- 更新日 : 2025年7月25日
勤務時間の虚偽申告はなぜバレる?法律上の罰則や会社に改ざんされた場合の対応も解説
「少しだけならバレないだろう」「生活が苦しいから…」そんな軽い気持ちで勤務時間をごまかしていないでしょうか。勤務時間の虚偽申告は、いわゆる「カラ残業」や「勤怠の改ざん」として、多くの職場に潜む問題です。労働者側が意図的に行うケースだけでなく、会社側が労働基準法違反を隠すために勤怠記録の改ざんを強要・実行するケースも存在します。
この記事では、勤務時間の虚偽申告がなぜ発覚するのか、その具体的なリスク、そして万が一関与してしまった場合や被害に遭った場合の対処法について詳しく解説します。
目次
勤務時間の虚偽申告の典型的な手口
勤務時間の虚偽申告には、いくつかの典型的なパターンがあります。どのような手口があり、なぜそのような行為に及んでしまうのでしょうか。
カラ残業・残業時間の水増し
最も代表的な手口が、「カラ残業」や「残業時間の水増し」です。
カラ残業とは、実際には業務を行っていないにもかかわらず、残業したと偽って申告し、不正に残業代を受け取る行為を指します。また、実際に残業はしたものの、その時間を意図的に長く申告する「水増し」も同様です。
タイムカードの打刻だけして私用を済ませる、業務と関係のないWebサイトを閲覧して時間を潰すといった行為がこれにあたります。
遅刻・早退の隠蔽
始業時間に間に合わなかった遅刻や、所定の終業時間より早く業務を切り上げた早退を隠すために、勤怠記録を不正に操作するケースです。同僚にタイムカードの打刻を依頼したり、手書きの出勤簿に虚偽の時間を記入したりする方法が考えられます。遅刻や早退による給与控除や人事評価への悪影響を避けたいという動機から行われることが多い手口です。
勤務時間の虚偽申告がバレる理由
「うまくやっているつもりでも、なぜかバレてしまった」というケースは後を絶ちません。会社は労働者の勤怠状況を様々な方法で把握しており、虚偽の申告はいつか必ず矛盾が生じます。ここでは、虚偽申告が発覚する主な理由を解説します。
PCのログ履歴や入退室記録との矛盾
多くの企業では、セキュリティ対策や業務管理のために、PCのログイン・ログオフ履歴や、社員証(ICカード)による入退室記録を管理しています。申告された残業時間内にPCが使用された形跡が全くなかったり、既に入退室ゲートを通過して退社している記録が残っていたりすれば、虚偽申告は明白です。これらの客観的なデジタルデータは、ごまかしの効かない強力な証拠となります。
防犯カメラの映像やGPS機能
オフィスの出入口や執務室に設置された防犯カメラの映像も、不正を発見するきっかけとなります。申告された時間帯に本人が本当に執務室にいたのか、映像を確認すれば一目瞭然です。また、営業職などで社用車や業務用スマートフォンが支給されている場合、GPS機能によって行動履歴が記録されています。報告された訪問先や移動時間と実際の記録に齟齬があれば、虚偽が疑われることになります。
同僚や部下からの内部告発
日本では、企業の不正の約6割が内部告発によって発覚しており、その中には同僚や部下からの告発も含まれます。真面目に働いている社員にとって、不正に給与を得ている同僚の存在は、不公平感やモチベーションの低下に繋がります。「あの人はいつも定時で帰っているのに、残業代が自分より多いのはおかしい」といった疑念や不満が、上司や人事部への通報という形で表面化することは少なくありません。
業務量と残業時間の不一致
管理職や人事部は、各社員の業務内容や進捗状況を把握しています。特定の社員の残業時間だけが、その業務量や成果物と比較して不自然に多い場合、不正が疑われるきっかけとなります。特に、プロジェクトの閑散期であるにも関わらず、恒常的に長時間労働を申告しているようなケースは、調査の対象となりやすいでしょう。
勤務時間の虚偽申告がもたらす深刻なリスク
軽い気持ちで行った虚偽申告が、自身のキャリアや人生を大きく揺るがす事態に発展する可能性があります。ここでは、虚偽申告によって労働者が負うことになる法的な責任や処分について具体的に解説します。
懲戒処分(減給・諭旨解雇・懲戒解雇など)
企業は、就業規則に基づき、規律違反を犯した労働者に対して懲戒処分を下すことができます。勤務時間の虚偽申告は、企業秩序を乱す重大な不正行為と見なされます。処分の内容は、不正の態様や金額、常習性などによって異なりますが、軽いものでも譴責(けんせき)や減給、重い場合には出勤停止や諭旨解雇、最も重い懲戒解雇となる可能性があります。懲戒解雇は再就職にも大きく影響する極めて重い処分です。
給与の返還請求(不当利得返還請求)
虚偽の申告によって不正に得た賃金(残業代など)は、「不当利得」にあたります。そのため、会社は労働者に対して、不正に支払った給与の全額返還を請求する権利があります。発覚するまでの期間が長ければ長いほど、返還額は高額になります。場合によっては、遅延損害金が加算されることもあり、経済的に大きな負担を強いられることになります。
悪質な場合は詐欺罪で刑事罰に
悪質・常習的な虚偽申告は、詐欺罪として10年以下の懲役刑が科される可能性があり、刑事事件に発展します。会社を欺いて不正に財産(給与)を得る行為は、刑法第246条の「詐欺罪」に該当し得るからです。詐欺罪が成立した場合、10年以下の懲役に処される可能性があり、前科がつくことになります。
会社側に勤務時間を改ざんされるケース
虚偽申告は労働者側だけの問題ではありません。むしろ、会社側が組織的に労働者の勤務時間を改ざんし、残業代を未払いとするケースは、労働基準監督署の是正指導対象となる深刻な問題として多数確認されています。
勤怠を改ざんする理由
会社が勤怠を改ざんする動機としては、主に残業代の支払い回避を通じた人件費削減が挙げられます。支払うべき残業代を支払わないことで、利益を確保しようとします。また、長時間労働は労働基準監督署による是正勧告や指導の対象となるため、監督官庁の目を逃れるために、実態よりも労働時間を短く見せかける「過少申告」を強要するケースもあります。これは労働基準法に明確に違反する違法行為です。
勤怠を改ざんされた場合の対処法
もし会社から勤務時間の改ざんを指示されたり、勝手に記録を修正されたりした場合は、決して応じてはいけません。
1. 客観的な証拠を集める
会社側の不正を立証するためには、客観的な証拠が不可欠です。
- タイムカードや出勤簿の写真、コピー
- PCのログイン・ログオフ時刻がわかる画面のスクリーンショット
- 業務日報や、業務終了時刻がわかるメール・チャットの送受信記録
- 自分自身で記録した、正確な始業・終業時刻のメモ
2. 外部の専門機関に相談する
社内の上司や人事部に相談しても改善が見込めない場合や、組織ぐるみで行われている場合は、ためらわずに外部の専門機関に相談しましょう。
- 総合労働相談コーナー:各都道府県の労働局や労働基準監督署内にあり、無料で専門の相談員に相談できます。
- 労働組合:社内外の労働組合に加入し、団体として会社と交渉する方法もあります。
- 弁護士:法的な手段(労働審判や訴訟)を視野に入れる場合、労働問題に強い弁護士への相談が最も有効です。未払い残業代の請求などを有利に進めることができます。
勤務時間の虚偽申告の時効は原則として5年
会社が労働者に対して、不正に得た給与(不当利得)の返還を請求する権利の時効は、原則として5年です(民法改正により、2020年4月1日以降に発生した権利は5年、2020年3月31日以前は10年)。一方、労働者が会社に未払い残業代を請求する権利の時効は、当面の間3年です。ただし、時効が成立したからといって、不正行為の事実が消えるわけではなく、懲戒処分の対象となり得る点に注意が必要です。
勤務時間の虚偽申告についてよくある疑問
ここでは、勤務時間の虚偽申告に関してよく寄せられる質問について、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
もし虚偽申告をしてしまったら、どうすればいい?
最も重要なのは、発覚する前に自ら正直に申告し、謝罪することです。不正が発覚してからでは、言い逃れと捉えられ、処分が重くなる可能性があります。自ら申告することで、会社側も情状酌量の余地があると判断し、処分が軽減される場合があります。不正に得た給与の返還計画などを誠実に相談し、今後は決して不正を行わない姿勢を示すことが大切です。
派遣社員の場合、虚偽申告の責任は誰が負う?
派遣社員が勤務時間の虚偽申告を行った場合、まず雇用主である派遣元会社との契約に違反することになり、懲戒処分の対象となります。同時に、実際に業務を行っている派遣先企業に対しても損害を与える行為であるため、派遣先から派遣元へ損害賠償請求が行われ、それが本人に求償される可能性もあります。派遣社員であっても、責任が軽くなることはありません。
公正な労務管理が健全な職場を作る
勤務時間の虚偽申告は、労働者にとってはキャリアを失いかねないハイリスクな行為であり、会社にとっては法違反や従業員の信頼喪失に繋がる重大な問題です。軽い気持ちで行った不正が、懲戒解雇や損害賠償、さらには刑事罰といった深刻な事態を招くことを、決して忘れてはなりません。
もしあなたが虚偽申告に関与してしまっているなら、一刻も早く正直に申告し、問題を清算する勇気を持ってください。もし会社による不正に悩んでいるなら、泣き寝入りせずに証拠を集め、外部の専門機関に相談してください。労働者と会社、双方がコンプライアンスを遵守し、公正で透明性のある労務管理を行うことが、健全な職場環境を築くための唯一の道です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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