役員報酬の変更手順

役員報酬
の変更は増額でも減額でもまず株主総会などで正式に決定しなければなりません。その際には必ず「株主総会議事録」を作成します。
株主総会議事録には開催日時や会場、出席者や発行済株式総数などとともに誰の役員報酬をいくらに変更することになったかを明記します。出席者の署名・捺印も必要です。
なお合同会社の場合は「同意書」という形で、変更内容を記載した書類を用意します。この場合も出席者の署名・捺印は必要です。
この株主総会議事録または同意書がない場合、税務調査に対して変更内容の証明ができません。当局としては損金算入を認めるわけにはいかなくなるため、追徴課税をせざるを得なくなるのです。
また健康保険・厚生年金に加入している企業で、役員報酬の変更が「標準報酬月額」において2等級以上増減する場合は、日本年金機構に対して「被保険者報酬月額変更届」の提出が必要となります。
さらに標準報酬月額において5等級以上下がる場合は、株主総会議事録または同意書と所得税源泉徴収簿または賃金台帳の写しの提出もしなければなりません(固定的賃金の変動があった月の前の月から、改定月の前の月分まで)。
変更手順は「いつ変更するか」がポイント
役員報酬を変更する際のポイントは「いつ変更するか」にあります。原則変更手続きは事業年度開始日から3ヶ月以内とされています。事業年度開始日が4月1日であれば、6月30日までに手続きを終えなくてはなりません。
もしいつでも役員報酬の変更が可能であれば、「今年度は利益が出すぎて税金が高くなったから、役員報酬にしてしまって節税しよう」という不正ができてしまうからです。
ただし例外が認められないわけではありません。経営が著しく悪化して、株主・債権者・取引先などとの関係上、役員報酬の変更がどうしても必要だと認められれば、変更は可能です。
その場合は臨時株主総会などを開催して変更手続きを行います。臨時で役員報酬の変更の決定手続きさえ踏めば、議事録または同意書の作成、被保険者報酬月額変更届などの提出は通常時と同じです。
とはいえ無用な疑いをかけられないためにも、役員報酬の変更は極力事業年度開始日から3ヶ月以内に行うようにしましょう。
役員報酬を変更する時の注意点
役員報酬を増額する場合
事業年度開始日から3ヶ月以内の原則を守っていれば役員報酬を増額するのは何の問題もありません。
しかし3ヶ月を過ぎてから増額をしようとすると基本的には損金への算入はできません。前述したように利益に応じた不正が簡単にできてしまうからです。
しかし損金に算入する(節税する)のでなければ、3ヶ月を過ぎてからでも役員報酬の増額は可能です。
例えば4月1日が事業年度開始の企業が、10月1日分から毎月50万円だったある役員の役員報酬を毎月80万円に増額する場合、10月分の役員報酬のうち30万円分は損金不算入となります。
役員報酬を減額する場合
役員報酬を減額する場合は、事業年度開始日から3ヶ月以内という原則以外でも例外が認められる可能性があります。
この例外を国税庁では「経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じた」場合と定めています。
重要なのは「経営状況の悪化」と「第三者である利害関係者との関係性」の2点です。もし経営が著しく悪化していたとしても、株主や債権者などとの関係に問題が生じないのであれば、例外としては認められません。
この2点を満たすような理由を「業績悪化改定事由」と呼びます。国税庁はこれに関して、平成24年4月改定の「役員給与に関するQ&A」の中で、以下のような例を挙げています。
(2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
(引用:役員給与に関するQ&A)
役員報酬を減額する場合は特に「第三者である利害関係者との関係性」についての要件を満たせるよう、第三者との協議などをしておくことがポイントとなります。
まとめ
役員報酬の金額は、労働の対価ではなく、委任の対価です。
このため、事業年度開始日から3か月以内に決めた金額通りに支払うのが原則です。3ヶ月を過ぎてからの増額分の損金算入はできず、減額する場合も業績悪化改定事由を満たしている必要があります。
むやみやたらな役員報酬の変更はせず、もしする場合にもここで解説した手順と注意点をよく理解したうえで行いましょう。
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よくある質問
役員報酬を変更する時の手順に気を付ける点は?
ポイントは「いつ変更するか」にあります。これは不正を防ぐためです。詳しくはこちらをご覧ください。
役員報酬を増額する場合の注意点は?
事業年度開始日から3ヶ月以内の原則を守ることには注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
役員報酬を減額する場合の注意点は?
特に「第三者である利害関係者との関係性」についての要件を満たせるよう、第三者との協議などをしておくことがポイントとなります。詳しくはこちらをご覧ください。
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