• 更新日 : 2025年7月25日

残業申請とは?労働基準法のルールや申請しない・させない場合のデメリットなどを解説

残業申請は、単なる事務手続きではありません。あなたの正当な労働の対価である残業代を請求し、会社が従業員の労働時間を正確に把握するために重要なプロセスです。

この記事では、残業申請の基本から、法律上のルール、申請しにくい場合の対処法まで解説します。この記事を読めば、残業申請に関するあらゆる疑問や不安が解消され、自信を持って行動できるようになるはずです。

残業申請とは

残業申請は、従業員が会社の指揮命令下で法定労働時間を超えて働いたことを証明し、正当な割増賃金(残業代)を受け取るために行う手続きです。残業申請は会社に労働時間を報告する社内手続きであり、申請の有無にかかわらず、実際に働いた時間には割増賃金が発生します。

同時に、会社にとっては従業員の労働時間を正確に把握し、過重労働を防ぐための重要な管理業務でもあります。 つまり、従業員と会社、双方にとって大切なルールなのです。

労働基準法上の残業の定義

一般的に残業と呼ばれるものは、法律上「時間外労働」に該当します。これは、労働基準法で定められた1日8時間・週40時間という法定労働時間を超える労働のことです。商業・接客娯楽業など従業員が10人未満の小規模事業場では、週44時間が認められるほか、変形労働時間制や管理監督者などの例外もあります。

会社が従業員に法定労働時間を超えて労働させる場合、労働基準法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)を締結し、労働基準監督署に届け出る義務があります。

残業は会社の明示命令だけでなく、黙示の指示や黙認がある場合も含まれます。そのため、自主的に残ったように見えても、会社がその事実を把握しながら放置していれば労働時間として扱われる可能性があります。

残業申請のメリット

残業申請は、従業員にとっては、労働の対価である残業代を正確に受け取るための根拠となります。一方、会社にとっては、従業員の労働時間を正確に把握し、過重労働を防ぎ、健康管理を行う責務を果たすために不可欠です。また、労働時間を可視化することで、業務量の偏りや非効率な業務プロセスを発見し、生産性向上につなげるきっかけにもなります。

残業申請をしない・させない場合のリスク

残業申請をしないと、従業員・会社双方にとって大きなリスクを伴います。

従業員側|サービス残業による経済的な不利益

残業申請をしなければ、当然ながら残業代は支払われません。これは、労働に対する正当な対価を受け取れないという、明らかな経済的不利益です。

会社側|労働基準法違反となり罰則の対象に

会社には、従業員の労働時間を正確に把握する義務があります。残業の事実を知りながら申請させずに放置した場合、労働時間管理義務違反を問われます。その結果、未払い残業代の請求や労働基準監督署による是正勧告、最悪の場合は36協定を届け出ずに残業させた場合、労基法119条により、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるリスクがあります。コンプライアンス違反は、企業の社会的信用を大きく損なうことにも繋がります。

残業申請の正しい方法・ルール

残業は、原則として上司の指示・承認のもとで行われる業務です。そのため、申請は事前に行うのが基本ルールとなります。

申請フローの例

  1. 残業の必要性が生じる
  2. 上司に口頭またはチャットで残業可能か相談・許可を得る
  3. 勤怠管理システムや申請書で正式に申請する
  4. 上司が内容を確認し、承認する
  5. 承認された範囲で残業を行う

申請理由の書き方

申請をスムーズに承認してもらうには、以下の情報を正確に伝えることが重要です。

  • 申請日・申請者名
  • 残業予定日
  • 残業予定時間(例:18:00~19:00)
  • 残業の具体的な理由
  • 残業中に行う業務内容

申請理由の例文

  • 「〇〇社向け提案資料の作成が本日納期のため、19時まで残業させていただけますでしょうか。」
  • 「システムに緊急の不具合が発生したため、復旧作業のため2時間程度の残業をお願いしたく存じます。」

事後申請する場合

緊急の顧客対応や突発的なトラブルなど、やむを得ない事情で事前の申請が難しい場合もあります。多くの企業では、このようなケースのために事後申請のルールを設けています。ただし、事後申請が常態化すると、労働時間管理が曖昧になるため、あくまで例外的な措置です。

事後申請を行う際は、なぜ事前申請ができなかったのか、その理由を明確に伝えることが重要です。無断で残業し、事後報告を繰り返すのは避けましょう。

残業申請のよくある悩みと対処法

理論上は簡単に見える残業申請も、実際の職場では様々な悩みや壁にぶつかることがあります。ここでは、よくあるケースとその対処法を見ていきましょう。

残業申請が「めんどくさい」「しにくい」と感じる

「申請手続きが煩雑でめんどくさい」「周りが申請していないから、自分だけ申請しにくい」といった声は少なくありません。この感情の背景には、手続きの手間だけでなく、「残業する=仕事が遅い」と思われたくない、上司に遠慮してしまうといった心理的な要因も隠されています。しかし、残業申請は労働者の正当な権利です。まずは「残業代は働いた分だけもらうのが当たり前」という意識を持つことが大切です。会社側も、申請しやすい雰囲気作りや、システムの簡略化を進める必要があります。

部下が残業申請をしない

一方で、「部下が自主的に残っているだけで、残業を命じたわけではない」と考える管理職の方もいるかもしれません。しかし、部下が残業している事実を認識しながら放置していた場合、会社は「黙示の指示」があったとみなされ、安全配慮義務違反や未払い賃金の支払い義務を問われる可能性があります。部下が残業申請をしない場合は、申請しにくい雰囲気がないか、業務量が過大でないかを確認し、申請を正しく行うよう指導・徹底する責務が管理職にはあります。

上司が残業申請を承認しない

正当な理由があるにもかかわらず、上司が残業申請を一方的に却下したり、承認しなかったりするのは問題です。これは実質的な残業の強要にあたる可能性があります。このような「おかしい」状況に直面したら、まずは上司になぜ承認されないのか理由を確認しましょう。それでも納得のいく説明がなければ、さらにその上の上司や人事・労務部門に相談してください。客観的な事実(メールのやり取りや業務指示の記録など)を証拠として残しておくことも重要です。

企業側が整備すべき残業申請のルールと運用体制

従業員が適切に残業申請できる環境を整えることは、企業の法的リスクを回避し、健全な経営を行う上で不可欠です。

就業規則でのルール明確化

残業に関するトラブルを防ぐためには、就業規則に残業申請のルールを明確に定めておくことが重要です。規定すべき項目には、「残業は原則として所属長の事前許可を得て行うこと」「やむを得ず事後申請する場合は速やかに行うこと」「不正な申請が発覚した場合の措置」などが挙げられます。これらのルールを従業員に周知徹底することで、認識の齟齬を防ぎ、公平な運用が可能になります。

就業規則のルール例

第〇条(時間外労働)

  1. 業務の都合により所定労働時間を超えて労働させる場合は、会社は時間外労働を命じることがある。
  2. 時間外労働を行う場合は、原則として事前に所属長に所定の様式で申請し、許可を得なければならない。
  3. やむを得ない理由により事前の許可を得られなかった場合は、速やかに所属長に届け出て、事後の承認を得なければならない。

    勤怠管理システムの活用で申請・管理を効率化

    紙やエクセルでの残業申請は、申請・承認・集計の各段階で手間がかかり、ミスの原因にもなります。勤怠管理システムを導入すれば、スマートフォンやPCから簡単に申請・承認ができ、労働時間もリアルタイムで自動集計されます。打刻時間と申請時間に乖離がある場合にアラートを出す機能などもあり、サービス残業の防止や管理業務の大幅な効率化に繋がります。企業の規模や業態に合ったシステムを選ぶことが重要です。

    目指すは残業ゼロではなく生産性向上

    残業申請制度を厳格に運用する目的は、単に残業代を支払うことだけではありません。最終的なゴールは、不要な残業をなくし、生産性を向上させることです。会社は、従業員の労働時間を正確に把握・分析し、特定の部署や個人に業務が集中していないか、非効率な業務はないかを見直す必要があります。残業の削減と生産性の向上は、従業員のワークライフバランスを改善し、企業の持続的な成長を支える両輪と言えるでしょう。

    残業申請は、あなたと会社を守るための重要な架け橋

    残業申請は、単なる手続きではなく、あなたの労働の価値を正しく評価し、会社が健全な労働環境を維持するための、非常に重要なコミュニケーションです。

    従業員の立場からは、自身の権利を守り、正当な対価を得るために、ためらわずに正しい手順で申請することが大切です。

    企業の立場からは、従業員の健康と会社のコンプライアンスを守るために、明確なルールを定めて、誰もが申請しやすい環境を整える責務があります。

    この記事を参考に、明日からの残業申請に対する意識と行動を変えてみましょう。それが、あなた自身と会社の未来を守るための、確かな一歩となるはずです。


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