- 更新日 : 2025年4月3日
シンガポールにおける外国人労働者の現状は?日本の企業が見習うべきポイントも紹介
シンガポールは外国人労働者の受け入れに積極的で、多様な人材を活用する仕組みが整っています。
日本企業もシンガポールで導入されている制度から学び、人材不足の解決策として取り入れるべきポイントが多くあるため、事前に確認しておくことが大切です。本記事では、シンガポールの外国人労働者の現状をまとめ、日本企業が見習うべき施策を紹介します。
目次
シンガポールの外国人労働者の割合と現状
シンガポールでは、新型コロナウイルスの影響により、外国人労働者数が2020年から2年連続で減少しました。しかし、2023年以降は再び増加傾向にあります。
2024年上半期のシンガポール人材開発省(MOM)では、外国人就労者数が1万1,200人増加していることが報告されています。とくに、「ワーク・パーミット(WP)」保持者の数は、2023年12月の111万3,000人から、2024年6月には113万8,200人へと増加しました。
一方で、幹部・専門職向けの「エンプロイメント・パス(EP)」保持者は、20万5,400人から20万2,400人に減少しました。中堅向けの「Sパス」保持者も、17万8,500人から17万6,400人に減少しています。
EPやSパス保持者の減少については、企業の人員削減や就労査証の基準見直しが影響していると考えられます。
シンガポールにおける労働パスの種類
シンガポールで発行される労働パスは、日本の在留資格とは制度が異なります。そのため、現地で働くには、職種やスキルに応じた適切な労働パスの取得が必要です。以下では、シンガポールでの主な労働パスの種類について紹介します。
EP(エンプロイメントパス)
EP(エンプロイメントパス)は、シンガポールでマネジメントレベルの方や専門性の高いポジションに就く外国人向けの就労ビザです。EPの申請は、雇用主または指定の雇用エージェントが候補者に代わって行う必要があります。
EPは、2段階の審査制により取得の有無が判断されるため、事前に確認しておくことが重要です。
ステージ1の審査では、対象者の給与基準が年齢別のPMET上位1/3水準を満たす必要があります。
2025年12月31日までに有効期限が切れるEPの更新者 | 一般(金融業以外) | 5,000ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大10,500ドル) |
金融業 | 5,500ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大11,500ドル) | |
2025年1月1日以降の新規申請&2026年1月1日以降の更新 | 一般(金融業以外) | 5,600ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大10,700ドル) |
金融業 | 6,200ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大11,800ドル) |
参考:Eligibility for Employment Pass|Ministry of MANPOWER
また、ステージ2では、ステージ1を満たしたうえで、原則としてCOMPASS審査に合格しなければいけません。免除される例外もありますが、ステージ1を満たしていない限りは、COMPASSで高得点を取ってもEPは取得できないため、注意が必要です。
ビザの有効期間は、初回は最大2年、更新時は最大3年です。特定条件を満たす場合は最大5年のパスも発行されます。5年間のパスの対象は、以下のとおりです。
- COMPASS人材不足職業リスト(SOL)に掲載されている特定の技術職に該当していること
- COMPASSの「多様性」項目で10ポイント(基準3:多様性)を獲得していること
また、2025年以降はEP更新・新規申請時に必要な月給も段階的に引き上げられます。
2025年1月1日以降の新規EP申請者&2026年1月1日に期限が切れるEPの更新 | 固定月給10,700ドル以上(36歳以下の場合)、年齢とともに増加し、45歳以上の場合は最大14,270ドル |
2025年1月1日から2025年12月31日までに期限が切れるEPの更新 | 固定月給10,500ドル以上(36歳以下の場合)、年齢とともに増加し、45歳以上の場合は最大13,500ドル |
EPは高スキル人材向けで、審査基準も厳格な労働パスといえます。
Sパス
Sパスは、マネジメントレベルに達しないポジションに就く外国人が対象の就労ビザです。専門性を持つ外国人労働者の雇用を通じて、産業界の人材ニーズに柔軟に対応することを目的としています。
申請は、雇用主または認可を受けたエージェントが代行する必要があり、転職時には新たな雇用主による再申請が必要です。
Sパス申請に必要な最低給与基準は以下のとおりです。
2025年3月時点 | 2025年9月1日以降の新規申請 / 2026年9月1日以降の更新 | |
一般(金融業以外) | 3,150ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大4,650ドル) | 3,300ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大4,800ドル) |
金融業 | 3,650ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大5,650ドル) | 3,800ドル (23歳から年齢とともに増加、45歳以上は最大5,650ドル) |
参考:Upcoming changes to S Pass eligibility|Ministry of MANPOWER
有効期間は初回が最大2年、更新時は最大3年ですが、パスポートの有効期限の1ヶ月前まで有効であることも知っておきましょう。
DP(デペンデントパス)
DP(デペンデントパス)は、EPパスやSパス保持者の配偶者や21歳未満の子どもを対象としたビザです。以下の条件を満たす場合に、DPを申請できます。
- EPパスまたはSパスを保持していること
- 月額固定給与が6,000ドル以上であること(※個人収入であり、世帯収入ではない)
- シンガポール登録企業(通常は雇用主)によるスポンサーシップを受けていること
参考:Eligibility for Dependant’s Pass|Ministry of MANPOWER
DPの有効期間は、主たる就労パスの有効期間または申請期間のうち短い方に準じます。
DP保持者は就労が認められておらず、働くには別途EPやSパス、WORK PERMITの取得が必要です。なお、外国人雇用税や外国人採用可能枠(quota)の対象外となっています。
LTVP(長期滞在ビザ)
LTVP(長期滞在ビザ)は、EPパスやSパス保持者の特定の家族がシンガポールに長期滞在するためのビザです。対象となる家族は、以下のとおりです。
- 内縁の配偶者
- 21歳以上の未婚で障害を持つ子ども
- 21歳未満の未婚の継子
- 両親(月額固定給与が12,000ドル以上の申請者のみ)
参考:Eligibility for Long-Term Visit Pass|Ministry of MANPOWER
LTVPの申請条件は以下のとおりのため、事前に確認しておきましょう。
- EPパスまたはSパスを保持していること
- 月額固定給与が6,000ドル以上であること
- シンガポール登録企業(通常は雇用主)によるスポンサーシップを受けていること
参考:Eligibility for Long-Term Visit Pass|Ministry of MANPOWER
LTVPの有効期間は、主な就労パスの有効期間、または申請された期間のうち短い方に基づきます。
WORK PERMIT(ワークパーミット)
WORK PERMIT(ワークパーミット)は、シンガポールで低技能・中技能の外国人労働者が働くための就労ビザです。対象は建設や製造、海洋造船、加工、サービス業などに従事する、承認された出身国・地域の労働者です。
給与基準は設けられていません。有効期限は最大2年間ですが、パスポートの有効期限や保証金、雇用期間によって変わります。
また、WORK PERMITは、特定の出身国・地域からのみ申請が可能です。申請には、医療保険や保険証、賦課金などの労働許可証の要件を満たす必要があります。
PEP(パーソナライズド・エンプロイメント・パス)
PEP(パーソナライズド・エンプロイメント・パス)は、高額収入の外国人向けに発行される就労ビザです。対象は、高所得のEPパス保持者や海外の外国人専門職です。
PEPの申請資格は、EPパス保持者の上位10%を基準とし、月額固定給与が22,000ドル以上であることと定められています。海外の専門職は、過去6ヶ月以内に給与を受け取っている必要があります。PEPを維持するための条件は以下のとおりです。
- 就業月数に関係なく、年間給与270,000ドル以上を維持する
- 2023年9月1日以前に申請した場合は、年間144,000ドル以上の固定給与を得ている
参考:Eligibility for Personalised Employment Pass|Ministry of MANPOWER
ただし、シンガポールに継続的に在住し、6ヶ月以上無職であればPEPは失効するため注意が必要です。
PEPの有効期間は最大3年です。ただし、スポンサーシップ制限によるEP保持者、フリーランサー、個人事業主、ACRA登録企業の株主兼取締役は申請できません。
Overseas Networks & Expertise Pass(ONEパス)
Overseas Networks & Expertise Pass(ONEパス)は、ビジネスや芸術、スポーツ、学術、研究分野で活躍する優秀な人材向けの特別な就労パスです。申請条件は、以下の給与要件のいずれかに当てはまる場合です。
- 月額30,000シンガポールドル以上(または同等の外国通貨)を直近12ヶ月間連続して受給していること
- 海外候補者は、申請日時点で12ヶ月間、認定企業に勤務していたことを証明する必要がある
- 一定の要件を満たす企業で月額30,000シンガポールドル以上の給与を得る予定であること
参考:Eligibility for Overseas Networks & Expertise Pass|Ministry of MANPOWER
一定の要件を満たす企業とは、下記のいずれかを満たしている企業を指します。
- 時価総額または評価額が少なくとも5億ドル
- 年間収益が少なくとも2億ドル
参考:Eligibility for Overseas Networks & Expertise Pass|Ministry of MANPOWER
申請日までの 12ヶ月間に複数企業から給与を受けている場合は、1社から月額30,000シンガポールドル以上が必要であるため注意が必要です。
また、給与条件を満たしていない場合でも、以下の分野で顕著な業績があると認められていれば申請できます。
- スポーツ
- 芸術・文化
- 学術・研究
MOM (シンガポール人材開発省) やMCCY、 MOE 、NRF、A*STARなどの他の機関は、各申請者が達成した作業と主要な業績に基づいて申請書を総合的に審査しなければいけません。
Overseas Networks & Expertise Pass(ONEパス)の有効期間は5年間で、更新も同じく5年です。
シンガポールでの外国人労働者の受け入れ政策と対策
シンガポールの外国人労働者受け入れ政策は、日本とは制度や目的が大きく異なります。シンガポールで働くことを検討している場合、働くうえでのルールや背景を理解しておくことは重要です。
以下では、シンガポールでの外国人労働者の受け入れ政策と対策について紹介します。
2010年を境に外国人労働者受け入れ政策は抑制の傾向にある
シンガポールでは、2009年以前、規制緩和や許可証発行の簡素化を通じて、外国人労働者の積極的な受け入れを推進していました。
しかし、2010年以降、政府は方針を転換し、外国人労働者の割合を全労働人口の3分の1に抑える政策を採用しました。背景には、国民感情への配慮があったとされています。また、外国人労働者への依存は企業の生産性向上のための投資を妨げ、結果として持続的な経済成長を損なう懸念もありました。
具体的な抑制策として、外国人労働者の雇用コストの引き上げや、シンガポール国民の雇用促進策が導入されました。
必要な人材は厳選して積極的に受け入れている
シンガポールは外国人労働者の受け入れを抑制する一方で、必要な人材は厳選して積極的に受け入れています。
2021年1月には、テクノロジー分野の高技能人材向けに「テックパス(Tech.Pass)」を導入しました。テックパスの導入は、情報技術分野での国際競争力を高め、世界的なテクノロジー・ハブとしての地位を確立することを目的としています。
初回の受け入れ枠は500名に限定されており、自国民だけでは実現できない高度人材の確保を目指しています。
在宅勤務や昇給、社内旅行実施により人材を確保している
シンガポールでは、人材の確保や定着を目的に、在宅勤務やオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド勤務を導入する企業が増えています。
日系企業を対象とした調査では、30社が在宅勤務を実施し、29社が給与引き上げやボーナス支給を行っていると回答しました。さらに、社内旅行や社内イベントの開催、福利厚生の充実、社員との積極的なコミュニケーションなど、多様な取り組みで人材の確保と維持を図っています。
シンガポールで外国人労働者を受け入れた結果
シンガポールは、外国人労働者の受け入れを通じて経済成長を成功させた国の一つです。2020年9月時点では、人口569万人のうち、約38%にあたる216万人が外国人で占められています。
また、2020年9月時点で全雇用者の約4割が外国人で、製造業では5割、建設業では7割超、家事労働ではほぼ全員が外国人です。低技能から高技能まで幅広い人材を受け入れたことが、世界トップクラスの経済的な豊かさを実現している大きな要因となっています。
シンガポール企業の外国人受け入れ政策から日本が見習うべきポイント
シンガポールは、外国人労働者の受け入れを通じて経済成長を実現した成功例の一つです。取り組みを知ることは、日本の課題解決にもつながります。
以下では、日本が見習うべきポイントを紹介します。
外国人労働者の受け入れに関する明確な政策
シンガポールでは、外国人労働者の受け入れに関して明確な政策と厳格な規制が設けられています。
企業は職種やスキルレベルに応じた外国人雇用比率を守る必要があり、労働市場の需給バランスを保ちながら人材を確保しています。上記のような明確なルールにより、企業は人材戦略を立てやすく、労働市場の安定と予測可能な経営が可能となっているといえるでしょう。
日本もシンガポールの政策設計から学ぶべき点が多くあるため、事前に確認しておくことが重要です。
外国人労働者を雇用する方法については、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
労働市場の状況に応じた柔軟な対応
シンガポールでは、経済状況や労働市場の需給に応じて、外国人労働者の受け入れ政策が柔軟に調整されています。
特定産業で人手不足が生じた際には、特定の分野への受け入れを拡大するなど、機動的な対応が取られています。その結果、経済の変動に応じた労働力の供給が安定して維持されているのです。
日本企業も将来的な人材不足や過剰に備え、状況に応じた柔軟な対応が求められます。
ただし、外国人雇用には注意点もあります。下記の記事では、詳しい注意点について解説しているため、ぜひ参考にしてください。
競争力のある給与水準と労働環境の整備
シンガポールでは、外国人労働者を惹きつけるために、競争力のある給与水準や労働環境の整備が進められています。
2023年6月時点のフルタイム就労者(永住権者含む)の月給中央値は5,197シンガポールドル(約58万2,000円)で、前年同期比2.5%の増加となっています。
適正な給与水準の維持は優秀な人材の確保に直結するため、日本企業もスキルの高い人材を確保・定着させるには、給与や労働環境の見直しが重要です。
シンガポールでの外国人労働者受け入れ成功事例から学ぼう
シンガポールは外国人労働者の受け入れを制度化し、多様な人材を活用することで経済成長を支えています。
日本企業もシンガポールでの事例を参考に、外国人材の積極的な採用や適切な支援制度の導入を進めることで、人材不足の解決や競争力の向上が期待できます。シンガポールの事例を学び、自社に合った戦略を取り入れていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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