- 更新日 : 2025年7月7日
育休は義務?男性育休の義務化や会社の対応義務について解説
育児休業、通称「育休」。この制度は、子育てを行う労働者が仕事と家庭生活を両立できるよう支援するための重要な仕組みです。「育休は義務なのか?」という問いに対しては、社員にとっては法律で保障された「権利」であり、企業にとっては一定の条件下でその申し出を拒めない「義務」であると言えます。この基本的な関係性を理解することが、育休制度活用の第一歩です。
目次
育休は会社の義務?
育児休業は、育児・介護休業法に定められた労働者の権利であり、企業は、社員から法律の要件を満たした育児休業の申し出があった場合、原則としてこれを拒否できません。この「拒否できない」という点が、企業の「義務」としての側面を明確に示しています。
育児休業制度とは?
育児休業制度は、育児・介護休業法に基づき、主に1歳に満たない子を養育する労働者が、一定期間休業することを認める制度です。その主な目的は、労働者が育児のために離職することなく、継続してキャリアを築けるように支援することにあります。これは単に「休みを与える」というだけでなく、企業の貴重な人材を維持し、長期的な視点での人材育成にも繋がる重要な意味合いを持っています。
誰が育休を取得できる?
育児休業を取得できるのは、原則として1歳に満たない子を養育する男女の労働者です。これには、正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員といった有期雇用労働者も含まれます。ただし、日々雇用される労働者は対象外です。
2022年4月の法改正により、有期雇用労働者の取得要件が緩和され、以前は必要だった「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」という条件は撤廃されました。これにより、入社後間もない有期雇用労働者も育休を取得しやすくなりました。
ただし、労使協定を締結することにより、以下の労働者を育休の対象外とすることができます。
- その事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
- 育児休業の申し出の日から1年以内(1歳6ヶ月または2歳までの育休の場合は6ヶ月以内)に雇用関係が終了することが明らかな労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
育休の期間はいつからいつまで?
育児休業の期間は、原則として子どもが1歳に達する日(誕生日の前日)までです。女性の場合、産後8週間は産後休業期間となるため、育児休業は通常、出産日から起算して57日目以降に開始されます。
しかし、特定の事情がある場合には、育休期間を延長することができます。主な延長理由は以下の通りです。
- 子どもが1歳に達した時点で、保育所に入所できない場合など:1歳6ヶ月まで延長可能。
- 子どもが1歳6ヶ月に達した時点で、なお保育所に入所できない場合など:2歳まで再延長可能。
さらに、「パパ・ママ育休プラス」という制度を利用すると、父母ともに育児休業を取得する場合、原則子どもが1歳2ヶ月に達するまで育休期間が延長されます(ただし、各親が取得できる休業期間の上限は1年間)。
男性育休の義務化
2022年の育児・介護休業法改正は、特に男性の育児休業取得促進に焦点を当てたものであり、その中心的な施策として「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が創設されました。「男性育休の義務化」という言葉が使われることがありますが、これは全ての男性社員に育休取得を強制するものではありません。正確には、企業に対して、男性が育児休業を取得しやすい環境を整備し、個別に取得意向を確認するなどの積極的な働きかけを行う「義務」が課されたことを指します。
この改正の背景には、依然として低い男性の育休取得率を改善し、男女双方の育児参加を推進することで、女性のキャリア継続支援や少子化対策に繋げたいという国の強い意図があります。
産後パパ育休(出生時育児休業)
2022年10月1日から施行された「産後パパ育休」(正式名称:出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に、父親が最大4週間(28日間)まで取得できる新たな休業制度です。この制度の大きな特徴は、従来の育児休業とは別に設けられている点です。
主な内容は以下の通りです。
対象者:子を養育する男性労働者
- 取得可能期間:出産後8週間以内
- 取得可能日数:最大4週間(28日)まで
- 申出期限:原則として休業開始予定日の2週間前まで
- 分割取得:2回まで分割して取得可能
この制度は、特に出産直後の母親の心身の負担が大きい時期に、父親が育児や家事のサポートに集中できるようにすることを目的としています。なお、制度名に「パパ」とありますが、養子などの場合であれば女性も取得可能です。
以下に、「産後パパ育休」と「通常の育児休業」の主な違いをまとめます。
項目 | 産後パパ育休(出生時育児休業) | 通常の育児休業 |
---|---|---|
対象者 | 主に父親※女性も取得可能 | 男女労働者 |
取得可能時期 | 子の出生後8週間以内 | 原則として子が1歳(最長2歳)に達するまで |
取得可能日数 | 通算4週間(28日)まで | 子が1歳に達するまで(延長事由があれば最長2歳まで) |
分割取得 | 2回まで可能 | 2022年10月より2回まで可能 |
申出期限 | 原則、休業の2週間前まで | 原則、休業の1ヶ月前まで |
休業中の就業 | 労使協定を締結し、労働者と合意した場合、一定の範囲内で可能 | 原則不可 |
給付金名称 | 出生時育児休業給付金 | 育児休業給付金 |
通常の育休との違いは?分割取得や併用のポイント
産後パパ育休は、前述の通り、従来の育児休業制度とは別の枠組みです。つまり、男性は産後パパ育休を取得した後に、さらに通常の育児休業を取得することが可能です。
2022年10月からは、通常の育児休業も2回まで分割して取得できるようになりました。これにより、産後パパ育休(最大2回)と通常の育児休業(最大2回)を組み合わせることで、父親は子どもが1歳になるまでに最大で4回に分けて育児休業を取得できることになります。
産後パパ育休中の就業は可能?
産後パパ育休の大きな特徴の一つとして、一定の条件下で休業中に就業することが認められている点が挙げられます。これは、従来の育児休業では原則として就業が認められていなかった点と大きく異なります。
産後パパ育休中に就業するための条件は以下の通りです。
- 労使協定の締結
- 労働者の個別合意
就業可能な日数・時間には上限が設けられています。
- 休業期間中の所定労働日・所定労働時間のうち、それぞれ半分まで。
- 休業開始・終了予定日を就業日とする場合は、当該日の所定労働時間数未満であること。
この制度は、育児休業中の収入減少を懸念する声や、短期間でも業務から完全に離れることへの不安を抱える男性の声に応える形で導入されたと考えられます。しかし、企業側としては、あくまでも「休業」が主であり、就業は従たるものであるという原則を忘れてはなりません。
産後パパ育休についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
育休のための企業の法的義務
育児・介護休業法の改正に伴い、企業が果たすべき法的義務はますます広範かつ具体的になっています。単に社員からの申し出に応じて休業を許可するという受動的な対応だけでなく、育児休業を取得しやすい環境を積極的に整備し、社員一人ひとりに制度を周知徹底することが求められています。
社員からの育休申し出があったら
社員から育児休業の申し出があった場合、企業は迅速かつ適切に対応する必要があります。まず、申し出た社員が育児休業の取得要件を満たしているかを確認します。必要な書類としては、通常、「育児休業申出書」の提出を社員に求めます。育児休業の申し出は、原則として休業開始予定日の1ヶ月前まで(産後パパ育休の場合は2週間前まで)に行うこととされています。
義務化①:育休を取得しやすい雇用環境の整備
2022年4月1日より、企業は育児休業を取得しやすい雇用環境の整備措置を講じることが義務付けられました。具体的には、以下のいずれか一つ以上の措置を実施する必要があります。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
- 育児休業・産後パパ育休に関する相談窓口の設置
- 自社における育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
- 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
さらに、2025年10月1日からは、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者を対象に、企業は柔軟な働き方を実現するための措置の中から2つ以上を選択し、講じることが義務化されます。
義務化②:社員への個別周知と休業取得意向の確認
2022年4月1日より、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、企業は以下の事項を個別に周知し、休業の取得意向を確認することが義務付けられました。
周知すべき事項:
- 育児休業・産後パパ育休に関する制度の内容
- 育児休業・産後パパ育休の申し出先
- 育児休業給付に関すること
- 労働者が育児休業・産後パパ育休期間中に負担すべき社会保険料の取扱い
個別周知・意向確認の方法としては、面談(オンラインも可)、書面交付、FAX、電子メールなどが認められています(FAX、電子メールは労働者が希望した場合のみ)。重要なのは、この個別周知・意向確認が、決して育休取得を控えさせるような形で行われてはならないという点です。
2025年10月からは、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対しても、企業が講じる柔軟な働き方の措置について個別に周知し、利用意向を確認することが義務化されます。
義務化③:育休取得状況の公表義務
育児休業の取得状況の公表も、企業の新たな義務として加わりました。2023年4月1日からは、常時雇用する労働者が1,000人を超える企業に対し、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられています。この対象範囲は、2025年4月1日から常時雇用する労働者が300人を超える企業へと拡大されています。
公表する内容は、男性の育児休業等の取得率、または男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率のいずれかです。公表は、自社のウェブサイトや厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」など、インターネットを通じて一般の人が閲覧できる方法で行う必要があります。
育休取得を理由とする不利益な取扱いの禁止
育児・介護休業法では、労働者が育児休業の申し出をしたことや、育児休業を取得したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止しています。不利益な取扱いの具体例としては、解雇、雇止め、降格、減給、不利益な人事考課や配置変更などが挙げられます。
育休ハラスメント(マタハラ・パタハラ)防止措置義務
企業には、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(いわゆるマタニティハラスメント、パタニティハラスメント)を防止するための措置を講じる義務があります。具体的には、事業主の方針の明確化と周知・啓発、相談窓口の設置、ハラスメント事案が生じた場合の迅速かつ適切な対応などが求められます。
就業規則の改定ポイント
育児・介護休業法に関する度重なる改正、特に産後パパ育休の創設や育児休業の分割取得、産後パパ育休中の就業ルールの新設などは、企業の就業規則に直接影響を与えます。法改正に対応するためには、就業規則の関連規定を見直し、適切に改定することが不可欠です。主な改定ポイントとしては、出生時育児休業に関する規定の新設、育児休業の分割取得に関する規定、産後パパ育休中の就業条件、ハラスメント防止規定などが考えられます。
育休は社員の権利で、それを守ることが会社の義務です
育児休業制度は、労働者が仕事と子育てを両立し、安心して働き続けるための重要な基盤です。企業にとっては、その権利行使を支援し、必要な環境を整備する義務があります。
近年の法改正、特に産後パパ育休の創設や企業の各種義務化は、男性の育児参加を一層促進し、男女双方にとってより柔軟で協力的な育児休業のあり方を目指すものです。これらの変更は、企業の人事労務管理に新たな対応を求めるものですが、同時に、より働きがいのある、魅力的な職場環境を構築する機会でもあります。
育児休業制度を正しく理解し、適切に運用することは、法的コンプライアンスを遵守するだけでなく、従業員のエンゲージメント向上、優秀な人材の確保・定着、そして企業の持続的な成長にも繋がります。企業は、法改正の動向を注視し、常に最新の情報に基づいて対応するとともに、単に義務を果たすだけでなく、社員一人ひとりの状況に寄り添った、真に「働きやすい」職場環境づくりを目指していくことが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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