- 更新日 : 2025年4月17日
有給取得率の平均は?現状や計算方法、上げるための方法を解説
年次有給休暇の取得は法律で認められた権利であるものの、日本の有給取得率は依然として低い水準にあります。
本記事では有給取得率の平均や低い理由、計算方法を解説し、取得率を上げるための具体的な方法を紹介します。
有給取得率の基本を理解し、具体的な行動に移して企業イメージを向上させましょう。
目次
有給取得率とは
有給取得率とは、企業の従業員が付与された年次有給休暇のうち、実際に取得された割合を示す指標です。働き方改革の重要な要素のひとつであり、企業の労働環境の健全性を測る基準にもなります。
有給取得率が低いと従業員の疲労が蓄積し、モチベーションが低下しやすくなり、生産性の低下にもつながりかねません。
企業は単に年次有給休暇を付与するだけでなく、取得しやすい環境を整え、従業員のワークライフバランスを向上させるのが大切です。
有給取得率と有給消化率の違い
有給取得率と有給消化率は、意味が異なります。
有給取得率は、付与された年次有給休暇のうち、実際に取得された割合を示す指標です。
一方、有給消化率は、年度内に付与された年次有給休暇がどれほど消化されたかを示します。繰越分の年次有給休暇を含めた取得状況を分析する際に有効です。
企業は、法定の年5日取得義務を果たすために有給取得率を重視しましょう。同時に、従業員の働きやすさを向上させるには、有給消化率の向上も重要です。
適切な管理と運用をおこない、職場環境の改善につなげましょう。
有給取得率の平均日数
有給取得率の平均日数は、企業の労働環境を把握するうえで重要な指標です。
厚生労働省がおこなった令和5年就労条件総合調査(4.年次有給休暇)によると、企業が付与した年次有給休暇の日数は平均17. 6日で、労働者が実際に取得した日数は10. 9日です。労働者1人あたりの平均取得率は62.1%であるため、過去最高の水準に達しました。
有給取得率の向上は、働きやすい職場づくりや従業員のモチベーション維持につながります。企業は取得状況を確認し、必要に応じた施策の強化をおこないましょう。
日本の有給取得率の現状
日本の有給取得率は上昇傾向にあるものの、依然として世界最下位の水準にとどまっています。
2024年エクスペディアが発表した世界11地域11,580名を対象にした「有給休暇の国際比較調査」によると、イギリスやアメリカなどの国々では有給取得率が90%を超えています。一方、日本は60%台です。
有給取得率が低いと、従業員の疲労が蓄積し、生産性の低下や離職率の増加につながりかねません。企業は、管理職が率先して有給を取得するといった、従業員が安心して休める環境を整える必要があるでしょう。
日本の有給取得率が低い3つの理由
日本の有給取得率は世界的に見て低く、背景には企業文化や職場環境など複数の理由があります。
厚生労働省が発表した令和5年度「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査を見ると、多くの従業員が心理的・業務的な理由で年次有給休暇の取得をためらっているのがわかるでしょう。
以下では、日本の有給取得率が低い理由を3つ解説します。
周囲に迷惑がかかるから
有給取得率が低い理由のひとつに「周囲に迷惑がかかる」が挙げられます。
人手不足の企業や繁忙期の業種では、1人の従業員が抜けるだけでも業務は滞り、周囲への負担増加につながるケースが少なくありません。多くの従業員は休暇を取りたいと感じていても、遠慮して取得を控えてしまいます。
状況を改善するには、企業側が業務の属人化を防ぎ、担当者が休んでも業務を円滑に進める仕組みづくりが必要です。誰が休んでも業務の滞りがない体制を整えると、従業員は不安を抱かずに、安心して年次有給休暇が取得できるでしょう。
有給休暇前後の仕事の調整が大変だから
年次有給休暇前後の業務調整に関する負担も、有給取得率が低い理由です。
多くの従業員は「休暇前後の引き継ぎや業務調整が面倒だ」と感じ、取得を敬遠しがちです。業務が属人化している企業ほど、1人が休む際の影響が大きく、休暇取得のハードルが高まります。
企業は業務マニュアルの作成や定期的な業務共有を徹底し、業務の調整負担を軽減するのが大切です。年次有給休暇が取得しやすい環境を整え、有給取得率の改善につなげましょう。
有給休暇を取得しづらい雰囲気があるから
職場の雰囲気が原因で、年次有給休暇が取りにくいと感じる人もいます。
日本の職場では周囲が休暇を取得しない場合、自分だけが休むのを躊躇してしまう傾向があります。躊躇する状況が続くと「有給はあっても使えないもの」という認識が定着し、有給取得率は下がりかねません。
経営陣や管理職が率先して休暇を取り「休むことが当たり前」の空気を醸成するのが大切です。
また、社内掲示板や社内報などで定期的に有給取得率を公開すれば、企業が休暇取得を推奨しているメッセージとなり、従業員も安心して取得できるでしょう。
有給取得率の計算方法
有給取得率とは、従業員に付与された年次有給休暇がどの程度取得されたかを数値で示した指標です。
有給取得率の数値を適切に算出し、改善策の検討・実行をすると、職場の働きやすさや従業員満足度が向上できます。計算方法は、以下のとおりです。
有給取得率(%)=全従業員の年次有給休暇取得日数の合計÷全従業員の年次有給休暇付与日数の合計×100
- Aさん:取得日数14日・付与日数20日
- Bさん:取得日数16日・付与日数20日
- Cさん:取得日数5日・付与日数10日
3人の取得日数合計35日÷3人の付与日数合計50日×100=70(%)
企業は算出した有給取得率をもとに、取得率が低い部署への改善策を具体的に検討し、有給取得率を向上させましょう。
有給取得率を上げるべき5つの理由
有給取得率を向上させると、企業と従業員双方にメリットがあります。
以下では、有給取得率を上げるべき理由を5つ解説します。
1.従業員満足度の向上につながるから
有給取得率を上げるべき理由の1つ目は、従業員満足度の向上につながるからです。
定期的に休暇を取ると、心身の疲労が回復し、日頃の仕事で蓄積したストレスが軽減されます。ストレスが緩和されると、従業員のモチベーションやエンゲージメントが高まり、職場全体の活気につながるでしょう。
また、安心して年次有給休暇を取得できる環境が整えば、従業員は企業への信頼感を持ち「従業員の健康を大切にする会社」としての評価が高まるため、長く働きたいと思える職場になります。
2.従業員の生産性が向上するから
有給取得率を上げるべき理由の2つ目は、従業員の生産性向上につながるからです。
有給取得率が低い場合、従業員の疲労が蓄積し、生産性の低下やミスの増加を引き起こす可能性が高まります。
年次有給休暇は一定期間勤務した労働者に対して、心身の疲労回復とゆとりある生活を保障するために与えられる休暇です。給料が支給されたまま休暇を取得できるため、従業員は安心して疲労回復に努められます。
心身の状態が整った従業員は創造的な発想力や業務への主体性を発揮でき、生産性が高い状態で業務を遂行できるでしょう。
3.従業員の定着が期待できるから
有給取得率を上げるべき理由の3つ目は、従業員の定着率向上に期待できるからです。
有給取得率が低いと、心身の疲労やストレスを感じやすく、離職につながる可能性が少なくありません。
一方、有給取得率が高いと、長く安心して勤務できる環境が整います。結果、優秀な人材が定着しやすくなり、長期的に安定した人材確保につながるでしょう。企業は人材不足を防ぐためにも、年次有給休暇の取得を積極的に推進する必要があります。
4.採用競争力の強化ができるから
有給取得率を上げるべき理由の4つ目は、採用競争力の強化ができるからです。
有給取得率が高い企業は、求職者に対して魅力的な企業として映ります。近年の求職者は、給与や仕事内容に加え、ワークライフバランスを重要視しています。年次有給休暇が取得しやすいのは、働きやすさを判断する指標となるため、求職者が企業選びをする際の大きなポイントになるでしょう。
採用競争が激化するなか、企業が積極的に年次有給休暇の取得を推奨しているアピールをすると、優秀な人材の獲得が可能になります。
5.法令遵守と企業イメージの向上につながるから
有給取得率を上げるべき理由の5つ目は、法令遵守と企業イメージの向上につながるからです。
2019年に施行された働き方改革関連法では、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対し、企業側は年5日の取得が義務です。違反すると労働基準法第120条1項により、違反者1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。
年次有給休暇の取得を企業が積極的に推奨すると、社会的な信頼が得られ、コンプライアンスを重視する姿勢が伝わります。「従業員を大切にする企業」として評価されると、企業価値が高まり、持続的な成長につながるでしょう。
有給取得率を上げるための方法5つ
有給取得率を上げるには「年次有給休暇を取得しましょう」と社員に伝えるだけでは不十分です。職場の雰囲気や体制など、具体的に取得を促進する仕組みの構築が必要になります。
以下では、企業が有給取得率を上げるために、取り組むべき方法を5つ紹介します。
1.有給休暇を取得しやすい職場環境をつくる
有給取得率を上げるには、職場環境を整えるのが重要です。
「周囲が休まないから自分も休みづらい」という心理的な壁が、年次有給休暇の取得を妨げる原因になります。意識を変えるには業務の属人化を防ぎ、誰が休んでも問題ない状況をつくりましょう。管理職が率先して年次有給休暇を取得し、職場内で「休むことは悪くない」という認識を広げるのが大切です。
年次有給休暇取得を推奨する姿勢が明確に打ち出されると、従業員の心理的負担が軽減され、有給取得率が上がるでしょう。
2.年次有給休暇管理簿を作成する
有給取得率を上げるには、年次有給休暇管理簿を作成したうえで、取得状況を把握する必要があります。
年次有給休暇管理簿とは、各従業員の年次有給休暇の取得日数や残日数を記録し、取得状況を可視化する書類です。2019年4月からは作成と3年間の保存が義務化されています。
年次有給休暇管理簿を活用すると、誰がどのくらい有給を取得しているのかを一目で把握でき、取得不足の従業員へ改善策を講じられます。企業全体の有給取得率を上げるために、年次有給休暇管理簿の作成・運用を適切におこないましょう。
3.業務をカバーできる体制をつくる
有給取得率を上げるには、業務をカバーできる体制の整備が重要です。
年次有給休暇の取得をためらう人のなかには「自分が休むと仕事が滞る」と感じている従業員が少なくありません。業務の属人化を解消するために、業務マニュアルの作成や定期的な業務共有ミーティングの実施などをおこない、誰が担当しても進められる仕組みを整えましょう。
特定の社員に依存せず、業務をチームでカバーできるようになれば、従業員が安心して年次有給休暇を取得できるようになります。
4.計画的付与制度を導入する
有給取得率を上げるには、計画的付与制度を導入するのもオススメです。
計画的付与制度とは、労使協定を締結し、企業があらかじめ有給取得日を設定する制度のことです。
たとえば、年度初めに特定期間を年次有給休暇として設定しておけば、従業員は計画的に年次有給休暇を取得できます。計画的に付与された日数は法定の「年5日の取得義務」の日数にも含まれます。
「業務が忙しくて休みにくい」と感じている企業や部署ほど、計画的付与制度を利用するメリットが大きいでしょう。
5.半日・時間単位で付与する
有給取得率を上げるには、半日・時間単位で付与する方法もオススメです。
たとえば、病院への通院や家族の用事など「丸一日休むほどではないものの、数時間だけ休みたい」という従業員のニーズに応えられます。従業員は時間単位で気軽に利用できるため、制度を利用する心理的なハードルが下がるでしょう。
また、企業側は従業員が1日単位で休暇を取得するより業務調整が容易になり、業務が滞るリスクを最小限に抑えられます。従業員の意向を尊重したうえで、柔軟な休暇制度を取り入れると、職場の有給取得率向上が図れるでしょう。
有給取得率について理解を深め、従業員の満足度や定着率を高めましょう
有給取得率の平均や計算方法を解説し、取得率向上のための具体的な方法を説明しました。
日本の有給取得率は上昇傾向にあるものの、他の先進国に比べると低い取得率です。
有給取得率を上げるには、以下の方法がオススメです。
- 有給休暇を取得しやすい職場環境をつくる
- 年次有給休暇管理簿を作成する
- 業務をカバーできる体制をつくる
- 計画的付与制度を導入する
- 半日・時間単位で付与する
仕組みを構築し、有給取得率を上げ、従業員の満足度や定着率を上げましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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